【完結】目指せ、破談!お見合い決戦! 病弱白塗り令嬢 vs 感涙公爵令息

恋せよ恋

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令嬢たちの眼光と、暴かれる嘘

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「オルレアン伯爵令嬢が、奇跡的な回復を遂げた?」
 フィレオ公爵家の薔薇が咲き誇るサロンに、鋭く、そして冷ややかな声が響いた。

 声の主は、エリザベス・フィレオ。現国王の血を引く名門中の名門であり、その美貌と才気から「社交界の真珠」と称えられる公爵令嬢である。

 彼女は手にした扇をピシャリと閉じ、周囲の令嬢たちを冷ややかに見渡すと、言葉を介さず目線だけで続きを促した。

「ええ、エリザベス様。なんでも、サミュエル様が連日の訪問で献身的な治療をなさったところ、愛の力で病が消え去ったとか……」
「冗談じゃないわ」
 令嬢の言葉を、エリザベスは即座に切り捨てた。

 この社交界において、サミュエル・コルディアは最高級のだ。明晰な頭脳、麗しい容姿、そして強大な権力。
 エリザベスら高位令嬢たちが、あえて《第二夫人》に甘んじる姿勢を見せていたのは、病弱な正妻など「名ばかりの飾り」に過ぎないと侮っていたからだ。彼女たちにとってジュリエットは、本命の座へ辿り着くための、都合の良い踏み台でしかなかった。

(死にかけの伯爵令嬢なら、形だけの正妻に据えておけばいい。どうせ子は成せないし、早世すれば次こそが私の番。……けれど、健康になったというのなら話は別よ)

 正妻が健康で、かつサミュエルに溺愛されているのなら、第二夫人の座など名ばかりの空席も同然だ。それはエリザベスの誇りが許さぬ事態であった。何より、愛し合う健康な夫婦に、二番目の妻など入り込む余地はないのである。
「サミュエル様をあのような腑抜けに変えた女……。ただの病弱令嬢が、そう簡単に快復するはずがないわ。そこには必ず、人を欺く汚らわしい『種』がある」

 エリザベスは傍らに控える家令に、短く命じた。
「オルレアン伯爵家を徹底的に洗いなさい。特に、あの女が病床に伏せっていた期間の、出入りの記録と……近隣の噂をね」


 数日後。エリザベスの手元には、詳細な調査報告書が届けられた。
 彼女はその内容を読み進めるうちに、整った眉をピクリと動かした。

「……面白いわ。伯爵邸近郊の湖周辺では定期的に『金色の髪の少女』が黒馬で駆け回る目撃談があるのね?」
 エリザベスの唇が、冷酷な弧を描いた。

 点と線が繋がった。あの女は病などではなかったのだ。病弱という偽りの仮面を被り、サミュエルの同情を引いて、まんまと公爵夫人の座を掠め取ろうとした稀代の詐欺師――。
「ふふ、あきれた。サミュエル様ともあろうお方が、あんな卑しい野良猫の芝居に騙されていたなんて。……いいわ、次の園遊会で、その化けの皮を皆の前で剥いで差し上げましょう」


 一方、そんな不穏な動きなど露知らず、ジュリエットはオルレアン邸で頭を抱えていた。
「……サミュエル様。これ、何ですか?」
 目の前には、最新鋭の「筋力増強用・魔導トレーニングマシン」と、山のような高級プロテイン……のような謎の粉末が積まれている。

 サミュエルは、以前にも増して熱を帯びた瞳で微笑んだ。
「奇跡の快復を遂げたとはいえ、長年の療養で筋肉が衰えているはずだ。さあ、ジュリエット。共に体を鍛えよう。君があの湖で、元気に泳げるようになるために!」

「……サミュエル様、私、一応これでも貴族の令嬢なんですけど……」
「気にするな。君の筋肉は、私との愛の結晶だ」
 サミュエルの「明晰な頭脳」はどこへやら。彼は今や、ジュリエットの健康管理を人生の第一目標に掲げる、重度の過保護モンスターへと進化していた。

 しかし、ジュリエットは感じていた。背筋に走る、嫌な予感。
 あまりに目立ちすぎた「奇跡」は、静かに、けれど確実に、彼女を社交界の激流へと引きずり込もうとしていた。
(……これ、絶対に面倒なことになるわよね。あー、もう一回湖に飛び込んで、今度は本当に消えちゃいたい……!)

 逃げたいジュリエット、追いかけるサミュエル、そして裏で爪を研ぐエリザベス。物語は、優雅なお茶会を舞台にした「暴露合戦」へと突入しようとしていた。
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