17 / 18
【17】二人の朝
しおりを挟む
穏やかな光が二つの影を照らす。
シレイネが瞼を開けると、薄暗かった部屋はすっかり明るくなっていた。
「おはよう」
頭上から優しい声が聞こえる。誘われるように視線を向けると、眩しさの中でカインが微笑んでいた。身体を起こしてはいるけれど、手を伸ばせば届く距離にいてくれることが嬉しい。
「おはようございます」
朝一番に挨拶を交わす。旅の途中で何度も繰り返したやり取りではあるが、同じ寝具で目覚めるのは初めてなので緊張する。もっと言えば、お互いに素肌なので刺激が強い。
昨夜は夢中だったけれど、細身でありながらも、しっかりとした体格のカインに戸惑う。女性でも嫉妬しそうな美しさがあり、その美しい人に愛された事を思い出して、より緊張が高まった。
このままではいけないと、シレイネは疲労の抜けきらない身体を起こそうとする。
「すみませんでした。起きるのが遅かったですよね」
「ぜんぜん。俺が一晩中起きてただけだよ」
「え?」
「眠るのが勿体なくて、ずっとあんたの顔を見てた」
「……冗談ですよね?」
「さあ」
小さく笑ったカインの手元には、魔術で生み出された鳥がいる。それが魔術師たちの連絡手段であることはシレイネにも察することができた。
何か急ぎの連絡だろうかと身構えるも、カインが安心しろというように教えてくれる。
「父さんからの手紙だよ。あれからどうなったのかが書いてある」
「そうですか」
内容に触れようとすると、カインに止められた。
「ねえ。あんたはこれからどうしたい?」
この状況で訪ねられるという事は、手紙には今後のことも記されているのだろう。
「先に言っておくけど、俺はあんたが望むなら何だってするし、あんたが望まないことは絶対にさせたくない。させるつもりもないからね」
きっと手紙を読めばこの先の人生が変わってしまう。その選択を求められている。
「あんたが望むなら、破り捨てて見なかったことにするけど?」
もし逃げたいと望んだら、カインは叶えてくれるのだろう。けれどシレイネに目を背けるつもりはない。復讐を誓った日に抱いた夢を叶えるためには、逃げてばかりもいられない。
感謝を伝え、望みを口にする。
「私の望みは、この国を百年先も続く平和な国にすることです」
「壮大な夢。俺に手伝えることはある?」
「手伝ってくれるのですか?」
「もちろん」
だとしたら彼に望むことは一つだ。
「実は、そのためには私が幸せでいなければならないのですが」
絶望することで魔王になるのなら、正反対の人生を歩もう。ゲームの主人公を悲劇のヒロインにはさせない。
「私の幸せにはカインが必要なのです」
伝えた瞬間、カインが固まるのがわかった。
寡黙で無表情と言われ続けた魔術師が。昨夜シレイネが羞恥に頬を染めた行為にも平然としていた人が。
これが自分だけに見せる表情なのだとしたら可愛いと、胸がいっぱいになる。
「嫌がったって離れてやらないから」
「ありがとうございます」
カインの頬が赤い気がする。指摘すると表情を切り替え、照れながらも約束をしてくれた。
「あんたが失ったものは、俺が全部が取り戻してあげる。本当の家族だって、きっと見つけてみせるから」
「ですがそれは……」
シレイネは魔術の専門家ではないが、それがとても難しいことであることは理解している。決して彼を困らせたいわけではなかった。
どう受け止めるべきか迷っていると、自信に満ちた魔術師は言う。
「忘れちゃった? 俺は最強の魔術師だよ。それに俺、どうしてもあんたの両親に会いたいの。会ってちゃんと、娘さんをくださいって伝えたいしね。何かおかしい?」
「いいえ。少しも」
幸せを望むシレイネに、カインは彼女が失ったものを求めた。けれどもう、シレイネは過去に囚われてはいない。
「ありがとうございます。でも、私はもう一人ではありません。たとえ家族と会えなかったとしても、孤独ではないのです。だって、カインが家族になってくれるのでしょう?」
「なっ……!」
あまりの幸福に、しばらく呆けていたカインが我に返る。そして思い出したように華奢な手を握った。
「俺! あんたのこと絶対幸せにするから!」
身を乗り出すカインに苦笑する。
「それは私の台詞ですよ」
カインとともに、二人で新しい思い出をたくさん作ろう。そして今度は絶対に忘れたりしないと、誓うようにキスをした。
シレイネが瞼を開けると、薄暗かった部屋はすっかり明るくなっていた。
「おはよう」
頭上から優しい声が聞こえる。誘われるように視線を向けると、眩しさの中でカインが微笑んでいた。身体を起こしてはいるけれど、手を伸ばせば届く距離にいてくれることが嬉しい。
「おはようございます」
朝一番に挨拶を交わす。旅の途中で何度も繰り返したやり取りではあるが、同じ寝具で目覚めるのは初めてなので緊張する。もっと言えば、お互いに素肌なので刺激が強い。
昨夜は夢中だったけれど、細身でありながらも、しっかりとした体格のカインに戸惑う。女性でも嫉妬しそうな美しさがあり、その美しい人に愛された事を思い出して、より緊張が高まった。
このままではいけないと、シレイネは疲労の抜けきらない身体を起こそうとする。
「すみませんでした。起きるのが遅かったですよね」
「ぜんぜん。俺が一晩中起きてただけだよ」
「え?」
「眠るのが勿体なくて、ずっとあんたの顔を見てた」
「……冗談ですよね?」
「さあ」
小さく笑ったカインの手元には、魔術で生み出された鳥がいる。それが魔術師たちの連絡手段であることはシレイネにも察することができた。
何か急ぎの連絡だろうかと身構えるも、カインが安心しろというように教えてくれる。
「父さんからの手紙だよ。あれからどうなったのかが書いてある」
「そうですか」
内容に触れようとすると、カインに止められた。
「ねえ。あんたはこれからどうしたい?」
この状況で訪ねられるという事は、手紙には今後のことも記されているのだろう。
「先に言っておくけど、俺はあんたが望むなら何だってするし、あんたが望まないことは絶対にさせたくない。させるつもりもないからね」
きっと手紙を読めばこの先の人生が変わってしまう。その選択を求められている。
「あんたが望むなら、破り捨てて見なかったことにするけど?」
もし逃げたいと望んだら、カインは叶えてくれるのだろう。けれどシレイネに目を背けるつもりはない。復讐を誓った日に抱いた夢を叶えるためには、逃げてばかりもいられない。
感謝を伝え、望みを口にする。
「私の望みは、この国を百年先も続く平和な国にすることです」
「壮大な夢。俺に手伝えることはある?」
「手伝ってくれるのですか?」
「もちろん」
だとしたら彼に望むことは一つだ。
「実は、そのためには私が幸せでいなければならないのですが」
絶望することで魔王になるのなら、正反対の人生を歩もう。ゲームの主人公を悲劇のヒロインにはさせない。
「私の幸せにはカインが必要なのです」
伝えた瞬間、カインが固まるのがわかった。
寡黙で無表情と言われ続けた魔術師が。昨夜シレイネが羞恥に頬を染めた行為にも平然としていた人が。
これが自分だけに見せる表情なのだとしたら可愛いと、胸がいっぱいになる。
「嫌がったって離れてやらないから」
「ありがとうございます」
カインの頬が赤い気がする。指摘すると表情を切り替え、照れながらも約束をしてくれた。
「あんたが失ったものは、俺が全部が取り戻してあげる。本当の家族だって、きっと見つけてみせるから」
「ですがそれは……」
シレイネは魔術の専門家ではないが、それがとても難しいことであることは理解している。決して彼を困らせたいわけではなかった。
どう受け止めるべきか迷っていると、自信に満ちた魔術師は言う。
「忘れちゃった? 俺は最強の魔術師だよ。それに俺、どうしてもあんたの両親に会いたいの。会ってちゃんと、娘さんをくださいって伝えたいしね。何かおかしい?」
「いいえ。少しも」
幸せを望むシレイネに、カインは彼女が失ったものを求めた。けれどもう、シレイネは過去に囚われてはいない。
「ありがとうございます。でも、私はもう一人ではありません。たとえ家族と会えなかったとしても、孤独ではないのです。だって、カインが家族になってくれるのでしょう?」
「なっ……!」
あまりの幸福に、しばらく呆けていたカインが我に返る。そして思い出したように華奢な手を握った。
「俺! あんたのこと絶対幸せにするから!」
身を乗り出すカインに苦笑する。
「それは私の台詞ですよ」
カインとともに、二人で新しい思い出をたくさん作ろう。そして今度は絶対に忘れたりしないと、誓うようにキスをした。
0
あなたにおすすめの小説
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。
豆丸
恋愛
竜神都市アーガストに三人の聖女が召喚されました。バツイチ社会人が竜神のお手当てをしてさっくり日本に帰るつもりだったのに、竜の神官二人に溺愛されて帰れなくなっちゃう話。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる