【五章完結】サラリーマン、オークの花嫁になる

花房いちご

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第五章 元騎士、オークの花嫁になる

元騎士、オークの花嫁になる【5】

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「初めての取引です。契約と商品の引き渡しは緑鉄国内で、最高責任者であるナーシサス男爵閣下直々にお願いしたく存じます」

『あら。この私に賤しいオークの国に来いと言っているのかしら?』

「ええ、是非とも。ナーシサス男爵閣下は、我が国の奴隷市場に参入するご予定。ですが、販路を築く伝手つてはお持ちではないですよね?当方ならば、そのお手伝いが出来ます。
 それに、緑鉄国の素晴らしい商品をご紹介させて頂きたい」

 ここで、側に控えていた【性奴隷役】が姿を現す。

『まあ!なんて美しい金髪と顔!』

 前回の面談で、この貴族の好みはわかっている。金髪で背の高い人間かエルフの美青年がお好きらしい。
 俺はナーシサス男爵に見せつけるため、性奴隷役の腰を抱いて髪を撫でた。

『ちょっとオーク!その性奴隷を私に寄越しなさい!幾らでも払うわ!』

「そう焦らずに。この商品よりも美しい者もいます。色々と仕込んでおりますので、ぜひ私どもの城でお味見を……」

『オーク仕込みの金髪ちゃんたちを試せるのね!よろしくってよ!緑鉄国に行くわ!』

 後はとんとん拍子で話が進んだ。
 ちなみに【性奴隷役】は、魔法で姿を変えた人間の衛兵だ。
 幻影魔法の達人で、能力を活かして囮役や隠密行動をしているらしい。今回は、びっくりするぐらい簡単に騙せて拍子抜けしていた。

「俺は緑鉄国生まれの人間だから赤花国を知らないけど、赤花国の貴族って馬鹿ばっかりなのか?」

「衛兵さん、暴言を撤回してください。あの貴族がおかしいだけです」

 まあ、俺も同じように考えたから気持ちはわかる。強烈すぎるナーシサス男爵が悪い。

 そして約半月後。取引の日が来た。

 俺たちが住む地域には、領主が管理している城がいくつかある。その一つを借りた。

 月も星も見えない夜。城の門と玄関に灯りを灯し、待機する。
 衛兵たちの半数は視力補強の魔道具をつけたが、俺は夜目が効くのでそのままだ。というか、いかにも悪徳商人らしい派手な格好と腕輪型の欲情制御の魔道具をつけてるから、これ以上何もつけたくない。

 予定の時間よりやや早めに、豪奢な馬車と貧相な馬車、そして護衛らしき兵隊たちが門をくぐった。

 護衛の数が予想より多いな。何人かは騎乗しているし、装備も良さそうだ。

 豪奢な馬車から、映像以上に着飾ったナーシサス男爵と部下たちが出てきた。
 出迎えた俺に下品な笑みを向ける。

「私の金髪ちゃんはどこ?ああ、城の中ね。早速、味見を……」

 発情を隠そうともしない様に引きつつ、俺は契約書とペンを差し出し、報酬である金貨の詰まった箱を指し示した。

「その前に取引を済ませましょう。こちらが契約書と報酬です。サインをお願いします」

「仕方ないわねえ……」

 ナーシサス男爵は、部下に金貨を数えさせてからサインした。
 取引現場にて、奴隷売買の契約書にサインをした。もちろんこの様子も録画している。俺の部下のフリをした衛兵が『問題ない』と頷く。
 これ以上ない証拠を確保でき、演技ではない笑顔が浮かんだ。赤花国の衛兵隊も制圧が終わったと聞く。茶番は終わりだ。

「ご契約頂きありがとうございます。
 それでは、犯罪者に相応しい場所にお連れしましょう」

「さあ!私の金髪ちゃんたちに会わせなさ……え?きゃあ!」

 ガシャン!
 音を立てて檻が出現し、ナーシサス男爵たちを閉じ込める。

「な、なによこれ!?ちょっとオーク!なんのつもりよ!出しなさい!」

「畜生!罠か!」

「護衛!何をしている!檻を破壊しろ!」

 ナーシサス男爵よりも、部下と護衛たちのほうが勘がよかった。
 半数近くが檻に入る前に逃げ、残りは檻を壊そうと武器や魔法を振るう。
 予想通り戦闘がはじまった。オークと人間を中心に構成された衛兵隊が迎え討つ。
 元軍人の俺も加勢する。荒事は久しぶりだ。

「糞オークどもが!どうせテメェらも奴隷を飼ってるくせに!」

はらませ豚が衛兵気取りか!笑わせるな!」

「死にやがれ!ーーー火よ!我が敵を撃ち落とせ!ーーー【炎の矢】!」

「糞はテメェらだ犯罪者ども!というか、オークへの偏見を止めろ!奴隷も人身売買も禁止にきまってるだろうが!」

「ぐぎゃっ!」

「げぼあっ!」

 剣と槍と魔法を弾き、死なない程度にぶん殴って蹴る。一人を踏みつけながら尋問した。

「おい!被害者はどこだ?もう一つの馬車の中か?」

「げほっ……し、商品の場所なんざ知らねえ……」

「は?商品?馬鹿言うな!人は商品じゃない!」

「へ、へへ。オークの癖におかしい事を言う奴だな…ぎゃん!」

「黙れ!おかしいのは人を売ろうとするお前らだろうが!」

 その時、貧相な方の馬車が動きだしたのが視界に入った。
 逃げられる!それに、おそらく中には被害者がいる!

「そこの馬車止まれええ!」

 俺は剣を拾って、馬と御者に当たらないようぶん投げた。
 バキィ!ヒヒーン!
 馬車の車輪が破壊され、馬が悲鳴を上げて暴れる。急いで駆け寄り、御者を引きずり下ろして投げた。

「よしよし、驚かせて悪かった」

 馬をなだめて落ち着かせてから、馬車の中に入って……出会った。
 出会ってしまった。

 スケベすぎる。

「貴方は……オーク?」

 うっかり【スケベすぎる】と言いかけるくらい、魅力的な人間の男性と。


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