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第五章 元騎士、オークの花嫁になる
元騎士、オークの花嫁になる【15】
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就業中に個人的なことを相談するのは気が引けたが、とにかく早く解決したかった。幸い午前中に、俺もチェリー先生も授業の入っていない時間があった。
チェリー先生に相談したいと伝えたところ、快く応じてくれる。
ヒース先生との同居解消の話し合いに立ち会って欲しいと話したのだが……。
職員室の隣にある談話室の中。
机を挟んで向かいのソファに座るチェリー先生が、深いため息をついた。
「貴方たち……というか、ガルグ先生ね。対話がたりないわぁ。スケベは駄目だって言って、逃げ回ってばかりですもの。いくら恋愛経験がないからって、幼稚すぎるわ」
物凄く哀れみのこもった眼差しにくじけそうだが、なんとか踏ん張る。
「とにかく、ヒース先生の身の安全のために同居を解消したいんです。これは決定事項です。チェリー先生には、話し合いの立ち合いをお願いしたい」
チェリー先生はつまらなさそうに薬茶を飲み、貴方も飲みなさいとうながす。仕方なく美味くもなんともない薬茶をすすった。
「ガルグ先生……いえ、あえてガルグ君と呼ぶわね」
懐かしい呼び名だった。
俺がただのクソガキだった頃、悪戯目的で人間用校舎に忍び込んでは、チェリー先生に叱られていた日々を思い出す。
もうガキじゃない。立派な大人のはずなのに、酷く心細い気持ちになった。
「同居を解消する前に、貴方が考えていることをヒース先生にぶつけなさい。
貴方はヒース先生を、まるで守るべき子供のように扱おうとしている。彼に対して失礼よ」
「そんなつもりは……!」
「まあ、失敗しているけどねえ。みんな知ってるわあ。貴方があの子に恋してるのに、理屈をこねてモダモダしてるって」
耳が痛い!でもそれには理由があるんだ!
「ガルグ君。貴方がそうしてしまう気持ちはわかるわあ。ヒース先生は酷い環境にいたし、身も心もボロボロだったもの。それにまだ40歳。貴方より歳上とはいえ、150歳まで生きるオークにとっては若者の年齢よねえ。
けど、あの子は人間なの。
人間の40歳という年齢は、若者をとっくに過ぎて肉体の老いを実感する年齢よ。そしてその分、経験を重ねて精神が成熟している年齢でもあるの」
そんな事はわかってる。そう言いたいのに、口が上手く動いてくれない。チェリー先生は苦笑いした。
「どこぞの色狂い男爵みたいに、幼稚なままの人間もいるけどね。
ヒース先生は違う。過去の出来事と、自分の心の傷にちゃんと向き合って、前に進もうとしている。立派な大人よ。
確かに最初は、貴方に依存しないと生きていけなかったのかもしれないわ。でも今は違う。
貴方は一方的に物事を決める前に、彼に自分の気持ちをちゃんと話すべきだし、彼の気持ちもちゃんと聞くべきよ」
一言一言が俺に突き刺さる。俺はヒース先生を大事にしたいと言いながら、その意志を蔑ろにして勝手に色々決めつけてるのか?
そうかもしれない。だけど。
「で、ですが、このままではヒース先生を襲って傷つけてしまうかもしれません。俺は、それが怖いんです」
俺の言葉にチェリー先生が眉を上げて怒鳴る。
「襲いたいなら襲えばいいじゃない!デカい図体でいつまでもぐじぐじと鬱陶しいわね!……【緑蔦の呪縛】!」
「へ?うおああ!?ち、チェリー先生!?」
何本もの蔓が俺を絡め取ろうと襲いかかる!
チェリー先生の植物魔法だ!速い!いつの間に詠唱してたんだよ!?
咄嗟に弾いたが、何本かは弾けずに絡み取られてしまった。拘束されて動けない。力を込めるが、なかなか引きちぎれない。俺は無様に転がった。
「ヒース先生もこれくらい出来るわ。元騎士で水魔法の達人だもの。
貴方に襲われても嫌だったら抵抗できる」
「い、今のは油断してたからで……」
「あーもう!うるさい!というか、ヒース先生もいつも言ってるでしょ!襲っていい!抱いてくれって!性奴隷扱いされた子が、軽い気持ちで言える言葉じゃないの!
ガルグ君!貴方の頭の中にいる幻想じゃなくて、現実のヒース先生と向き合って来なさい!」
「え?ちょ、待っ……!ここ三階ー!」
蔓が校舎の窓を開け、俺をそこから放り投げる。拘束は解かれたけど空中!下は地面だ!とにかく着地しないと大怪我だ!
「うおわあああああ!」
悲鳴を上げつつ、なんとか体勢を整えて着地した。覇気で強化した両足で地面を踏み締め、衝撃と激痛に耐える。
「いっ……!いってええ~~~!~~~っ!……チェリー先生!やり過ぎです!」
三階に向けて叫ぶが、チェリー先生は無視だ。むしろ職員室にいる他の先生が騒然としている。
「え?!ガルグ先生落ちた!?チェリー先生がやったの!?」
「よ、養護室に運ばないと!いや、病院に連れて行った方がいいですか!?」
「大丈夫よお。あれくらいで死なないわあ。
ガルグ先生!さっさとヒース先生と話し合いなさい!話し合わずに帰ってきたら、また放り投げるわよお!」
「横暴過ぎませんか!?うおわぁっ!危なっ!……ああもう分かりましたよ!行ってきます!」
ビシバシ!鞭のようにしなり俺の足元を打つ蔓たちに追い立てられ、俺は走った。
「ヒース先生は人間用校舎で授業中だよな?人間の生徒たちを驚かせないよう会わないと。というか、何をどう話したらいいんだ?」
混乱しつつ人間用校舎に向かっていると、その方向から走り寄ってくる人がいた。ダンさんという、ドワーフの警備員だ。珍しく慌てている。
「ガルグ先生!ちょうどよかった!俺じゃ止められん!」
「ダンさん?どうしたんですか?」
「人間用校舎の校庭に行ってくれ!変な人間が授業に乱入して、ヒース先生に詰め寄ってて……!」
ヒースが危ない!
◆◆◆◆◆◆◆
閲覧ありがとうございます
以下、補足小話です
モブ教師(ドワーフ)「三階から投げ飛ばされて無傷とは!流石はオーク!頑丈ですな!」
モブ教師(オーク)「いえ、普通のオークなら死ぬか大怪我の高さです」
モブ教師(ドワーフ)「えっ?」
モブ教師(オーク)「ガルグ先生がおかし……身体強化の達人で元軍人だからです」
良いオークも悪いオークもオーク以外も真似しちゃ駄目です。
チェリー先生に相談したいと伝えたところ、快く応じてくれる。
ヒース先生との同居解消の話し合いに立ち会って欲しいと話したのだが……。
職員室の隣にある談話室の中。
机を挟んで向かいのソファに座るチェリー先生が、深いため息をついた。
「貴方たち……というか、ガルグ先生ね。対話がたりないわぁ。スケベは駄目だって言って、逃げ回ってばかりですもの。いくら恋愛経験がないからって、幼稚すぎるわ」
物凄く哀れみのこもった眼差しにくじけそうだが、なんとか踏ん張る。
「とにかく、ヒース先生の身の安全のために同居を解消したいんです。これは決定事項です。チェリー先生には、話し合いの立ち合いをお願いしたい」
チェリー先生はつまらなさそうに薬茶を飲み、貴方も飲みなさいとうながす。仕方なく美味くもなんともない薬茶をすすった。
「ガルグ先生……いえ、あえてガルグ君と呼ぶわね」
懐かしい呼び名だった。
俺がただのクソガキだった頃、悪戯目的で人間用校舎に忍び込んでは、チェリー先生に叱られていた日々を思い出す。
もうガキじゃない。立派な大人のはずなのに、酷く心細い気持ちになった。
「同居を解消する前に、貴方が考えていることをヒース先生にぶつけなさい。
貴方はヒース先生を、まるで守るべき子供のように扱おうとしている。彼に対して失礼よ」
「そんなつもりは……!」
「まあ、失敗しているけどねえ。みんな知ってるわあ。貴方があの子に恋してるのに、理屈をこねてモダモダしてるって」
耳が痛い!でもそれには理由があるんだ!
「ガルグ君。貴方がそうしてしまう気持ちはわかるわあ。ヒース先生は酷い環境にいたし、身も心もボロボロだったもの。それにまだ40歳。貴方より歳上とはいえ、150歳まで生きるオークにとっては若者の年齢よねえ。
けど、あの子は人間なの。
人間の40歳という年齢は、若者をとっくに過ぎて肉体の老いを実感する年齢よ。そしてその分、経験を重ねて精神が成熟している年齢でもあるの」
そんな事はわかってる。そう言いたいのに、口が上手く動いてくれない。チェリー先生は苦笑いした。
「どこぞの色狂い男爵みたいに、幼稚なままの人間もいるけどね。
ヒース先生は違う。過去の出来事と、自分の心の傷にちゃんと向き合って、前に進もうとしている。立派な大人よ。
確かに最初は、貴方に依存しないと生きていけなかったのかもしれないわ。でも今は違う。
貴方は一方的に物事を決める前に、彼に自分の気持ちをちゃんと話すべきだし、彼の気持ちもちゃんと聞くべきよ」
一言一言が俺に突き刺さる。俺はヒース先生を大事にしたいと言いながら、その意志を蔑ろにして勝手に色々決めつけてるのか?
そうかもしれない。だけど。
「で、ですが、このままではヒース先生を襲って傷つけてしまうかもしれません。俺は、それが怖いんです」
俺の言葉にチェリー先生が眉を上げて怒鳴る。
「襲いたいなら襲えばいいじゃない!デカい図体でいつまでもぐじぐじと鬱陶しいわね!……【緑蔦の呪縛】!」
「へ?うおああ!?ち、チェリー先生!?」
何本もの蔓が俺を絡め取ろうと襲いかかる!
チェリー先生の植物魔法だ!速い!いつの間に詠唱してたんだよ!?
咄嗟に弾いたが、何本かは弾けずに絡み取られてしまった。拘束されて動けない。力を込めるが、なかなか引きちぎれない。俺は無様に転がった。
「ヒース先生もこれくらい出来るわ。元騎士で水魔法の達人だもの。
貴方に襲われても嫌だったら抵抗できる」
「い、今のは油断してたからで……」
「あーもう!うるさい!というか、ヒース先生もいつも言ってるでしょ!襲っていい!抱いてくれって!性奴隷扱いされた子が、軽い気持ちで言える言葉じゃないの!
ガルグ君!貴方の頭の中にいる幻想じゃなくて、現実のヒース先生と向き合って来なさい!」
「え?ちょ、待っ……!ここ三階ー!」
蔓が校舎の窓を開け、俺をそこから放り投げる。拘束は解かれたけど空中!下は地面だ!とにかく着地しないと大怪我だ!
「うおわあああああ!」
悲鳴を上げつつ、なんとか体勢を整えて着地した。覇気で強化した両足で地面を踏み締め、衝撃と激痛に耐える。
「いっ……!いってええ~~~!~~~っ!……チェリー先生!やり過ぎです!」
三階に向けて叫ぶが、チェリー先生は無視だ。むしろ職員室にいる他の先生が騒然としている。
「え?!ガルグ先生落ちた!?チェリー先生がやったの!?」
「よ、養護室に運ばないと!いや、病院に連れて行った方がいいですか!?」
「大丈夫よお。あれくらいで死なないわあ。
ガルグ先生!さっさとヒース先生と話し合いなさい!話し合わずに帰ってきたら、また放り投げるわよお!」
「横暴過ぎませんか!?うおわぁっ!危なっ!……ああもう分かりましたよ!行ってきます!」
ビシバシ!鞭のようにしなり俺の足元を打つ蔓たちに追い立てられ、俺は走った。
「ヒース先生は人間用校舎で授業中だよな?人間の生徒たちを驚かせないよう会わないと。というか、何をどう話したらいいんだ?」
混乱しつつ人間用校舎に向かっていると、その方向から走り寄ってくる人がいた。ダンさんという、ドワーフの警備員だ。珍しく慌てている。
「ガルグ先生!ちょうどよかった!俺じゃ止められん!」
「ダンさん?どうしたんですか?」
「人間用校舎の校庭に行ってくれ!変な人間が授業に乱入して、ヒース先生に詰め寄ってて……!」
ヒースが危ない!
◆◆◆◆◆◆◆
閲覧ありがとうございます
以下、補足小話です
モブ教師(ドワーフ)「三階から投げ飛ばされて無傷とは!流石はオーク!頑丈ですな!」
モブ教師(オーク)「いえ、普通のオークなら死ぬか大怪我の高さです」
モブ教師(ドワーフ)「えっ?」
モブ教師(オーク)「ガルグ先生がおかし……身体強化の達人で元軍人だからです」
良いオークも悪いオークもオーク以外も真似しちゃ駄目です。
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