2 / 54
第1部
2話 小説『聖女はドアマットを許さない』
小説『聖女はドアマットを許さない』と、この世界……いや、現実だ。現実は、つい先ほどまで全く同じだった。
両親は昔からマルグリットお姉様を虐げ、私を甘やかしていた。姉妹格差の理由は色々あるが、一番大きい理由は見た目の違いだ。
お父様は黒髪に空色の瞳、お母様はピンク髪に黒目で、私たちは両親から受け継いだ色が違った。
私はピンク髪に空色の瞳、お姉様は黒髪黒目だ。
ある理由があり、両親にとっては鮮やかな色が美の象徴で、黒は醜さの象徴だ。
だから私は両親の美を受け継いだ可愛い子で、お姉様は醜さを受け継いだ憎い子だった。
その影響で、私もさっきまで黒髪黒目は地味で醜いと思っていた。
馬鹿馬鹿しい。どこから突っ込めばいいかわからないくらい理不尽だ。
当然、周りは両親をたしなめた。けれど両親は、ますます頑なになるばかり。
そして8年前。私が7歳の時、【魔炎病】に罹ったことをきっかけに悪化した。
【魔炎病】とは、体内の魔力の流れが悪くなる病気だ。身体が動かしにくくなっていき、激痛の発作に苦しむ。
この時点では、原因が分からず特効薬もない難病だ。聖女による【神聖治癒魔法】以外では治せない。
しかも【神聖治癒魔法】には高額の治療費が必要だし、順番が回ってくるまで何年もかかる。
【魔炎病】は、罹れば高確率で命を落とす死の病だった。
両親は私を可哀想だと言い、ドロドロに甘やかした。
そして治療費を用意するためと称し、お姉様にかける費用を大幅にけずった。おまけに、お姉様に『跡取りなのだからこれくらいしろ』と、領地経営と家政の大半を押し付け、私の言うことを全て聞くよう命じたのだ。
こうして私は、お姉様に対して『ずるい』『酷い』『さっさとして』『欲しい』『もらってあげる』ばかり言うようになってしまう。
『嫌よ!勉強したくなあい!お姉様酷い!私は病気なのに虐める!』
『どうしてお姉様は健康なの?私はこんなに苦しいのに!ずるい!』
『宝玉果しか食べないって言ってるでしょ!さっさと用意してよ!』
『お姉様が着けてるブローチが欲しい!私がもらってあげる!ちょうだい!』
私の我儘を全て叶えなくてはいけないマルグリットお姉様。しかも、両親から押し付けられた領地経営と家政は膨大な量だった。
マルグリットお姉様は8年もの間、こんな過酷な環境にいた。
どう考えても児童虐待だ。生活環境が過酷すぎる。普通なら耐えられない。
けど、不幸なことにお姉様は優秀過ぎた。そして優し過ぎた。
ボロボロになりながら仕事をこなし、領地を盛り立て、私の我儘を叶え、八つ当たりを受け止め、治療費を貯めるために節約を続けた。
両親は、私を甘やかし、お姉様を虐げ、散財する以外はなにもしていなかった。
お父様に至っては、いつ最後に執務室に入ったかわからないレベルだ。もはや、領主かどうかも怪しい。
というか、私と両親が散財しなければ治療費はもっと早く貯まっていたはず。
そんなことすら分からなかった自分が愚かすぎて恥ずかしい。
マルグリットお姉様が治療費を用意してくれたおかげで、私は聖女様の治療を受けられた。たった今、【魔炎病】を完治できたのだ。
……ここまでは小説も現実も同じだけど、小説の私はここから更に酷い、いや、外道としか言えない行動に出る。
『お姉様なんて、もういらなーい!アナベルのお家から出ていって!』
小説の私は、マルグリットお姉様の婚約者と後継者の座を奪って家から追い出すのだ。
もちろん両親もノリノリだ。
『いつかきっと、家族みんな仲良く暮らせるようになれる』
そんな優しい夢を見ていたお姉様は、心身共に傷つき途方に暮れた。あんまりだ。悲劇過ぎる。
だけど安心して欲しい。この小説は、王道ドアマットヒロインでハッピーエンドなのだから。
お姉様は、すぐに聖女ミシエラ様と聖騎士ルグラン様に保護された。そして、お姉様を深く愛している幼馴染と再会して結ばれるのだ。
前世の私は手を叩いて喜んだものだ。
『マルグリットたん良かったね!姉妹格差ドアマットヒロインからの溺愛ハッピーエンド!最高!』
こんな感じでSNSで呟いたっけ。
まあ、お姉様が幸せになる反面、小説の私たちは盛大に『ざまぁ』されて破滅するのだけど……。
しかも、早い段階で物語から退場する両親と違い、小説の私は何度も『ざまぁ』されては復活し、お姉様や聖女様たちに復讐しようとする。
『ざまぁ』の内容は過激で、何回も死にそうになる。でも死なない。何度でも立ち上がって復讐しようとする。
小説の私、ゾンビかイニシャルGか?
どんな『ざまぁ』だったかというと、まず、お姉様が居なくなったことでベルトラン子爵領の領地経営が破綻し、私と両親は借金を重ねて……。
「マルグリット!お前だな!お前がアナベルに何か吹き込んだのだろう!」
「この悪魔!私のアナベルちゃんを返しなさい!」
しまった!脳内で情報整理している間に、両親がお姉様に詰め寄ってる!しかもお父様はお姉様を殴る気だ!
「子爵!夫人!やめろ!いきなり何をする!」
私が止める前に、聖騎士ルグラン様がお父様の手を払ってくれた。
わー!強い!カッコいい!睨みつける顔も凛々しい!素敵!
小説の私は『エリック様は美形だけど、しょせんは地味な黒髪黒目よね』とか言ってたけど、本当に見る目がない!
お父様は、聖騎士ルグラン様の迫力に一瞬引いたけど、睨み返して怒鳴る。
「なぜ止める!アナベルがおかしくなったのはこいつのせいだ!」
「おやめなさい!」
凛とした声。聖女ミシエラ様だ。お父様は気圧されたのか口を閉じた。聖女様の叱責が続く。
「アナベルさんに何が起きたかわかっていないというのに、何故マルグリットさんを責めるのですか!おまけに一方的に怒鳴って暴力を振るうなど理不尽にもほどがあります!」
きゃー!聖女ミシエラ様ー!
優しい表情に穏やかな話し方がトレードマークだけど、悪人を厳しく叱責する姿も素敵なんだよね!
というか小説で想像してたより迫力がある!銀髪と金の瞳も相まって神々しい!好き!
◆◆◆◆◆◆
閲覧頂きありがとうございます。
「第19回恋愛小説大賞」に参加しています。
投票、お気に入り登録、エール、感想、リアクションなど、皆様の反応がはげみです。よろしくお願いします。
しばらくは毎日更新します。
1日目は3回、2日目以降は1回か2回の予定です。
よろしくお願いします。
両親は昔からマルグリットお姉様を虐げ、私を甘やかしていた。姉妹格差の理由は色々あるが、一番大きい理由は見た目の違いだ。
お父様は黒髪に空色の瞳、お母様はピンク髪に黒目で、私たちは両親から受け継いだ色が違った。
私はピンク髪に空色の瞳、お姉様は黒髪黒目だ。
ある理由があり、両親にとっては鮮やかな色が美の象徴で、黒は醜さの象徴だ。
だから私は両親の美を受け継いだ可愛い子で、お姉様は醜さを受け継いだ憎い子だった。
その影響で、私もさっきまで黒髪黒目は地味で醜いと思っていた。
馬鹿馬鹿しい。どこから突っ込めばいいかわからないくらい理不尽だ。
当然、周りは両親をたしなめた。けれど両親は、ますます頑なになるばかり。
そして8年前。私が7歳の時、【魔炎病】に罹ったことをきっかけに悪化した。
【魔炎病】とは、体内の魔力の流れが悪くなる病気だ。身体が動かしにくくなっていき、激痛の発作に苦しむ。
この時点では、原因が分からず特効薬もない難病だ。聖女による【神聖治癒魔法】以外では治せない。
しかも【神聖治癒魔法】には高額の治療費が必要だし、順番が回ってくるまで何年もかかる。
【魔炎病】は、罹れば高確率で命を落とす死の病だった。
両親は私を可哀想だと言い、ドロドロに甘やかした。
そして治療費を用意するためと称し、お姉様にかける費用を大幅にけずった。おまけに、お姉様に『跡取りなのだからこれくらいしろ』と、領地経営と家政の大半を押し付け、私の言うことを全て聞くよう命じたのだ。
こうして私は、お姉様に対して『ずるい』『酷い』『さっさとして』『欲しい』『もらってあげる』ばかり言うようになってしまう。
『嫌よ!勉強したくなあい!お姉様酷い!私は病気なのに虐める!』
『どうしてお姉様は健康なの?私はこんなに苦しいのに!ずるい!』
『宝玉果しか食べないって言ってるでしょ!さっさと用意してよ!』
『お姉様が着けてるブローチが欲しい!私がもらってあげる!ちょうだい!』
私の我儘を全て叶えなくてはいけないマルグリットお姉様。しかも、両親から押し付けられた領地経営と家政は膨大な量だった。
マルグリットお姉様は8年もの間、こんな過酷な環境にいた。
どう考えても児童虐待だ。生活環境が過酷すぎる。普通なら耐えられない。
けど、不幸なことにお姉様は優秀過ぎた。そして優し過ぎた。
ボロボロになりながら仕事をこなし、領地を盛り立て、私の我儘を叶え、八つ当たりを受け止め、治療費を貯めるために節約を続けた。
両親は、私を甘やかし、お姉様を虐げ、散財する以外はなにもしていなかった。
お父様に至っては、いつ最後に執務室に入ったかわからないレベルだ。もはや、領主かどうかも怪しい。
というか、私と両親が散財しなければ治療費はもっと早く貯まっていたはず。
そんなことすら分からなかった自分が愚かすぎて恥ずかしい。
マルグリットお姉様が治療費を用意してくれたおかげで、私は聖女様の治療を受けられた。たった今、【魔炎病】を完治できたのだ。
……ここまでは小説も現実も同じだけど、小説の私はここから更に酷い、いや、外道としか言えない行動に出る。
『お姉様なんて、もういらなーい!アナベルのお家から出ていって!』
小説の私は、マルグリットお姉様の婚約者と後継者の座を奪って家から追い出すのだ。
もちろん両親もノリノリだ。
『いつかきっと、家族みんな仲良く暮らせるようになれる』
そんな優しい夢を見ていたお姉様は、心身共に傷つき途方に暮れた。あんまりだ。悲劇過ぎる。
だけど安心して欲しい。この小説は、王道ドアマットヒロインでハッピーエンドなのだから。
お姉様は、すぐに聖女ミシエラ様と聖騎士ルグラン様に保護された。そして、お姉様を深く愛している幼馴染と再会して結ばれるのだ。
前世の私は手を叩いて喜んだものだ。
『マルグリットたん良かったね!姉妹格差ドアマットヒロインからの溺愛ハッピーエンド!最高!』
こんな感じでSNSで呟いたっけ。
まあ、お姉様が幸せになる反面、小説の私たちは盛大に『ざまぁ』されて破滅するのだけど……。
しかも、早い段階で物語から退場する両親と違い、小説の私は何度も『ざまぁ』されては復活し、お姉様や聖女様たちに復讐しようとする。
『ざまぁ』の内容は過激で、何回も死にそうになる。でも死なない。何度でも立ち上がって復讐しようとする。
小説の私、ゾンビかイニシャルGか?
どんな『ざまぁ』だったかというと、まず、お姉様が居なくなったことでベルトラン子爵領の領地経営が破綻し、私と両親は借金を重ねて……。
「マルグリット!お前だな!お前がアナベルに何か吹き込んだのだろう!」
「この悪魔!私のアナベルちゃんを返しなさい!」
しまった!脳内で情報整理している間に、両親がお姉様に詰め寄ってる!しかもお父様はお姉様を殴る気だ!
「子爵!夫人!やめろ!いきなり何をする!」
私が止める前に、聖騎士ルグラン様がお父様の手を払ってくれた。
わー!強い!カッコいい!睨みつける顔も凛々しい!素敵!
小説の私は『エリック様は美形だけど、しょせんは地味な黒髪黒目よね』とか言ってたけど、本当に見る目がない!
お父様は、聖騎士ルグラン様の迫力に一瞬引いたけど、睨み返して怒鳴る。
「なぜ止める!アナベルがおかしくなったのはこいつのせいだ!」
「おやめなさい!」
凛とした声。聖女ミシエラ様だ。お父様は気圧されたのか口を閉じた。聖女様の叱責が続く。
「アナベルさんに何が起きたかわかっていないというのに、何故マルグリットさんを責めるのですか!おまけに一方的に怒鳴って暴力を振るうなど理不尽にもほどがあります!」
きゃー!聖女ミシエラ様ー!
優しい表情に穏やかな話し方がトレードマークだけど、悪人を厳しく叱責する姿も素敵なんだよね!
というか小説で想像してたより迫力がある!銀髪と金の瞳も相まって神々しい!好き!
◆◆◆◆◆◆
閲覧頂きありがとうございます。
「第19回恋愛小説大賞」に参加しています。
投票、お気に入り登録、エール、感想、リアクションなど、皆様の反応がはげみです。よろしくお願いします。
しばらくは毎日更新します。
1日目は3回、2日目以降は1回か2回の予定です。
よろしくお願いします。
あなたにおすすめの小説
地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます
白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。
特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。
だがある日、突然の婚約破棄通告――。
「やはり君とは釣り合わない」
そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。
悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。
しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。
「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」
「よければ、俺が貰ってやろうか?」
冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!?
次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには
「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」
――溺愛モードが止まらない!
ゴミスキルと呼ばれた少女は無限を手にする
森のカフェしっぽっぽ
ファンタジー
十三歳の少女アイリス・アルベールは、人生を決める「祝福の儀」で“ゴミスキル”と蔑まれる《アイテムボックス》を授かってしまう。戦えず、稼げず、価値もない――そう断じた家族は、彼女を役立たずとして家から追放する。さらに、優秀なスキルであれば貴族に売り渡すつもりだったという冷酷な真実まで明かされ、アイリスはすべてを失う。
だが絶望の中、彼女は気付く。この世界が、自分がかつてやり込んだVRMMORPG『メデア』そのものであることに。
そして思い出す――
《アイテムボックス》には、ある“致命的なバグ”が存在することを。
市場で偶然を装いながらアイテムを出し入れし、タイミングをずらすことで発生する“複製バグ”。それは、あらゆる物資を無限に増やす禁断の裏技だった。
食料も、装備も、資金も――すべてが無限。
最底辺から一転、誰にも真似できないチートを手にしたアイリスは、冒険者として歩み始める。だがその力はやがて、経済を歪め、権力者の目に留まり、そして世界の“仕様そのもの”に干渉していくことになる。
これは――
ゴミと呼ばれた少女が、“世界の裏側”を掌握する物語。
本当に現実を生きていないのは?
朝樹 四季
恋愛
ある日、ヒロインと悪役令嬢が言い争っている場面を見た。ヒロインによる攻略はもう随分と進んでいるらしい。
だけど、その言い争いを見ている攻略対象者である王子の顔を見て、俺はヒロインの攻略をぶち壊す暗躍をすることを決意した。
だって、ここは現実だ。
※番外編はリクエスト頂いたものです。もしかしたらまたひょっこり増えるかもしれません。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった
Blue
恋愛
王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。
「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」
シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。
アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。
視えるので、公爵家へ嫁ぎます 〜弱小貴族の私に選択肢などありえません〜
ちより
恋愛
貴族と名乗るにはあまりにもお粗末な生活を送る弱小男爵家長女、ミラは生まれつき視える体質だった。
人ではないソレには、見ない、聞かない、関わらないを通してきたミラだったが、絶対的な権力を持つヴァロアナ公爵家当主にその能力を気づかれてしまう。年の離れた弟のため、ひいては実家の生活のため、公爵家が出した破格の縁談金を前にミラは視ることを条件とした婚約を受け入れる。
ーーその能力でヴァロアナ家に害のある人間を排除するようにーー
だが実際は、おぞましいソレを視ないよう気をつかう次期当主、ルーシスからの徐々に強くなる愛情に戸惑うばかりで……