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第1部
49話 愛を乞う二人
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私は我に返りました。
「こんなところでお話してもよろしいのですか?」
アドリアン様の出生については、みだりに口にすべきではありません。
ここは庭園です。どこで誰が聞いているかわからないのですから。
ですが、アドリアン様は安心させるように微笑みます。
「問題ない。盗聴防止の魔道具を発動させているし、父上たちには話を通してある。それに護衛たちも周囲を見張っているよ」
「護衛が?き、気づきませんでした。すごいですね」
ここまで気配を消しているということは、噂に聞く【王家の影】でしょうか?
「……全くだ。王家というのは、色々な意味で強くて大きな力を持っているよ。俺は十四歳になるまで何も知らなかったが……。
少し、昔話をさせてくれ」
アドリアン様は、どこか遠くを見ながら物憂げな声で語りだしました。
「俺はブルーエ男爵家で、何一つ不自由なく育った。十四歳になるまで、俺が両親と兄たちと血が繋がってないなんて想像もしなかった」
納得して頷きます。
【夏星の大宴】では、ブルーエ男爵家の皆様にもお会いしました。
皆さまお顔立ちはそこまで似ていませんが、髪色や瞳の色は似通っていました。なにより仲が良く、血の繋がった家族にしか見えません。
「俺は成長するうちに、身体を動かしたり魔法を放つのが好きになっていった。文官である父や兄たちと全然違っていたけれど、それも気にならなかった」
目に浮かびます。きっと、のびのびとした明るい男の子だったのでしょう。
「家族は応援してくれたよ。十歳の時、武官の多いアメティスト家に話を通して、イアン殿に鍛えてもらえるようにしてくれた。
イアン殿の鍛錬は厳しかったけど、楽しくてやりがいがあった。イアン殿と配下の皆から話を聞くのも好きだった」
「どんな話をお聞きしたのですか?」
「武勇伝や騎士の心構え、そして、この国の王族がどれだけ民を思っているかが多かった。俺はその話を聞くのが一番好きだったよ」
両陛下の政策についてだったり、王子殿下の慰問のお話だったり、色々な話をされたそうです。
「話を聞いたり、【蕾のお茶会】で王家のお三方とご挨拶する度に、敬愛が募っていった。
やがて俺は騎士……それも、王家をお護りする近衛騎士になりたいと思うようになったんだ」
王家のお三方の素晴らしさをお聞きし、実際にあのお三方とお会いしていたのです。敬愛し、お仕えしたくなって当然です。
おまけに、私のお義父様であるイアン・アメティスト子爵は近衛騎士だったのです。その鍛錬を受けているのですから、近衛騎士を目指すのはとても自然な話です。
ですが……。
「俺の夢を聞いて、イアン殿の顔は引きつった。すぐに『未熟者!もっと鍛えて賢くなれ!』といって笑い飛ばしたから、その時は忘れたけどね。
俺はひたすら騎士になるための鍛錬を重ね、勉強にも手を抜かなかった。
俺と同じく何も知らなかったブルーエの兄二人と、アメティスト家の配下からは褒められたし応援された。『近衛騎士になれる実力だ』『頑張れよ』と言われ有頂天だったよ。
ブルーエの両親やイアン殿からは『今から自分の将来を決めつけるな』『騎士になるのはいいが、近衛騎士になるのは諦めろ』と、言われていたのにな。
俺は本当に何も知らなかったんだ」
アドリアン様は自嘲を滲ませ目を伏せます。
国王陛下に良く似た金色の睫毛が、王妃陛下に良く似た青い瞳に影を落としました。
「騎士になるのは反対されないのに、近衛騎士になりたいというと反対される。周りの騎士志望者は、そんなことは言われ無いのに。
俺は理不尽だと思って諦めなかった。実力も知識も備わっている。十四歳になる頃には、出奔して遠縁の養子になる計画を練っていた」
「そ、それはまた極端ですね」
アドリアン様は苦く笑います。
「計画はあっさりバレた。そして、ブルーエの両親から出生の秘密を教えられたんだ」
ブルーエ男爵はこう言ったそうです。
『お前は近衛騎士にはなれない。近衛騎士になれば、王城に勤務することになるし、両陛下と王子殿下の側に侍ることになる。お前と王子殿下が双子だと露見すれば、間違いなく国が乱れる』
「いきなり夢を奪われ、本当の肉親は別にいると言われて……しばらく荒れたよ。
『何故もっと早く教えてくれなかったのか』『いっそ騎士になることを止めてくれればよかったじゃないか』『俺は独りぼっちだ』『未来が閉ざされた』そんな甘ったれたことを言ったのを覚えている」
「甘えとは違うと思います。それだけお辛かったのでしょう?」
アドリアン様は静かに微笑み、話を続けました。
「俺が真実を知ったことは、両陛下に報告された。両陛下は責任感の強い方々だ。その年の【蕾のお茶会】後に、俺と面会して話すことを望まれた。
俺は逃げようとしたよ。お三方への敬愛は無くしていなかったが、お会い出来るような心境じゃなかったからな。結局、無理矢理連れて行かれたが」
仕方ないとはいえ、当時のアドリアン様の気持ちを思うと泣きそうになります。
アドリアン様、今もお辛いのでしょうか?
しかしアドリアン様の様子は一変しました。
「面会の前に【蕾のお茶会】に参加して……君に出会った」
鮮やかな青い瞳が私を写し、柔らかく細められます。まるで夢を見るような眼差しに、私の胸が高鳴りました。
「君は、あの日の出会いを救いだと言ってくれたが、救われたのは俺も同じだ」
「え?」
「君は俺よりもずっと幼くて、理不尽な暴力にさらされていた。それなのに、君は諦めず努力を続けると決意した。
俺は自分が恥ずかしかった。そして同時に嬉しかった。君のような強く気高い人に会えたことが。
だから俺は、騎士になれたんだ」
「そんな……わ、私は……」
あまりにも過剰な賛辞です。同時に、アドリアン様のこれまでの態度が腑に落ちました。
アドリアン様は、九年前の私に夢を見たのです。
だから、私を助け出して大事にして下さった。助けられた私は、嬉しくて幸せだった。
……だけど同時に、いつか幻滅されそうで怖かった。
腹の底で様々な思いが煮えたぎり逆流します。
「私はそんな立派な人間じゃない!」
気づけば私は、剥き出しの感情のまま叫んでいた。
「あの頃の私は、何も知らず弱くて、努力すれば願いが叶うと信じたかっただけで……!」
そう、今ならわかる。あの時の言葉に嘘はなかった。けど、それだけじゃなかった。
私はあの日、初めて周囲から高く評価された。元アンブローズ侯爵夫妻にも褒められた。
嬉しくて、それにすがりついただけ。
いつか報われて救われると、祈るように信じた。
「い、いまだって……!」
貴方を守れるほど強くなりたい。そう願ってはいるけれど。
たくさんの人に大事にされて自信もついてはきたけれど。
でもやっぱり。
「わ、私は、強くも気高くもない……!よわくて、つまらないにんげんで……!」
涙と感情があふれて前が見えない。でも、アドリアン様の動きは気配でわかる。席を立って私の足元に跪いた。
「いいや。君は強くて気高い。だから努力を続けられたし、薬の女神の加護を受けれた。そうでなければ、【特級ポーション】はこの世に生まれなかった。
……もちろん、君にだって弱いところも欠点もあると知っている」
心が温かな声に包まれる。情けなくて涙がまたあふれた。
「そう、よ。わ、わたし……だ、だめなところ、ばっかりで……。あなた、わかってる?」
「うん。そうだね。君は卑屈になりやすいし、夢中になると周りに注意しなくなるし、無茶しがちで自分を雑に扱うし、人に頼るのが苦手だし、適度に気を抜くのが苦手だし……。それにいま知ったけれど、我慢し過ぎて爆発することもあるんだね」
「うぅ……」
返す言葉もなくて唸るしかない。涙は止まった。やっとアドリアン様の顔が見える。
跪いたまま、キラキラした笑顔で私を見つめているのが。
「でもね。全部ひっくるめて君が好きだよ」
「っ!なっ……!」
大きな手が差し出される。九年前と同じように。
あの時の言葉が蘇る。
『今は真似だけ。いつか君と僕が大人になったら、改めて誓わせて欲しい』
「あの日の約束だ。
俺はこれからも騎士として、ヴェールラント王国全国民を護り続ける。そして君に助けが必要な時は、君だけの騎士になって助けに行くよ。
だからルルティーナ嬢、私に誓いを印す機会を与えて欲しい」
「ど……どう、して?ここまでしてくれるの?あなたは……もう、何度も……私を助けてくれたのに」
「……今思うと、初恋だったんだと思う」
アドリアン様の頬が染まる。小さな男の子のような照れ笑い。
「再会してまた恋をしたんだ。ルルティーナ嬢、俺は君が好きだ。君の弱さも強さも愛している」
「……っ!」
また泣きそうなのをこらえて言葉を紡ぐ。
「……わ、私も、私もよ。貴方が初恋で……また恋をしたの」
手を差し出して笑う。うまく笑えているかしら?貴方には綺麗だと思って欲しいの。
「私も貴方が好き。大好き。貴方の弱さも強さも愛している」
右手を差し出しながら告げる。アドリアン様の鮮やかな青い瞳に喜びと涙があふれた。
「ルルティーナ嬢!」
そしてアドリアン様は、私の差し出した手の甲に誓いの口付けを落として……。
「ルルティーナ嬢、どうか俺と婚約して欲しい」
「は、はい……!」
私は嬉しくて、また泣いてしまったの。
愛しい指が涙を拭う。こんな幸福な涙があるなんて、知らなかった。
たくましい腕が私を抱き上げて、ぎゅっと抱きしめてくれる。
なんて幸せ。
きっとこれからも、何度だって私は幸せすぎて泣くのねと。
確信してまた涙を流した。
◆◆◆◆◆
ここまでお読み頂きありがとうございます。
次かその次で完結します。最後まで読んで頂ければ嬉しいです。
完結後は番外編(ルルティーナ以外にスポットをあてた話)や続編を書くかも知れませんが、まだまだ構想段階です。
「こんなところでお話してもよろしいのですか?」
アドリアン様の出生については、みだりに口にすべきではありません。
ここは庭園です。どこで誰が聞いているかわからないのですから。
ですが、アドリアン様は安心させるように微笑みます。
「問題ない。盗聴防止の魔道具を発動させているし、父上たちには話を通してある。それに護衛たちも周囲を見張っているよ」
「護衛が?き、気づきませんでした。すごいですね」
ここまで気配を消しているということは、噂に聞く【王家の影】でしょうか?
「……全くだ。王家というのは、色々な意味で強くて大きな力を持っているよ。俺は十四歳になるまで何も知らなかったが……。
少し、昔話をさせてくれ」
アドリアン様は、どこか遠くを見ながら物憂げな声で語りだしました。
「俺はブルーエ男爵家で、何一つ不自由なく育った。十四歳になるまで、俺が両親と兄たちと血が繋がってないなんて想像もしなかった」
納得して頷きます。
【夏星の大宴】では、ブルーエ男爵家の皆様にもお会いしました。
皆さまお顔立ちはそこまで似ていませんが、髪色や瞳の色は似通っていました。なにより仲が良く、血の繋がった家族にしか見えません。
「俺は成長するうちに、身体を動かしたり魔法を放つのが好きになっていった。文官である父や兄たちと全然違っていたけれど、それも気にならなかった」
目に浮かびます。きっと、のびのびとした明るい男の子だったのでしょう。
「家族は応援してくれたよ。十歳の時、武官の多いアメティスト家に話を通して、イアン殿に鍛えてもらえるようにしてくれた。
イアン殿の鍛錬は厳しかったけど、楽しくてやりがいがあった。イアン殿と配下の皆から話を聞くのも好きだった」
「どんな話をお聞きしたのですか?」
「武勇伝や騎士の心構え、そして、この国の王族がどれだけ民を思っているかが多かった。俺はその話を聞くのが一番好きだったよ」
両陛下の政策についてだったり、王子殿下の慰問のお話だったり、色々な話をされたそうです。
「話を聞いたり、【蕾のお茶会】で王家のお三方とご挨拶する度に、敬愛が募っていった。
やがて俺は騎士……それも、王家をお護りする近衛騎士になりたいと思うようになったんだ」
王家のお三方の素晴らしさをお聞きし、実際にあのお三方とお会いしていたのです。敬愛し、お仕えしたくなって当然です。
おまけに、私のお義父様であるイアン・アメティスト子爵は近衛騎士だったのです。その鍛錬を受けているのですから、近衛騎士を目指すのはとても自然な話です。
ですが……。
「俺の夢を聞いて、イアン殿の顔は引きつった。すぐに『未熟者!もっと鍛えて賢くなれ!』といって笑い飛ばしたから、その時は忘れたけどね。
俺はひたすら騎士になるための鍛錬を重ね、勉強にも手を抜かなかった。
俺と同じく何も知らなかったブルーエの兄二人と、アメティスト家の配下からは褒められたし応援された。『近衛騎士になれる実力だ』『頑張れよ』と言われ有頂天だったよ。
ブルーエの両親やイアン殿からは『今から自分の将来を決めつけるな』『騎士になるのはいいが、近衛騎士になるのは諦めろ』と、言われていたのにな。
俺は本当に何も知らなかったんだ」
アドリアン様は自嘲を滲ませ目を伏せます。
国王陛下に良く似た金色の睫毛が、王妃陛下に良く似た青い瞳に影を落としました。
「騎士になるのは反対されないのに、近衛騎士になりたいというと反対される。周りの騎士志望者は、そんなことは言われ無いのに。
俺は理不尽だと思って諦めなかった。実力も知識も備わっている。十四歳になる頃には、出奔して遠縁の養子になる計画を練っていた」
「そ、それはまた極端ですね」
アドリアン様は苦く笑います。
「計画はあっさりバレた。そして、ブルーエの両親から出生の秘密を教えられたんだ」
ブルーエ男爵はこう言ったそうです。
『お前は近衛騎士にはなれない。近衛騎士になれば、王城に勤務することになるし、両陛下と王子殿下の側に侍ることになる。お前と王子殿下が双子だと露見すれば、間違いなく国が乱れる』
「いきなり夢を奪われ、本当の肉親は別にいると言われて……しばらく荒れたよ。
『何故もっと早く教えてくれなかったのか』『いっそ騎士になることを止めてくれればよかったじゃないか』『俺は独りぼっちだ』『未来が閉ざされた』そんな甘ったれたことを言ったのを覚えている」
「甘えとは違うと思います。それだけお辛かったのでしょう?」
アドリアン様は静かに微笑み、話を続けました。
「俺が真実を知ったことは、両陛下に報告された。両陛下は責任感の強い方々だ。その年の【蕾のお茶会】後に、俺と面会して話すことを望まれた。
俺は逃げようとしたよ。お三方への敬愛は無くしていなかったが、お会い出来るような心境じゃなかったからな。結局、無理矢理連れて行かれたが」
仕方ないとはいえ、当時のアドリアン様の気持ちを思うと泣きそうになります。
アドリアン様、今もお辛いのでしょうか?
しかしアドリアン様の様子は一変しました。
「面会の前に【蕾のお茶会】に参加して……君に出会った」
鮮やかな青い瞳が私を写し、柔らかく細められます。まるで夢を見るような眼差しに、私の胸が高鳴りました。
「君は、あの日の出会いを救いだと言ってくれたが、救われたのは俺も同じだ」
「え?」
「君は俺よりもずっと幼くて、理不尽な暴力にさらされていた。それなのに、君は諦めず努力を続けると決意した。
俺は自分が恥ずかしかった。そして同時に嬉しかった。君のような強く気高い人に会えたことが。
だから俺は、騎士になれたんだ」
「そんな……わ、私は……」
あまりにも過剰な賛辞です。同時に、アドリアン様のこれまでの態度が腑に落ちました。
アドリアン様は、九年前の私に夢を見たのです。
だから、私を助け出して大事にして下さった。助けられた私は、嬉しくて幸せだった。
……だけど同時に、いつか幻滅されそうで怖かった。
腹の底で様々な思いが煮えたぎり逆流します。
「私はそんな立派な人間じゃない!」
気づけば私は、剥き出しの感情のまま叫んでいた。
「あの頃の私は、何も知らず弱くて、努力すれば願いが叶うと信じたかっただけで……!」
そう、今ならわかる。あの時の言葉に嘘はなかった。けど、それだけじゃなかった。
私はあの日、初めて周囲から高く評価された。元アンブローズ侯爵夫妻にも褒められた。
嬉しくて、それにすがりついただけ。
いつか報われて救われると、祈るように信じた。
「い、いまだって……!」
貴方を守れるほど強くなりたい。そう願ってはいるけれど。
たくさんの人に大事にされて自信もついてはきたけれど。
でもやっぱり。
「わ、私は、強くも気高くもない……!よわくて、つまらないにんげんで……!」
涙と感情があふれて前が見えない。でも、アドリアン様の動きは気配でわかる。席を立って私の足元に跪いた。
「いいや。君は強くて気高い。だから努力を続けられたし、薬の女神の加護を受けれた。そうでなければ、【特級ポーション】はこの世に生まれなかった。
……もちろん、君にだって弱いところも欠点もあると知っている」
心が温かな声に包まれる。情けなくて涙がまたあふれた。
「そう、よ。わ、わたし……だ、だめなところ、ばっかりで……。あなた、わかってる?」
「うん。そうだね。君は卑屈になりやすいし、夢中になると周りに注意しなくなるし、無茶しがちで自分を雑に扱うし、人に頼るのが苦手だし、適度に気を抜くのが苦手だし……。それにいま知ったけれど、我慢し過ぎて爆発することもあるんだね」
「うぅ……」
返す言葉もなくて唸るしかない。涙は止まった。やっとアドリアン様の顔が見える。
跪いたまま、キラキラした笑顔で私を見つめているのが。
「でもね。全部ひっくるめて君が好きだよ」
「っ!なっ……!」
大きな手が差し出される。九年前と同じように。
あの時の言葉が蘇る。
『今は真似だけ。いつか君と僕が大人になったら、改めて誓わせて欲しい』
「あの日の約束だ。
俺はこれからも騎士として、ヴェールラント王国全国民を護り続ける。そして君に助けが必要な時は、君だけの騎士になって助けに行くよ。
だからルルティーナ嬢、私に誓いを印す機会を与えて欲しい」
「ど……どう、して?ここまでしてくれるの?あなたは……もう、何度も……私を助けてくれたのに」
「……今思うと、初恋だったんだと思う」
アドリアン様の頬が染まる。小さな男の子のような照れ笑い。
「再会してまた恋をしたんだ。ルルティーナ嬢、俺は君が好きだ。君の弱さも強さも愛している」
「……っ!」
また泣きそうなのをこらえて言葉を紡ぐ。
「……わ、私も、私もよ。貴方が初恋で……また恋をしたの」
手を差し出して笑う。うまく笑えているかしら?貴方には綺麗だと思って欲しいの。
「私も貴方が好き。大好き。貴方の弱さも強さも愛している」
右手を差し出しながら告げる。アドリアン様の鮮やかな青い瞳に喜びと涙があふれた。
「ルルティーナ嬢!」
そしてアドリアン様は、私の差し出した手の甲に誓いの口付けを落として……。
「ルルティーナ嬢、どうか俺と婚約して欲しい」
「は、はい……!」
私は嬉しくて、また泣いてしまったの。
愛しい指が涙を拭う。こんな幸福な涙があるなんて、知らなかった。
たくましい腕が私を抱き上げて、ぎゅっと抱きしめてくれる。
なんて幸せ。
きっとこれからも、何度だって私は幸せすぎて泣くのねと。
確信してまた涙を流した。
◆◆◆◆◆
ここまでお読み頂きありがとうございます。
次かその次で完結します。最後まで読んで頂ければ嬉しいです。
完結後は番外編(ルルティーナ以外にスポットをあてた話)や続編を書くかも知れませんが、まだまだ構想段階です。
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