【第1部、第2部完結】魔力無し令嬢ルルティーナの幸せ辺境生活

花房いちご

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第1部

番外編【帰還後の婚約者たち】1話

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 本編最終話直後からはじまるお話です。

 ◆◆◆◆


「もう知っているだろうが、俺とルティは婚約した!うらやましいだろうが嫉妬するなよ!」

「あの冷血団長が惚気てる!」

「うらやましくはありますが!よかったですね!」

「プランティエ伯爵閣下ー!おめでとうございます!どうかお幸せに!」

「はい!」

 これから先、特に国王陛下と王太子殿下が訪問される春の表彰式まで、きっとやるべき事が多くて大変でしょう。
 でも、私もドリィも一人ではありません。

「私たち、これからもミゼール領で幸せに暮らします!」



 ◆◆◆◆◆




 そして、私たちは辺境騎士団の皆様に囲まれました。
 笑顔のカルメ様、シェルシェ様と目が合います。

「ルルティーナちゃん、よかったね。団長閣下がなかなか煮え切らないからヤキモキしたよ」

「ですよね。バレバレなのに、いつまで腹を括らないのかって……ひっ!ごめんなさい!」

 圧を出すドリィに、シェルシェ様が謝罪します。シアンがすかさず前に出ました。

「シェルシェ様、謝ることなどございません。このヘタレ閣下にもっと言って差し上げて下さい!このヘタレと!」

「シアン!その呼び名はやめろって言っただろ!あと俺はもうヘタレじゃない!」

「いやあ、私ら的にはシアンちゃんの気持ちもわかるよ」

「そうですねえ」

 カルメ様に頷くのはビオラ先生。冷ややかな紫色の瞳でドリィを見つめます。

「団長閣下は、ルルティーナさんに想いを伝えていないというのに、囲い込んで自分以外とは婚約出来ない状態にされましたね。ルルティーナさんの師匠の一人として思うところがあります」

「うぐっ……!」

「だよねえ。結果的に放置していた私らが言うのもなんだけどさ。誠実さに欠けるよ。
 団長、私らの可愛いルルティーナちゃんを幸せに出来るのかい?」

「全くその通りですわ」

「何度か締めたが改めなかったな」

 馬車から出てきたお義母様まで加わります。お義父様も渋い顔です。
 場が不穏な空気になっていきます。
 ドリィがはっきり伝えなかったのには、理由があるのです。お義母様たちは知っているはずですが……。
 お義母様と目が合います。考えていることが、なんとなく通じます。

『それでも、親としてちょっと思うところがあるのよ』と。

 大切にして頂けて嬉しい。でもこのままでは、ドリィが可哀想です。たぶん、自業自得ではあるのですが……。
 例えば、【夏星の大宴】の時です。あの時の私はドリィにエスコートされ、ファーストダンスを踊りました。

 今から振り返ると、ドリィはかなり大胆に私を囲い込んでいました。

 我が国では、公的な夜会でエスコートするのは夫婦か婚約者です。どちらもいない場合は、家族か親族か家長の許可を得た知人が担います。
 ドリィはお義父様から許可を得ているので、これは問題ありません。

 問題はダンスです。ダンスの相手は交流の一環として自由ではありますが、ファーストダンスは別です。
 ファーストダンスは、原則として夫婦か婚約者と踊るのが決まりです。未婚で婚約者がいない場合は、家族または親族と踊るのが暗黙の了解となっています。
 そうでない場合は【私たち二人は婚約するのが決まっています】と、宣言したとみなされます。
 
 ですから、ドリィから『俺とファーストダンスを踊ってほしい』と言われて『私でいいのかしら?』と戸惑いました。
 最終的にドリィに『問題ない。俺と踊るのは嫌だろうか?』と言われたので頷いたのです。

『問題ないと仰っていたわ。私は知らないけれど、ファーストダンスを上司と部下が踊ることもあるのね』と、納得して。

 シアンとお義母様には呆れられました。特にお義母様は難色を示しましたが『ルルティーナが嫌ではないのなら……』と、最終的に許して頂けたのです。

 もちろん、私の想像したような『ファーストダンスを上司と部下が踊ることもある』慣例などどこにもありませんでした。
 ファーストダンスを踊り、夜会の開始から閉会までエスコートされた私。
 社交界は当然、『プランティエ伯爵はベルダール辺境伯と間もなく婚約する』と、認知したのでした。

 振り返ってみると、想いを伝え合っていない上に婚約の話すら出ていない状態で、かなり軽率だったとは思います。

 でも私はドリィに囲い込み……大切にされて嬉しかったもの!他の方とお近づきになる気もありませんし!
 だから私にもかなり責任があるのです!

「大丈夫です!私とドリィは協力しあって幸せになりますから!」

 宣言すると、「おおおおお!」「プランティエ伯爵……俺たちのポーション職人長かっこいい!」と、ミゼール城が揺れそうなほどの歓声が響きます。

「ルルティーナさんがそう言うなら……」

「何かあったら、いつでも私らに相談するんだよ」

「私たちも居ますからね」

 渋々納得するお二人と義両親。ひとまず不穏な空気は霧散しました。

「プランティエ職人長閣下万歳!最高!」

「アドリアン・ベルダール団長閣下とお幸せに!」

「団長うらやましい!ハゲろ!」

 代わりに、騎士様たちにもみくちゃにされます。熱気がすごい!

「おい!俺にハゲろと言った奴!前に出ろ!」

「まあまあ、落ち着いてください。それよりも無事のご帰還と婚約の前祝いですよ!」

「は?」

「え?前祝いですか?」

 私たちが正式に婚約するのは、早くて半年後です。婚約のお祝いも婚約式も、それからする予定なのですが……。

「はい!すでに準備は出来ていますよ!明日から三日三晩の大宴会です!」

「だ、大宴会?」

「おい。祝い事のたびに宴会をやるのはいつものことだが、三日三晩だと?お前らが騒ぎたいだけじゃないか?」

「そ、そんなことないですよー!お祝いの気持ち!好意です好意!」

「我々の、このあふれんばかりの祝う想い!大宴会でもなければ表せないですから!」

 ドリィは呆れ返った様子です。

「お前らなあ……。よくアイツが許したな」

「そんな暇がないと言っても、誰も聞きませんからね」

「ひっ!副団長!」

 どよんとした暗い声に、その場にいた騎士様方の背が伸びます。
 声の主は、灰色の長い髪赤茶色の瞳の騎士様。長身で眼光鋭く、討伐では炎をまとわせた長槍で活躍する武人……辺境騎士団副団長エドガール・オレール様です。

「君たち、はしゃぐのもほどほどにしなさい。挨拶が済んだのなら持ち場に戻るよう言いましたよね?」

「はい!すいませんでした!」

「失礼します!」

 逃げていく皆様を見送り、オレール様はドリィに書類を渡します。

「団長、こちらをご確認下さい。辺境騎士団およびミゼール城の、明日以降の日程および人員の配置をまとめたものです。これでなんとかなるかと……ヤケクソで調整しました」

「あ、ああ。オレール、いつも悪いな。助かっているよ」

「本気で悪いと思っているなら、もっと書類仕事をして下さい」

「うぐっ……すまん」

 ピシャリと言われて目を逸らすドリィ。
 言われて当然だと思っているのでしょう。言い訳はしません。
 それも当然なのでしょう。
 私は最近まで知らなかったのですが、オレール様は文官たちと共に、辺境騎士団が滞りなく活動できるようにして下さっているのです。
 書類仕事をサボりがちなドリィたち騎士を叱り飛ばしつつ。
 すごく、大変だと思います……。

 ドリィはゆっくり読んだ後で「問題無い」と、頷きました。

「それはそうと、お前はしばらく休んだ方がいい。酷い隈だ。宴会が終わったら休暇を……」

 赤茶色の眼光が鋭くなります。

「は?休めると思います?貴方がいない間に溜まった、貴方の決裁待ちの書類が大量にあるんですが?大宴会の皺寄せの調整もしなければなりませんし?」

「……すまん。早めに片付けるから、片付いたらゆっくり休んでくれ……」

 オレール様は片眉を上げ、何故か私を見ました。

「では、プランティエ職人長に誓って下さい」

「え?私に?」

 オレール様の目がにんまりと弧を描きます。

「はい。サボり魔の団長閣下も、愛しき婚約者様に誓えば破れないでしょう」

「オレール!卑怯だぞ!」

「お黙りなさい。貴方がサボるからです」

「往生際が悪いですよ。サボり魔閣下」

「シアンまで!る、ルティ!ルティは俺を信じてくれるよな?誓わずともサボったりはしな……」

 私はドリィに微笑みかけました。

「駄目です。オレール様が安心するためにも誓いなさい」

「……はい」

 しょんぼりするドリィ。とても可愛らしいので、定期的に誓わせようかしら?

 とりあえず、オレール様やカルメ様たちとは別れて居住区域に向かいます。
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