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第2部
第2部 17話 コルナリン侯爵家夜会 中編
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時は少し戻ります。
私とドリィは、堂々と夜会会場であるコルナリン侯爵邸に足を踏み入れました。
ドリィはエスコートしながら微笑みます。
「今日も君が眩しい。綺麗だ。柔らかい輝きのパールも君に似合っている」
私はぽうっと見上げます。
「あ、ありがとう。嬉しいわ。ドリィも素敵よ」
私の装いはドリィの瞳を意識した青と、私の髪を意識した光沢のある白い生地で仕立てたドレスです。
裾にかけての広がりが大きく、ドリィの金髪を意識した金と大粒のパールをあしらったパリュールと共に華やかです。
対するドリィの装いは、生地の構成は私と同じですが、よりシャープな印象の礼服です。刺繍は銀、白いクラバットを留めるブローチと飾りボタンは私の瞳の色に似たローズクォーツをあしらっています。
ああ!キリッと華やかで素敵!
夜会会場である大広間に足を踏み入れます。お揃いの衣装を纏った私たちに様々な視線が向けられます。
コルナリン侯爵家と近しい貴族も、そうでない貴族もたくさん参加されています。
伯爵から侯爵に陞爵されたばかりなので、お披露目もかねて出来るだけ多くの貴族を招待されたそうです。
「仲睦まじさを見せつけたい俺たちにとって好都合だな」
「ええ」
私とドリィは、まずコルナリン侯爵ご一家にご挨拶しました。
本日いらっしゃるのは、侯爵、侯爵夫君、御息女のエディット様です。
あら?嫡男のアラン様はいらっしゃらないのですね。どうされたのでしょう?
気になりましたが、まずはご挨拶です。
「コルナリン侯爵閣下、コルナリン侯爵夫君、お招き頂きありがとうございます」
「こちらこそ、ご活躍されているお二人にお越しいただき光栄です」
深みのある赤髪と灰色の瞳の女性。私の血縁上の叔母であるコルナリン侯爵は、威厳のあるお顔にほのかな笑みを乗せました。
赤茶色の、ドレープと艶の美しいマーメイドラインドレス。オリーブグリーンに輝く宝石のパリュール。
装いの全てが、凛とした佇まいと知性を引き立てています。
「お二人とお話できる日を、一同楽しみにしておりました。領地を預かるアランも残念がっていましたよ」
ブルネットの髪にオリーブ色の瞳の男性、オリバー・コルナリン侯爵夫君も侯爵と同じ赤茶色の礼服です。灰色にも見える銀の刺繍がとてもお洒落ですね。
そしてさらりと、『アランは領地に居るが、病気や怪我などの問題ではない』と明かされました。一安心です。
「ベルダール辺境伯閣下、プランティエ伯爵閣下、お久しゅうございます」
御息女のエディット・コルナリン侯爵令嬢様は、赤みがかったブルネットにオリーブ色の瞳。私より小柄で可憐な印象の18歳の女性です。
淡いオリーブグリーンの生地にフリルと黄色い刺繍のドレス、黄色い八重咲きの花の髪飾りが愛らしい。
ジュリアーノ・ナルシス様の元婚約者で、大変な苦労をされました。それを乗り越え、領地経営に携われています。
私の尊敬する友人の一人です。夏に初めてお会いした時から文通させて頂いています。
「コルナリン侯爵令嬢、お久しゅう。夏に引き続きお会いできて感激です。この場でも、いつものようにルルティーナとお呼び頂ければ嬉しいです」
「ありがとうございます。私もエディットとお呼びください。……ベルダール辺境伯閣下も……」
ドリィを見たエディット様の顔が、何故か一瞬だけ強ばりました。
また、その後の言動にも動揺が滲んでいます。
「あ、その……ルルティーナ様、後でお時間を頂けないでしょうか?ご相談させて頂きたいことが……」
「エディット、ここは社交の場。個人的なご相談は後日になさい」
コルナリン侯爵にたしなめられ、エディット様はうつむかれてしまいます。
「は、はい。失礼しました……」
どうされたのでしょうか?
夏にお会いした時とは、明らかに様子が違います。
しかも個人的な相談がある?気になりますが、この場でお話することは出来ません。
コルナリン侯爵家の皆さまは居住まいを正し、私たちに微笑みかけました。
コルナリン侯爵の朗々とした声が会場に広がります。
「ベルダール辺境伯、プランティエ伯爵、ご婚約おめでとうございます。私どもコルナリン侯爵家は、心からお二人を祝福します」
「婚約式も近いとか。魔境浄化の目処がつき、新特級ポーションが開発され、ミゼール領に翡翠蘭という新たな産業が確立されたことと合わせて、本当におめでたいことです。
お二人の婚約が、我がヴェールラント王国をさらに栄えさせるでしょう。
残念ながら私どもは婚約式に参加できませんが、この場を借りてお祝いとさせていただきます」
周囲が少しだけ騒めきました。
私の血縁であり、現在権勢を強めているコルナリン侯爵が、社交という公の場で私たちの婚約を認め祝福したのです。
まだ婚約証明書が発行されていない私たちにとって、最高の支援です。
「何よりのお言葉、ありがとうございます」
私たちは最上の礼をとって、お礼申し上げました。
その後、私たちは他の方々と交流しました。
「プランティエ伯爵閣下、先日は素晴らしいお話とお土産をありがとうございました」
「ベルダール辺境伯、またお手合わせ願います」
お茶会でご一緒したセシル・ブランカ男爵夫人と、ご夫君で近衛騎士のゼルマン・ブランカ男爵です。
栗色の髪に琥珀色の瞳のブランカ男爵夫人は、琥珀色とクリーム色の生地を使ったドレスにムーンストーンのパリュール。
クリーム色の髪にオレンジ色の瞳のブランカ男爵は、栗色と琥珀色の礼服です。
なんてお似合いで素敵なご夫婦!
「頂いた翡翠蘭ハーブティーを毎日愛飲しています。少しずつ肌と身体の調子が整っているのを実感しているところですわ」
「セシルが更に美しくなって嬉しいです。私も飲ませて頂いていますが、身体の調子だけでなく心も安らぎますね」
「ええ、身体を整え心を安らかにする作用がありますから。お二人にお気に召して頂いて光栄ですわ」
「ブランカ男爵、ますます土属性魔法に磨きが
かかるな。手合わせが楽しみだ」
「次は一本取らせて頂きますよ」
私とドリィは楽しくお喋りさせて頂きました。
しばらくして、ブランカ男爵は声をひそめます。
「お二人が話してくださってよかった。私はこの場では少し肩身が狭いので……」
「ゼルマン、貴方が気にし過ぎているだけよ。
コルナリン侯爵閣下が招待して下さったのだし、ほとんどの方が普通に話してくださっているでしょう?」
「どういう事だ?」
思い当たることがあります。私は頭の中で家系図を広げます。
「それは、ブランカ男爵のご親戚のことでしょうか?」
ブランカ男爵は、クリザンテム伯爵の五男です。
クリザンテム伯爵は、亡くなられた前夫人と現夫人の間に六人の男児がいらっしゃります。ブランカ男爵は確か五男にあたられるはず。
私の発言に、ブランカ男爵は少し目を見張り頷きました。
「流石はプランティエ伯爵閣下。ご明察です。私の実家はクリザンテム伯爵家……ナルシス伯爵家とは近しい親戚です」
ナルシス伯爵家。先日のお茶会でご協力頂いた家であり、エディット様と婚約破棄したジュリアーノ・ナルシス様の生家です。
クリザンテム伯爵家とコルナリン侯爵家は、昔から家族ぐるみの付き合いがあったとか。
「母とコルナリン侯爵は、若い頃から仲が良かったのだそうです。もちろん、私たち子供も家族ぐるみで良くして頂きました」
そのご縁があり、ご親戚のジュリアーノ・ナルシス様とエディット様の婚約が結ばれたのだそうです。
「ジュリアーノ殿は、幼い頃から騎士になるのが夢で活発な子供だった。ナルシス伯爵家は、領地経営を任せられる聡明な女性を奥方に探されていました。コルナリン侯爵令嬢は、正に理想的な方だったのですが……」
しかし、お二人は婚約を破棄しました。
婚約破棄の原因は、ジュリアーノ・ナルシス様が元アンブローズ侯爵令嬢に心酔し、問題行動を繰り返したからです。
紹介したクリザンテム伯爵家には関わりのないことですが、コルナリン侯爵家が出席する夜会やお茶会は出来るだけ避けているのだそうです。
もちろん、ナルシス伯爵家もそのようにされています。この場には両家ともいません。
「招待をお断りしようかとも思いましたが『コルナリン侯爵家とブランカ男爵家の関係に問題がないことを示すチャンスよ!』と、セシルに背を押されまして」
「当然です。そもそもゼルマンは無関係ですから」
「ああ。それに、もうすぐ状況も変わる……」
ブランカ男爵は、ハッとした様子で口を閉じました。その視線の先、かなり遠くですがエディット様がいて、こちらを見ています。
ブランカ男爵は視線を外しました。
「失礼。今のは聞かなかったことに」
「……わかりました」
私とドリィは目を合わせましたが、追求は避けました。
エディット様、どうしたのかしら?それに……。
ブランカ男爵ではなく、私たちを見ていたのでは?
私とドリィは、堂々と夜会会場であるコルナリン侯爵邸に足を踏み入れました。
ドリィはエスコートしながら微笑みます。
「今日も君が眩しい。綺麗だ。柔らかい輝きのパールも君に似合っている」
私はぽうっと見上げます。
「あ、ありがとう。嬉しいわ。ドリィも素敵よ」
私の装いはドリィの瞳を意識した青と、私の髪を意識した光沢のある白い生地で仕立てたドレスです。
裾にかけての広がりが大きく、ドリィの金髪を意識した金と大粒のパールをあしらったパリュールと共に華やかです。
対するドリィの装いは、生地の構成は私と同じですが、よりシャープな印象の礼服です。刺繍は銀、白いクラバットを留めるブローチと飾りボタンは私の瞳の色に似たローズクォーツをあしらっています。
ああ!キリッと華やかで素敵!
夜会会場である大広間に足を踏み入れます。お揃いの衣装を纏った私たちに様々な視線が向けられます。
コルナリン侯爵家と近しい貴族も、そうでない貴族もたくさん参加されています。
伯爵から侯爵に陞爵されたばかりなので、お披露目もかねて出来るだけ多くの貴族を招待されたそうです。
「仲睦まじさを見せつけたい俺たちにとって好都合だな」
「ええ」
私とドリィは、まずコルナリン侯爵ご一家にご挨拶しました。
本日いらっしゃるのは、侯爵、侯爵夫君、御息女のエディット様です。
あら?嫡男のアラン様はいらっしゃらないのですね。どうされたのでしょう?
気になりましたが、まずはご挨拶です。
「コルナリン侯爵閣下、コルナリン侯爵夫君、お招き頂きありがとうございます」
「こちらこそ、ご活躍されているお二人にお越しいただき光栄です」
深みのある赤髪と灰色の瞳の女性。私の血縁上の叔母であるコルナリン侯爵は、威厳のあるお顔にほのかな笑みを乗せました。
赤茶色の、ドレープと艶の美しいマーメイドラインドレス。オリーブグリーンに輝く宝石のパリュール。
装いの全てが、凛とした佇まいと知性を引き立てています。
「お二人とお話できる日を、一同楽しみにしておりました。領地を預かるアランも残念がっていましたよ」
ブルネットの髪にオリーブ色の瞳の男性、オリバー・コルナリン侯爵夫君も侯爵と同じ赤茶色の礼服です。灰色にも見える銀の刺繍がとてもお洒落ですね。
そしてさらりと、『アランは領地に居るが、病気や怪我などの問題ではない』と明かされました。一安心です。
「ベルダール辺境伯閣下、プランティエ伯爵閣下、お久しゅうございます」
御息女のエディット・コルナリン侯爵令嬢様は、赤みがかったブルネットにオリーブ色の瞳。私より小柄で可憐な印象の18歳の女性です。
淡いオリーブグリーンの生地にフリルと黄色い刺繍のドレス、黄色い八重咲きの花の髪飾りが愛らしい。
ジュリアーノ・ナルシス様の元婚約者で、大変な苦労をされました。それを乗り越え、領地経営に携われています。
私の尊敬する友人の一人です。夏に初めてお会いした時から文通させて頂いています。
「コルナリン侯爵令嬢、お久しゅう。夏に引き続きお会いできて感激です。この場でも、いつものようにルルティーナとお呼び頂ければ嬉しいです」
「ありがとうございます。私もエディットとお呼びください。……ベルダール辺境伯閣下も……」
ドリィを見たエディット様の顔が、何故か一瞬だけ強ばりました。
また、その後の言動にも動揺が滲んでいます。
「あ、その……ルルティーナ様、後でお時間を頂けないでしょうか?ご相談させて頂きたいことが……」
「エディット、ここは社交の場。個人的なご相談は後日になさい」
コルナリン侯爵にたしなめられ、エディット様はうつむかれてしまいます。
「は、はい。失礼しました……」
どうされたのでしょうか?
夏にお会いした時とは、明らかに様子が違います。
しかも個人的な相談がある?気になりますが、この場でお話することは出来ません。
コルナリン侯爵家の皆さまは居住まいを正し、私たちに微笑みかけました。
コルナリン侯爵の朗々とした声が会場に広がります。
「ベルダール辺境伯、プランティエ伯爵、ご婚約おめでとうございます。私どもコルナリン侯爵家は、心からお二人を祝福します」
「婚約式も近いとか。魔境浄化の目処がつき、新特級ポーションが開発され、ミゼール領に翡翠蘭という新たな産業が確立されたことと合わせて、本当におめでたいことです。
お二人の婚約が、我がヴェールラント王国をさらに栄えさせるでしょう。
残念ながら私どもは婚約式に参加できませんが、この場を借りてお祝いとさせていただきます」
周囲が少しだけ騒めきました。
私の血縁であり、現在権勢を強めているコルナリン侯爵が、社交という公の場で私たちの婚約を認め祝福したのです。
まだ婚約証明書が発行されていない私たちにとって、最高の支援です。
「何よりのお言葉、ありがとうございます」
私たちは最上の礼をとって、お礼申し上げました。
その後、私たちは他の方々と交流しました。
「プランティエ伯爵閣下、先日は素晴らしいお話とお土産をありがとうございました」
「ベルダール辺境伯、またお手合わせ願います」
お茶会でご一緒したセシル・ブランカ男爵夫人と、ご夫君で近衛騎士のゼルマン・ブランカ男爵です。
栗色の髪に琥珀色の瞳のブランカ男爵夫人は、琥珀色とクリーム色の生地を使ったドレスにムーンストーンのパリュール。
クリーム色の髪にオレンジ色の瞳のブランカ男爵は、栗色と琥珀色の礼服です。
なんてお似合いで素敵なご夫婦!
「頂いた翡翠蘭ハーブティーを毎日愛飲しています。少しずつ肌と身体の調子が整っているのを実感しているところですわ」
「セシルが更に美しくなって嬉しいです。私も飲ませて頂いていますが、身体の調子だけでなく心も安らぎますね」
「ええ、身体を整え心を安らかにする作用がありますから。お二人にお気に召して頂いて光栄ですわ」
「ブランカ男爵、ますます土属性魔法に磨きが
かかるな。手合わせが楽しみだ」
「次は一本取らせて頂きますよ」
私とドリィは楽しくお喋りさせて頂きました。
しばらくして、ブランカ男爵は声をひそめます。
「お二人が話してくださってよかった。私はこの場では少し肩身が狭いので……」
「ゼルマン、貴方が気にし過ぎているだけよ。
コルナリン侯爵閣下が招待して下さったのだし、ほとんどの方が普通に話してくださっているでしょう?」
「どういう事だ?」
思い当たることがあります。私は頭の中で家系図を広げます。
「それは、ブランカ男爵のご親戚のことでしょうか?」
ブランカ男爵は、クリザンテム伯爵の五男です。
クリザンテム伯爵は、亡くなられた前夫人と現夫人の間に六人の男児がいらっしゃります。ブランカ男爵は確か五男にあたられるはず。
私の発言に、ブランカ男爵は少し目を見張り頷きました。
「流石はプランティエ伯爵閣下。ご明察です。私の実家はクリザンテム伯爵家……ナルシス伯爵家とは近しい親戚です」
ナルシス伯爵家。先日のお茶会でご協力頂いた家であり、エディット様と婚約破棄したジュリアーノ・ナルシス様の生家です。
クリザンテム伯爵家とコルナリン侯爵家は、昔から家族ぐるみの付き合いがあったとか。
「母とコルナリン侯爵は、若い頃から仲が良かったのだそうです。もちろん、私たち子供も家族ぐるみで良くして頂きました」
そのご縁があり、ご親戚のジュリアーノ・ナルシス様とエディット様の婚約が結ばれたのだそうです。
「ジュリアーノ殿は、幼い頃から騎士になるのが夢で活発な子供だった。ナルシス伯爵家は、領地経営を任せられる聡明な女性を奥方に探されていました。コルナリン侯爵令嬢は、正に理想的な方だったのですが……」
しかし、お二人は婚約を破棄しました。
婚約破棄の原因は、ジュリアーノ・ナルシス様が元アンブローズ侯爵令嬢に心酔し、問題行動を繰り返したからです。
紹介したクリザンテム伯爵家には関わりのないことですが、コルナリン侯爵家が出席する夜会やお茶会は出来るだけ避けているのだそうです。
もちろん、ナルシス伯爵家もそのようにされています。この場には両家ともいません。
「招待をお断りしようかとも思いましたが『コルナリン侯爵家とブランカ男爵家の関係に問題がないことを示すチャンスよ!』と、セシルに背を押されまして」
「当然です。そもそもゼルマンは無関係ですから」
「ああ。それに、もうすぐ状況も変わる……」
ブランカ男爵は、ハッとした様子で口を閉じました。その視線の先、かなり遠くですがエディット様がいて、こちらを見ています。
ブランカ男爵は視線を外しました。
「失礼。今のは聞かなかったことに」
「……わかりました」
私とドリィは目を合わせましたが、追求は避けました。
エディット様、どうしたのかしら?それに……。
ブランカ男爵ではなく、私たちを見ていたのでは?
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