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RESTART──先輩と後輩──
狂源追想(その十)
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それは思いもよらない、予期せぬまさかの再会。この時恐らく、俺は間抜けながらに己の目を丸くさせてしまっていたことだろう。だが、たとえそうだったとしても、きっと目の前に立つ女性は、笑ってこちらを馬鹿にしたりなどしない。彼女はそういった類の、くだらなくつまらない人間なのではないのだから。
今目の前にある景色の全てが、揺るぎない確かな現実だと正しく認識しながらも。それでも、半ば信じられない思いで確かめるように。俺はゆっくりと、呟いた。
「君はシャーロット……シャロ、か?」
俺の口から呟かれたその名に対して、すぐ目の前に立つ女性は。依然咲き誇る花の如き、素敵な笑顔を浮かべて。心許ない街灯に照らされ、淡い輝きを放つ白金色の髪をふわりと揺らして。裏表のない純真無垢な眼差しが宿る、白金色の瞳をこちらに向けて。そして、その口を開かせた。
「はい。シャーロットです。ライザー様に命を助けられた、シャロです」
女性の────シャロの返事は純粋で真っ直ぐで、何処までも一途であった。
「ではライザー様は滞りなく、ご無事に冒険者になれたのですね!」
「あ、ああ……そうだな。一応はまあ、なんとか」
「わあぁっ!おめでとうございます!」
パチパチ──屈託のない笑顔を浮かべて手を叩き、シャロはまるで自分のことのように、大いに喜んでくれる。そんな彼女の姿が、不思議と明るく、眩しく俺の目には映って見えた。
「やっぱり、ライザー様は素晴らしい殿方なのですね」
「いや、別に……俺はそんな大した存在なんかじゃない」
「いえいえ。どうかご謙遜なさらないでください。ライザー様は本当に素晴らしくて、お優しい殿方なのです。現に、こうしてわざわざ貴重な自分の時間を割いてまで、私のことを家まで送ってくれているではありませんか」
「…………」
シャロの好意は、純粋だ。ただひたすらに純粋で、何の忖度もない程に純粋だった。だからこそ、それが俺にはむず痒いもので、どうにも落ち着けず、素直に受け取ることができないでいた。
「……女性一人の夜道は危険だから。ただ、それだけのことだよ」
──特に君の場合は危なっかしいというか、見てて不安になってくるから一人にしておけなかった……というのは、言わずに伏せておくことにしよう。
何故こうして自分の時間を割いてまで送るのか、その理由をシャロに簡潔に説明する傍ら、俺は心の中でそう呟く。無論、彼女が俺の心の呟きに気づく訳もなく。聞き様によっては言葉足らずな俺の説明に対しても、やはり純粋な返事をシャロはしてくれた。
「私はここまで親切にしてくれる殿方は、ライザー様しか知りません。……と言っても、こうして殿方と接する機会なんて、今までになかったのですけどね」
「…………」
それを聞いて、何処か安堵してしまう自分がいた気がする。しかしそれはあくまでも俺の気の所為だろう。きっとそうに違いない。というか、シャロのこの明け透けな感じはどうにかならないものだろうか。別にそれを否定する訳ではないが、こう……苦手というか、何というか。
それとも俺が単に知らないだけで、世の女性とは誰もがこういった感じなのか────そう思って、直後俺は首を横に振ってそれを否定した。
──そんな訳あるか。この場合はただ、シャロがちょっと特殊なだけのはずだ。
と、心の中で呟いた後、俺は誤魔化すようにシャロに訊ねる。
「というか、何だって君はこんな夜遅くに買い物に出ていたんだ?そういったことは普通、夕方辺りとかに済ませるものじゃないのか?」
それはあの噴水広場にて、シャロと思わぬ再会を果たしてからずっと。俺の頭の中で引っかかっていた、純然で単純な疑問。それに対してシャロは一瞬固まり、それから少し気恥ずかしそうに答えてくれた。
「えっと、ですね。実は仕事に夢中になってしまって。そして気がついたらこんな遅い時間に……大半のお店は閉まっちゃうんですけど、友人にお店をやっている方がいて、その人にお願いして特別に食材など、色々売ってもらったのです」
「仕事に夢中……」
失礼に当たるので決して口には出さないが、俺は心の中でシャロのことを意外だと思ってしまった。彼女は良い意味でも悪い意味でものほほんとした、地に足つかないフワフワとしたまだ若い女性だと思っていた。だから、まさかその口から仕事に熱中しているという言葉が出てくるとは思いもしていなかった。
「シャロ。君はどんな仕事をしているんだ?」
それは特に裏のない、純粋なただの疑問から来る質問。俺のその質問に対して、やはりシャロは笑顔で俺に答えてくれる。
「薬師です。小さなお店の、しがない薬師をやっているのですよ」
「へえ、薬師……か。ということは、やっぱり売っているのは治癒薬の類なのか?」
「はい。効き目が良いと、これでも結構評判なのです」
夜も深まり、静まり返ったオールティアの街道で。幾星瞬き輝き、月光降り注ぐ黒い空の下で。俺とシャロは他愛のない会話を繰り広げる。
その些細で、細やかな瞬間の時間が────何故か、妙に心が安らいで。居心地が、良かった。
今目の前にある景色の全てが、揺るぎない確かな現実だと正しく認識しながらも。それでも、半ば信じられない思いで確かめるように。俺はゆっくりと、呟いた。
「君はシャーロット……シャロ、か?」
俺の口から呟かれたその名に対して、すぐ目の前に立つ女性は。依然咲き誇る花の如き、素敵な笑顔を浮かべて。心許ない街灯に照らされ、淡い輝きを放つ白金色の髪をふわりと揺らして。裏表のない純真無垢な眼差しが宿る、白金色の瞳をこちらに向けて。そして、その口を開かせた。
「はい。シャーロットです。ライザー様に命を助けられた、シャロです」
女性の────シャロの返事は純粋で真っ直ぐで、何処までも一途であった。
「ではライザー様は滞りなく、ご無事に冒険者になれたのですね!」
「あ、ああ……そうだな。一応はまあ、なんとか」
「わあぁっ!おめでとうございます!」
パチパチ──屈託のない笑顔を浮かべて手を叩き、シャロはまるで自分のことのように、大いに喜んでくれる。そんな彼女の姿が、不思議と明るく、眩しく俺の目には映って見えた。
「やっぱり、ライザー様は素晴らしい殿方なのですね」
「いや、別に……俺はそんな大した存在なんかじゃない」
「いえいえ。どうかご謙遜なさらないでください。ライザー様は本当に素晴らしくて、お優しい殿方なのです。現に、こうしてわざわざ貴重な自分の時間を割いてまで、私のことを家まで送ってくれているではありませんか」
「…………」
シャロの好意は、純粋だ。ただひたすらに純粋で、何の忖度もない程に純粋だった。だからこそ、それが俺にはむず痒いもので、どうにも落ち着けず、素直に受け取ることができないでいた。
「……女性一人の夜道は危険だから。ただ、それだけのことだよ」
──特に君の場合は危なっかしいというか、見てて不安になってくるから一人にしておけなかった……というのは、言わずに伏せておくことにしよう。
何故こうして自分の時間を割いてまで送るのか、その理由をシャロに簡潔に説明する傍ら、俺は心の中でそう呟く。無論、彼女が俺の心の呟きに気づく訳もなく。聞き様によっては言葉足らずな俺の説明に対しても、やはり純粋な返事をシャロはしてくれた。
「私はここまで親切にしてくれる殿方は、ライザー様しか知りません。……と言っても、こうして殿方と接する機会なんて、今までになかったのですけどね」
「…………」
それを聞いて、何処か安堵してしまう自分がいた気がする。しかしそれはあくまでも俺の気の所為だろう。きっとそうに違いない。というか、シャロのこの明け透けな感じはどうにかならないものだろうか。別にそれを否定する訳ではないが、こう……苦手というか、何というか。
それとも俺が単に知らないだけで、世の女性とは誰もがこういった感じなのか────そう思って、直後俺は首を横に振ってそれを否定した。
──そんな訳あるか。この場合はただ、シャロがちょっと特殊なだけのはずだ。
と、心の中で呟いた後、俺は誤魔化すようにシャロに訊ねる。
「というか、何だって君はこんな夜遅くに買い物に出ていたんだ?そういったことは普通、夕方辺りとかに済ませるものじゃないのか?」
それはあの噴水広場にて、シャロと思わぬ再会を果たしてからずっと。俺の頭の中で引っかかっていた、純然で単純な疑問。それに対してシャロは一瞬固まり、それから少し気恥ずかしそうに答えてくれた。
「えっと、ですね。実は仕事に夢中になってしまって。そして気がついたらこんな遅い時間に……大半のお店は閉まっちゃうんですけど、友人にお店をやっている方がいて、その人にお願いして特別に食材など、色々売ってもらったのです」
「仕事に夢中……」
失礼に当たるので決して口には出さないが、俺は心の中でシャロのことを意外だと思ってしまった。彼女は良い意味でも悪い意味でものほほんとした、地に足つかないフワフワとしたまだ若い女性だと思っていた。だから、まさかその口から仕事に熱中しているという言葉が出てくるとは思いもしていなかった。
「シャロ。君はどんな仕事をしているんだ?」
それは特に裏のない、純粋なただの疑問から来る質問。俺のその質問に対して、やはりシャロは笑顔で俺に答えてくれる。
「薬師です。小さなお店の、しがない薬師をやっているのですよ」
「へえ、薬師……か。ということは、やっぱり売っているのは治癒薬の類なのか?」
「はい。効き目が良いと、これでも結構評判なのです」
夜も深まり、静まり返ったオールティアの街道で。幾星瞬き輝き、月光降り注ぐ黒い空の下で。俺とシャロは他愛のない会話を繰り広げる。
その些細で、細やかな瞬間の時間が────何故か、妙に心が安らいで。居心地が、良かった。
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