ストーリー・フェイト──最強の《SS》冒険者(ランカー)な僕の先輩がクソ雑魚美少女になった話──

白糖黒鍵

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RESTART──先輩と後輩──

狂源追想(その十一)

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 シャロの薬屋を兼ねた自宅には、意外な程早く、あっさりと辿り着いた。確かに彼女が自分で言っていたように、それ程大きくもなければ年季もそれなりに入っている家だった。

 それに見たところ、ここが歴とした薬屋であるということを示す看板もないので、一目見ただけではただの家にしか視界には映らないだろう。知る人ぞ知る、ということなのだろうか。

 まあそれはともかく。こうしてシャロを自宅まで送り届けられたのだから、俺の役目は無事に終えられた。終えられた以上、いつまでもここに突っ立っている訳にはいかない。そう思い、俺はシャロに別れを告げた。

「じゃあ、俺はもう行くよ。シャロ」

 そしてすぐさま踵を返し、この場から去る──────



「お、お待ちくださいライザー様」



 ──────ことは許されず、俺はシャロによって呼び止められてしまう。慌てて足を止め、一体何事かと彼女の方に再び振り返る。

「えっと、そのですね。私、どうしてもライザー様にお訊きしたいことが一つだけあるのです。どうしてもそれが気になって、大変なことに私、今夜はとてもではありませんが眠れそうにありません……」

 と、ほんの少し気まずそうな表情をしながら、振り返った俺にシャロはそう言う。

 ──シャロが俺に訊きたいこと……?

 それも睡眠を妨げてしまう程のことである。それが一体何なのか、疑問と興味を抱きつつ、俺はシャロに言葉を返す。

「別に構わない。一体、俺に何を訊きたいんだ?」

 すると、シャロは少し気を憚れそうにしながらも。やがて意を決したように、先程ののほほんとした緩い雰囲気と打って変わって、何処か真剣な表情と真摯な眼差しで、彼女はその口を開かせた言った。

「ライザー様はどうして、こんな時間にあの広場にいたのですか?」

 ……その時、俺の中では確実に数秒、時間が止まってしまっていた。シャロの言葉を飲み込み、そして理解するのに数秒を要したのだ。

 そうして、俺は呆然と口を開く。

「どうして、あの広場にいたのか……って?」

「はい」

 間抜けながらにただ訊かれたことを繰り返し呟いた俺に、シャロは真面目に頷きそう返してくれる。対して俺といえば、固まってしまっていた。

 ──いやまあ、それは今夜寝泊まりする場所がなくて、ただ途方に暮れていたから……だけども。だからって、それを馬鹿正直に言う訳には……!

 何故だかは自分ではわからなのだが、シャロにはそんな理由を知られたくなかった。なので一体どう言葉を濁そうか思索し、思案し────そして。俺は頬に一筋の汗を伝わせながら、ややぎこちなく歯切れの悪い、固い口調で彼女に言った。

「よ、夜の散歩だ。ああ、そうだ。ちょっと満月と星が浮かぶ、あの綺麗な夜空を下から眺めて、街道を歩き回ってみたいなあ……とか、思ったり」

 咄嗟とはいえ、我ながら苦しいにも程がある誤魔化しの言い訳であった。しかしこれでもシャロならばまあ、どうにか納得させて言い包められるだろうと、彼女には失礼だが俺はそう高を括っていた。

 が、しかし。シャロも流石にそこまで鈍くはなかった。

「でしたら、ライザー様はあの広場の椅子などに座っておらず、今も夜のオールティアを散策していたはずなのでは?私とも会わなかったでしょうし……」

 シャロの鋭い指摘に、堪らず俺は言葉を詰まらせてしまう。だがこの場の沈黙は肯定であることを示し、故にそうする訳にはいかず、俺は慌てて口を開いた。

「きゅ、休憩!休憩してたんだ!」

「休憩ですか?」

「そうだ。だから俺はあの時、あの広場の椅子に座っていたんだよ。うん」

「はあ……そうだったのですね」

 もはや何の考えなしの、言い訳の体すら成していない適当な口からの出任せだったが、そこは人の好いシャロ。若干胡乱げながらも、それで彼女は納得してくれたようだった。そのことに安堵し、今度こそ俺は踵を返し、彼女に背を向ける。

「そ、それじゃあ。本格的に冒険者ランカーとしての活動が始まったら、シャロの店にも是非立ち寄らせてもらうよ」

「ええ。贔屓にしてもらえると嬉しいのです」

 そうして、俺はようやっとその場から歩き出す────直前。ふと、思い出した。

 ──そういえば、俺今日何も食ってないじゃないか……。

 しかし、それも無理はないだろう。何せ今日一日だけで、とにかく色々な出来事があった。森の中でシャロを助けたり、早速辿り着いた『大翼の不死鳥フェニシオン』で、この大陸最強の冒険隊チームの面々、そして隊長リーダーであるジョニィさんと出会い、早くも良好な関係を築けたり。

 そして第二の出発点スタートライン────冒険者に、それも通常の枠組みに限った最高である《S》ランクの冒険者に無事なることができた。それらを前にしてしまえば、食事であっても忘れてしまうというものだ。

 しかしそれを意識した途端、空腹感に苛まれ始める。時間も時間だが、森の中に入ったらまずは夜食の材料探しと洒落込もう。見つからずとも、こういう時の為の保存食もある。

 ──そうと決まれば、さっさとここから立ち去ろう。

 行動方針を固め、俺は一歩踏み出す────それとほぼ同時のことだった。

「ライザー様!あの」

 グギュギュウゥゥ──シャロの声を掻き消す程盛大に、そんな間抜けで素っ頓狂な異音が、俺の腹から響き渡った。

「…………」

 背を向けたまま、固まっている俺に。シャロは戸惑いながらも、その口を開かせる。

「あ、あの……良ければですけど、是非私のお家でお食事していきませんか……と」

 シャロの提案の後、なんとも言えない静寂が流れて。それから俺はゆっくりと顔だけ彼女の方に振り返らせて、躊躇しながらもぎこちなく、頷いた。

 そんな俺を見たシャロは、堪らずといったように。クスッと、細やかながらに吹き出しながらも。

「では私のお家にお上がりになってくださいませ。ライザー様」

 そう、笑顔で俺に言ってくれた。
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