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RESTART──先輩と後輩──
狂源追想(その十二)
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非常に居た堪れない気分の中、俺はシャロによって家の中へ案内された。その外装通り、中はそう広くはなく。店としての空間もある為、お世辞にも快適な家とは言えなかった。
「こちらがリビングになります。どうか椅子に腰かけてお待ちになってくださいね。こんな時間でも、できる限りの料理は作るつもりですから!」
そう言って、シャロはさらに奥の方へ、恐らく台所へと向かい。独り残された俺は、とりあえず言われた通り、椅子に腰かけ大人しく待つことにした。
ググギュギュヴゥ──シャロの料理を待てないと、俺の腹がリビング全体に文句を響かせる。俺は堪らず、そして仕方なく嘆息した。
──……ちょっとくらいなら、まあ別に。
こんな遅い時間帯にも関わらず、嫌な顔一つせずに手料理を作っているシャロに申し訳ないとは思ったが。いい加減この腹の虫を黙らせなければ、俺の気が済まない。
なのでこのどうしようもない空腹を少しは紛らわせようと、俺は【次元箱】を開き、そこから皮袋を取り出す。結び目を解き、指先を突き入れ、皮袋の中身を摘み取った。
この皮袋に入れていたのは、一口大の赤茶色の肉塊。その表面はパサついており、一目見ただけでも水分という水分が抜け切り、乾燥しているのだとわかることだろう。
我が偉大なる師、シュトゥルム=アシュヴァツグフ直伝────魔物肉の干し肉である。長い間保存が効き、その上小さくとも多少は腹が膨れる、優れた非常食なのだ。欠点を挙げるのであれば、塩味を効かせつつ臭み抜きをしっかり行わなければ、魔物肉特有の風味や臭みが出てしまうということだろう。
指先で摘み取ったその干し肉を、俺は雑に口の中へ放り込む。そしてゆっくりと噛み締める。パサパサとした肉が舌の上で解れて崩れて、それと同時に塩味が広がっていく。今ではもう慣れ親しんだその味に、俺は僅かばかりの安心感を抱いた。
空っぽだった胃袋に、一応食べ物を突っ込んだからか。一先ず、腹の虫は大人しくなったようである。と、その時。
「すみませんライザー様。お待たせしました、シャロ特製シンプルパスタなのですよ」
そう言いながら、奥からシャロが今一度リビングに戻って。彼女の両手には皿が乗せられ、その上には言葉通りパスタと思わしき麺料理が存在感を放っていた。
パスタ────俺が知る限り、確か乾麦花粉を使って作られた麺料理の一種で、この世界ではまだセトニ大陸でしか一般的に食されていない料理のはずである。
「私、子供の頃はセトニ大陸で暮らしてたのです。それでよくお母さんに作ってもらったのですよ」
「へえ……」
シャロの話を聞きながら、俺は目の前に置かれた皿に、もっと正確に言うならパスタを眺める。シャロは自分でシンプルと言っていたが、シンプルというには些か具材が多く、またそれなりに手が込んでいるようにも思えた。
「ではライザー様。お召し上がりになってくださいませ」
「ああ、じゃあありがたく頂かせてもらうとするよ」
「はい!」
そうして、俺とシャロはテーブルを挟み向かい合いながら。遅めの夕食を始めるのだった。
「ですから、ライザー様はこんな遅い時間にも関わらず、あの広場にいたのですね」
「……ああ。全く、情けないことこの上ない話だよ」
夕食を終え、皿を片付けた後。俺とシャロは会話を繰り広げていた。その話題はというと────何故あの時俺が広場にいたのか、である。
別にシャロが蒸し返した訳ではない。もう恥を晒してしまった手前、それとこうして手料理をご馳走してくれた礼も兼ねて、彼女には真実を────そう、今夜泊まる宿屋がなく、結果広場にて途方に暮れていたことを。彼女には正直に打ち明けることにしたのだ。
最初、馬鹿にされるか思われるかと半ば決めつけながら話していたが、俺はどうやらシャロのことを未だ見誤ってしまっていたらしい。彼女は俺のことを馬鹿などにしたりせず、最後まで真剣に話を聞いてくれていた。そんな彼女に感謝しながら、俺は最後に言葉を付け加える。
「まあ、今日のところは森で野宿でもするよ。別にこれが初めてという訳でもないし、伊達にこの街に辿り着くまで旅していないしな」
「はあ……そう、ですか」
俺の言葉に、何故かシャロは釈然としない様子でそう呟く。そんな彼女の態度が僅かに気になったものの、これ以上ここにいるのも迷惑になると判断を下し、俺は椅子から立ち上がった。
「君のパスタ、美味しかった。それじゃあ、今度こそ俺は行くとするよ」
「…………」
シャロは、何も言わなかった。その口を噤み、白金の瞳を不自然にも泳がせていた。
──どうしたんだ……?
明らかにシャロの様子、雰囲気がおかしい。そのことに気づいた俺は疑問に駆られ、胡乱げに心の中で呟く────それとほぼ同時のことだった。
「ライザー様。あの、ですね」
口を噤んでいたシャロが、若干躊躇いつつもようやっとまた喋り。そして、続けて彼女は言った。
「今夜……いいえ、今日から。今日からこの家に……住みませんか?」
……直後、リビングを包み込んだのは静寂であった。その静寂は数秒、十数秒続き。そして、それを先に破ったのは──────
「……は?」
──────という、間の抜けた俺の声だった。そして慌てて、俺は言葉を続ける。
「ちょ、ちょっと。ちょっと待て。待ってほしい。シャロ、君は自分が何を言っているのかわかっているのか?それをきちんと理解しているのか?」
聞く人によれば不躾な俺の言葉に対して、依然シャロは真剣とした様子で返事をする。
「はい。当然です。私、シャーロットはライザー様に対して、自分とこの家で一緒に暮らしませんかと。そう、提案したのですよ」
「い、いや!いやいやいや!?」
もう真夜中近い時間だとわかっていても、俺は声を抑えられずにはいられなかった。この二十年間、長くはないが決して短くもないだろう人生の中で、初めて体験する困惑と混乱だった。みっともなく動揺し、取り乱す俺に。とんでもない提案をしたというのに平然としているシャロが言う。
「ご安心ください。ご覧の通り、この家は少々手狭なのですが、あと一人くらいは受け入れられるのです。部屋も空いているのですし……」
シャロの言葉は微妙にズレたものだった。狭いだとか部屋の空きがあるだとか、そういう問題ではない。それを指摘する為、俺は彼女に言う。
「お、俺と君は男女だぞ。それも割と年頃な、異性同士なんだぞ?君はそのことを承知の上で、それを提案しているのか?」
俺がそう訊ねると、シャロは何も言わず。数秒経って、ポッとその頬を薄く染めたかと思うと、俺から顔を逸らしながら、やや控えめな声量で言った。
「……はい」
瞬間、稲妻にも似た衝撃が俺の脳天を突き抜けた。今一体、自分はどんな状況下に置かれているのか、一瞬理解不能にもなった。しかしすぐさま正気を取り戻して、俺は言葉が痞えそうになりながらも、懸命に喉奥から声を絞り出す。
「こ、断るッ!……その気持ちだけ、受け取っておくことにする……から」
……俺にだって、性欲はある。無論、それによって掻き立てられる、性的好奇心も。だが今まで女っ気皆無の生活を送っていたおかげか、それらが表に出ることは特になく、大した問題にはなっていなかった。だが、しかし。
──シャロ……君の場合は、少し不味そうなんだ……!
まだ出会って一日だというのに、俺はシャロに関心を寄せてしまっていた。彼女との距離を縮めた所為なのか、それとも彼女に惹かれてしまっているからなのか。詳しい原因はまだ不明だが、とにかくシャロと一つ屋根の下で暮らすことを考えてしまうと──────俺は、俺でいられる自信がなかった。
けれど、そんな俺の心情にシャロは気づくことなどなく────
「いいえ!駄目です!」
────と、こちらの拒否を力強く拒否されてしまうのだった。
「なッ、えぇ……!?」
堪らず呻く俺を他所に、彼女は椅子から立ち上がり。俺の顔を真っ直ぐ見つめながら、俺の困惑の眼差しをしっかりと受け止めながら。そして、ゆっくりと喋り出した。
「……ずっと、思っていたのです。何か、何かお礼になることをしたいと、私はずっと考えていたのです。あの頃の私はまだ子供でしたから、どうあっても無理だったのですが……今は違います」
そこまで聞いて、俺は察する。そう、シャロは今の今まで、それを気にしていた。もはや遠い昔、然れど決してその色が薄れることもなければ褪せることもない、記憶のことを。名も知れぬ者によって救われた、その命の記憶のことを。
シャロ────否、シャーロットはそういった人間性の持ち主なのだ。恩に恩で報いなければ、気が済まない人種なのだ。
愕然としている俺に、シャロは続ける。
「子供の頃に受けた恩は、もう返すことは叶いません。ですが、今受けた恩は返せるのです。……いえ、これは建前なのですね」
──え?
俺がその言葉の意味を理解し、真意に気づくよりも先に、ずっと早く。シャロはそう言うや否や、その小さく白い手を伸ばして────俺の手を掴んだ。
「ッ!?」
突然の行動に驚き固まる俺を置き去りにして、シャロは掴んだ俺の手を持ち上げ、そして残っていたもう片方の手も伸ばして。彼女はそっと、優しく俺の手を両手で包み込んだ。
柔らかい。温かい────俺はもう、それ以外のことに対して思考を割けそうになかった。そんな俺に、シャロは穏やかな声音で語りかけてくる。
「私、気づいたのです。ライザー様の話を聞いて、ライザー様の夢に、目標に、そして憧れに触れて────気づいてしまったのです。自分はこの方の助けになりたい、と」
「…………」
この期に及んで、何も言えないでいる俺に。それでも、シャロは言葉を続ける。両手で包み込んだ俺の手を自らの胸元にまで運び、押し当てて。俺を見上げる白金色の瞳を潤ませながら、彼女は切に訴えかけてくる。
「ライザー様。どうかお願い致します。どうか、私にも僅かばかりのご助力をさせてくださいませ。住む家が早く決まれば、それだけ早くライザー様はライザー様の夢を、目標を、憧れを追えるのですよ。ですから、ですから……」
「…………」
俺は、一瞬シャロから顔を逸らし。しかしすぐさま戻して──────彼女の手をそっと、握り返し。そして、
「シャーロット」
はっきりと、俺はその名を口にした。
「こちらがリビングになります。どうか椅子に腰かけてお待ちになってくださいね。こんな時間でも、できる限りの料理は作るつもりですから!」
そう言って、シャロはさらに奥の方へ、恐らく台所へと向かい。独り残された俺は、とりあえず言われた通り、椅子に腰かけ大人しく待つことにした。
ググギュギュヴゥ──シャロの料理を待てないと、俺の腹がリビング全体に文句を響かせる。俺は堪らず、そして仕方なく嘆息した。
──……ちょっとくらいなら、まあ別に。
こんな遅い時間帯にも関わらず、嫌な顔一つせずに手料理を作っているシャロに申し訳ないとは思ったが。いい加減この腹の虫を黙らせなければ、俺の気が済まない。
なのでこのどうしようもない空腹を少しは紛らわせようと、俺は【次元箱】を開き、そこから皮袋を取り出す。結び目を解き、指先を突き入れ、皮袋の中身を摘み取った。
この皮袋に入れていたのは、一口大の赤茶色の肉塊。その表面はパサついており、一目見ただけでも水分という水分が抜け切り、乾燥しているのだとわかることだろう。
我が偉大なる師、シュトゥルム=アシュヴァツグフ直伝────魔物肉の干し肉である。長い間保存が効き、その上小さくとも多少は腹が膨れる、優れた非常食なのだ。欠点を挙げるのであれば、塩味を効かせつつ臭み抜きをしっかり行わなければ、魔物肉特有の風味や臭みが出てしまうということだろう。
指先で摘み取ったその干し肉を、俺は雑に口の中へ放り込む。そしてゆっくりと噛み締める。パサパサとした肉が舌の上で解れて崩れて、それと同時に塩味が広がっていく。今ではもう慣れ親しんだその味に、俺は僅かばかりの安心感を抱いた。
空っぽだった胃袋に、一応食べ物を突っ込んだからか。一先ず、腹の虫は大人しくなったようである。と、その時。
「すみませんライザー様。お待たせしました、シャロ特製シンプルパスタなのですよ」
そう言いながら、奥からシャロが今一度リビングに戻って。彼女の両手には皿が乗せられ、その上には言葉通りパスタと思わしき麺料理が存在感を放っていた。
パスタ────俺が知る限り、確か乾麦花粉を使って作られた麺料理の一種で、この世界ではまだセトニ大陸でしか一般的に食されていない料理のはずである。
「私、子供の頃はセトニ大陸で暮らしてたのです。それでよくお母さんに作ってもらったのですよ」
「へえ……」
シャロの話を聞きながら、俺は目の前に置かれた皿に、もっと正確に言うならパスタを眺める。シャロは自分でシンプルと言っていたが、シンプルというには些か具材が多く、またそれなりに手が込んでいるようにも思えた。
「ではライザー様。お召し上がりになってくださいませ」
「ああ、じゃあありがたく頂かせてもらうとするよ」
「はい!」
そうして、俺とシャロはテーブルを挟み向かい合いながら。遅めの夕食を始めるのだった。
「ですから、ライザー様はこんな遅い時間にも関わらず、あの広場にいたのですね」
「……ああ。全く、情けないことこの上ない話だよ」
夕食を終え、皿を片付けた後。俺とシャロは会話を繰り広げていた。その話題はというと────何故あの時俺が広場にいたのか、である。
別にシャロが蒸し返した訳ではない。もう恥を晒してしまった手前、それとこうして手料理をご馳走してくれた礼も兼ねて、彼女には真実を────そう、今夜泊まる宿屋がなく、結果広場にて途方に暮れていたことを。彼女には正直に打ち明けることにしたのだ。
最初、馬鹿にされるか思われるかと半ば決めつけながら話していたが、俺はどうやらシャロのことを未だ見誤ってしまっていたらしい。彼女は俺のことを馬鹿などにしたりせず、最後まで真剣に話を聞いてくれていた。そんな彼女に感謝しながら、俺は最後に言葉を付け加える。
「まあ、今日のところは森で野宿でもするよ。別にこれが初めてという訳でもないし、伊達にこの街に辿り着くまで旅していないしな」
「はあ……そう、ですか」
俺の言葉に、何故かシャロは釈然としない様子でそう呟く。そんな彼女の態度が僅かに気になったものの、これ以上ここにいるのも迷惑になると判断を下し、俺は椅子から立ち上がった。
「君のパスタ、美味しかった。それじゃあ、今度こそ俺は行くとするよ」
「…………」
シャロは、何も言わなかった。その口を噤み、白金の瞳を不自然にも泳がせていた。
──どうしたんだ……?
明らかにシャロの様子、雰囲気がおかしい。そのことに気づいた俺は疑問に駆られ、胡乱げに心の中で呟く────それとほぼ同時のことだった。
「ライザー様。あの、ですね」
口を噤んでいたシャロが、若干躊躇いつつもようやっとまた喋り。そして、続けて彼女は言った。
「今夜……いいえ、今日から。今日からこの家に……住みませんか?」
……直後、リビングを包み込んだのは静寂であった。その静寂は数秒、十数秒続き。そして、それを先に破ったのは──────
「……は?」
──────という、間の抜けた俺の声だった。そして慌てて、俺は言葉を続ける。
「ちょ、ちょっと。ちょっと待て。待ってほしい。シャロ、君は自分が何を言っているのかわかっているのか?それをきちんと理解しているのか?」
聞く人によれば不躾な俺の言葉に対して、依然シャロは真剣とした様子で返事をする。
「はい。当然です。私、シャーロットはライザー様に対して、自分とこの家で一緒に暮らしませんかと。そう、提案したのですよ」
「い、いや!いやいやいや!?」
もう真夜中近い時間だとわかっていても、俺は声を抑えられずにはいられなかった。この二十年間、長くはないが決して短くもないだろう人生の中で、初めて体験する困惑と混乱だった。みっともなく動揺し、取り乱す俺に。とんでもない提案をしたというのに平然としているシャロが言う。
「ご安心ください。ご覧の通り、この家は少々手狭なのですが、あと一人くらいは受け入れられるのです。部屋も空いているのですし……」
シャロの言葉は微妙にズレたものだった。狭いだとか部屋の空きがあるだとか、そういう問題ではない。それを指摘する為、俺は彼女に言う。
「お、俺と君は男女だぞ。それも割と年頃な、異性同士なんだぞ?君はそのことを承知の上で、それを提案しているのか?」
俺がそう訊ねると、シャロは何も言わず。数秒経って、ポッとその頬を薄く染めたかと思うと、俺から顔を逸らしながら、やや控えめな声量で言った。
「……はい」
瞬間、稲妻にも似た衝撃が俺の脳天を突き抜けた。今一体、自分はどんな状況下に置かれているのか、一瞬理解不能にもなった。しかしすぐさま正気を取り戻して、俺は言葉が痞えそうになりながらも、懸命に喉奥から声を絞り出す。
「こ、断るッ!……その気持ちだけ、受け取っておくことにする……から」
……俺にだって、性欲はある。無論、それによって掻き立てられる、性的好奇心も。だが今まで女っ気皆無の生活を送っていたおかげか、それらが表に出ることは特になく、大した問題にはなっていなかった。だが、しかし。
──シャロ……君の場合は、少し不味そうなんだ……!
まだ出会って一日だというのに、俺はシャロに関心を寄せてしまっていた。彼女との距離を縮めた所為なのか、それとも彼女に惹かれてしまっているからなのか。詳しい原因はまだ不明だが、とにかくシャロと一つ屋根の下で暮らすことを考えてしまうと──────俺は、俺でいられる自信がなかった。
けれど、そんな俺の心情にシャロは気づくことなどなく────
「いいえ!駄目です!」
────と、こちらの拒否を力強く拒否されてしまうのだった。
「なッ、えぇ……!?」
堪らず呻く俺を他所に、彼女は椅子から立ち上がり。俺の顔を真っ直ぐ見つめながら、俺の困惑の眼差しをしっかりと受け止めながら。そして、ゆっくりと喋り出した。
「……ずっと、思っていたのです。何か、何かお礼になることをしたいと、私はずっと考えていたのです。あの頃の私はまだ子供でしたから、どうあっても無理だったのですが……今は違います」
そこまで聞いて、俺は察する。そう、シャロは今の今まで、それを気にしていた。もはや遠い昔、然れど決してその色が薄れることもなければ褪せることもない、記憶のことを。名も知れぬ者によって救われた、その命の記憶のことを。
シャロ────否、シャーロットはそういった人間性の持ち主なのだ。恩に恩で報いなければ、気が済まない人種なのだ。
愕然としている俺に、シャロは続ける。
「子供の頃に受けた恩は、もう返すことは叶いません。ですが、今受けた恩は返せるのです。……いえ、これは建前なのですね」
──え?
俺がその言葉の意味を理解し、真意に気づくよりも先に、ずっと早く。シャロはそう言うや否や、その小さく白い手を伸ばして────俺の手を掴んだ。
「ッ!?」
突然の行動に驚き固まる俺を置き去りにして、シャロは掴んだ俺の手を持ち上げ、そして残っていたもう片方の手も伸ばして。彼女はそっと、優しく俺の手を両手で包み込んだ。
柔らかい。温かい────俺はもう、それ以外のことに対して思考を割けそうになかった。そんな俺に、シャロは穏やかな声音で語りかけてくる。
「私、気づいたのです。ライザー様の話を聞いて、ライザー様の夢に、目標に、そして憧れに触れて────気づいてしまったのです。自分はこの方の助けになりたい、と」
「…………」
この期に及んで、何も言えないでいる俺に。それでも、シャロは言葉を続ける。両手で包み込んだ俺の手を自らの胸元にまで運び、押し当てて。俺を見上げる白金色の瞳を潤ませながら、彼女は切に訴えかけてくる。
「ライザー様。どうかお願い致します。どうか、私にも僅かばかりのご助力をさせてくださいませ。住む家が早く決まれば、それだけ早くライザー様はライザー様の夢を、目標を、憧れを追えるのですよ。ですから、ですから……」
「…………」
俺は、一瞬シャロから顔を逸らし。しかしすぐさま戻して──────彼女の手をそっと、握り返し。そして、
「シャーロット」
はっきりと、俺はその名を口にした。
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