ストーリー・フェイト──最強の《SS》冒険者(ランカー)な僕の先輩がクソ雑魚美少女になった話──

白糖黒鍵

文字の大きさ
374 / 478
ARKADIA──それが人であるということ──

Glutonny to Ghostlady──〝暴食〟の余興

しおりを挟む
 アリシア=ゴーヴェッテンという一人の少女について、僕はよくは知らない。当然だ。なにせ今日出会ったばかりなのだから。

 だが、それでも──彼女の言葉を聞けば、おおよそはわかる。彼女が一体どういう人間だったのか。

『お父様の屋敷を荒らす賊は、絶対に許さない……!』

 父親思いの、

『ごめんなさい……どうか、逃げて……』

 心優しい少女だったのだと、それだけはわかった。

 父親に命を奪われたというのに、その父親を救うため。誰に頼ることもできず、ただ独り苦悩に苛まれ葛藤に身を焦がされながらも、己の心を自ら打ち砕きながらも、アリシア=ゴーヴェッテンは歩き続けた。その道の果てに、大切な父親が待っているのだと、そう信じて。

 ……だからこそ、僕は許せなかった。そんな健気な少女の心を弄び、決意を嘲笑い、想いを踏み躙ったこの魔神が、どうしても許せなかった。

「人の心を、想いを……玩具おもちゃにするなクズ野郎……!」

 後先のことなど考えずに、睨みつけながら僕はヴェルグラトに向かって、そう吐き捨てた。とてもではないが、そう言わずにはいられなかったのだ。もし身体が動かせていたら──言葉よりも先にその胸糞の悪い、不愉快に尽きる顔面を殴り飛ばしていたかもしれない。

「…………」

 ヴェルグラトは、なにも言わなかった。ただ一瞬にして歓喜に満ちていた表情を無に変え、開いていた口を閉ざしていた。

 間に沈黙が流れ────刹那、フッと僕の身体に自由が戻った。

「うわっ……!」

 あまりにも突然だったので、前のめりになって倒れそうになる。が、問題はなかった。

 ドッ──直後、腹部を思い切り殴りつけられたような、重い衝撃が叩いた。

「がはッ?!」

 内臓のほとんどが圧し潰されたのではないかと思う間もなく、後ろの壁の方にまで僕は吹き飛ばされる。背中と壁が激突し、一瞬にして肺に残っていた空気が出尽くした。

 そしてすぐさま横から同じような衝撃に殴打される。咄嗟に腕で防御ガードしたが、案の定無意味だった。

 踏ん張ることを許されず、僕は今度はそのまま横に吹っ飛ばされ、輝きを放つ金貨の山に突っ込んだ。

「ぐ、あ…ぁ……!」

 身体がバラバラになったかのような錯覚に襲われながらも、なんとか立ち上がろうとする。しかし、無情にも手足は僕の言うことを全く聞いてくれず、ただ金貨に埋もれながら呻くことしかできなかった。

 そんな僕に目もくれず、ヴェルグラトは淡々と言う。

「身の程を知れ。口を弁えろ小僧。さっきも言ったが今私は機嫌が良い。本来ならば即座に物言わぬ肉塊にしてやるところだが、その分不相応な勇猛さにも免じてその程度に留めておいてやろう。……さて」

 身体の自由は戻った。しかし、未だ手足に力が入らない。僅かに指一本を動かすので、今は精一杯だった。金貨の山から起き上がれずにいる僕に対して、なおもヴェルグラトは言葉を続ける。

「再びアリシアの魂を喰らったことで、貸し与えていた魔力も返ってきた。もはや今の私は、二百五十年の私とは比べ物にならん。これならばもう、あの男に遅れなど決して取らんはずだ!ふはははッ」

「……そ、れは……どういう……」

 ヴェルグラトのその言い方は、彼が言う二百五十年前──彼を倒したという男が、まるで今も生きているかのようなものだった。

 だが、そんなことはあり得ない。二百五十年も前の人物が、人間が未だに生きていることなど、絶対にない。もし本当に生きているのなら……それはもう、人間とは呼べない。

 そんな僕の気持ちを見透かしたのだろう。金貨に埋もれたこちらにゴミを見るような眼差しを送りながら、ヴェルグラトが言う。

「一体どのような手段を取っているのかは見当つかんが、私にはわかる。二百五十年前に奴から受けた古傷が、今もなお疼くのだ。あの男は、確実にまだ生きている」

 と、不意にヴェルグラトは指を鳴らす。パチンと乾いた音が地下室に響き渡ったかと思うと──彼の背後にある、壁を覆っていた影が霧散した。

 光に照らされてもなお、全く見えないでいたそれに隠されていたものが露わとなり──堪らず、僕は目を見開いた。

「先、輩……ッ!?」

 壁には、先輩がいた。未だ意識の戻らぬ先輩の姿が、そこにあった。先輩は、鎖で両手を縛られ壁に磔にされていた。

 驚いている僕に、恍惚とした声でヴェルグラトが言葉をかけてくる。

「この娘は素晴らしいなあ実に素晴らしいぞ。ここまで穢れを知らぬ、純真無垢な魂は初めて見た。さっきも言ったが私はもう充分に力を取り戻したが……〝暴食〟の魔神として、是非ともこの魂は喰らいたい」

 そんなことは、絶対にさせる訳にはいかなかった。今すぐにでも先輩を助け出したい──その一心で、なんとか僕は金貨の山から起き上がる。……しかし、それだけでやっとだった。

 ──先輩を、助けなきゃ……!

 そう思い、未だ鈍痛響く身体に鞭を打つ。だが、無情にも僕の手足は、思うように動いてくれなかった。

「ほう。一応まだ立ち上がれるようだな。まあ、そうでないとつまらん」

 焦る僕に、ヴェルグラトはそう言うと懐に手を入れ、そこから緑色の、小さな玉を取り出す。一体それがなんなのか、僕が疑問に思う前に、彼は僕に向かってそれを投げた。

 緑の玉が、弧を描きながら僕の眼前にまで迫ったかと思うと、宙で粉々に砕け散った。散らばった破片は瞬く間に粒子と化し、僕の身体に降り注いでいく。それから少し遅れて──僕の身体を、淡い緑光が包み込んだ。

「な……」

 直後、身体から鈍痛が抜け、それどころか感じていた倦怠感や疲労すらも消えていく。一瞬にして重かった身体は、まるで嘘のように軽くなった。

 驚き困惑する僕に、ニヤニヤとしながらヴェルグラトが言う。

「余興だ、小僧。再三言うが今私はすこぶる機嫌が良い。よって、貴様に機会チャンスをくれてやろう。生きるか、死ぬか──その選択の、機会をな」

 そう言うと、ヴェルグラトは宙に向かって手を突き出す。瞬間、奥にある財宝の山が揺れ、そこから一振りの黄金の剣が突き出て、宙に飛び出したかと思えばヴェルグラトの手に収まった。

 柄を握り締め、ヴェルグラトは確かめるように黄金の剣を軽く振るう。そして、その切っ先を僕に向け言った。

「さあ、剣を抜け小僧。一つ、この〝暴食〟のヴェルグラト様と遊戯ゲームをしようじゃあないか」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...