ストーリー・フェイト──最強の《SS》冒険者(ランカー)な僕の先輩がクソ雑魚美少女になった話──

白糖黒鍵

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ARKADIA──それが人であるということ──

ARKADIA────『極剣聖』進撃す(後編)

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 サクラの目の前に広がっていたのは、この魔石塔の構造を明らかに無視した、不自然なまでに開けた巨大な空間であった。ただ、無秩序に延々と開けている訳ではなく、とはいえ目を少し凝らさなければならないが、壁はある。

 しかしその壁はどこまでも続いており、見上げてもずっと上まで伸びている。そしてその壁はぐるりとこの空間を囲っていた。それを確認して、サクラの脳裏にとある光景が想起される。

 ──まるで円形闘技場コロシアムだな。

 そう思いながら、サクラが一歩前に進み出る。すると彼女の背後で蠢くような音がして、振り返ってみればそこには魔石の壁ができていた。

 ──逃げ道を塞いだか……。

 まるで他人事のように心の中で呟きながら、サクラはさらに前へ進む。そうしてこの空間の中心辺りにまで進んだ、その時であった。



『ようこそ、『極剣聖』様』



 ……それはフィーリアの声。フィーリアの声が、全方位から響き渡り、この空間を──魔石の円形闘技場を満たす。

 その場に止まり立ち尽くすサクラに、やたら嬉しそうな様子でフィーリアが続ける。

『それにしても流石ですねサクラさん。あの道中の仕掛けギミックをああも余裕で易々と突破しちゃうなんて……あははっ。それとどうですかここ?貴女の為に、ほんのちょっと手間をかけて準備してみたんですけど』

「……」

 フィーリアの言葉に、サクラは口を開かない。そうしてこの場に──魔石の円形闘技場に一瞬の静寂が生まれて、だがすぐさまそれは破られる。

『……まぁた、だんまりですか。まあ別にいいですけど……それでは『極剣聖』様ぁ。お次はとっても、とぉっても楽しい楽しい乱痴気騒ぎと参りましょう♪』

 と、フィーリアの戯けた声音が響いたその瞬間、円形闘技場全体が微かに揺れる。直後、フィーリアの周囲を除く円形闘技場の至る箇所が、突如不自然に隆起し始めた。

 ──……何だ?

 それを訝しげに眺めるサクラに対して、なお戯けたままにフィーリアは続ける。

『まず第一のお相手は、私の魔力をフルに流し込んで徹底的に強化した精鋭兵たちです。強いですよー?〝絶滅級〟なんて目じゃないくらい……いえいえ』

 気がつけば、サクラは取り囲まれていた。三百六十度、グルリと視界を巡らせても、それが────フィーリアの言う魔石の精鋭兵の、歪で尖りながらも人に似た形を取るその姿が、無数にも映り込んでいた。

 その数優に千を────否、五千・・は越している。

 文字通り大量の魔石の精鋭兵に囲まれるサクラに、フィーリアが言う。

『あのゴミの出来損ない共……三つの『厄災』よりもずっと、ずっとずっとずっとずっと──ずぅっとぉ、強いですよ。ふふ、ふふふ……うふふふ、あはははっ!』

 堪え切れなかったとばかりに、そこでフィーリアが一気に笑い出す。それは彼女らしい無邪気なもので────だがその裏に、計り知れない底知れない邪悪さが滲んでいた。

 フィーリアの笑い声が響き渡る中、サクラを取り囲む精鋭兵たちはじりじりと、少しずつその距離を詰めていく。そして、突如として十数体が飛びかかった。

 フィーリアの言葉通り、精鋭兵たちは強かった。その動きは〝絶滅級〟など相手にもならない程に素早く、そして凶器の如く鋭利に尖り切った腕らしき部位は、恐らく現段階で存在するどんな防具ですらも、まるで紙のようにその悉くを貫き、斬り、裂いてしまうだろう。

 正しく絶死を伴った、死神の鎌ならぬ死神の槍が、サクラの身体を串刺しにせんと迫り来る────しかし。

「……」

 当の本人たるサクラは、少しもどころか、一切の動揺も怯えも、その顔に浮かべておらず。ただ酷く至極、陳腐でつまらなそうな表情をしていた。そして、いつの間にか彼女の手は刀の柄を握っており、そこに僅かばかりの力が込められる。

 嘆息一つ交えて、今の今まで沈黙を決め込んでいたサクラが、ようやっと閉ざしていたその口を開いた。

「私も見縊みくびられたものだ」

 チンッ──サクラの言葉が響くよりも少し先に、そんな音が鳴る。瞬間、彼女に飛びかかっていた魔石の精鋭兵も、そしてそのすぐ周囲にいた精鋭兵も、全て平等に砕かれた。

「生憎、大軍相手は慣れている。……とっくのとうの、昔からな」

 砕け散り、ばら撒かれる残骸と破片と欠片を押し除け、まだ残る精鋭兵たちがサクラに襲いかかる。……が、彼女の姿はそこにはない。

 精鋭兵たちがそれを認識した瞬間、またしても砕かれる。精鋭兵の頭上で、刀を抜いたサクラが宙を舞っていた。

 落下するサクラを仕留めんと、数体の精鋭兵が跳び上がって腕を振り上げる。瞬間、槍の如く歪に尖っていたそれは鋭利な刃へと変わる。が、すぐさま粉々に砕け散って、その身体も同様の運命を辿った。

 着地したサクラに間髪入れず精鋭兵が襲いかかる。だがその間合いすら詰めること叶わずに、ただひたすら砕かれ散らされ撒かれてしまう。

 この間、数秒。たったその数秒で、サクラは精鋭兵を──フィーリア曰く、人類の脅威として立ちはだかった先の三つの『厄災』すらも凌駕する、化け物の中の化け物たるその精鋭兵たちを、彼女は千体倒してみせた。だが、それでもなお魔石の精鋭兵たちは数多く残っている。

 刀を鞘に納刀したサクラが、不意にその場を軽く蹴る。刹那、その場から彼女の姿が掻き消えて、それと同時に彼女の視線の先に立っていた精鋭兵たちが次々と粉砕されていく。

 先程姿を消したサクラは、既に精鋭兵の群れの中に立っていた。鞘から抜かれた刀を、彼女はスッと僅かばかりに揺らす。直後──地面が爆ぜたように割れ砕け、そこに立っていた精鋭兵たちは何の抵抗も許されず宙へ高く打ち上げられ、そしてやはり砕け散った。

 瞬きをする間に、面白いように精鋭兵の数が減っていく。もしこれが人間であったら今この場は凄惨極まる地獄絵図を描き、辛うじて生き残った者たちは皆こぞって武器も尊厳も投げ捨て、外聞もなく惨めに命乞いをしたことだろう。

 だが、それはあくまでも個々の意思を持つ人間であればの話。今サクラが薙ぎ払っている相手はフィーリアの────『理遠悠神』アルカディアの私兵。謂わば使い捨ての駒だ。当然駒に意思などなく、ただ主に命じられたままに動くだけ。

 だからここまで圧倒的な差をまざまざと見せつけられても、魔石の精鋭兵は退かない。逃げ出さない。

「……」

 散乱する残骸を踏みつけて、こちらに迫る精鋭兵をサクラは眺める。その顔は、何処か哀しそうだった。ゆっくりと、彼女が刀を振り上げる。そして一息に宙を薙いだ。

 一拍遅れて、サクラに迫っていた精鋭兵たちの上半身が宙を飛び、舞う。そしてその全てが、やはり儚く砕け散る。

 またも一拍遅れて、地面に残された下半身も次々と砕けていく。と、その中から一際俊敏な影が一つ飛び出し、サクラとの距離を一瞬で詰めた。

 言わずもがな、精鋭兵である。ただ今までとは違ってその一体はより一層全身が刺々しく、まるで鋭利な刃を想起させた。その精鋭兵の刃がサクラの顔面に風穴を穿たんと迫る。が。

 その刃の切先を、サクラの指先が優しげに摘む。そして────思い切り地面に向かって叩きつけた。

 叩きつけられた精鋭兵は一溜まりもなく爆発四散し、それだけに留まらずその下にあった魔石も爆ぜ砕け、さらに覆われていた地面すらも陥没してしまった。

 その一部始終を見届けたサクラは、何とも言えない表情を浮かべる。そんな彼女に対して、まだ残っている魔石の精鋭兵たちは一斉に襲いかかる。

 普通であれば対応不可避な包囲襲撃────だがしかし、それでもなおサクラの顔色は少しも変わらなかった。

「……終わらせるか」

 そう呟くや否や、サクラは今さっき納刀したばかりの刀の柄に手をかける。そして握り込み────僅かばかり抜刀してみせた。

 瞬間、すぐそこまで迫っていた精鋭兵たちが一瞬にして細切れにされ、宙に霧散していく。サクラを取り囲んでいた精鋭兵たちが、凄まじい勢いでバラバラに刻まれていく。

 その間、サクラは柄を握り、僅かに刀身を見せながら中心に立っているだけだった。だというのに、為す術もなく精鋭兵たちは粉微塵と化し、何もできず散っていく。



 そして数秒後────気がつけば、もうサクラの周りには身動き一つとしない、大量の薄青い魔石の残骸らしきものが転がるだけとなっていた。



「……」

 チン──刀を鞘に納刀し、サクラは己の周囲に視界を配らせる。先程も言った通り、もはや既に彼女以外に身動きを取る影は、一つもない。

 少し遅れて、散々なまでに荒れた円形闘技場内で乾いた拍手がゆっくりとしたリズムで響き渡った。

『本当に流石ですね、サクラさん。出来損ないとはいえ、先の三つの『厄災』を超える私自慢の精鋭兵たちが、それも一万という数を用意したというのに、こうもいとも容易く数分で全滅させられるなんて。いやあ全くもうこっちはびっくりですよ』

 拍手が止み、今度はフィーリアの声が円形闘技場に反響する。言葉でこそ驚いたという彼女であったが、その声音は至って平然としていた。

『でもまあ、ほんの合間の余興としては充分過ぎるくらいに楽しい見世物でした。さてさて『極剣聖』様。勝手口はあちらでございます。その先の先で、私は首を長くして待ってますからね』

 言って、サクラの視界の先。聳え立つ壁に突如亀裂が走り、次の瞬間音を立てて崩壊していく。轟音を伴い露出したのは、果てが見えぬ螺旋階段だった。

「……」

 サクラが歩き出し、ある程度にまで進んだその時。壁の一部であった残骸が一瞬輝いて、ドロリとそれら全部が溶けて混ざる。そしてドロドロと蠢いていたかと思えば不意に中心から巨大な柱が飛び出し、その柱に液体が纏わりつく。

 一瞬にしてその柱が液体に包まれ、かと思えばすぐに弾けて吹き飛ぶ。そこに現れたのは、魔石の巨人だった。サクラの身長を容易く遥かに越す巨人が、ゆっくりとその拳を振り上げる。

 サクラといえば、全く何も気にした様子もなく進んでおり、そんな彼女に向かって巨人が振り上げた拳を振り下ろす。風鳴り音を響かせながら、拳がサクラに迫る。

 と、そこで不意にサクラが刀を抜く。そしてその切先を迫る巨人の拳に向けた────瞬間。



 バゴォォォオオオオンッッッ──巨人の拳が爆発を起こしたように砕け散って、その奥にあった上半身も丸ごと消し飛んだ。



「……君らしくないな」

 遅れて崩壊を始め、落下する残骸の中を進みながら、刀を鞘に納めサクラはぽつりと呟いた。
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