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第二章 3
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四年前になる。
美鈴が、陽光学園の国語教師として勤務していた頃の話だ。ここで彼女は将来夫となる男性沢村翔馬と出会い、交際に発展した。
当時、陽光学園で英語を教える翔馬の教え子に窪修二がいた。
窪少年は目立たない生徒だった。正直なところ陰キャラといった方が相応しい。何事もなかったら美鈴も、修二のことなどとっくに忘れてしまっていただろう。それくらい当時の修二は影が薄い生徒だったのだ。
ところが彼の人生を狂わせる出来事が、高二の夏に起こったのだ。
修二は所謂帰宅部だった。当然夏休みは部活もなく家でゴロゴロした生活を送っていた。八月に入って間もない頃、深夜十一時過ぎに、修二は部屋を抜け出し、自転車に乗って近所のコンビニへ出掛けた。夏休みは昼夜逆転した生活を送っており、別段それ自体は不思議なことではなかった。ごく一般的な学生の夏休みの過ごし方だ。
翌日、少年係の刑事が二名、修二の許を訪れた。婦女暴行未遂容疑で任意同行を求めたのである。昨晩、修二は、陽光学園の体操着姿でコンビニに出掛けており、地取り捜査の聞き込みによって、陽光学園の生徒が容疑者として捜査線上に浮上したのだった。
「僕じゃない。僕は女の人なんか襲っていない」
取り調べに当たった刑事の前で、修二は犯行を否認した。
「目撃者がいるんだよ、窪修二君。キミによく似た人物を見たってね。キミがやったんじゃないのかね」
取調室で、スチールデスクを挟んで修二と対座する初老の男性刑事は、腕を組みながら低い声で告げた。
「やってない僕じゃない」
修二はかぶりを振って否定する。
「キミの担任の沢村先生だって、アイツならやり兼ねないって仰っていたぞ」
「……沢村先生が?」
不安に思い、修二は首を傾げる。
すると刑事は口角をピクリと動かし、冷笑を浮かべると、
「ああ、そう仰っていた。どうだね、認めてしまえば楽になるぞ」
「……やってない。僕じゃない。僕は女の人なんて襲っていない」
修二は聞こえるか聞こえないくらいのか細い声でいうと、顏を伏せた。
修二への取り調べは数日間続いた。その間、陽光学園では、臨時の職員会議で婦女暴行未遂容疑の掛かった修二に対する退学処分が決められた。
連日の取り調べに根負けした修二は遂に婦女暴行を認めた。しかしこれは完全な冤罪であった。窪少年の身柄を検察に送検したその日、陽光学園の卒業生が連続婦女暴行事件の真犯人として、警ら中の警察官に逮捕されたのだ。
修二に対する退学処分は取り消されたが、彼はその後自宅二階の自室に引き籠もり、半年後自主退学するに至った。
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当時、陽光学園で英語を教える翔馬の教え子に窪修二がいた。
窪少年は目立たない生徒だった。正直なところ陰キャラといった方が相応しい。何事もなかったら美鈴も、修二のことなどとっくに忘れてしまっていただろう。それくらい当時の修二は影が薄い生徒だったのだ。
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翌日、少年係の刑事が二名、修二の許を訪れた。婦女暴行未遂容疑で任意同行を求めたのである。昨晩、修二は、陽光学園の体操着姿でコンビニに出掛けており、地取り捜査の聞き込みによって、陽光学園の生徒が容疑者として捜査線上に浮上したのだった。
「僕じゃない。僕は女の人なんか襲っていない」
取り調べに当たった刑事の前で、修二は犯行を否認した。
「目撃者がいるんだよ、窪修二君。キミによく似た人物を見たってね。キミがやったんじゃないのかね」
取調室で、スチールデスクを挟んで修二と対座する初老の男性刑事は、腕を組みながら低い声で告げた。
「やってない僕じゃない」
修二はかぶりを振って否定する。
「キミの担任の沢村先生だって、アイツならやり兼ねないって仰っていたぞ」
「……沢村先生が?」
不安に思い、修二は首を傾げる。
すると刑事は口角をピクリと動かし、冷笑を浮かべると、
「ああ、そう仰っていた。どうだね、認めてしまえば楽になるぞ」
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