捜査一課殺人犯捜査第四係 異常犯罪捜査班 比嘉可南子

繁村錦

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CHAPTER5

3

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 手術室のドアの前に、古澤の両親と兄弟たち、伯父に当たる白石管理官の姿があった。捜査一課長や保科管理官もいた。

「お嬢、こっちだ」

 可南子の姿を見た柊係長が呼んだ。

「……か、係長……? 古澤君は?」

「わからん。俺も藪さんから連絡受け、たった今きたとこだ……」

 柊は、深刻そうな面持ちで首を横に振る。

「そうですか……」

 可南子は項垂れながら、辺りを見回す。

 廊下の隅で、何事かを話し合っている森と東海林を視界に捉え、二人に近寄る。

「あっ主任……」

 東海林が可南子に気づいた。
 その顔からは完全に精が消え失せ、憔悴し切っている。

「ねえ、一体どう言うこと? 説明しなさい。何で、古澤君が、撃たれなくてはならないのっ!? どう言うことっ!? 一体どう言うことなの!?」

 取り乱した可南子は、東海林に喰らい付き、彼の上着の襟を引っ張りながら、罵声を浴びせ泣き喚いた。

「お嬢、静かにしろ。落ち着くんだ……」

 森が可南子を宥めるように声を掛けた。
 場所を変えて、話をすることになった。三人で一旦外へ出た。どこか適当な場所を捜した。警察車両の陰がいいだろう。ここなら警察関係者以外の人間が近付くことはない。

「今日、主任は朝から非番だったため、連絡しなかったんですが、午後八時頃だったかな、古澤が使っている情報屋からタレ込みがあって……」

 東海林は徐に口を開き、時折上を見上げながら淡々と語り始めた。

「情報屋って!?」

 可南子は語尾を荒げる。

「以前、俺が使っていた情報屋で、元関東誠和連合の構成員だ。名前は、渡辺雄二……。ある事件で帳場が立った際、俺が所轄署時代の古澤と組んで教えてやった。あの男は、仕えるってね……」

 森は答えたあと、溜め息を吐いた。
 可南子の眉間に皺が寄った。

「そいつが、古澤君を撃ったの?」

「いや、違う。古澤を撃ったのは、べえやんではない……」

 森が首を横振る。

「じゃあ誰がっ!?」

 可南子の顔が険しさを増した。
 森の胸座を掴む。

「教えてよ、森さん……。答えなさい、森巡査部長っ!!」

 可南子は怒鳴り声を上げた。
 森は口を真一文字に閉じたまま、視線を逸らした。
 警備に当たる制服警官が、訝しげ可南子を見る。
 沈痛な溜め息を吐いたあと、可南子は森の胸座から手を放し、視線を東海林へ向けた。
 それまで憮然とした表情でぼんやりと宙を見ていた東海林は、わざと視線を逸らすように顔を伏せ、ぼそぼそ語り出した。

「『西岡詩織殺しの件で話がしたい』って、渡辺から連絡を受けた古澤は自分にそう告げ、ちょっと出掛けてくると言って八時半前に帳場を飛び出し、その後の彼の行動はまったく不明で……」

「ねえ、東海林っ、あんた単独行動させたの? 古澤君の相棒は、確か所轄の北川巡査だったわよね」

「済みません主任……、一応、北川君には伝えたのですが、彼が古澤の後を追った時には、もう既に出掛けたあとで……」

 東海林は言い訳染みたことを淡々と語った。
 それが余計に苛々する。

「もういい。聞きたくない」

「しゅ、主任……」

「お嬢……済まん」

「何よ、森さん」

 と鋭い視線を注ぐ。

「…………」

 少し長めの沈黙のあと、可南子が口を開いた。

「古澤君、どこで発見されたの……?」

「歌舞伎町一丁目の雑居ビル、現在は使われていない五階の空き部屋」

「歌舞伎町の雑居ビル……?」

「はい……午後九時十五分頃、一階で営業しているキャバクラの店員が、ゴミを出しに裏口からビルの外に出た時、上の方の階で人が言い争う声を聞き、そのあと、銃声が二発……」

「二発、銃声が二発……?」

「そうだ二発だ。一発は、犯人が、古澤の左胸目掛け発砲し、もう一発は、古澤が犯人目掛け発砲した」

 森が銃を撃つ真似をして説明する。

「それで犯人は……?」

「銃声を聞いた店員が大声を出したため、すぐに現場から逃走した。店員が言うには、階段を駆けおりる足音が聞こえたらしいが、何しろ相手は拳銃を持っているので、急に怖くなって店の中に隠れたそうだ。その際、隙間から逃げて行く犯人の横顔を見たと言っていたが、フードを深く被っていたため、はっきりとした人相はわからないってことだ」

 森は残念そうに首を横に振った。

「やっぱり犯人は、さっき森さんが言っていた渡辺って男でしょ」

「古澤が撃たれた時間、俺と東海林は二人で、その渡辺を尾行中だった」

「はい、古澤の奴が渋谷中央署を飛び出したあと、自分は少し心配になり、藪さんと係長に連絡入れたんです」

「こいつから知らせを受けた俺は、すぐに辺やんのスマホに掛けてみたが、繋がらなくてよ。やっこさん、スマホの電源切っときやがった。それで仕方なく古澤のスマホに電話を掛けてみたが、通話中で、十分後もう一度古澤のスマホに掛けてみたら、留守電にしておきやがった。で、もう一度ベえやんのスマホに掛けてみたが、やっぱ繋がんなかった」

「それで、スマホは? 古澤君のスマホは?」

「現場にはなかった多分、犯人が持ち去ったのだろう」

「そう」

 小さく頷き、可南子は天を仰いだ。
 目に入るものは、ネオンで滲んだどす黒い東京の夜空だけだった。

「そのあと俺は、べえやんの行きつけの店に電話を掛け、奴の下で働く若い連中を締めあげ、奴の居場所突き止めて、東海林と合流し、覆面でべえやんを尾行していたら、古澤が撃たれたって通信指令センターから緊急指令が入り……」

「何時頃?」

「十時頃だったと思う。尾行を中止し、東海林と現場へ向かった時には機捜と所轄の連中がいて、初動捜査を始めていた。俺と東海林は、係長とお嬢お前さんに連絡を入れ、古澤が搬送されたこのT女子医大へ直行したって訳だ……」

「十時か……」

 確か、幸生と抱き合っていた時間だ。ごめんね古澤くん……。
 透子は心の中で、生死を彷徨う部下に詫びる。
 大粒の涙が零れ落ちた。人目も憚らず、嗚咽した。

「主任……」

 東海林も涙を零した。

「お嬢、泣かんでくれ……」

 森も目頭を熱くした。
 心肺機能停止、来院時死亡状態で搬送された古澤は、救急救命医たちの努力の甲斐もなく、一時間後死亡した。
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