捜査一課殺人犯捜査第四係 異常犯罪捜査班 比嘉可南子

繁村錦

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CHAPTER5

4

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 二日、土曜日、午前八時。
 新宿中央署に『現職警察官古澤亮二殺人事件特別捜査本部』が立ち上がった。
 帳場を仕切るのは、捜査一課長だ。課長の脇を固めるのは、保科管理官と白石管理官である。捜査一課四係から六係まで捜査に投入され、組織対策四課、公安、所轄の新宿中央署の他、周辺の警察署から増援部隊が加わり、合計三百人体制で卑劣な犯人の行方を追跡することとなった。

「只今より、現職警察官古澤亮二殺人事件の捜査会議を始める」

 司会進行役の二係長柳本が真顔で宣言した。

「起立!」

「敬礼!」

「まず初めに、故古澤刑事の当日の足取りについて、一課四係の方から報告がある」

 柳本に促され、可南子のすぐ真後ろに座る東海林が、一礼し立ち上がった。

「十一月一日、金曜日、午後八時頃、古澤刑事のスマートフォンに元関東誠和連合の幹部で、情報屋の渡辺雄二という男からタレ込みがあり、その二十分後に古澤刑事は渋谷中央署を出て……」
 と当日の行動を語り始めた。

「……同日、午後九時二十五分、通信指令センターに一一〇番通報入電。通報者は、歌舞伎町一丁目○○の雑居ビル一階で営業しているキャバクラ『ナースとイチャイチャ』の男性従業員岩清水淳也、年齢二十三歳。同人は現場から逃げ去る不審人物を目撃したと証言していますが、フードのついたグレー色のコートを着ていたため、詳しい人相に付いては、不明です。また現場から古澤刑事の携帯は発見されませんでした。私からの報告は以上です……」

「只今、本庁捜査員東海林の方から報告があった情報屋の渡辺雄二という男だが、現在行方不明である。なお、本件の鍵を握る重要参考人としてこの男の行方を追跡中だ。新しい情報が入り次第、随時報告する……」

 と柳本が説明し、更に話を続けた。

「……古澤刑事殺害に使用された凶器について、鑑識の方から報告ある」

 鑑識係長の大平が立ちあがった。老眼鏡を掛け、手にした資料を読み始める。

「古澤刑事の体内から摘出された弾丸は七・六二口径で線条痕は四条右回り。このことから察して、殺害犯が犯行に使用した拳銃は、旧ソ連星のトカレフTT-33か、若しくは54式手槍、所謂中国製のトカレフのコピー品で、暴力団関係者の間ではクロムメッキされたタイプが銀ダラと言う通称で出回っています。なお、線条痕を調べた結果、前はありません。また、古澤刑事の上着の右袖口から硝煙反応が検出され、同人が殺害実行犯に向けて拳銃を発砲したと思われます。現場には古澤刑事の血液型Rh+O型以外に、もう一種類Rh+A型の抗体を示す血液型が検出されています。恐らくこれが、殺害犯の血液型かと思われます」

「鑑識から報告があった通り、犯行に使用された拳銃は、中国製のトカレフのコピー品だ。また犯人の血液型もA型と判明した。現在、科捜研の方でDAN鑑定を行っている。次、暴力団関係に付いて、本庁組対四課の方から報告がある」

 柳本の話のあと、講堂の左端窓際に陣取る警視庁組織犯罪対策四課、通称マル暴に所属する強面の刑事が、周囲を睨み付けながら立ち上がった。

「本件最重要参考人渡辺雄二が、十年ほど前まで所属していた関東誠和連合系前川会ですが、都内港区六本木○○―○に本部を置く指定暴力団で、構成員は約二百人。関東誠和連合は、アメリカ政府から薬物や武器の密輸、人身売買等の犯罪に関与する国際犯罪組織と認定されている。渡辺雄二は、前川会三代目藤村弘文の元舎弟で、平成十六年に足を洗い堅気になったあとは、都内六本木のバー『aqua time』を拠点として情報屋をやっており、現在でも裏社会ではそれなりに顔が利くそうだ」

「次、本庁公安第三課、関東誠和連合と親密な右翼組織に付いて報告しろ」

 上下黒色のスーツ姿で、オールバックに決めた長身の男が徐に立ち上がった。先ほどのマル暴の刑事とはまた違った不気味な雰囲気を漂わせている。

「関東誠和連合系の右翼団体、つまり政治結社は五団体あり、愛国青年党、皇国社、大和防衛隊、極東青年団、国防研究社の五つです。このうち最も過激な活動している団体が、愛国青年党と大和防衛隊です……」

 右翼団体について語る公安の話を聞き流しながら、可南子は、

「暴力団とその暴力団に関係する右翼連中の犯行だって、チャンチャラ可笑しい、随分と的外れなこと言っちゃてさぁ、古澤を殺った犯人は、うちらの身内、つまり警察関係者だ。しかも、恐らく私の身近な人間だ……」

 と独り言を口にした。
 あとはもう上の空だった。公安に続いて、一課の捜査員が何か言っていたが、可南子の耳は何も届かなかった。
 犯人は誰?
 森さん?
 東海林君?
 違う、この二人は古澤君が撃たれた時、一緒に行動していたと証言している。
 じゃあ、一体誰が古澤君を撃ったの?
 古澤君は、失踪した渡辺って男からどんな情報を仕入れたの……?
 ぼうとして考えごとしていると、いつの間にか捜査会議は佳境に差し掛かっていた。

「警察の威信を賭けて、殉職した古澤警部を殺害した犯人を必ず確保する。諸君っ! そのことを各自肝に銘じ、捜査の任に当たってくれ!」

 新宿中央署七階講堂に召集された捜査一課の主だった捜査員を前に、陣頭指揮を執る永友課長が訓示を行った。

「はいっ!」

 一課の捜査員と所轄署の幹部は、正面に立つ永友課長に向かって敬礼した。
 はっと我に返り、慌てて立ち上がると、可南子は少し遅れて敬礼した。
 周囲の男どもが失笑し、可南子を白い目で見る。

「主任、大丈夫ですか……?」

 背中越しに東海林が訊ねてくる。

「大丈夫、平気よ……」

 一応、部下の前では強がっては見せる。

「……お嬢?」

 森が可南子の側に歩み寄ってきた。

「俺たち四係比嘉班は、西岡詩織殺しとの関連を、もう一度洗い直すってことが任務だ……」

 と森が、呟くように言った。

「えっ!? な何……?」

 可南子は少し狼狽えつつ、森の顔を見た。
「何も聞いていなかったのですか主任、さっきの会議で班分けあったでしょ」

 東海林が呆れたように言った。

「……うん」

 赤面しつつ頷くと、可南子はゆっくりと立ちあがった。

「さあ行きましょうか?」

 東海林が可南子の顔を覗き込むようにして訊ねた。

「い、行くって……?」

「聞き込みですよ」

「ああ、ああぁあ、そう言うことね……」

「大丈夫か、お嬢……?」

 森は、先ほどから何を訊ねても上の空の可南子を心配するように訊ねた。

「あ、あの、二人に話があるの。聞いてくれる?」

 可南子は真顔で部下の目を見た。
 森と東海林は二人同時に頷いた。
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