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CHAPTER3
1
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高山とともに現場に駆け付けた可南子は、直ちに初動捜査の任にあった。
「どうです?」
可南子は、検視のため臨場していた沙織に訊ねる。
「滅多打ち。よくやるでしょ、真夏の砂浜でスイカ割りとか、あんな感じで頭がグチャグチャ」
気の所為か、棒を振る真似をしながら説明する沙織の目が、キラリと輝いているように見えた。
検視の結果、井の頭公園で他殺体となって発見された中国人男性劉磊彪は、死後十時間以上経過していることが判明した。死因は頭部強打による脳挫傷。犯行に使われた凶器は、金属バット、若しくは鉄パイプであろうと、沙織は推測した。
「仲間割れによるリンチかな……?」
「まあ、そんなところね」
沙織はいつもみたいに素っ気なく答えると、
「じゃあ、検視終わったから私帰るわ。あとで所轄署の方で正式な検視行うから、宜しくね」
といい捨て、例の商売道具が入った金属製のアタッシュケースを持った右手とは反対側の手を振り、規制線の外へ出た。
可南子と高山は、現場保存のため設けられた通行帯の前で一旦踞み込み、両足にビニール袋を履く。マスクを付け、頭にネットを被る。規制線を潜ると、都道一一四号線吉祥寺通りから少し中へ入った玉川上水近くへと歩いて行く。両脇には本庁、所轄の三鷹中央署の鑑識係員が入り混じって、犯人確保に繋がる手掛かりを探していた。結果、ゲソ痕が四人分あることがわかった。
「久さん、入ってもいい?」
可南子は、鑑識作業に勤しむその中年男性の背中に声を掛けた。
「ああ、どうぞ。もう済んだから、ご自由に」
向島は下を向いたまま可南子の顔も見ず答えた。
「高山君、行くよ」
「あっ、はい……」
可南子は、ブルーシートの前で立ち止まり、腰を落とすと徐に両手を合わせた。高山もそれに倣い、被害者の冥福を祈った。
次に可南子は、シートを捲り、被害者となった中国人男性を自分の目で直接見る。
一瞬、息を呑んだ。
スイカ割りとは上手くいったものだ。額から頭の天辺に掛けてぱっくりと割れ、頭蓋骨の一部が外へはみ出していた。脳漿が混じった乾いた血の塊が頭髪にこべり付いている。見事に砕かれた頭蓋骨の隙間からは、脳の組織が確認出来る。辺りには鼻腔を刺激するほどの強烈な血の臭いが漂っていた。
「あちゃ、確かにこれは酷いな……」
思わず顔を背けてしまいそうになるが、可南子は目を逸らさず惨殺体を凝視した。
「うっ……」
高山はマスクを付けた口に手を当て、公園の奥の方へ走り出した。
情けないキャリアの後ろ姿を比嘉が目で追い鼻先で笑っていると、突如背後から声を掛けられた。
「ありゃ、また吐くな……」
森刑事だ。
「多分ね」
可南子は振り向くことなく、林の奥へと消える高山の背中を見たまま頷いた。
「で、森さん、ジュンちゃんは?」
「緒川の野郎は、第一発見者となった清掃員の女性から事情を聴いてる」
森は、他殺体発見現場から三十メートルほど更に奥へ行った場所で固まっている捜査員たちに顎を向けた。可南子も顎を向け、目を凝らす。
「おーい高山君、先に行くよ」
と告げ、可南子は捜査員たちの集団の許へ歩いて行く。
「あっ、主任」
目敏く可南子を見付けた緒川が目礼する。比嘉も返す。
「どう」
可南子は緒川に訊ねた。緒川が、作業服姿の女性に視線を向けた。可南子も女性を見る。
随分とえらの張った中年女性だ。女性は、怪訝そうに可南子を見た。青色の作業服を着ていることから察してこの女性が、他殺体の第一発見者であろう。
「こちら、最初に死体を発見された深山加奈子さんです。この公園の清掃を、ボランティアでなさっている方です」
緒川に紹介され、作業着姿の女性が軽く頭を下げた。
「今朝、九時頃だったかしら、あそこで数十羽のカラスが騒いでいたので、何だろうと不審に思い覗き込んだら、頭から血を流した男の人が倒れていて……」
少し興奮気味に語る。
第一発見者深山加奈子から、他殺体発見時の状況を一通り聞き出す。
数分後、沖係長と松原管理官の二人が、渋谷中央署から現場に到着した、との一報を三鷹中央署員から受ける。
臨場していた柘植警部補と目が合う。
柘植は、お前が遣れ、といわんばかりに顎をしゃくり合図する。
「集合ぉーっ!!」
可南子が裏返った声を張り上げた。
現場付近でバラバラに散らばっていた本庁、所轄の捜査員たちを一箇所に集める。
「一課、機捜、所轄の順で、それぞれ一列に並べ」
捜査員たちは可南子にいわれた通り、右から順に一列に並んだ。
「一課八名」
「機捜六名」
「渋谷中央署七名」
「三鷹中央署七名」
各列一番前に立つ捜査員が報告する。
「……私と、柘植さんと沖係長を入れて三十一人か……、一人足りない」
と、可南子は指を折りながら頭数を計算する。
「私も加わろう」
遅れて到着した松原が、横から徐に声を掛けた。
「管理官が、ですか……?」
振り向き真理子が訊ねる。
松原は無言で頷いた。
井の頭公園周辺三鷹市一体の地図を所轄の捜査員が広げた。緒川が、赤マジックを使い、その地図上に仕切り線を引き、一番から順に十六番まで番号を振っていく。それを比嘉に手渡す。
「一番、本庁松原管理官、所轄三鷹中央署員。二番、本庁沖、所轄渋谷中央署員。三番不肖比嘉、所轄高山。四番、本庁柘植、所轄……」
十六番まで順に読み上げ、本庁と所轄捜査員が二人一組になるように担当区域を割り当てる。通常、現場に最も近い一番が有力な手掛かりを得易い。
これから現場周辺で、聞き込み捜査を行うのだ。現場へ先行していた機動捜査隊員や、三鷹中央署の刑事組対課の一部は、既に初動捜査を開始している。
虱潰しに当たった聞き込み捜査の結果、マル害劉磊彪の死体が遺棄されたのは、昨夜午後八時から本日の早朝午前九時までの間であることが判明した。また、別の場所で殺害され、この場所に遺棄されたということもわかった。
「どうです?」
可南子は、検視のため臨場していた沙織に訊ねる。
「滅多打ち。よくやるでしょ、真夏の砂浜でスイカ割りとか、あんな感じで頭がグチャグチャ」
気の所為か、棒を振る真似をしながら説明する沙織の目が、キラリと輝いているように見えた。
検視の結果、井の頭公園で他殺体となって発見された中国人男性劉磊彪は、死後十時間以上経過していることが判明した。死因は頭部強打による脳挫傷。犯行に使われた凶器は、金属バット、若しくは鉄パイプであろうと、沙織は推測した。
「仲間割れによるリンチかな……?」
「まあ、そんなところね」
沙織はいつもみたいに素っ気なく答えると、
「じゃあ、検視終わったから私帰るわ。あとで所轄署の方で正式な検視行うから、宜しくね」
といい捨て、例の商売道具が入った金属製のアタッシュケースを持った右手とは反対側の手を振り、規制線の外へ出た。
可南子と高山は、現場保存のため設けられた通行帯の前で一旦踞み込み、両足にビニール袋を履く。マスクを付け、頭にネットを被る。規制線を潜ると、都道一一四号線吉祥寺通りから少し中へ入った玉川上水近くへと歩いて行く。両脇には本庁、所轄の三鷹中央署の鑑識係員が入り混じって、犯人確保に繋がる手掛かりを探していた。結果、ゲソ痕が四人分あることがわかった。
「久さん、入ってもいい?」
可南子は、鑑識作業に勤しむその中年男性の背中に声を掛けた。
「ああ、どうぞ。もう済んだから、ご自由に」
向島は下を向いたまま可南子の顔も見ず答えた。
「高山君、行くよ」
「あっ、はい……」
可南子は、ブルーシートの前で立ち止まり、腰を落とすと徐に両手を合わせた。高山もそれに倣い、被害者の冥福を祈った。
次に可南子は、シートを捲り、被害者となった中国人男性を自分の目で直接見る。
一瞬、息を呑んだ。
スイカ割りとは上手くいったものだ。額から頭の天辺に掛けてぱっくりと割れ、頭蓋骨の一部が外へはみ出していた。脳漿が混じった乾いた血の塊が頭髪にこべり付いている。見事に砕かれた頭蓋骨の隙間からは、脳の組織が確認出来る。辺りには鼻腔を刺激するほどの強烈な血の臭いが漂っていた。
「あちゃ、確かにこれは酷いな……」
思わず顔を背けてしまいそうになるが、可南子は目を逸らさず惨殺体を凝視した。
「うっ……」
高山はマスクを付けた口に手を当て、公園の奥の方へ走り出した。
情けないキャリアの後ろ姿を比嘉が目で追い鼻先で笑っていると、突如背後から声を掛けられた。
「ありゃ、また吐くな……」
森刑事だ。
「多分ね」
可南子は振り向くことなく、林の奥へと消える高山の背中を見たまま頷いた。
「で、森さん、ジュンちゃんは?」
「緒川の野郎は、第一発見者となった清掃員の女性から事情を聴いてる」
森は、他殺体発見現場から三十メートルほど更に奥へ行った場所で固まっている捜査員たちに顎を向けた。可南子も顎を向け、目を凝らす。
「おーい高山君、先に行くよ」
と告げ、可南子は捜査員たちの集団の許へ歩いて行く。
「あっ、主任」
目敏く可南子を見付けた緒川が目礼する。比嘉も返す。
「どう」
可南子は緒川に訊ねた。緒川が、作業服姿の女性に視線を向けた。可南子も女性を見る。
随分とえらの張った中年女性だ。女性は、怪訝そうに可南子を見た。青色の作業服を着ていることから察してこの女性が、他殺体の第一発見者であろう。
「こちら、最初に死体を発見された深山加奈子さんです。この公園の清掃を、ボランティアでなさっている方です」
緒川に紹介され、作業着姿の女性が軽く頭を下げた。
「今朝、九時頃だったかしら、あそこで数十羽のカラスが騒いでいたので、何だろうと不審に思い覗き込んだら、頭から血を流した男の人が倒れていて……」
少し興奮気味に語る。
第一発見者深山加奈子から、他殺体発見時の状況を一通り聞き出す。
数分後、沖係長と松原管理官の二人が、渋谷中央署から現場に到着した、との一報を三鷹中央署員から受ける。
臨場していた柘植警部補と目が合う。
柘植は、お前が遣れ、といわんばかりに顎をしゃくり合図する。
「集合ぉーっ!!」
可南子が裏返った声を張り上げた。
現場付近でバラバラに散らばっていた本庁、所轄の捜査員たちを一箇所に集める。
「一課、機捜、所轄の順で、それぞれ一列に並べ」
捜査員たちは可南子にいわれた通り、右から順に一列に並んだ。
「一課八名」
「機捜六名」
「渋谷中央署七名」
「三鷹中央署七名」
各列一番前に立つ捜査員が報告する。
「……私と、柘植さんと沖係長を入れて三十一人か……、一人足りない」
と、可南子は指を折りながら頭数を計算する。
「私も加わろう」
遅れて到着した松原が、横から徐に声を掛けた。
「管理官が、ですか……?」
振り向き真理子が訊ねる。
松原は無言で頷いた。
井の頭公園周辺三鷹市一体の地図を所轄の捜査員が広げた。緒川が、赤マジックを使い、その地図上に仕切り線を引き、一番から順に十六番まで番号を振っていく。それを比嘉に手渡す。
「一番、本庁松原管理官、所轄三鷹中央署員。二番、本庁沖、所轄渋谷中央署員。三番不肖比嘉、所轄高山。四番、本庁柘植、所轄……」
十六番まで順に読み上げ、本庁と所轄捜査員が二人一組になるように担当区域を割り当てる。通常、現場に最も近い一番が有力な手掛かりを得易い。
これから現場周辺で、聞き込み捜査を行うのだ。現場へ先行していた機動捜査隊員や、三鷹中央署の刑事組対課の一部は、既に初動捜査を開始している。
虱潰しに当たった聞き込み捜査の結果、マル害劉磊彪の死体が遺棄されたのは、昨夜午後八時から本日の早朝午前九時までの間であることが判明した。また、別の場所で殺害され、この場所に遺棄されたということもわかった。
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