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CHAPTER5
1
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午後三時十五分。
K大法学部三田キャンパス。
事務局で遠山を呼び出してもらったが、一向に現れる気配はなかった。仕方なく比嘉たちは、第一校舎で担当教授が指導する刑法ゼミを学んでいる遠山の許へ向かった。
ゼミを終えたあと、第一校舎を出た遠山は、彼を取り巻く数人の友人たちを引き連れ構内を練り歩いていた。どうやらこれから、学内で生協が経営する食堂へ向かう途中らしい。遠山は午後のゼミが終わったあと、決まってここで友人たちとお茶をする。
可南子は、今まさに西校舎へ入ろうとする遠山を見付け、彼の許へ近寄り声を掛けた。
「法学部三回生の遠山清志さんですね?」
予め、彼の顔写真を入手していたのだ。
切れ長の一重に高い鼻。酷薄な薄い唇。K応ボーイとはいえ、今風の茶髪にピアスを付けたチャラ男だ。身長は一八五センチほどか。高そうなジーンズにブランド物のTシャツ、黒いジャケット羽織ったラフなスタイルだ。
「はぁあ?」
遠山は、何だこのおばさんは? といったような眼差しで、怪訝気味に可南子を見る。
「誰っ、あんた?」
勿論タメ口だ。
いつもならここで、
「こらぁっ、この糞ガキっ! 舐めた口きくんじゃねえっ!」
と暴言の一つも吐く細川も、相手が現職の国務大臣山仙一朗国家公安委員長の息子だけあって、心なしか臆しているかのように見受けられた。
「警視庁捜査一課四係の比嘉と申します。この者は、渋谷中央署刑事組対課の細川です」
「警察……? 一体何の用なの。俺の親父、国家公安委員長だって知ってるの?」
遠山は上から目線でいう。
「存じ上げております……」
「そう、だったら弁護士通じてからにして」
「南谷事務所の岡崎香織さんでしょうか……?」
可南子は眼前に立つ遠山を観察しながら、口許に悪戯な含み笑いを浮かべた。
一瞬、遠山の顔が引き攣ったような気がした。
「六月五日日曜日、午後十時三十分頃、新宿中央署管内新宿区歌舞伎町一丁目○○‐○の路上で、プロボクサー柴田慶亮さんが地下道へ通じる階段から転落死された件でお話が……?」
「何だ、そっちの方か、それだったらあんたたち警察のしつこい取り調べの所為で自殺した石田悠馬がやったことだから、俺には関係ないよ」
「そっちの方って他にも何か……? 例えばひき逃げ事故とか……?」
反応を探る。
「……俺のフェラーリ458スパイダーは盗まれた。弁護士通じて盗難届も出している」
「その弁護士さんて、先ほど申し上げた南谷事務所の岡崎香織さんのこと」
「ああそうだ。いい加減にしてくれ」
立腹気味に告げると、遠山はiPhoneを取出し、どこかへ電話を掛けた。
「あっ親父、俺、清志。比嘉とかいう警視庁のババアがウザいんだよ。親父の力でクビにして」
一旦、電話を切った遠山は、再び電話を掛け直した。
「あの岡崎さん。俺のところへ比嘉っていうババアが来ている。うん、親父にはたった今電話した。そっちからも警察の方へ文句いっといて」
「聞いていたでしょおばさん。次の仕事早く見つけた方がいいと思うよ。なんなら俺が熟女専門の風俗店、世話してやろうか。そっちのおじさんも警備員の仕事ぐらいなら、紹介して上げてもいいよ?」
「いいえ結構です」
「おいっ、行こうかみんな」
遠山は可南子を無視し、西校舎へ向かって歩き出した。
「なぁ、キヨ。さっきあの刑事がいっていたボクサー転落死事故の時、お前も現場に居たって、W大のケイタがいっていたぜ……」
耳聡い可南子はそれを聞き逃すことはなかった。
「ちょっと待って、そこのキミ。今の話、詳しく聞かせて」
可南子は、遂口を滑らしてしまった友人の一人を呼び止めた。
「五月蠅ぇ。タイチ、お前も余計なこと喋んじゃねえ。K大退学になりたいのかぁ?」
遠山は少し狼狽えつつ、友人に釘を刺す。
「ごめん。キヨ……俺、別にそんなつもりじゃ……」
友人の男子学生は急に口籠った。
可南子はその男子学生の許へ近寄る。
「ねえ、キミ、ちょっといい」
「五月蠅いっていってるだろ。おばさんっ!」
遠山は可南子を突き飛ばした。
勢い余って躓き、尻餅をついた。
――よっしっー!! これで行けるっ!!
可南子は起き上がり、お尻の埃を手で掃った。
「細川巡査長、今の見ていたでしょ? 完全に公妨でしょっ!」
やや興奮気味にいう。
「はい……」
細川は、相手が相手だけにどうしたものかと少々困惑気味に頷いた。渋い顔で可南子を見る。
可南子は、左手のG‐Shockに目を落として、現在時刻を確認した。
「十五時三十一分。公務執行妨害の現行犯で、あなたを逮捕します」
「汚いぞ、この糞ばばぁっ!!」
遠山は友人たちの前であるにも拘らず可南子を罵る。
「手錠。細川巡査長、手錠を掛けてっ!」
「はあぁ……はい」
細川は戸惑いながらも手錠を取出し、罵声を上げる遠山の腕に手錠を掛けた。
K大法学部三田キャンパス。
事務局で遠山を呼び出してもらったが、一向に現れる気配はなかった。仕方なく比嘉たちは、第一校舎で担当教授が指導する刑法ゼミを学んでいる遠山の許へ向かった。
ゼミを終えたあと、第一校舎を出た遠山は、彼を取り巻く数人の友人たちを引き連れ構内を練り歩いていた。どうやらこれから、学内で生協が経営する食堂へ向かう途中らしい。遠山は午後のゼミが終わったあと、決まってここで友人たちとお茶をする。
可南子は、今まさに西校舎へ入ろうとする遠山を見付け、彼の許へ近寄り声を掛けた。
「法学部三回生の遠山清志さんですね?」
予め、彼の顔写真を入手していたのだ。
切れ長の一重に高い鼻。酷薄な薄い唇。K応ボーイとはいえ、今風の茶髪にピアスを付けたチャラ男だ。身長は一八五センチほどか。高そうなジーンズにブランド物のTシャツ、黒いジャケット羽織ったラフなスタイルだ。
「はぁあ?」
遠山は、何だこのおばさんは? といったような眼差しで、怪訝気味に可南子を見る。
「誰っ、あんた?」
勿論タメ口だ。
いつもならここで、
「こらぁっ、この糞ガキっ! 舐めた口きくんじゃねえっ!」
と暴言の一つも吐く細川も、相手が現職の国務大臣山仙一朗国家公安委員長の息子だけあって、心なしか臆しているかのように見受けられた。
「警視庁捜査一課四係の比嘉と申します。この者は、渋谷中央署刑事組対課の細川です」
「警察……? 一体何の用なの。俺の親父、国家公安委員長だって知ってるの?」
遠山は上から目線でいう。
「存じ上げております……」
「そう、だったら弁護士通じてからにして」
「南谷事務所の岡崎香織さんでしょうか……?」
可南子は眼前に立つ遠山を観察しながら、口許に悪戯な含み笑いを浮かべた。
一瞬、遠山の顔が引き攣ったような気がした。
「六月五日日曜日、午後十時三十分頃、新宿中央署管内新宿区歌舞伎町一丁目○○‐○の路上で、プロボクサー柴田慶亮さんが地下道へ通じる階段から転落死された件でお話が……?」
「何だ、そっちの方か、それだったらあんたたち警察のしつこい取り調べの所為で自殺した石田悠馬がやったことだから、俺には関係ないよ」
「そっちの方って他にも何か……? 例えばひき逃げ事故とか……?」
反応を探る。
「……俺のフェラーリ458スパイダーは盗まれた。弁護士通じて盗難届も出している」
「その弁護士さんて、先ほど申し上げた南谷事務所の岡崎香織さんのこと」
「ああそうだ。いい加減にしてくれ」
立腹気味に告げると、遠山はiPhoneを取出し、どこかへ電話を掛けた。
「あっ親父、俺、清志。比嘉とかいう警視庁のババアがウザいんだよ。親父の力でクビにして」
一旦、電話を切った遠山は、再び電話を掛け直した。
「あの岡崎さん。俺のところへ比嘉っていうババアが来ている。うん、親父にはたった今電話した。そっちからも警察の方へ文句いっといて」
「聞いていたでしょおばさん。次の仕事早く見つけた方がいいと思うよ。なんなら俺が熟女専門の風俗店、世話してやろうか。そっちのおじさんも警備員の仕事ぐらいなら、紹介して上げてもいいよ?」
「いいえ結構です」
「おいっ、行こうかみんな」
遠山は可南子を無視し、西校舎へ向かって歩き出した。
「なぁ、キヨ。さっきあの刑事がいっていたボクサー転落死事故の時、お前も現場に居たって、W大のケイタがいっていたぜ……」
耳聡い可南子はそれを聞き逃すことはなかった。
「ちょっと待って、そこのキミ。今の話、詳しく聞かせて」
可南子は、遂口を滑らしてしまった友人の一人を呼び止めた。
「五月蠅ぇ。タイチ、お前も余計なこと喋んじゃねえ。K大退学になりたいのかぁ?」
遠山は少し狼狽えつつ、友人に釘を刺す。
「ごめん。キヨ……俺、別にそんなつもりじゃ……」
友人の男子学生は急に口籠った。
可南子はその男子学生の許へ近寄る。
「ねえ、キミ、ちょっといい」
「五月蠅いっていってるだろ。おばさんっ!」
遠山は可南子を突き飛ばした。
勢い余って躓き、尻餅をついた。
――よっしっー!! これで行けるっ!!
可南子は起き上がり、お尻の埃を手で掃った。
「細川巡査長、今の見ていたでしょ? 完全に公妨でしょっ!」
やや興奮気味にいう。
「はい……」
細川は、相手が相手だけにどうしたものかと少々困惑気味に頷いた。渋い顔で可南子を見る。
可南子は、左手のG‐Shockに目を落として、現在時刻を確認した。
「十五時三十一分。公務執行妨害の現行犯で、あなたを逮捕します」
「汚いぞ、この糞ばばぁっ!!」
遠山は友人たちの前であるにも拘らず可南子を罵る。
「手錠。細川巡査長、手錠を掛けてっ!」
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