捜査一課 猟奇殺人犯捜査官 比嘉可南子 

繁村錦

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CHAPTER11

1

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「あっ、駄目じゃない。立花君」

「……済みません」

 しゃがみ込みながら、顔だけを上に向け謝る。

「そんなことより、早く拾って……、えっ!?」

 私は床に散らばった資料を見て、愕然となった。

「どうしたんですか。比嘉さん?」

「立花君、その足下の資料……?」

「資料が何か……、こ、これは……?」

「どうかなさったんですか……、えっ、一体これは……?」

 蛭子さんも愕然とした表情で、立花君の足下に散らばった資料を凝視していた。
 胸元から臍の下辺りに掛けて縦に切り裂かれ、傷口から内臓を出した若い女性の全裸死体。その女性の生前に撮影されたと思われる写真。一目して、被害者女性は複数いることが分かった。その中に、立花君の交際相手祖父江優樹菜の写真も含まれていた。

「……優樹菜。嘘だ。こんな……」

 立花君は恋人が映った写真を手に取った。

「蛭子先生。これは一体……?」

 私はその若い医師の名前を呼び、訊ねた。

「そのPCは普段、平泉教授が主に使用されています」

「やはりあの男が犯人だったんだ……ノートパソコンの中を確認しても宜しいでしょうか?」

「どうぞ」

 蛭子さんは真顔で頷いた。
 立花君は目の前のMACノートPCを開けた。電源を入れる。PCを起動する音がスピーカーから聞こえてきた。

「パスワードは?」

「********です」

 蛭子さんは、数字とアルファベットの交ざった八桁のパスワードを立花に教えた。
 早速、立花はキーボードを叩き、********と入力する。暫くすると液晶画面が変わり、アメリカの片田舎の風景になった。
 指先でパットを操作して、画面上の幾つかのファイルを開くが、平泉の犯罪を裏付けるもは見つからなった。立花は必死になって探した。動画が入った隠しファイルを発見した。ファイルのタイトルは、趣味その⑤となっていた。

「……趣味その⑤って」

「開いてみなさいよ」

 私は指示した。
 立花君は頷きカーソルをそのファイルまで持って行き、クリックした。

「駄目です。ロックされています」

「先生。パスワード、ご存知ですか?」

 私は傍らでことの成り行きを見守る蛭子に訊ねた。

「さあ、わかりません。普段、僕はこのパソコン使わないから……」

 蛭子さんは面目なさ気にかぶりを振った。

「何か、ヒントはありませんか?」

「ヒントですか……」

 蛭子さんは困った顔をした。
 私は頷いた。
 立花君は、キーボードに指を置き、いつでもパスワードが入力出来るように待っていた。

「○□☓*$#*○などは」

「これは、先生の好きな言葉です」

「立花君君。打ってみて」

 ○□☓*$#*と入力する。

「駄目です。開きません」

「じゃあこれは、□☓*$□☓*$」

 蛭子さんが口にした八文字を入力するが、やはり駄目だった。そのあと、幾つかの候補を入れてみるが、全部弾かれてしまった。

「何か、他にありませんか?」
 
立花君が催促する。

「うーん」

 蛭子さんは目を閉じ、低い声を出し、考え込んだ。何かを思い出し、パッと目を開けた。

「Gray Man。或いは、Moon Maniac。若しくはBrooklyn Vampire」

「何ですのそれ……?」

 私は意味が分からずキョトンとした顔で訊ねた。

「教授が、最も興味を示していた殺人鬼の異名です」

「さ、殺人鬼……?」

「はい。本名はアルバート・ハミルトン・フィッシュ。アメリカ史上最悪の殺人鬼です」

「私も名前ぐらいは聞いたことがある。で、その男、どんな事件を起こしたんですか?」

「聞かない方がいいですよ。胸糞悪くなりますから」

 蛭子さんは微笑を浮かべた。

「そうですか。先生がそう仰るなら止めておきます」

「開いた。Moon Maniacって入力したらファイルが開いた」

「Moon Maniac。満月の狂人か……」

 蛭子さんが意味深に呟いた。
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