46 / 83
第五章「プラスとマイナス」
第46話 あふぅ……こんなの初めて……も、もう1つ……
しおりを挟む
「今日は『アルマミース』に連れて行ってくれる――って話だったと記憶しているのですが」
マナカが落ち着かない様子を隠さないまま、きょろきょろと車内を見回しながら呟いた。
先日の一件でマナカにお礼でもしようかと考えた俺は、最近女の子に人気のファッションブランド『アルマミース』へショッピングに誘ったのだった。
誘ったのだが――、
「だってこの長い車、ドラマとかで見るリムジンっていうのではないでしょうか? なんか執事さんみたいなナイスミドルの運転手さんがドアを開けてくれたし」
「ふふん、驚いたか」
「いや驚いたって言うか、想像の斜め上すぎるというか、なんといえばいいのでしょうか。場違いっていうかわたし、デート用にちょっと背伸びしただけの普通の――あ、ううん! なんでもないから! なんでもないんだからねっ!? ――あのそのつまり! 明らかに普通のお洋服なのですけれども!」
「俺も普段着だよ。別にドレスコードがどうの、そんなかしこまるとこでもないから安心してくれ」
「これのなにをどう安心しろと、ユウトくんは言いたいのかな? かな?」
マナカは本気で困っているようだった。
せっかくマナカに喜んでもらうつもりでセッティングしたのに、不安にさせてしまっては元も子もない。
「ネタばらしするとだ。昔からの知り合いに『アルマミース』の偉い人がいてさ、今もちょくちょく世話になってるんだ。この車もその人が用意してくれたってわけだ」
「は、はぁ……」
「で、今からその人のオフィスに行く。たしか発表前の新作とか未公開作とかもおいてたから楽しめるはずぞ。そんなことよりさ、せっかくだからケーキでも食べないか?」
言って広大な車内に取り付けられた車内冷蔵庫から、俺はケーキを取り出した。
「えええぇぇぇ! い、いいよぉ。すごく高そうというか、その、あんまりお金もないし……」
「金銭面なら、こういう送迎車での飲み食いは基本ホスト持ちなんだ。マナカはゲスト――お客様だから気にしなくていいんだよ」
「そうなの!? あ、う、で、でも……」
「まったくマナカは変に遠慮しいだな。気後れしないで普通にしてれば大丈夫だって」
「この状況で気後れするなってのは、普通の女子高生にはさすがに無理ってなもんですよ……」
「それにこのケーキはマナカのために用意してもらったんだぞ? 神戸と言えば洋菓子のモロゾフのチーズケーキだろ? そのモロゾフの職人にオーダーメイドした、大豆やらなんやらを駆使して味は従来通り、しかし徹底して低脂肪&低カロリーにこだわった逸品だ。ホールで食べても200キロカロリー未満。普通のチーズケーキの四分の一以下という優れものなんだぜ?」
「ご、ごくり……」
と、マナカが喉を鳴らした。
「前にケーキが好きだけどカロリーが気になるって話をしてただろ? だからマナカのために作ってもらったんだ。言ってみればマナカスペシャルだな。せっかくだから一緒に食べようぜ」
「……じゃ、じゃあ? そこまで言うなら? 一切れ、一切れだけ? ……だってほら、せっかくの好意を無碍にするのは心苦しいし、手間暇かけて作ってくれた職人さんに申し訳が立たないもんね。うん、だから一切れだけ……べ、別にこれは言い訳なんかじゃないんだからねっ!」
しなくてもいい釈明を勝手に始めて勝手に終えて、誰というよりかは自分自身を納得させるに至ったマナカは、
「あふぅ……こんなの初めて……も、もう1つ……」
最初はそっと。
「4分の1ってことは、つまり4倍食べてもオッケーということではないでしょうか」
次におそるおそる。
「神様、もう少しだけ……」
「今日は大丈夫な日だから……」
しかし次第にパクパクと食べ始め。
そうしてちゃっかりしっかり――俺が食べた8分の1切れを除く――ホールのチーズケーキを完食してしまったことは、マナカの名誉のためにも俺の胸の中にそっと仕舞っておくことにしよう。
マナカが落ち着かない様子を隠さないまま、きょろきょろと車内を見回しながら呟いた。
先日の一件でマナカにお礼でもしようかと考えた俺は、最近女の子に人気のファッションブランド『アルマミース』へショッピングに誘ったのだった。
誘ったのだが――、
「だってこの長い車、ドラマとかで見るリムジンっていうのではないでしょうか? なんか執事さんみたいなナイスミドルの運転手さんがドアを開けてくれたし」
「ふふん、驚いたか」
「いや驚いたって言うか、想像の斜め上すぎるというか、なんといえばいいのでしょうか。場違いっていうかわたし、デート用にちょっと背伸びしただけの普通の――あ、ううん! なんでもないから! なんでもないんだからねっ!? ――あのそのつまり! 明らかに普通のお洋服なのですけれども!」
「俺も普段着だよ。別にドレスコードがどうの、そんなかしこまるとこでもないから安心してくれ」
「これのなにをどう安心しろと、ユウトくんは言いたいのかな? かな?」
マナカは本気で困っているようだった。
せっかくマナカに喜んでもらうつもりでセッティングしたのに、不安にさせてしまっては元も子もない。
「ネタばらしするとだ。昔からの知り合いに『アルマミース』の偉い人がいてさ、今もちょくちょく世話になってるんだ。この車もその人が用意してくれたってわけだ」
「は、はぁ……」
「で、今からその人のオフィスに行く。たしか発表前の新作とか未公開作とかもおいてたから楽しめるはずぞ。そんなことよりさ、せっかくだからケーキでも食べないか?」
言って広大な車内に取り付けられた車内冷蔵庫から、俺はケーキを取り出した。
「えええぇぇぇ! い、いいよぉ。すごく高そうというか、その、あんまりお金もないし……」
「金銭面なら、こういう送迎車での飲み食いは基本ホスト持ちなんだ。マナカはゲスト――お客様だから気にしなくていいんだよ」
「そうなの!? あ、う、で、でも……」
「まったくマナカは変に遠慮しいだな。気後れしないで普通にしてれば大丈夫だって」
「この状況で気後れするなってのは、普通の女子高生にはさすがに無理ってなもんですよ……」
「それにこのケーキはマナカのために用意してもらったんだぞ? 神戸と言えば洋菓子のモロゾフのチーズケーキだろ? そのモロゾフの職人にオーダーメイドした、大豆やらなんやらを駆使して味は従来通り、しかし徹底して低脂肪&低カロリーにこだわった逸品だ。ホールで食べても200キロカロリー未満。普通のチーズケーキの四分の一以下という優れものなんだぜ?」
「ご、ごくり……」
と、マナカが喉を鳴らした。
「前にケーキが好きだけどカロリーが気になるって話をしてただろ? だからマナカのために作ってもらったんだ。言ってみればマナカスペシャルだな。せっかくだから一緒に食べようぜ」
「……じゃ、じゃあ? そこまで言うなら? 一切れ、一切れだけ? ……だってほら、せっかくの好意を無碍にするのは心苦しいし、手間暇かけて作ってくれた職人さんに申し訳が立たないもんね。うん、だから一切れだけ……べ、別にこれは言い訳なんかじゃないんだからねっ!」
しなくてもいい釈明を勝手に始めて勝手に終えて、誰というよりかは自分自身を納得させるに至ったマナカは、
「あふぅ……こんなの初めて……も、もう1つ……」
最初はそっと。
「4分の1ってことは、つまり4倍食べてもオッケーということではないでしょうか」
次におそるおそる。
「神様、もう少しだけ……」
「今日は大丈夫な日だから……」
しかし次第にパクパクと食べ始め。
そうしてちゃっかりしっかり――俺が食べた8分の1切れを除く――ホールのチーズケーキを完食してしまったことは、マナカの名誉のためにも俺の胸の中にそっと仕舞っておくことにしよう。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる