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第五章「プラスとマイナス」
第50話 私はプラスが好きなのです☆
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「き、気を取り直して、もう一つ質問なんですけれど。どうしてアルマミースさんはファッションブランドを?」
「リアンでいいですよ☆」
「どうしてリアンさんはファッションブランドを? 本職はりゅーたいきんぞく? の研究者なんですよね? なんだか科学とファッションはあまり繋がらないといいますか」
マナカがごくごく自然な疑問を呈した。
「いい質問です☆ もともと私は流体金属の研究を買われてこの『スーパーダイラタンシー』プロジェクトに参加したのですが☆」
「すーぱーだいらたんしー?」
「あとでまた説明しますね☆ そこで軍隊の余りに野暮ったい現状を目の当たりにしてしまいまして☆ まぁ話せば長くなりますが、要はつまり、軍隊があまりにもお洒落じゃなかったから、自分が変えようと思ったわけです☆」
「それは仕方ないだろう。軍隊は基本的に戦闘という唯一無二の機能に特化し画一化させることによって成立するものだ。必然、ファッションなどの不必要なものはそぎ落とされる」
軍隊とは個性を排除することで成り立つ、絶対上意下達の究極系だからだ。
だが、
「その考えはもはや過去の遺物ですよ☆ メンタルがフィジカルに影響を与えることは今や分野を問わぬ世界の常識です☆ 昨今は女性兵士も多くなっているというのに、美意識の欠片すら感じないモッサイ官給品ばかりなのは、あまりに前時代的にすぎます☆ お洒落の墓場です☆」
「ふむふむ」
「もちろん旧態依然とした考え方にも、一定の説得力があることは理解できなくもありません☆ ナンセンスな悪習は、よりナンセンスな悪習を淘汰するために生まれた、という言葉もあるくらいです☆ 古いというだけで廃していまうのは、それによって隠されいた軋轢を蒸し返すことになりかねません☆ 軋轢はマイナスしか生みません☆ 私はプラスが好きなのです☆」
「私はプラスが好きなのです☆」
これは出会ってから何度も聞かされた、彼女が生きる上での信念だった。
なかなか真似できるものではないし、なによりそうあり続けるための高い実現能力が要求される。
そんな彼女の高い志は出会った当初から変わることなく、俺は今でも彼女の生きざまに素直に感心させられるのだった。
かなり――いやとても変な人だけど。
「であるならば2つの価値観をアウフヘーベンすればいいだけです☆ 機能美を最重要項目として、華美にならないよう最大限配慮しつつ、見る人が見ればお洒落を感じる官給品を、自分でデザインして提案したわけです☆」
「配給品の切り替えタイミングを狙って、非の打ち所がないプランを提出。お偉方相手に完璧なプレゼンをして満場一致で採用となったって話だ」
『古き良き伝統』そのものを誇りとし、頭の固い事にかけては右に出る者のいない軍上層部を、いったいどうやって説き伏せたのか。
魔法を使ったとまで言わしめた、博士の逸話の一つだった。
「そうしてデザイン関連のスキルと人脈が、図らずもできてしまいまして☆ せっかくなので、今度はこのコンセプトでもって一般社会にも進出してみたわけです☆ 軍との大口取引のおかげで金銭的には何の不自由もありませんでしたしね☆ 仮に受け入れられなかったとしても、ただ淘汰されるだけ☆ 私の資産の他にはマイナスはありません☆ しかし成功すれば、よりよいものをたくさんの人に広めることが可能です☆ 私はプラスが好きなのです☆」
「すごい行動力で格好いいです! わたしもリアンさんみたいになりたいなぁ」
「ふふっ、ありがとうございます☆ 女は度胸☆ 行動しなければ、何も生まれないのですよ☆」
「ふむふむ」
「そして世の中のたいがいのことは、やろうがやるまいが多かれ少なかれの後悔を伴うものです☆」
「ほぅほぅ!」
「であれば一度きりの人生、やることをやって、結果はどうあれ過程に対してだけは満足を得られるのなら、それはとても素敵なことだと思いませんか?☆ 私はプラスが好きなのです☆」
「ふぇーー」
ちらりとマナカの表情をうかがうと、教祖様に拝謁した敬虔な信徒のような、憧れ一色に染まった表情をしていた。
どうやら連れてきて正解だったようだな。
――そう思っていた時期が俺にもありました。
「リアンでいいですよ☆」
「どうしてリアンさんはファッションブランドを? 本職はりゅーたいきんぞく? の研究者なんですよね? なんだか科学とファッションはあまり繋がらないといいますか」
マナカがごくごく自然な疑問を呈した。
「いい質問です☆ もともと私は流体金属の研究を買われてこの『スーパーダイラタンシー』プロジェクトに参加したのですが☆」
「すーぱーだいらたんしー?」
「あとでまた説明しますね☆ そこで軍隊の余りに野暮ったい現状を目の当たりにしてしまいまして☆ まぁ話せば長くなりますが、要はつまり、軍隊があまりにもお洒落じゃなかったから、自分が変えようと思ったわけです☆」
「それは仕方ないだろう。軍隊は基本的に戦闘という唯一無二の機能に特化し画一化させることによって成立するものだ。必然、ファッションなどの不必要なものはそぎ落とされる」
軍隊とは個性を排除することで成り立つ、絶対上意下達の究極系だからだ。
だが、
「その考えはもはや過去の遺物ですよ☆ メンタルがフィジカルに影響を与えることは今や分野を問わぬ世界の常識です☆ 昨今は女性兵士も多くなっているというのに、美意識の欠片すら感じないモッサイ官給品ばかりなのは、あまりに前時代的にすぎます☆ お洒落の墓場です☆」
「ふむふむ」
「もちろん旧態依然とした考え方にも、一定の説得力があることは理解できなくもありません☆ ナンセンスな悪習は、よりナンセンスな悪習を淘汰するために生まれた、という言葉もあるくらいです☆ 古いというだけで廃していまうのは、それによって隠されいた軋轢を蒸し返すことになりかねません☆ 軋轢はマイナスしか生みません☆ 私はプラスが好きなのです☆」
「私はプラスが好きなのです☆」
これは出会ってから何度も聞かされた、彼女が生きる上での信念だった。
なかなか真似できるものではないし、なによりそうあり続けるための高い実現能力が要求される。
そんな彼女の高い志は出会った当初から変わることなく、俺は今でも彼女の生きざまに素直に感心させられるのだった。
かなり――いやとても変な人だけど。
「であるならば2つの価値観をアウフヘーベンすればいいだけです☆ 機能美を最重要項目として、華美にならないよう最大限配慮しつつ、見る人が見ればお洒落を感じる官給品を、自分でデザインして提案したわけです☆」
「配給品の切り替えタイミングを狙って、非の打ち所がないプランを提出。お偉方相手に完璧なプレゼンをして満場一致で採用となったって話だ」
『古き良き伝統』そのものを誇りとし、頭の固い事にかけては右に出る者のいない軍上層部を、いったいどうやって説き伏せたのか。
魔法を使ったとまで言わしめた、博士の逸話の一つだった。
「そうしてデザイン関連のスキルと人脈が、図らずもできてしまいまして☆ せっかくなので、今度はこのコンセプトでもって一般社会にも進出してみたわけです☆ 軍との大口取引のおかげで金銭的には何の不自由もありませんでしたしね☆ 仮に受け入れられなかったとしても、ただ淘汰されるだけ☆ 私の資産の他にはマイナスはありません☆ しかし成功すれば、よりよいものをたくさんの人に広めることが可能です☆ 私はプラスが好きなのです☆」
「すごい行動力で格好いいです! わたしもリアンさんみたいになりたいなぁ」
「ふふっ、ありがとうございます☆ 女は度胸☆ 行動しなければ、何も生まれないのですよ☆」
「ふむふむ」
「そして世の中のたいがいのことは、やろうがやるまいが多かれ少なかれの後悔を伴うものです☆」
「ほぅほぅ!」
「であれば一度きりの人生、やることをやって、結果はどうあれ過程に対してだけは満足を得られるのなら、それはとても素敵なことだと思いませんか?☆ 私はプラスが好きなのです☆」
「ふぇーー」
ちらりとマナカの表情をうかがうと、教祖様に拝謁した敬虔な信徒のような、憧れ一色に染まった表情をしていた。
どうやら連れてきて正解だったようだな。
――そう思っていた時期が俺にもありました。
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