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第六章「《蒼混じりの焔》ブルーブレンド」
第68話 死
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「そんなことない。ユウトくんはぶっきらぼうだけど、ずっと優しかったよ。無理なお願いだってちゃんと聞いてくれたし――」
「ああ、そういや……」
お願いと言えば――。
「約束、守れなくて、悪かったな」
「約束って――」
「なんだ、忘れたのかよ……一緒に球技大会に出ようって、マナカが、言ったんだろ……」
俺はずっと馬鹿みたいに大事に大事に覚えてたってのによ。
「そんなのちゃんと覚えてるよぉ! そうじゃなくて! わたし、約束守れなくたって全然気にしないから、だから、だから死なないで――」
「聞いてくれマナカ、俺の最後のお願いだ……」
「最後ってそんな……!」
「最後に、マナカに聞いてほしいんだ……頼む」
「あ……う、うん……」
絞りだしたような俺の震え声にこくんとマナカが頷いたのを見て、俺は言葉をつづけてゆく。
「俺は才能がなくて……それでも、自分にやれることをやろうと頑張って……でも大切な人、大事な物をすべて失って……」
「うん、ユウトくんは頑張ってるよね」
「そんな復讐以外に何もないと思っていた俺の人生だけど、今はさ、幸せを感じてるんだ……最後に、こんな気持ちになれたのなら……こんな気持ちで逝けるなら……振り返ってみれば、俺の人生は、案外そう悪いもんじゃ、なかったのかもな……」
心の奥に秘めていた裸の心を、必死に伝える。
最後に伝えておきたい。
愛園マナカ。
可愛くて、おせっかいで、あぶなっかしくて、一生懸命で。
いつしか俺は、そんなマナカを意識するようになっていた。
大切な存在だと思ってしまった。
だけどその気持ちを必死に抑え続けてきた。
一族の――姉さんの復讐のためだけに生きてきた4年間。
戦って戦って戦い続けた4年間を、ふとした拍子に忘れてしまう――そんな幸せを感じるようになってしまっていたから。
心を固めていた復讐という名の永久凍土が、マナカというむき出しの太陽に照らされて溶けてしまいそうだったから。
「俺は……真夏の太陽のように、光り輝くマナカを……俺が生きる薄汚い路地裏に、引きずり込みたくなかったんだ……こんな世界なぞ知らず、純粋なままで、ずっと周囲を照らし続けて、ほしかった……」
俺は必死に、精一杯の言葉を紡いでゆく。
もはや瀕死の身体に、最後に残ったわずかな気力を注ぎ込んで、大切な人へと懸命に心を、想いを伝えてゆく。
「マナカがいてくれた、この一ヶ月は……本当に楽しかった……」
「これからだって楽しいよ、これからも、もっともっと楽しいよ!」
「マナカと会うたびに……俺は、温かい気持ちに、なる、ことが、できた」
「うん、うん――」
「つらい事ばかりだったけれど……最後にマナカと出会えてからは……俺は本当に幸せだった」
「過去形で言わないでよぉ――」
身体が重い。
もう全く言うことを聞いてくれない――。
「俺の時間は、4年前からずっと、止まったままだった……永劫の暗闇に取り残されてもがいて、あがいて……だけど過去を嘆くばかりだった俺は、新しい一歩がどうしても、どうしても踏み出せなかったんだ……」
「そんなことない、ユウトくんはすごかった、格好良かった――」
「それなのに……さっき俺は、ずっと踏み出せなかったその一歩を……本当に簡単に、踏み出すことが……できたんだ……全部、マナカのおかげだ……周りにいる人間をどんどん変えてゆく……相手の都合なんて気にやしない……でも変えられるのが、ぜんぜん嫌じゃない自分がいて……最期に、こうやって俺は、やっとその一歩を踏み出すことができた……やっぱりマナカ、ほんとに、お前って奴は、持ってる女の子だ……」
視界がぼやける。
アイドルのように可愛らしいマナカの顔も、よく見えなくなっていた。
あと少しだけ、ほんの少しだけでいい、マナカのために動いてくれと願うものの。
だけどもう力は抜けていくばかりで。
ああ、そうか、俺は死ぬのか。
すとんと腑に落ちた。
俺の復讐はここで終わるのだ。
積み重ねた努力は全て意味もなく。
大切な人たちの、姉さんの仇も討つことは叶わず。
――まぁ《期待外れ》に相応しい最期と言えるか。
骨や筋が滅茶苦茶になって、血も流れ過ぎた身体は、ブリキ人形のごとくまったくいうことを聞いてくれない。
むしろ虫の息とはいえ、まだ生きていられるのが不思議なくらいだった。
だがそれももう時間の問題だ。
ただただ戦い続けた4年間は徒労に終わり、全てが水泡に帰す。
生き延びた《蒼混じりの焔》は力を蓄えたのちに、また別の場所で同じような悲劇を起こすのだろう。
それが悔しくないと言えば嘘になる。
仲間や家族、姉さんの仇をとれなかった無念は、言葉では言い表せないほどだ。
でも、そんなネガティブな思考と同時に、マナカを守れたことへの誇らしさと、なんだか温かい感情が心の中にあって。
これはこれで、なかなか悪くない終わり方じゃないか――。
ただ、最愛の姉に向けていたものとよく似た、しかし決定的に何かが違うこの感情が、いったいなんなのか。
それがなんなのか、分からずに終わることが、とても、とても残念だった……。
もっと、マナカと……一緒の時間を……過ごしてみた、かった……。
消えかける意識の中で「悔しい」ではなく、「寂しい」と――最期に、そう、思っ、た――
「ああ、そういや……」
お願いと言えば――。
「約束、守れなくて、悪かったな」
「約束って――」
「なんだ、忘れたのかよ……一緒に球技大会に出ようって、マナカが、言ったんだろ……」
俺はずっと馬鹿みたいに大事に大事に覚えてたってのによ。
「そんなのちゃんと覚えてるよぉ! そうじゃなくて! わたし、約束守れなくたって全然気にしないから、だから、だから死なないで――」
「聞いてくれマナカ、俺の最後のお願いだ……」
「最後ってそんな……!」
「最後に、マナカに聞いてほしいんだ……頼む」
「あ……う、うん……」
絞りだしたような俺の震え声にこくんとマナカが頷いたのを見て、俺は言葉をつづけてゆく。
「俺は才能がなくて……それでも、自分にやれることをやろうと頑張って……でも大切な人、大事な物をすべて失って……」
「うん、ユウトくんは頑張ってるよね」
「そんな復讐以外に何もないと思っていた俺の人生だけど、今はさ、幸せを感じてるんだ……最後に、こんな気持ちになれたのなら……こんな気持ちで逝けるなら……振り返ってみれば、俺の人生は、案外そう悪いもんじゃ、なかったのかもな……」
心の奥に秘めていた裸の心を、必死に伝える。
最後に伝えておきたい。
愛園マナカ。
可愛くて、おせっかいで、あぶなっかしくて、一生懸命で。
いつしか俺は、そんなマナカを意識するようになっていた。
大切な存在だと思ってしまった。
だけどその気持ちを必死に抑え続けてきた。
一族の――姉さんの復讐のためだけに生きてきた4年間。
戦って戦って戦い続けた4年間を、ふとした拍子に忘れてしまう――そんな幸せを感じるようになってしまっていたから。
心を固めていた復讐という名の永久凍土が、マナカというむき出しの太陽に照らされて溶けてしまいそうだったから。
「俺は……真夏の太陽のように、光り輝くマナカを……俺が生きる薄汚い路地裏に、引きずり込みたくなかったんだ……こんな世界なぞ知らず、純粋なままで、ずっと周囲を照らし続けて、ほしかった……」
俺は必死に、精一杯の言葉を紡いでゆく。
もはや瀕死の身体に、最後に残ったわずかな気力を注ぎ込んで、大切な人へと懸命に心を、想いを伝えてゆく。
「マナカがいてくれた、この一ヶ月は……本当に楽しかった……」
「これからだって楽しいよ、これからも、もっともっと楽しいよ!」
「マナカと会うたびに……俺は、温かい気持ちに、なる、ことが、できた」
「うん、うん――」
「つらい事ばかりだったけれど……最後にマナカと出会えてからは……俺は本当に幸せだった」
「過去形で言わないでよぉ――」
身体が重い。
もう全く言うことを聞いてくれない――。
「俺の時間は、4年前からずっと、止まったままだった……永劫の暗闇に取り残されてもがいて、あがいて……だけど過去を嘆くばかりだった俺は、新しい一歩がどうしても、どうしても踏み出せなかったんだ……」
「そんなことない、ユウトくんはすごかった、格好良かった――」
「それなのに……さっき俺は、ずっと踏み出せなかったその一歩を……本当に簡単に、踏み出すことが……できたんだ……全部、マナカのおかげだ……周りにいる人間をどんどん変えてゆく……相手の都合なんて気にやしない……でも変えられるのが、ぜんぜん嫌じゃない自分がいて……最期に、こうやって俺は、やっとその一歩を踏み出すことができた……やっぱりマナカ、ほんとに、お前って奴は、持ってる女の子だ……」
視界がぼやける。
アイドルのように可愛らしいマナカの顔も、よく見えなくなっていた。
あと少しだけ、ほんの少しだけでいい、マナカのために動いてくれと願うものの。
だけどもう力は抜けていくばかりで。
ああ、そうか、俺は死ぬのか。
すとんと腑に落ちた。
俺の復讐はここで終わるのだ。
積み重ねた努力は全て意味もなく。
大切な人たちの、姉さんの仇も討つことは叶わず。
――まぁ《期待外れ》に相応しい最期と言えるか。
骨や筋が滅茶苦茶になって、血も流れ過ぎた身体は、ブリキ人形のごとくまったくいうことを聞いてくれない。
むしろ虫の息とはいえ、まだ生きていられるのが不思議なくらいだった。
だがそれももう時間の問題だ。
ただただ戦い続けた4年間は徒労に終わり、全てが水泡に帰す。
生き延びた《蒼混じりの焔》は力を蓄えたのちに、また別の場所で同じような悲劇を起こすのだろう。
それが悔しくないと言えば嘘になる。
仲間や家族、姉さんの仇をとれなかった無念は、言葉では言い表せないほどだ。
でも、そんなネガティブな思考と同時に、マナカを守れたことへの誇らしさと、なんだか温かい感情が心の中にあって。
これはこれで、なかなか悪くない終わり方じゃないか――。
ただ、最愛の姉に向けていたものとよく似た、しかし決定的に何かが違うこの感情が、いったいなんなのか。
それがなんなのか、分からずに終わることが、とても、とても残念だった……。
もっと、マナカと……一緒の時間を……過ごしてみた、かった……。
消えかける意識の中で「悔しい」ではなく、「寂しい」と――最期に、そう、思っ、た――
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