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第3章

第51話 俺が魔王になったわけ(回想)

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「さてと。前置きが長くなっちゃったね。そろそろ本題に入ろうか」

「察するに、星奈先輩が聞きたいのは今後のことだよな?」

「さすが魔王さま。言いたいことはお見通しだねぇ。そうさ、アタシが聞きたいのはずばりそれだよ。魔王さまはこれからどうするつもりなんだい? 普通の人間として生きていくのかい? それとも魔王としてこの世界に君臨するのかい? アタシはそれが知りたいんだ」

 真剣な表情で問いかけてくる星奈先輩に、俺は特に悩むこともなく結論を告げた。

「もちろん人間として生きていくつもりだ」
「それは勇者ルミナスの転生体がすぐ近くにいるから?」

「いいや違う」
「じゃあなぜだい?」

「単純に俺の自己認識が人間だからだよ。生まれて15年、普通の人間として生きてきたんだ。今更になって魔王の記憶を取り戻しても、正直困るってのが俺の素直な思いだ」

 俺は嘘を言っていないという意思表示もかねて、星奈先輩の目をしっかりと見つめながら、今の考えを飾り立てることなく素直に伝えた。

 すると星奈先輩の真剣な顔が一転、嬉しそうにほころんだ。

「それを聞いて安心したね。アタシはこの日本って国がすごく気に入っているからさ。食べ物は美味しいし、楽しいことで溢れているし、毎日のように太陽がさんさんと大地に降り注ぐ」

「ああ」
 とうなずく俺の前で、星奈先輩はしみじみといった様子で言葉を紡いでゆく。

「分厚い雲に覆われ、作物はろくに育たず、食べるものにも困った挙句に、力だけが絶対のルールとなった魔界とは雲泥の差だよ」

「俺も同感だ。日本はいい国だし、なにより俺にはもう戦う理由がない。ここには食うに困ったあげくに、戦争に活路を見出すしかなかった魔族たちはいないんだから」

 前世の記憶を語る星奈先輩につられるようにして、俺は魔王時代の自分の追憶していた。

 太古の昔に神が定めたという「人と魔族の境界線」。
 そこを越えて人間の領土へと軍事侵攻したのは、たしかに俺たち魔族の一方的な都合だった。

 侵略したのは間違いなく俺たち魔族であり、魔王だったこの俺だ。

 だが度重なる異常気象によって、ただでさえ脆弱だった魔族の土地=魔界は荒廃が進んで不毛の大地となり、もはや魔族は日々を生きることすら難しくなりつつあったのだ。

 もちろんいきなり開戦したわけでもない。
 戦争を始めるまでに、俺を中心とする「未来派」と呼ばれる若く強大な一部の魔族たちは、協力して何度も人間サイドに交渉を持ち掛けていた。

 荒地でも山地で林野でも構わないから、人間が利用できない土地の一部を魔族のために租借させて欲しいと、何度も対話を申し入れた。

 およそ人の住めない土地であっても、強靭な肉体を持つ魔族ならば住むことができるからだ。

 その対価として、金・銀をはじめとした魔界で採掘される豊富な鉱物資源を、人間サイドへと提供する用意もあった。

 しかし人間たちは「神の定めた境界線は絶対である」として、交渉のテーブルに着こうとすらしなかったのだ。

 それは魔族にとっては死刑宣告に等しかった。
 このままではそう遠くない未来に魔族は滅ぶ――。

 そう考えた俺は、魔界の惨状にろくに目もむけずに愚かな権力争いに明け暮れていた魔族の7大有力派閥を、俺という圧倒的な武力を中心として1つにまとめ上げた。

(そのうち2派閥は俺が――文字通り――力でねじ伏せ、完膚なきまでに粉砕して影響力を徹底的に削いだので、当時は5大派閥になっていたが)

 そして彼らの傀儡だった無能な魔王を玉座から引きずり下ろすと、俺は新たな魔王となって人間の領土へと軍事侵攻を開始したのだ。

 最初期こそ理性的で限定的な戦闘が行われていたが、戦闘が激化し、憎しみが憎しみを産む血みどろの種族間闘争へと変化していくと、いつしか互いに互いを滅ぼしあう殲滅戦へと移ろい変わっていった。

 そして長きにわたる人間と魔族の泥沼の戦争の末に、魔王である俺が勇者ルミナスに討たれ――そしてこの世界へと転生したというわけだ。

 つまり俺が戦ったのは、魔界に生きる魔族の生存のため。
 だからこの世界に転生した俺にはもう、戦う理由は存在しえないのだった。

(――以上、回想終わり 0.5秒)
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