84 / 175
第2部 第5章 中間テストの勉強会

第83話 蒼太のあのね帳

しおりを挟む
「俺か? そうだな……あのね帳に何も書くことがなくて困って、だいぶ前のページをそっくりそのまま書き写したら、先生がしっかり覚えてて怒られたのが一番の思い出かな?」

「……え?」
 俺の答えを聞いた優香が、ポカーンって感じのちょっと間の抜けた顔をした。

「そうそう、あれは朝から雨が降りしきる梅雨の頃のことだったな。雨のせいで友達と遊べなくてさ」

「あの、蒼太くん?」

「あのね帳に何も書くことがなかったんで、どうしようもなくなってついつい誘惑に負けて、コピペしちゃったんだよな」

 懐かしい記憶が、俺の脳裏に鮮やかに蘇ってくる。

 でも、あのね帳のコピペは、小学生男子なら一度はやると思うんだよな(もちろんバレて怒られる)。
 そうでなくとも文章を書くのって、まだまだ日本語能力が低い小学生じゃ地味に難しいしさ。

「もぅ、蒼太くんってば。あんまり美月に悪いことを教えないでよね?」
 優香がメッ!って感じの顔をした。

「おっと、悪い」
 そうだった。
 ここには美月ちゃんがいるんだった。

「美月も今のは聞かなかったことにするのよ? 悪い子になっちゃうから、絶対に真似しちゃダメだからね?」
「はい! 嘘はつかないってさっき約束しましたので」

 元気よく素直な返事を返す美月ちゃん。

 ごめん優香。
 こんなにも素直で純真無垢な美月ちゃんがもし悪の道に堕ちたら、まちがいなく俺のせいだよ……。

「それで、美月はあのね帳にどんなことを書いてるの?」
 俺にこれ以上話を聞くのはあまりよろしくないと思ったのか、優香が今度は美月ちゃんに話を振った。

「美月は学校であったこととか、おねーちゃんのことや、蒼太おにーちゃんのこととかを書いてます」

「え、俺のこともか?」
 まさか美月ちゃんのあのね帳に俺が登場しているとは、思いもよらなかったぞ。

「一緒にプールに行ったこととか、お家で遊んだこととか、いっぱい書いてますよ。えへへ」
 美月ちゃんがなんとも嬉しそうに笑う。

「ふうん、そうだったのか。美月ちゃんがどんな風に書いてくれてるのか気になるな。ちょっと見てもいいかな?」

 美月ちゃんの視点からは俺はどんなふうに見えているのか、興味が湧いてしょうがないぞ?
 しかし。

「ごめんなさい、蒼太おにーちゃん。でも、あのね帳はプライバシーの塊なので、他の人には見せられないんです」

「プライバシーなんてまた難しい言葉を知ってるな。でもそうだよな。あのね帳は結構、秘密のことも書くもんな」

 そして先生との内緒の話だと信じていたら、実は家庭訪問とかの機会に割とガッツリ親まで伝わっていることを知るのは、もう少し大人になってからのことだろう。
 あのね帳に書いていた秘密を親が知っていることを知った時は、俺は先生に裏切られたと思ったね。

 それはさておき。

 その後は、優香と一緒にゆるーく英語の勉強をしながら、美月ちゃんの宿題を見てあげた。
 教科書を持って律義に起立して、一生懸命に音読をする美月ちゃんは、控えめに言って天使のように可愛かった。

 その流れで俺と優香も音読をすることになったんだけど、

「おおっ、すごい! もう一回読んでみてもらってもいいかな?」

 優香の音読はアニメの声優のように流暢で、感情が乗っていて上手だった。
 思わずアンコールをお願いしてしまったよ。

 そして俺はというとその全く逆で、

「あの……蒼太おにーちゃん、棒読みです。もっと登場人物の気持ちになりきらないとです」

「蒼太くん。セリフのところはもうちょっと感情を込めて読まないとダメだよ? ゆっくり動画の真似をしてるんじゃないんだからね?」

 姫宮姉妹から揃ってダメ出しをされてしまったのだった。

「いやその、読み間違えないようにしながら同時に感情も込めるって、結構難しくてさ……」
 それとも俺が下手なだけなのか?

「だから音読の宿題があるんですよ」
「ド正論過ぎる……!」

 えー、わたくし紺野蒼太(高校2年生)は、小学3年生に完全論破されてしまいした。

「あはは……」
 美月ちゃんに論破された俺を見て優香が、ひきつった笑いをした。


 そして美月ちゃんの宿題が全部終わったところで、今日の勉強会はお開きになった。
 優香と美月ちゃんが、玄関まで見送りをしてくれる。

「蒼太おにーちゃん、またね!」
「ああ、またな美月ちゃん」
「次までに、ちゃんと音読の練習をしてきてくださいね。できるようになったかどうか、試験をしますからね」
「が、頑張るよ……」

 デデン!
 蒼太の試験が1教科増えてしまった!

「途中からなし崩しになっちゃったけど、蒼太くん、また一緒に勉強会しようね」
「えっと、いいのか?」

「もちろんだし。蒼太くんが留年しないように、私が責任もって面倒をみてあげるんだから」

「成績優秀な優香に面倒を見てもらえるのは、ありがたいな」

 とはいうものの、家事だのなんだので忙しい優香にあまり迷惑はかけられないし、ある程度は自力で頑張らないとだ。

 俺は今日の勉強会によって、中間テストに向けて今までになくモチベーションを高めることができたのだった。

 待ってろよ中間テスト。

 俺はやるぞ!
 ウォォォォォォォォ――!!
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

処理中です...