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第8章 深まりゆく関係

第130話「だって美月、蒼太おにーちゃんのこと好きだもん」

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「久しぶり美月ちゃん。元気そうだね」
 俺の腰あたりに抱き着いた美月ちゃんの頭を優しく撫でてあげると、

「えへへ。蒼太おにーちゃんの匂い、美月大好きー」
 美月ちゃんはさらにぎゅっとくっついてきた。

「それにしっかりと左右を確認してから道に出たよな。偉いぞ」
 ちょっと前に、ちゃんと左右を確認するように優香と約束していた美月ちゃん。
 そのことをちゃんと守っているようだ。

「美月はいい子ですから」
「いい子な美月ちゃんには、ご褒美にもっと撫で撫でしてあげよう」

「えへへ。美月、蒼太おにーちゃんに撫でられるのも大好きですー」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか」

 ストレートに甘えられるのがなんとも照れくさくて、俺はむずがゆい気持ちで美月ちゃんの頭を撫で続けた。
 ――と。

「もう美月ったらいつまでくっついてるの?」

 優香が呆れたような声で言った。

「んー、ずっとー」
 しかし美月ちゃんは、俺の腰のあたりに顔をうずめたままで答える。

「ずっと、って」
「だって美月、蒼太おにーちゃんのこと好きだもん」

「なっ!? もうほら、バカなこと言ってないで、いい加減に離れなさい」
 優香が美月ちゃんを容赦なく俺から引き離そうとする。

「はぅー……」
 美月ちゃんはすぐに抵抗を諦め、渋々と言った様子で俺から離れていった。

 優香にしては珍しく妙に強引で、力づくだったような?
 そのことに少しだけ違和感を覚える。

 もちろん俺は、優香と美月ちゃんの関係を、本質的なところではまだ深く知ってはいない。
 だからこれまでに何度か会った時の感じと比較して、なんとなくそう思ったってだけなんだけど。

 そんなことを考えていると、

「ねーねー蒼太おにーちゃん、美月すごいことに気付いたんです!」

 すぐに明るい笑顔に戻った美月ちゃんが、今度はなにやらワクワクを隠しきれない様子で言った。

「お、何に気付いたんだ? 教えてもらってもいいかな?」

 小学生の女の子が気付くようなこと、というとなんだろう?

 やっぱり一番ありそうなのはオシャレ関係かな?
 自分に似合う髪形とか、可愛く映る角度とか、そういうのを発見して俺に報告したいのかもしれない。

 もしくは最近見たテレビの話とか。
 俺も小さい頃はライダーとか戦隊もののメインキャラが自分と同じ名前だったり、なんとなく似ていたりすると、それだけで嬉しくなったものだ。

 なんてことを、ほのぼのと思っていると――、

「おねーちゃんは蒼太おにーちゃんとは仲良しになっても、彼女になかなかなりませんよね?」

「えっと……おう」
 いきなり火の玉ストレートで内角をえぐってくる発言が来て、俺は返答に困ってしまった。
 困惑したというか。

「み、美月。急に何を言ってるの!?」
 きっと優香も俺と同じような気持ちだと思う。

 っていうか、美月ちゃんはなんでいきなりこんなことを聞いてきたんだろうか?
 何かすごいことに気付いて、それを俺に話したかったんじゃないのか?

「それで、美月思ったんです」
「思ったって?」

「だったら、いっそのこと美月がおにーちゃんの彼女になればいいんじゃないかなって、そう気付いたんですよ!」
 美月ちゃんが胸を張りながらドヤ顔で言った。

「み、美月ちゃんが俺の彼女……?」

「はい。美月は蒼太おにーちゃんのこと大好きなので。だったら美月が蒼太おにーちゃんの彼女になったらいいかなって、思ったんです」

 えっへんと言わんばかりに、自信満々に胸を張って言った美月ちゃんだけど。

「あはは、うーん、俺も美月ちゃんのことは好きだけど、年が離れてるからなぁ」

 年齢差が結構あるからどうだろうなぁ、と適度に曖昧な余地を残しつつ、俺がやんわりと否定しようとしたところで、

「ダメよ!」
 優香がとても強い口調で言った。

 しかも勢い余ったのか、両手を思いっきりギュッと握りしめていた。
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