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第8章 深まりゆく関係

第152話 優香、ツイスターマイスターの境地へ――!

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「じゃあ次はおねーちゃん、右手を赤に」
「赤から赤……うん、えいっ!」

 同じ部位&同じ色が出た場合は、今触っているサークルとは別のサークルを触らなければならない。
 
 優香は隣の赤サークルに触り直した。

 優香の右手が赤サークルを移動したことで、腰のあたりに斜めに覆いかぶさっていた優香が、俺と正面から抱き合うような体位へと移行する。

 片足を上げた逆四つん這い体位で、下から見上げる俺と。
 四つん這い体位で、それに上から覆いかぶさる優香だ。

「じゃあ次はおねーちゃん、右足を浮かせてください」

「右足を浮かせてっと……」

「蒼太おにーちゃん、左足を下ろしてください」
「ふぅ、これは助かった……」

 再び逆四つん這いの体勢になると、俺はホッと一息をついた。
 この体勢はこの体勢でまだしんどいけれど、片足を浮かせている状態よりははるかにマシだ。
 肉体的にも、精神的にも。

「では次はおねーちゃん、左足を浮かせてください」

「左足を浮かせてって、またぁ!?」
 優香が素っ頓狂すっとんきょうな叫び声を上げた。

 しかしそれもそのはず。
 優香はまたもや、両足浮かせチャレンジに挑まなくてはならなくなったからだ。

「運命はいつも残酷なんです」
「あはは、相変わらず美月ちゃんは難しい言葉を知ってるなぁ」

「これは、たんにドラマの受け売りです」
「受け売りって言葉自体も、結構難しいぞ? いろいろ知ってて偉いな」

「えへへ、蒼太おにーちゃんに、褒められちゃいました」

 美月ちゃんのなんともおませなセリフに、優香の行動を待って手持無沙汰の俺が妙に感心していると、

「でも、どうしようかなぁ。蒼太くんが下にいるから、さっきみたいにカエルさんのポーズはできないし……」
 優香が途方に暮れたようにつぶやいた。

「蒼太おにーちゃんにおねーちゃんが乗っかれば、足を上げられませんか?」

「蒼太くんに乗っかる? ええっと、さすがにそれはまずいというか――」
「ダメなんですか?」

 美月ちゃんが不思議そうに小首をかしげた。

「だって、ねぇ? 蒼太くんを土台にしたら迷惑がかかっちゃうもん」

 優香が苦笑いしながら眼下の俺に視線を向ける。

 優香の言うとおりで、逆四つん這いになっている俺に上半身を乗っけたら、それこそ完全に抱き合うような格好になってしまう。
 優香が躊躇ちゅうちょするのも当然だった。

「ええ~、そんなぁ……」
 しかし俺が優香になにかしら答える前に、美月ちゃんが切なくも悲しい声を上げた。

 なんとなく、昔、近所に住んでいたワンコが、ご主人様との大好きな『取ってこい遊び』を終える時の、物悲しい声に似ている気がした。

 冷静に考えれば、俺は優香とのこれ以上の接触を避けるために、ここは俺の勝ちとしてゲームの幕引きを図るべきだろう。

 だけど美月ちゃんのしょんぼり声が、俺のお兄ちゃん心――いわゆる庇護ひご欲――を激しく刺激してやまなかった。

 なんていうかこう、天使のように可愛い美月ちゃんのお願いなら、何でも聞いてあげたくなる気持ちが、強く働いてしまうのだ。

 なにより俺はツイスターマイスター蒼太。
 不戦勝で勝って喜ぶことなど――ないっ!!

「やれるだけやってみるなら、俺のほうは問題ないぞ?」
 俺の口は自然とそう告げていた。

「えっと、そう……?」

「やるだけやってみないか? さっきもだけど、やっぱりやらないで負けるのはゲームとして面白くないって美月ちゃんが思うことには、俺もほぼほぼ同意だからさ」

「蒼太くんが構わないなら……うん、やってみようかな? 私もここまできて、最後が不戦敗なのはちょっと悔しいし」

 優香の瞳から逡巡の色が消え、気高き姫騎士のごとき勝利を求めるツイスターマイスターの顔になる。

 ふふっ、優香。
 今日一でいい表情をしてるぜ?
 優香もついにツイスターマイスターの境地へと達したようだな。

 もはやなにも言うまい。
 さぁ、ともに最高のツイスターをプレイしようじゃないか!
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