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第9章 蒼太、決意の時

第159話 ラブレター(4)

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「でもマジでどうする? 俺が指定した時間と場所に、完全に一致しているぞ。これもう告白どころじゃなくなる」

 3人の間で2つの告白が行われる。

 いわゆる三角関係。
 完全な修羅場だ。

「ははっ、優香と美月ちゃんと3人で、修羅場おままごとをした経験が生きるな――って、そんわけないから」

 俺は自嘲気味に自分にツッコんだ。

「しかもよりにもよって差出人の名前がないんだよな。差出人が不明だと対策も立てづらいよ」

 もちろん俺が好きなのは優香ただ一人だから、相手がどこぞのお姫様だろうが、誰もが憧れる国民的アイドルだろうが、人気Vtuberだろうが、誰が相手だろうとお断りはするんだけれど。

 だけどその断り方が、相手によってちょっとずつ違ってくるわけで。

 物静かな女の子なら丁寧に俺の気持ちを説明しないといけないだろうし、イケイケで押せ押せな運動部の先輩とかなら、ハッキリクッキリバッサリと強気に断った方がいいだろう。

「驚かせたいのか、それとも名前を書くと俺が来ないとでも思ったのかな?」

 俺は女の子の一生懸命な気持ちを無視するタイプじゃないと、自分では思っているつもりなんだけども。

 真実は本人のみぞ知る――。

 キーンコーンカーンコーン。

 頭を悩ませているうちに、短い休み時間が終わって6時間目の始まりを告げるチャイムが鳴る。

「やっべ、教室に戻らないと」
 俺は差出人不明のラブレターを大切にポケットにしまうと、ダッシュで教室に戻った。

 悩んでても仕方がない。

 6時間目の授業の時間を使って、なんとかダブルブッキングを切り抜ける方法を考えるんだ――!

 ◇

 流れるように時間は過ぎていき。

 キーンコーンカーンコーン。
 あっという間に6時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

 すぐに帰りのホームルームが始まったものの、特に何がある訳でもなく放課後になる。

 学校という束縛から解放された途端にクラス中が、いや学校中が騒がしくなっていく。

 健介には事前に『今日は用がある』と伝えてあったので、ゲーセンに誘ってくることもなかった。

 健介のことは今はおいといて。
 喫緊の問題はダブルブッキングについてだ。

 俺は6時間目の授業時間を使って回避方法を考えていたのだが、残念ながら明快な答えを見つけ出すことはできなかった。

 というか直前でダブルブッキングしてしまった以上、回避は無理だという結論に至った。

 今日はラブレターの女の子の告白を受けることを優先して、優香への告白は延期にするか?
 いいや、そんなことはできない。

 手紙で呼び出すなんていう超・意味深な行動をしておきながら、
『今日はちょっと都合悪くなったからまた今度な』
 はさすがにない。

 優香だって俺の行動からそれなりに察するものはあるはず。

 なのに直前でドタキャンされたら、最近のいい雰囲気とか、縮まりつつある(と俺は感じている)2人の距離感とか、そういったプラスの要素がまるっきり吹っ飛んでしまうこと間違いなしだ。

 しかしうだうだと悩んでいる間にも、時は無情に過ぎていき。
 いつの間にか教室からは優香の姿はなくなっていた。

 もう体育館裏に行っちゃったよな。

 そしてここで俺がぐずぐずして体育館裏に行かないと、優香は俺にラブレターを出した女の子と、俺抜きで鉢合わせすることになってしまう。

 いろいろと問題ばかりの今の状況だけど、それだけは絶対にできなかった。

 当初の告白計画では、俺が先に体育館裏に行って優香を待つつもりだったんだけど、もはや四の五の言っている暇はない。

「解決策がなくても、行かなくちゃ」

 これは誰が悪いわけでもない、運命のイタズラなのだから。
 そんなもんに負けてたまるかよ!

「でもなぁ。今日でさえ無ければなぁ……なんでよりにもよって今日なんだ」

 ラブレターを貰って嬉しくないわけじゃない。
 俺は告白はしたことがあっても、告白されたことはなかったから。
 誰かに告白されるくらい想ってもらえることは、本当に嬉しいんだ。

 でも今日だけは勘弁して欲しかった。

 嬉しいことのはずなのに、微妙にかみ合ってくれない人生を憂い、俺はどんよりとした気持ちを引きずりながら、体育館裏へと向かった――。
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