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第28話 バーバラ SIDE 2 ~シェンロン~(上)
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~神龍国家シェンロン~
クレアが追い出されてから約10日。
この日、シェンロン王国の王宮は、各地からもたらされる凶報で大騒ぎとなっていた。
「東部では、いくつものキングウルフの群れが街道にまで出没して、暴れまわっております!」
「西部では、バッタの大群が、田畑どころか森や林まで根こそぎ食い荒らしておりますぞ!」
「北部では、巨大な竜巻が次々と発生し、家屋が壊された多くの民が避難民となっております!」
「南部では、猛烈な日照りが続き、みるみる川が干上がり、このままでは穀倉地帯である南部地域が、壊滅的打撃を受けてしまいますぞ!」
大臣たちが次々と各地の惨状を報告する。
「バーバラ様! これは『神龍災害』ですぞ!」
「バーバラ様! どうか『神龍の巫女』として、荒ぶる神龍さまをお諫めください!」
「バーバラ様! お願いいたします!」
「バーバラ様!」
「バーバラ様!」
…………
……
王さまの前で行われる御前会議の場で、国内各地からもたらされる凶報の数々。
それを聞いた高級貴族や大臣が、次々とバーバラの名を呼んでくる。
しかしそれも当然のことだった。
だってバーバラは『神龍の巫女』、荒ぶる神龍を鎮めるのが、彼女の仕事なのだから。
「わ、わかっているわよ! 今からすぐに神龍の怒りを鎮めてくるから、少し静かにしてちょうだい!」
だからバーバラはそう答えるしかなかった。
これ以上あれこれ言われてはたまらないと、すぐに小走りでその場を後にする。
「バーバラ様、いずこへ!」
「バーバラ様!」
「『祭壇の間』に決まってるでしょ!」
なおも追いすがる大臣たちの手から、辛くも逃れると、王宮の廊下を早足で歩きながら、
「くそっ、いったい何なのよ!」
バーバラは吐き捨てるように言った。
「なんなのよ! これはなんなのよ! なんで100年以上起こらなかった『神龍災害』が、いきなり国中あちこちで発生してるのよ!」
神龍に舞を奉納する『祭壇の間』に向かいながら、バーバラは口汚い言葉で悪態をつき続ける。
「昨日の夜のパーリーで夜更かししすぎたから、美容のためにも今日はゆっくり昼まで寝ようと思ってたのに!」
なのに朝一でたたき起こされたかと思ったら、神龍のご機嫌をとれだ?
ありえないでしょ!
常識的に考えて!!
ちなみにバーバラは神龍に「様」なんてつけない。
4大貴族であるブラスター公爵の一人娘であるバーバラは、イケメン男子に色目を使う時や、国で一番偉い王さま以外の他人に「様」をつけるのが大嫌いだったからだ。
「ほんとサイアク! とっとと舞を踊ってやって、はやく二度寝しないとお肌があれちゃうわ!」
そして『祭壇の間』につくとすぐに、バーバラは踊り始めたのだが――、
「たしかこんな感じだったわよね……?」
それはクレアの『神龍かぐら』とは比べるのもおこがましい程に、雑で下手で、見るに堪えない踊りだった。
いや、下手なだけならまだマシだった。
なにより心がこもっていないのが、大問題だった。
そもそも『神龍の巫女』としての才能が、バーバラにはない。
神龍の声なんて聞こえない。
だから踊りながら神龍の感情を読み取って、何度も微調整を繰り返しては舞を修正し、ご機嫌をとる――。
そんな高度な技術を、バーバラは持ちようがなかった。
だから神龍が今、やる気も熱意も感じないバーバラの『奉納の舞』を見せられて、逆に怒りに火をそそぐ結果になっていることすら、彼女は理解できてなくて――。
バーバラが『奉納の舞』を踊りはじめてすぐに、外でものすごい轟音がした。
王宮の東を守るセイリュウ塔のあたりからだ。
続いて悲鳴のような声が上がって、何かがはげしく崩れ落ちる地鳴りのような音と、地震のような大きな振動が伝わってくる。
「な、なに――!?」
突然のことに慌てて舞を中止したバーバラの元に、下級貴族が血相を変えて報告にきた。
なかなかのイケメンなので、特別に目をかけてやってる下級貴族だ。
「申し上げます! 巨大な落雷がセイリュウ塔を直撃し、セイリュウ塔は全壊して崩れ落ちました! 新たな『神龍災害』と思われます!」
「な、なんですってぇっ!?」
クレアが追い出されてから約10日。
この日、シェンロン王国の王宮は、各地からもたらされる凶報で大騒ぎとなっていた。
「東部では、いくつものキングウルフの群れが街道にまで出没して、暴れまわっております!」
「西部では、バッタの大群が、田畑どころか森や林まで根こそぎ食い荒らしておりますぞ!」
「北部では、巨大な竜巻が次々と発生し、家屋が壊された多くの民が避難民となっております!」
「南部では、猛烈な日照りが続き、みるみる川が干上がり、このままでは穀倉地帯である南部地域が、壊滅的打撃を受けてしまいますぞ!」
大臣たちが次々と各地の惨状を報告する。
「バーバラ様! これは『神龍災害』ですぞ!」
「バーバラ様! どうか『神龍の巫女』として、荒ぶる神龍さまをお諫めください!」
「バーバラ様! お願いいたします!」
「バーバラ様!」
「バーバラ様!」
…………
……
王さまの前で行われる御前会議の場で、国内各地からもたらされる凶報の数々。
それを聞いた高級貴族や大臣が、次々とバーバラの名を呼んでくる。
しかしそれも当然のことだった。
だってバーバラは『神龍の巫女』、荒ぶる神龍を鎮めるのが、彼女の仕事なのだから。
「わ、わかっているわよ! 今からすぐに神龍の怒りを鎮めてくるから、少し静かにしてちょうだい!」
だからバーバラはそう答えるしかなかった。
これ以上あれこれ言われてはたまらないと、すぐに小走りでその場を後にする。
「バーバラ様、いずこへ!」
「バーバラ様!」
「『祭壇の間』に決まってるでしょ!」
なおも追いすがる大臣たちの手から、辛くも逃れると、王宮の廊下を早足で歩きながら、
「くそっ、いったい何なのよ!」
バーバラは吐き捨てるように言った。
「なんなのよ! これはなんなのよ! なんで100年以上起こらなかった『神龍災害』が、いきなり国中あちこちで発生してるのよ!」
神龍に舞を奉納する『祭壇の間』に向かいながら、バーバラは口汚い言葉で悪態をつき続ける。
「昨日の夜のパーリーで夜更かししすぎたから、美容のためにも今日はゆっくり昼まで寝ようと思ってたのに!」
なのに朝一でたたき起こされたかと思ったら、神龍のご機嫌をとれだ?
ありえないでしょ!
常識的に考えて!!
ちなみにバーバラは神龍に「様」なんてつけない。
4大貴族であるブラスター公爵の一人娘であるバーバラは、イケメン男子に色目を使う時や、国で一番偉い王さま以外の他人に「様」をつけるのが大嫌いだったからだ。
「ほんとサイアク! とっとと舞を踊ってやって、はやく二度寝しないとお肌があれちゃうわ!」
そして『祭壇の間』につくとすぐに、バーバラは踊り始めたのだが――、
「たしかこんな感じだったわよね……?」
それはクレアの『神龍かぐら』とは比べるのもおこがましい程に、雑で下手で、見るに堪えない踊りだった。
いや、下手なだけならまだマシだった。
なにより心がこもっていないのが、大問題だった。
そもそも『神龍の巫女』としての才能が、バーバラにはない。
神龍の声なんて聞こえない。
だから踊りながら神龍の感情を読み取って、何度も微調整を繰り返しては舞を修正し、ご機嫌をとる――。
そんな高度な技術を、バーバラは持ちようがなかった。
だから神龍が今、やる気も熱意も感じないバーバラの『奉納の舞』を見せられて、逆に怒りに火をそそぐ結果になっていることすら、彼女は理解できてなくて――。
バーバラが『奉納の舞』を踊りはじめてすぐに、外でものすごい轟音がした。
王宮の東を守るセイリュウ塔のあたりからだ。
続いて悲鳴のような声が上がって、何かがはげしく崩れ落ちる地鳴りのような音と、地震のような大きな振動が伝わってくる。
「な、なに――!?」
突然のことに慌てて舞を中止したバーバラの元に、下級貴族が血相を変えて報告にきた。
なかなかのイケメンなので、特別に目をかけてやってる下級貴族だ。
「申し上げます! 巨大な落雷がセイリュウ塔を直撃し、セイリュウ塔は全壊して崩れ落ちました! 新たな『神龍災害』と思われます!」
「な、なんですってぇっ!?」
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