上 下
20 / 132
第1章 突然のゲーム内転移

第20話 一糸まとわぬアリエッタ

しおりを挟む
「なんか、思った以上にすごく暗いな……」

 俺が住んでいた日本の都市部――街灯の明かりがないところがない――と違って、窓の外は真っ暗に近い。
 遠くからは、ホウホウとフクロウの鳴く声まで聞こえてくる。

 ソシャゲの設定だと、たしかブレイビア学園は王都の外れにあったから、そこまで田舎というわけでもない。

「つまりこれがこの世界の標準ってことだよな。夜はあまり出歩けなさそうだ。ま、学園施設内は魔法照明で明るいからヨシとしよう」

 いつまでも真っ暗な外を見ていても仕方ないので、俺はまだ何もないシンプルな部屋に腰を下ろす。
 壁に背中を預けると、俺は大きく息をはいた。

「まさかこんな漫画やアニメみたいなことが、俺の身に起こるなんてな」

 今この段階になっても、まだ信じられない。
 やっぱり夢でしたと言われても納得してしまう。
 だけどどうやらこれは「現実」のようなのだ。

「しかも強くてニューゲームの上に、俺の推しだったアリエッタと同棲できるなんてな。これもう最高過ぎるだろ」

 ぶっちゃけ、前の世界にたいした未練はない。
 あのまま最悪な高校生活に突入するよりも、推しと同棲を始めた方が圧倒的に素晴らしい。

 なぜこんなことになったのか、その理由くらいは知りたいところではあるが、それを知ったからといって何が変わるわけでもない。

「神様の気まぐれでもなんでも、この状況にはむしろ感謝しかないよ」

 それが今の俺の率直な気持ちだった。

 そんなことを考えていると突然、

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――っっ!!」

 耳をつんざくようなアリエッタの悲鳴が聞こえてきた。
 推し子の悲鳴を聞いて、俺の身体がすぐさま反応する!

「アリエッタ、どうした!」

 俺は脱兎のごとく部屋を出ると、脱衣所とシャワールームのある所まで走った。

 さっき約束した通りにノックをしようとすると、しかしその寸前に脱衣所のドアが開いて、アリエッタが一糸まとわぬ姿のままで飛び出してくる!

 年齢制限的な問題で、ソシャゲでは到底見ることが叶わなかったその芸術的な光景に、俺は思わず呼吸を止めて息をのんだ。

 アリエッタの裸は大浴場でも見たけど、あの時はアリエッタ本人だとは思っていなかったし、気が動転していてそれどころじゃなかったからな。

 絶対王者のリューネほどではないが、十分に豊かで柔らかそうな胸。
 美しいラインを描いてくびれた腰。
 そこからぐいっと膨む形のいいお尻。
 ピチピチの肌は水滴を力強く弾き、多分に水分を含んだ艶やかな髪が、しっとりと肌に張り付く様子は、もはや神がこの世に与えたまえた奇跡の結晶だ。

 眼福、眼福。
 ありがたや~、ありがたや~。

 俺は脳裏に、心に、そして魂に、その美しい姿を刻み込んだ。

「む、むむむむむむ――」
 アリエッタは裸のまま俺にひっしと抱き着くと、謎の言葉を発した。

「むむむ?? 念仏でも唱えているのか?」

「念仏ってなによ! そうじゃなくて! 虫が! 虫が出たの! なんか足がいっぱいのキモイやつ!」
 アリエッタが涙目になりながら指差したところを見ると、小さなゲジゲジがいた。

「なんだ……」
 特に危険がないことを確認して、俺はほっと一安心した。

「もう! ぼぅっとしてないで、早く取って! お願い! ASAP(可及的速やかに)!」

 涙目のアリエッタに懇願するようにお願いされたので、俺はもちろん最速で行動する。
 俺はアリエッタにギュッとしがみつかれたまま、右手を伸ばしてゲジゲジを軽くつまむと、窓から外へポイっと放り投げた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

イアン・ラッセルは婚約破棄したい

BL / 完結 24h.ポイント:33,036pt お気に入り:1,570

運命の番(同性)と婚約者がバチバチにやりあっています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,840pt お気に入り:30

百鬼夜荘 妖怪たちの住むところ

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:937pt お気に入り:16

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:3,492

【完結】地味顔令嬢は平穏に暮らしたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:280

処理中です...