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第二章 王宮女官ミリーナ
第15話 外交使節団(2)
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「おっと、すまない、紹介がまだだったね。彼女はミリーナ=エクリシア。エクリシア男爵家の娘で、将来俺の妻になる女性さ」
「ちょ、ちょっとジェフリー王太子殿下! こんなところで何を仰っておられるのですか!?」
他国の王子に向かって、まるで既に決まったことであるかのように言われてしまい、ミリーナは慌ててジェフリー王太子の袖を引っ張りつつ小声で抗議したのだが、
「俺は一度決めたことは必ず成し遂げるタイプなんでね。つまり君と結ばれると俺が決めた以上、それは太陽が東から上るよりも確定的な未来なのさ」
ジェフリー王太子はミリーナの抗議をまったく取り合おうとはしない。
むしろ自信満々に言われてしまって、ミリーナは「間違っているのはむしろ自分の方なのでは?」とすら思ってしまった。
「ははん、やっぱりそうか! 初めましてミリーナ=エクリシア様。俺はハンナブル王国第二王子のタイナス=ヴィ=ラクス=ハンナブルだ。ジェフリー殿下とは外交交渉の場で何度も顔を合わせていてな、今ではこの通りすっかり仲良しってわけさ。これからよろしく頼む」
すっかり納得した様子で、王族とは思えないほど気さくに話すタイナス王子と、
「ミリーナ様、お初にお目にかかります、タイナス王子の妻のイスカンダリアにございます。本日はお会いできて光栄ですわ。どうぞお見知りおきをくださいませ」
これまた完全にミリーナのことを王太子妃扱いして、流れるように美しい所作のカーテシーを披露するイスカンダリア妃。
「こちらこそお初にお目にかかりますタイナス王子、イスカンダリア様。先ほどご紹介にあずかりましたミリーナ=エクリシアにございます。お二人のお噂はかねがね聞き及んでおります。なにとぞ素晴らしいお付き合いを賜りますれば、光栄の極みにございますわ」
隣国の王族を前に「ジェフリー王太子とは数日前に会ったばかりで、しかもついさっきお付き女官に指名されたばかりですので、皆さまをお出迎えするような心の準備は全くできてすらおりませんわ」などとは口が裂けても言えないミリーナだった。
相手は遠路はるばるローエングリン王国を訪問した王子とその妻を中心とする外交使節団であり、そんな失礼なことを言っていい場面でも相手でも状況でもありえなかった。
なによりそんなことをすればジェフリー王太子の顔に泥を塗ってしまう。
ミリーナは貴族の娘としても、一人の女としても、それだけは絶対に嫌だった。
(これもう完全に外堀を埋められちゃってるわよね。間違いないわ、ジェフリー王太子はこうやって私のことを既成事実化するために今日の歓迎セレモニーに私を出席させたんだわ……)
内心やや思うところがありながらも、ミリーナが貴族の令嬢らしくしっかりと空気を読んで対応していると、
「ああそうそう、こいつは一見お高くとまって見えるが、実は意外と繊細で、しかも俺よりも情熱的な男なんだ。なにせ諦めるってことを知らない。その気持ちが空回りしないようにミリーナが上手いこと手綱を引いてやってくれな。見たところミリーナはしっかり者のようだから、俺としては割と安心しているところだ」
言いながら、タイナス王子はミリーナに魅力的なウインクをしてみせた。
「ちょ、ちょっとジェフリー王太子殿下! こんなところで何を仰っておられるのですか!?」
他国の王子に向かって、まるで既に決まったことであるかのように言われてしまい、ミリーナは慌ててジェフリー王太子の袖を引っ張りつつ小声で抗議したのだが、
「俺は一度決めたことは必ず成し遂げるタイプなんでね。つまり君と結ばれると俺が決めた以上、それは太陽が東から上るよりも確定的な未来なのさ」
ジェフリー王太子はミリーナの抗議をまったく取り合おうとはしない。
むしろ自信満々に言われてしまって、ミリーナは「間違っているのはむしろ自分の方なのでは?」とすら思ってしまった。
「ははん、やっぱりそうか! 初めましてミリーナ=エクリシア様。俺はハンナブル王国第二王子のタイナス=ヴィ=ラクス=ハンナブルだ。ジェフリー殿下とは外交交渉の場で何度も顔を合わせていてな、今ではこの通りすっかり仲良しってわけさ。これからよろしく頼む」
すっかり納得した様子で、王族とは思えないほど気さくに話すタイナス王子と、
「ミリーナ様、お初にお目にかかります、タイナス王子の妻のイスカンダリアにございます。本日はお会いできて光栄ですわ。どうぞお見知りおきをくださいませ」
これまた完全にミリーナのことを王太子妃扱いして、流れるように美しい所作のカーテシーを披露するイスカンダリア妃。
「こちらこそお初にお目にかかりますタイナス王子、イスカンダリア様。先ほどご紹介にあずかりましたミリーナ=エクリシアにございます。お二人のお噂はかねがね聞き及んでおります。なにとぞ素晴らしいお付き合いを賜りますれば、光栄の極みにございますわ」
隣国の王族を前に「ジェフリー王太子とは数日前に会ったばかりで、しかもついさっきお付き女官に指名されたばかりですので、皆さまをお出迎えするような心の準備は全くできてすらおりませんわ」などとは口が裂けても言えないミリーナだった。
相手は遠路はるばるローエングリン王国を訪問した王子とその妻を中心とする外交使節団であり、そんな失礼なことを言っていい場面でも相手でも状況でもありえなかった。
なによりそんなことをすればジェフリー王太子の顔に泥を塗ってしまう。
ミリーナは貴族の娘としても、一人の女としても、それだけは絶対に嫌だった。
(これもう完全に外堀を埋められちゃってるわよね。間違いないわ、ジェフリー王太子はこうやって私のことを既成事実化するために今日の歓迎セレモニーに私を出席させたんだわ……)
内心やや思うところがありながらも、ミリーナが貴族の令嬢らしくしっかりと空気を読んで対応していると、
「ああそうそう、こいつは一見お高くとまって見えるが、実は意外と繊細で、しかも俺よりも情熱的な男なんだ。なにせ諦めるってことを知らない。その気持ちが空回りしないようにミリーナが上手いこと手綱を引いてやってくれな。見たところミリーナはしっかり者のようだから、俺としては割と安心しているところだ」
言いながら、タイナス王子はミリーナに魅力的なウインクをしてみせた。
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