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第二章 王宮女官ミリーナ

第16話 外交使節団(3)

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「おいおいタイナス王子、それはどういう意味だい?」

「どういう意味もなにもそのままの意味さ。長年棚上げにされていたうちとの国境線を画定させた時も、誰もが無理だと思っていたのを最後まで諦めずにまとめて見せたじゃないか。あれ以来、親父も兄貴もお前の熱心なファンなんだぜ? 二言目にはジェフリー殿下を見習えってそりゃあもううるさいくらいでよ」

「そうだったのですね。さすがはジェフリー王太子殿下ですわ」

 ジェフリー王太子が隣国の王族からも高く評価されていると知って、ミリーナはまるで自分のことのように嬉しく感じる。

「ただ時々それが危うく見えることがあってな。壁が高ければ高いほど乗り越えようと燃えるタイプだから――って、ミリーナのその妙な納得顔を見ているとどうやらもう既に、ミリーナに対してそれはもう情熱的にアタックしたようだな」

「ええと、まぁ、はい……」

 さっきの荒々しくも情熱的な口づけをミリーナは思い出し、自然と顔を赤くしてしまった。

「ジェフリー殿下、色恋は人生に欠かすことができない大切ないろどりだ。だが俺たちは国を率いる権利と義務を課された王族という立場だ。のめり込み過ぎるのは禁物だぞ?」

「もちろん分かっているさ」

「ならいい。今のは少し余計なお節介だったな。悪い、礼を失した発言は忘れてくれるとありがたい。ま、俺はジェフリー殿下がそんなことを気にするような小さな男ではないと信じているがな!」

 タイナス王子はそう言うと、ハハハッとあっけらかんと笑った。
 少し重たかった空気を一瞬にして陽気に変えてしまう、不思議な力を持った笑いだった。

 ジェフリー王太子も特に気にはしていない様子で、

(本当の兄弟のように深く信じあわれているのね)

 ミリーナは2人の男の間にしっかりと繋がれた絆の強さというものを、感じずにはいられなかった。

「だいたいそんなことを言えば、俺の評判なんかが足下にも及ばない程、タイナス王子の戦の達人ぶりは近隣諸国でも有名だと思うんだが?」

「そうは言ってもこの10年ほど大きな戦は起こっていないからな。孤立主義を貫く北部のグランデ帝国は別として、周辺諸国の同盟関係も強まっている。そんな平和な時代には、戦うしかできない俺の評価なんざないに等しいってことさ。ま、平和なことは良いことなんだが」

「そうだな。俺もこの平和が長く続くことを切に願っているよ。じゃあそろそろ中に入ろうか。イスカンダリア様も長旅でお疲れでしょう、湯みの用意をしております。まずはしばし疲れを癒しておくつろぎください」

「ご厚意ありがとうございますわジェフリー殿下。それではせっかくの機会ですので、ミリーナ様とご一緒してもよろしいでしょうか?」

「えっと、イスカンダリア様が私とですか?」

「これから何度も顔を合わせますでしょうから、女同士で親交を深めたいのです。ご一緒してはいただけませんか?」

 ジェフリー王太子、タイナス王子、イスカンダリアの視線がミリーナに集中する。

「もちろん喜んでご一緒させていただきますわ」

 果たしてミリーナにこれ以外の回答が許されただろうか? 

 かくしてミリーナはいきなりの外交デビューを果たし、さらにはお風呂外交(裸のお付き合い)までデビューしてしまったのだった。

 ただ、粗相がないかとあれこれ心配をするミリーナをよそに、誠実で一生懸命なミリーナの態度はハンナブル王国の外交使節団からも上々の評価だった。
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