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第二章 王宮女官ミリーナ
第17話 歌唱コンテスト(1)
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「今日は君に、王家主催の歌唱コンテストの審査員をしてもらおうと思う」
歌唱コンテストの貴賓席に連れてこられるなり、ミリーナはジェフリー王太子にそう告げられた。
ハンナブル王国の外交使節団が帰国してすぐのことである。
ジェフリー王太子付き女官になったミリーナが何より驚いたのは、ジェフリー王太子の多忙さだった。
任されている外交の他にも大小様々な公務をこなしており、朝から晩まで1日中会議漬けという日まであるのだ。
そしてそれらをすべて精力的かつ意欲的にこなすジェフリー王太子の姿に、その精悍な横顔に。ミリーナは己の中にある乙女の心を過分に刺激されずにはいられなかった。
(でも惚けてばかりはいられないわ。王太子付き女官を拝命した以上は、とにかく足を引っ張らないように頑張らないと……!)
「私が審査員ですか?」
唐突な内容に、ミリーナは訝しげな顔で言葉を返す。
「そうだけど、何か問題でも?」
「ジェフリー王太子殿下、大変申し訳ありませんが私は歌の採点などとてもではありませんができは致しません。恥ずかしながら、そこまで高度な教養を学んではいないからです」
ミリーナに限らず、芸術的なセンスを磨くことは男爵家の娘程度ではなかなか難しい。
芸術に触れる機会がそう多くはないからだ。
これがもし上級貴族の子女であれば、幼いころから家を歩くだけで芸術品をいくらでも目にし、事あるごとに様々な芸術鑑賞の機会が与えられ、自然と審美眼というものが磨かれてゆくものだ。
しかし貧乏下級貴族の家にそんな高価な芸術品など有りはしない。
せいぜいが過去に王家より下賜された家宝の小剣でも飾ってあればいいほうで、しかし悲しいかなミリーナの家にそんなものはありはしなかった。
美術鑑賞会などにもそう多くは参加できない。
そういうわけなので、必然的に下級貴族よりも上級貴族の方が芸術的センスに優れていることが多かった。
こればかりはどうにも仕方のないことである。
であるからして、ミリーナはあらかじめ辞退させてもらおうと思ったのだが。
「なに、難しく考える必要はないさ。突き詰めれば芸術とは見た者、聞いた者の心をいかに震えさせるかということに尽きるのだから」
けれどジェフリー王太子はそう言うと、ミリーナを安心させるようににこっと笑いかけてくるのだ。
それを見たミリーナは乙女な心を否応なく高鳴らせてしまった。
(最初にテラスで会った時とは全然違う心からの笑顔……なんて素敵なのかしら。まるで胸の奥の大事なところに、笑顔という名の真っ赤な薔薇の花を直接投げ込まれているみたいだわ……)
ジェンの笑顔に負けずとも劣らぬジェフリー王太子の心からの笑顔に、ミリーナはジェンの笑顔を思いつつも、少しずつ自分の心の中がジェフリー王太子によって塗り換えられていくように感じていた。
それほどまでに最近のジェフリー王太子がミリーナに向ける笑顔は、特別で格別で、なによりこれ以上なく魅力的だったのだ。
ミリーナの覚える胸の奥のトキメキをよそに、ジェフリー王太子は言葉を続ける。
「息をのむ美しさや目を見張る精緻さ、さらには溢れんばかりの情熱といった様々な要素が絡み合って芸術となり、人の心を動かすんだ。逆に言えば心が動かなければそれは芸術とは言い得ない。つまり君の心が動かされたと感じた歌にいい点をつければいいだけなんだよ」
そしてこうまで理路整然と「できる」と言われてしまっては、ミリーナにはもう返す言葉は有りはしなかった。
「分かりました、この大役を謹んでお受けいたします」
ミリーナはジェフリー王太子とともに、ミリーナは歌唱コンテストを全身全霊でもって採点した。
…………
……
歌唱コンテストの貴賓席に連れてこられるなり、ミリーナはジェフリー王太子にそう告げられた。
ハンナブル王国の外交使節団が帰国してすぐのことである。
ジェフリー王太子付き女官になったミリーナが何より驚いたのは、ジェフリー王太子の多忙さだった。
任されている外交の他にも大小様々な公務をこなしており、朝から晩まで1日中会議漬けという日まであるのだ。
そしてそれらをすべて精力的かつ意欲的にこなすジェフリー王太子の姿に、その精悍な横顔に。ミリーナは己の中にある乙女の心を過分に刺激されずにはいられなかった。
(でも惚けてばかりはいられないわ。王太子付き女官を拝命した以上は、とにかく足を引っ張らないように頑張らないと……!)
「私が審査員ですか?」
唐突な内容に、ミリーナは訝しげな顔で言葉を返す。
「そうだけど、何か問題でも?」
「ジェフリー王太子殿下、大変申し訳ありませんが私は歌の採点などとてもではありませんができは致しません。恥ずかしながら、そこまで高度な教養を学んではいないからです」
ミリーナに限らず、芸術的なセンスを磨くことは男爵家の娘程度ではなかなか難しい。
芸術に触れる機会がそう多くはないからだ。
これがもし上級貴族の子女であれば、幼いころから家を歩くだけで芸術品をいくらでも目にし、事あるごとに様々な芸術鑑賞の機会が与えられ、自然と審美眼というものが磨かれてゆくものだ。
しかし貧乏下級貴族の家にそんな高価な芸術品など有りはしない。
せいぜいが過去に王家より下賜された家宝の小剣でも飾ってあればいいほうで、しかし悲しいかなミリーナの家にそんなものはありはしなかった。
美術鑑賞会などにもそう多くは参加できない。
そういうわけなので、必然的に下級貴族よりも上級貴族の方が芸術的センスに優れていることが多かった。
こればかりはどうにも仕方のないことである。
であるからして、ミリーナはあらかじめ辞退させてもらおうと思ったのだが。
「なに、難しく考える必要はないさ。突き詰めれば芸術とは見た者、聞いた者の心をいかに震えさせるかということに尽きるのだから」
けれどジェフリー王太子はそう言うと、ミリーナを安心させるようににこっと笑いかけてくるのだ。
それを見たミリーナは乙女な心を否応なく高鳴らせてしまった。
(最初にテラスで会った時とは全然違う心からの笑顔……なんて素敵なのかしら。まるで胸の奥の大事なところに、笑顔という名の真っ赤な薔薇の花を直接投げ込まれているみたいだわ……)
ジェンの笑顔に負けずとも劣らぬジェフリー王太子の心からの笑顔に、ミリーナはジェンの笑顔を思いつつも、少しずつ自分の心の中がジェフリー王太子によって塗り換えられていくように感じていた。
それほどまでに最近のジェフリー王太子がミリーナに向ける笑顔は、特別で格別で、なによりこれ以上なく魅力的だったのだ。
ミリーナの覚える胸の奥のトキメキをよそに、ジェフリー王太子は言葉を続ける。
「息をのむ美しさや目を見張る精緻さ、さらには溢れんばかりの情熱といった様々な要素が絡み合って芸術となり、人の心を動かすんだ。逆に言えば心が動かなければそれは芸術とは言い得ない。つまり君の心が動かされたと感じた歌にいい点をつければいいだけなんだよ」
そしてこうまで理路整然と「できる」と言われてしまっては、ミリーナにはもう返す言葉は有りはしなかった。
「分かりました、この大役を謹んでお受けいたします」
ミリーナはジェフリー王太子とともに、ミリーナは歌唱コンテストを全身全霊でもって採点した。
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