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第二章 王宮女官ミリーナ
第22話 完璧な勘違い
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「そうですか、でしたらはっきりと言って差し上げますわ」
「そうだな、そうしてくれるとありがたい」
(そうしてくれるとありがたいだなんて、なんてまぁ酷い言い様なのかしら! こうなったらもう決定的な証拠を突きつきつけてあげるんですから!)
「では言いましょう。今日の午後、ジェフリー王太子殿下は用事があると私に仰いながら、実は大温室でアンナローゼ様と人目を忍んでこっそりとお会いになっておられましたわよね? 私は大温室の片隅でひしと抱き合う姿をこの目で見たのですから!」
ミリーナは、ビシッ!とジェフリー王太子の顔に人差し指を突きつけた。
一国の王太子の顔を指差すなど国家反逆罪レベルで不敬な上に、最近読んだ探偵推理小説の影響を多分に受けていたのだが、今のミリーナはそれに気づかぬほどに神経が高ぶってしまっていた。
ともあれミリーナはこれ以上ない決定的な証拠を突きつけた――はずだった。
「なんだ、怒っていたのはそのことか」
しかしジェフリー王太子はというと、ハァと軽く息をつくとホッとしたように言ったのだ。
「ええそうですわ! その口ぶりですと、お認めになるということですわよね? アンナローゼ様と秘密の逢瀬をしていたと、ジェフリー王太子殿下はお認めになるということでよろしいですわね!」
鬼の首を獲ったと言わんばかりに鼻息も荒く糾弾するミリーナだったが、
「ミリーナ、それは誤解だ。君は大いに考え違いをしている」
ジェフリー王太子は穏やかな口調で告げる。
「何が誤解だというのですか!」
その態度にミリーナはさらにカチンと来てしまった。
(事実をここまでつまびらかにされておきながら、自分の非をこうまで認めようとしないなんて。なんて軟弱な男なのかしら! 私はこんな男に惚れそうになってしまっていたなんて――!)
「そうだ、確かに俺は大温室でアンナローゼと会っていた。それは間違いない」
「だったら何が誤解なのでしょうや!」
「事ここに至っては正直に言おう。アンナローゼには申し訳ないが君の誤解を解くのが優先だ。これっきりにするからどうしても最後に2人切で話を聞いて欲しいと、アンナローゼに泣いて懇願されたのだよ」
しょうがないといった様子で言ったジェフリー王太子の言葉に、
「……え?」
ミリーナは口をポカーンと開けて固まってしまった。
「俺は君を妻に迎え入れるため、リフシュタイン侯爵家令嬢アンナローゼとの間で持ち上がっていた婚約話をなかったことにした。それは国王や貴族会にも話が通っている正式な決定事項であり、今さら戻ることはあり得ない。だがアンナローゼはどうしても納得がいかないと言って、俺と話をしたいと言ってきたのだ。だから1度だけという約束で2人きりで会った」
「で、ですがお2人で抱き合っておられましたわ……わ、私は確かに、み、見ましたもの……」
「ミリーナを妻にする、よってアンナローゼとは結婚できないと俺は何度も説明したんだ。だがアンナローゼはなかなか聞き入れてはくれず、ついには無理やり俺に抱き着いてきたんだ。もちろんすぐに身体を離したんだが、おそらくミリーナはその一瞬だけしか見ていなんじゃないだろうか」
「えっと、あの……はい、私は2人が抱き合っているのを見て、すぐに逃げるように立ち去りましたから……」
「そうか。仕方がなかったとはいえ、間が悪いところを見せてしまったな。しかもそのせいで君にこんなに辛い思いをさせるだなんて。すまなかったミリーナ、全ては俺が至らなかったせいだ。許して欲しい」
ジェフリー王太子は真摯な謝罪とともに深々と頭を下げた。
「で、では? つまり? 全部私の勘違い……だったのですか?」
「いいや、誤解を招くようなことをした俺が悪かったのだ。アンナローゼは俺に断られる姿を誰にも見られたくないだろうと思い、変に気を使って君に理由を告げずに大温室で密会した俺が一番悪いのだ。そのせいでミリーナ、君をこうまで悲しませてしまった。心から反省している。許して欲しい、この通りだ」
ジェフリー王太子がミリーナに向かって再び頭を下げた。
「あ、えっと……悪いのは嫉妬にかられて勝手に勘違いしてしまった私ですので、頭を下げるのはどうかおやめくださいませ……」
自分の行動がただの勘違いだった上に、ジェフリー王太子が侯爵家令嬢アンナローゼのメンツとプライドを気遣っていたという事実を知り、ミリーナは恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になってしまった。
もはや当初の威勢は欠片もない。
(こんなにも優しく素敵な男性を疑って糾弾するだなんて、私はなんて愚かなことをしてしまったのかしら……恥ずかしさで穴があったら埋まってしまいたいわ……)
「そうだな、そうしてくれるとありがたい」
(そうしてくれるとありがたいだなんて、なんてまぁ酷い言い様なのかしら! こうなったらもう決定的な証拠を突きつきつけてあげるんですから!)
「では言いましょう。今日の午後、ジェフリー王太子殿下は用事があると私に仰いながら、実は大温室でアンナローゼ様と人目を忍んでこっそりとお会いになっておられましたわよね? 私は大温室の片隅でひしと抱き合う姿をこの目で見たのですから!」
ミリーナは、ビシッ!とジェフリー王太子の顔に人差し指を突きつけた。
一国の王太子の顔を指差すなど国家反逆罪レベルで不敬な上に、最近読んだ探偵推理小説の影響を多分に受けていたのだが、今のミリーナはそれに気づかぬほどに神経が高ぶってしまっていた。
ともあれミリーナはこれ以上ない決定的な証拠を突きつけた――はずだった。
「なんだ、怒っていたのはそのことか」
しかしジェフリー王太子はというと、ハァと軽く息をつくとホッとしたように言ったのだ。
「ええそうですわ! その口ぶりですと、お認めになるということですわよね? アンナローゼ様と秘密の逢瀬をしていたと、ジェフリー王太子殿下はお認めになるということでよろしいですわね!」
鬼の首を獲ったと言わんばかりに鼻息も荒く糾弾するミリーナだったが、
「ミリーナ、それは誤解だ。君は大いに考え違いをしている」
ジェフリー王太子は穏やかな口調で告げる。
「何が誤解だというのですか!」
その態度にミリーナはさらにカチンと来てしまった。
(事実をここまでつまびらかにされておきながら、自分の非をこうまで認めようとしないなんて。なんて軟弱な男なのかしら! 私はこんな男に惚れそうになってしまっていたなんて――!)
「そうだ、確かに俺は大温室でアンナローゼと会っていた。それは間違いない」
「だったら何が誤解なのでしょうや!」
「事ここに至っては正直に言おう。アンナローゼには申し訳ないが君の誤解を解くのが優先だ。これっきりにするからどうしても最後に2人切で話を聞いて欲しいと、アンナローゼに泣いて懇願されたのだよ」
しょうがないといった様子で言ったジェフリー王太子の言葉に、
「……え?」
ミリーナは口をポカーンと開けて固まってしまった。
「俺は君を妻に迎え入れるため、リフシュタイン侯爵家令嬢アンナローゼとの間で持ち上がっていた婚約話をなかったことにした。それは国王や貴族会にも話が通っている正式な決定事項であり、今さら戻ることはあり得ない。だがアンナローゼはどうしても納得がいかないと言って、俺と話をしたいと言ってきたのだ。だから1度だけという約束で2人きりで会った」
「で、ですがお2人で抱き合っておられましたわ……わ、私は確かに、み、見ましたもの……」
「ミリーナを妻にする、よってアンナローゼとは結婚できないと俺は何度も説明したんだ。だがアンナローゼはなかなか聞き入れてはくれず、ついには無理やり俺に抱き着いてきたんだ。もちろんすぐに身体を離したんだが、おそらくミリーナはその一瞬だけしか見ていなんじゃないだろうか」
「えっと、あの……はい、私は2人が抱き合っているのを見て、すぐに逃げるように立ち去りましたから……」
「そうか。仕方がなかったとはいえ、間が悪いところを見せてしまったな。しかもそのせいで君にこんなに辛い思いをさせるだなんて。すまなかったミリーナ、全ては俺が至らなかったせいだ。許して欲しい」
ジェフリー王太子は真摯な謝罪とともに深々と頭を下げた。
「で、では? つまり? 全部私の勘違い……だったのですか?」
「いいや、誤解を招くようなことをした俺が悪かったのだ。アンナローゼは俺に断られる姿を誰にも見られたくないだろうと思い、変に気を使って君に理由を告げずに大温室で密会した俺が一番悪いのだ。そのせいでミリーナ、君をこうまで悲しませてしまった。心から反省している。許して欲しい、この通りだ」
ジェフリー王太子がミリーナに向かって再び頭を下げた。
「あ、えっと……悪いのは嫉妬にかられて勝手に勘違いしてしまった私ですので、頭を下げるのはどうかおやめくださいませ……」
自分の行動がただの勘違いだった上に、ジェフリー王太子が侯爵家令嬢アンナローゼのメンツとプライドを気遣っていたという事実を知り、ミリーナは恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になってしまった。
もはや当初の威勢は欠片もない。
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