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第二章 王宮女官ミリーナ
第23話 気遣いと、嫉妬
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「ははっ、君が謝る必要は少しもないさ。俺はアンナローゼには配慮をしておきながら、しかし本来何より大切にすべきだった君への配慮を欠いてしまったのだ。それは言い訳しようのない俺のミスだ」
「あの、もしかして私がお二人の関係について余計なことを考えないようにと、気を使ってくれたのではありませんか?」
(そうだわ、ジェフリー王太子殿下が黙ってこっそり会うだなんて、冷静になってから考えればありえないもの。私への配慮を欠いたと言いながら、その実私のことをとても気遣って下さってのことだったのね……)
「まったく、相変わらずミリーナは察しが良いな。そうだな、そういう気持ちは確かにあったよ」
「やはりそうだったのですね」
(ジェフリー王太子殿下は私に気を遣ったからこそ、私の知らないところでアンナローゼ様とのことにケリをつけようとなされたのだわ)
「だが何度も言うが、結局は説明しようとしなかった俺が今回の事態を招いたのだ。許してくれ、俺はとても君を傷つけてしまった」
「いいえ謝るのは私の方ですわ。私はアンナローゼ様に嫉妬してしまったのです。それでジェフリー王太子殿下にも裏切られたと思ってしまって、それで……」
ミリーナは肩を落としてしょぼくれながら、たどたどしく謝罪の言葉を述べた。
とてもジェフリー王太子の顔を直視することができなかった。
その視界は愚かな自分を恥じる悔恨の涙で滲んでいる。
(ジェフリー王太子殿下は私のことを気遣って下さったというのに、それをあろうことか嫉妬してしまうだなんて……私は、私はなんて愚かな女なの……)
「ははっ、嬉しいことを言ってくれるな」
けれどジェフリー王太子はあっけらかんと笑ってそう言ったのだ。
「……え?」
「好きな相手に嫉妬されるというのは、こうも嬉しいものなのだな」
「嬉しい……のですか?」
「だってそうだろう? 嫉妬とはつまり、それだけ君が俺を好いてくれているということの証明に他ならないのだから」
「それは、その、ええ、はい……そのように仰っていただけると私の気も少し楽になりますけれど……」
「よし、じゃあこうしよう。今回はお互いに至らぬところがあったということで、お互いがお互いを許すということで手を打たないかい?」
「それでよろしいのでしょうか?」
「もちろんさ」
「ですが私はジェフリー王太子殿下にとても酷いことを言ってしまい――」
「君といると初めて尽くしで、人生が豊かになった気がするんだ」
ミリーナの謝罪の言葉を遮るようにしてジェフリー王太子が言った。
「え?」
「パーティの途中、テラスで会った時のことを覚えているかい? 俺はあの時、生まれて初めて女性にダンスの誘いを断られた」
「ううっ、その節は誠に申し訳ありませんでした……」
テラスでの「やらかし」を思い出してミリーナは顔を真っ赤にした。
「はははっ、非難しているわけじゃないんだ。俺はそれを感謝しているんだから」
「感謝……ですか?」
文脈的にどうにもミスマッチな単語が出てきたことに、ミリーナは怪訝な顔をしながら小首を傾げた。
さっきからジェフリー王太子の言うことがどうにもよく分からないのだ。
「あの、もしかして私がお二人の関係について余計なことを考えないようにと、気を使ってくれたのではありませんか?」
(そうだわ、ジェフリー王太子殿下が黙ってこっそり会うだなんて、冷静になってから考えればありえないもの。私への配慮を欠いたと言いながら、その実私のことをとても気遣って下さってのことだったのね……)
「まったく、相変わらずミリーナは察しが良いな。そうだな、そういう気持ちは確かにあったよ」
「やはりそうだったのですね」
(ジェフリー王太子殿下は私に気を遣ったからこそ、私の知らないところでアンナローゼ様とのことにケリをつけようとなされたのだわ)
「だが何度も言うが、結局は説明しようとしなかった俺が今回の事態を招いたのだ。許してくれ、俺はとても君を傷つけてしまった」
「いいえ謝るのは私の方ですわ。私はアンナローゼ様に嫉妬してしまったのです。それでジェフリー王太子殿下にも裏切られたと思ってしまって、それで……」
ミリーナは肩を落としてしょぼくれながら、たどたどしく謝罪の言葉を述べた。
とてもジェフリー王太子の顔を直視することができなかった。
その視界は愚かな自分を恥じる悔恨の涙で滲んでいる。
(ジェフリー王太子殿下は私のことを気遣って下さったというのに、それをあろうことか嫉妬してしまうだなんて……私は、私はなんて愚かな女なの……)
「ははっ、嬉しいことを言ってくれるな」
けれどジェフリー王太子はあっけらかんと笑ってそう言ったのだ。
「……え?」
「好きな相手に嫉妬されるというのは、こうも嬉しいものなのだな」
「嬉しい……のですか?」
「だってそうだろう? 嫉妬とはつまり、それだけ君が俺を好いてくれているということの証明に他ならないのだから」
「それは、その、ええ、はい……そのように仰っていただけると私の気も少し楽になりますけれど……」
「よし、じゃあこうしよう。今回はお互いに至らぬところがあったということで、お互いがお互いを許すということで手を打たないかい?」
「それでよろしいのでしょうか?」
「もちろんさ」
「ですが私はジェフリー王太子殿下にとても酷いことを言ってしまい――」
「君といると初めて尽くしで、人生が豊かになった気がするんだ」
ミリーナの謝罪の言葉を遮るようにしてジェフリー王太子が言った。
「え?」
「パーティの途中、テラスで会った時のことを覚えているかい? 俺はあの時、生まれて初めて女性にダンスの誘いを断られた」
「ううっ、その節は誠に申し訳ありませんでした……」
テラスでの「やらかし」を思い出してミリーナは顔を真っ赤にした。
「はははっ、非難しているわけじゃないんだ。俺はそれを感謝しているんだから」
「感謝……ですか?」
文脈的にどうにもミスマッチな単語が出てきたことに、ミリーナは怪訝な顔をしながら小首を傾げた。
さっきからジェフリー王太子の言うことがどうにもよく分からないのだ。
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