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最終章
第54話 それから3年後
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ミリーナが王宮から姿を消してから3年の月日が流れた。
ミリーナはローエングリン王国の辺境にある小さな街で、目立たないよう静かに過ごしていた。
リフシュタイン侯爵は万が一にもミリーナが気を変えないようにと、それなりの生活支援を行っていた。
「ミリーナを上手く追い出してから、今日でちょうど3年か。殺すことは容易いが、もはや王宮からいなくなった男爵の娘なんぞにたいした価値などありはせぬからの」
王宮にある自分の執務室で、使用人を下がらせたリフシュタイン侯爵は一人ごちた。
リフシュタイン侯爵にとってミリーナは価値もない矮小な存在だったため、3年たった今でも生かされていたのだ。
「じゃがミリーナの産んだ男子は紛れもなくローエングリン王家の血を引いておる。ミリーナには何の価値もないが、あの子供はもし何かあった場合に最強の切り札として使えるやもしれんからな」
リフシュタイン侯爵はくくくと下卑た笑い声を漏らした。
な、なんと言うことだろうか!
この男ときたら全てを自分で仕組んでおきながら。
ミリーナがジェフリー王太子を想う心を利用して騙していながら。
さも自分は善人の振りをして、3年もの間ミリーナに感謝され続けていたのだ!
「我が娘アンナローゼがジェフリー王太子殿下の婚約者となった今、我が権勢たるや既に盤石じゃ。後は男子さえ産まれれば、ジェフリー王太子殿下を暗殺して幼子を国王に据えれば、この国は実質ワシのものよ」
これがリフシュタイン侯爵の陰謀の全貌だった。
まさに外道。
鬼畜の所業である。
「じゃがまぁ、手札というものは多いに越したことはないからの。それまでミリーナとあの子供にはせいぜい恩を売っておこうではないか」
もはや言葉もない。
リフシュタイン侯爵はどこまでも性根の腐った人間だった。
~~
ミリーナはローエングリン王国を中心とする同盟諸国とグランデ帝国との間に10年の不戦協定が結ばれたことを聞き、自分にはもう関係ないことだと思いながらも、自分の取った行動は正しかったのだと安堵していた。
ただジェフリー王太子がリフシュタイン侯爵家令嬢アンナローゼと婚約したと聞いた時は、ひと月に渡って涙で枕を濡らしてしまった。
もう自分は無関係だと頭では理解していても、燃え上がった恋心は3年の月日が流れてもなお消えてはいなかったからだ。
なによりミリーナには男の子供がいた。
ジェフリー王太子との子供である。
ジェフリー王太子そっくりの美しい黒髪と黒い瞳をした我が子を見る度、ミリーナはジェフリー王太子と過ごした甘い日々を思い出さずにはいられないのだった。
また本来ならばこの男子はローエングリン王国の世継ぎとなるいと尊き身分である。
しかしミリーナは何も教えないで市井の子供として育てていこうと考えていた。
「はい、おっぱいでちゅよ~」
今日も甘え盛りの息子にお乳を上げていると、
「ミリーナ様、お客さまがいらしていますよ」
家事手伝いをしてくれている年配の女性がミリーナに声をかけてきた。
ミリーナは授乳をいったん中断すると、「おっぱい……」とせがむ幼子を抱いてあやしながら玄関へと向かう。
そしてそこにいた人物を目にした瞬間、その身を岩のように硬直させてしまった。
なぜならそこにいたのは――、
「探したよミリーナ。まさかこんな辺境の地にいるなんてね。どうりで簡単には見つからないはずだ」
何ということだろうか、二度と会うことはないと思っていたジェフリー王太子その人だったのだから──!
ミリーナはローエングリン王国の辺境にある小さな街で、目立たないよう静かに過ごしていた。
リフシュタイン侯爵は万が一にもミリーナが気を変えないようにと、それなりの生活支援を行っていた。
「ミリーナを上手く追い出してから、今日でちょうど3年か。殺すことは容易いが、もはや王宮からいなくなった男爵の娘なんぞにたいした価値などありはせぬからの」
王宮にある自分の執務室で、使用人を下がらせたリフシュタイン侯爵は一人ごちた。
リフシュタイン侯爵にとってミリーナは価値もない矮小な存在だったため、3年たった今でも生かされていたのだ。
「じゃがミリーナの産んだ男子は紛れもなくローエングリン王家の血を引いておる。ミリーナには何の価値もないが、あの子供はもし何かあった場合に最強の切り札として使えるやもしれんからな」
リフシュタイン侯爵はくくくと下卑た笑い声を漏らした。
な、なんと言うことだろうか!
この男ときたら全てを自分で仕組んでおきながら。
ミリーナがジェフリー王太子を想う心を利用して騙していながら。
さも自分は善人の振りをして、3年もの間ミリーナに感謝され続けていたのだ!
「我が娘アンナローゼがジェフリー王太子殿下の婚約者となった今、我が権勢たるや既に盤石じゃ。後は男子さえ産まれれば、ジェフリー王太子殿下を暗殺して幼子を国王に据えれば、この国は実質ワシのものよ」
これがリフシュタイン侯爵の陰謀の全貌だった。
まさに外道。
鬼畜の所業である。
「じゃがまぁ、手札というものは多いに越したことはないからの。それまでミリーナとあの子供にはせいぜい恩を売っておこうではないか」
もはや言葉もない。
リフシュタイン侯爵はどこまでも性根の腐った人間だった。
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ミリーナはローエングリン王国を中心とする同盟諸国とグランデ帝国との間に10年の不戦協定が結ばれたことを聞き、自分にはもう関係ないことだと思いながらも、自分の取った行動は正しかったのだと安堵していた。
ただジェフリー王太子がリフシュタイン侯爵家令嬢アンナローゼと婚約したと聞いた時は、ひと月に渡って涙で枕を濡らしてしまった。
もう自分は無関係だと頭では理解していても、燃え上がった恋心は3年の月日が流れてもなお消えてはいなかったからだ。
なによりミリーナには男の子供がいた。
ジェフリー王太子との子供である。
ジェフリー王太子そっくりの美しい黒髪と黒い瞳をした我が子を見る度、ミリーナはジェフリー王太子と過ごした甘い日々を思い出さずにはいられないのだった。
また本来ならばこの男子はローエングリン王国の世継ぎとなるいと尊き身分である。
しかしミリーナは何も教えないで市井の子供として育てていこうと考えていた。
「はい、おっぱいでちゅよ~」
今日も甘え盛りの息子にお乳を上げていると、
「ミリーナ様、お客さまがいらしていますよ」
家事手伝いをしてくれている年配の女性がミリーナに声をかけてきた。
ミリーナは授乳をいったん中断すると、「おっぱい……」とせがむ幼子を抱いてあやしながら玄関へと向かう。
そしてそこにいた人物を目にした瞬間、その身を岩のように硬直させてしまった。
なぜならそこにいたのは――、
「探したよミリーナ。まさかこんな辺境の地にいるなんてね。どうりで簡単には見つからないはずだ」
何ということだろうか、二度と会うことはないと思っていたジェフリー王太子その人だったのだから──!
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