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最終章

第58話 宣誓

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「これだけご迷惑をおかけしたというのに、今さら戻れませんわ……」

「まだそんなことを言うのか? 君は俺に、君以外の女と結婚して子を為せというのか? そのために愛もなく君以外の女を抱く悲しみを味わえというのか?」

「わたし……は……」

「それにその子はどうなる。その子にも幸せになる権利が、父親と過ごす権利があるはずだろう」

「それは……」

「その子に父親が誰かも知らせずに一生を過ごさせるのか? その子の父親が俺であると君は知りながら決して伝えず、その子から父親を取り上げたままでいるというのか?」

「……」

「誰もが持つはずの父親に愛される権利を、君はその愛しい我が子から奪おうというのか? それが本当に正しいことだと、子供のためだと。君は心の底から思っているのかい?」

「――っ」

「俺は今でも変わらず君を愛している。そして俺と君との間に生まれたその子のことも当然愛している。王家の血を引いているからではない。俺と君との子だからだ。君は君自身だけでなく、俺の子までも俺から取り上げようというのだろうか。それはあまりに酷というものではないか?」

「で、ですが……この国を守るには、この国に住まう民を守るためには、私がジェフリー王太子殿下の隣にいてはいけないのです……」

「誰に何を吹き込まれたかは知らんが、ふん! 今から言うことをよく聞くんだなミリーナ!」

「は、はい!」

 そのジェフリー王太子の威勢の良さにミリーナはびっくりしてしまい。
 大きな声で返事をするとともに、ずっとうつむき気味だった視線が上がってジェフリー王太子の目へと固定された。

 そしてミリーナと視線が絡まったことをしっかりと確認してから、ジェフリー王太子は高らかに歌い上げるように宣誓した!

「たった1人の愛しい君すら守ることができずに! それでこの国も、この国に住まう民たちも守れるはずがないだろうが!」

「ぁ……」

「ミリーナ、俺はかつて君を妻にすると言ったはずだ。そしてこれは確定事項だとも言ったはず」

「……確かに仰いました」

「よって君は俺の妻になるのだ。そして俺はそのために、君に降りかかる火の粉から君を守り抜き、もちろん国も民も何もかもを君と同じくらいに幸せにしてみせる。それが俺が作り上げる国の在り方だと、俺が作る国の形だと! 今ここに宣誓しよう!」

「私は、私は……」

「ミリーナ、君は俺の妻だ。これは既に確定事項であり、この事もはや拒否することは許さん。俺の隣にいろミリーナ。それが君の務めだ」

「う、ぁ……うぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 3年が過ぎてなお変わらぬままのジェフリー王太子の鮮烈なる愛の言葉を聞き。
 また同時に愛しき我が子の将来を思ってついに泣き崩れたミリーナを、ジェフリー王太子が力強く抱きとめる。

 幼い我が子ともども、ミリーナを強く強く抱きしめたのだった。

「俺の隣が君の居場所だ。いや俺の隣は君以外にはありえない。いい加減に帰ってこい」

「はい、ジェフリー王太子殿下……」

 3年前より少したくましくなったジェフリー王太子の腕の中で、3年前と変わらぬようにミリーナが大きく頷いた。

「おいおいミリーナ、さっきからのそれはどういうことなんだ?」

 しかしジェフリー王太子はなぜかたいそう不満そうな顔を見せたのだ。

「ええっと、何がでしょうか?」

「3年ぶりの再会だというのに、その他人行儀な呼び方はやめて欲しいものだな」

「そうですわね……では改めてジェフリー。私はあなたを一生愛し続けるとここに誓います。もう2度と、何があっても、あなたから離れようとは致しません」

「俺もだよミリーナ。君を一生愛し続けるとここに誓おう」

「ジェフリー」
「ミリーナ」

 2人は互いに互いの名を愛おしそうに呼ぶと、どちらからともなく口づけを交わした。
 その3年ぶりとなる口づけは、2人の心を再び強く強く結びつけたのだった――。
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