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最終章
第59話 答え合わせ
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心が溶け合うような口づけを、心行くまで交わし合ってから。
「さてと。積もる話はたくさんあるが、その前にまずは虚言を弄して君をそそのかした人間を俺は処断しなければならない――ずばり、リフシュタイン侯爵だね?」
ジェフリー王太子が眼光鋭く言った。
(まるで獲物を見定めたライオンのような厳しい目だわ)
「どうしてお判りになったのですか?」
「君がいなくなって一番利益を得たのが、娘のアンナローゼを再び擁立し俺の婚約者へと据えたリフシュタイン侯爵だからだ。だから今のはただの簡単な答え合わせさ」
「なるほど、納得ですわ」
「俺は君がいなくなった当初からリフシュタイン侯爵のことを疑いつつ、しかし敢えてアンナローゼを婚約者に迎え入れることでリフシュタイン侯爵の油断を誘っていたのだ」
「なんと、そうだったのですね!」
ジェフリー王太子の壮大な計画にミリーナは驚きを禁じ得なかった。
「そしてその間に君の居場所を探すとともに、この事件の黒幕──つまりリフシュタイン侯爵を秘密裏に捜査していたのさ」
「まさかそのようなことをなされているとは、思いもよりませんでしたわ」
「だがその甲斐あってついに決定的な証拠をつかんだのだ。そして君も見つけることができた。3年もかかってしまったが、君の証言とその証拠があればリフシュタイン侯爵の罪を暴くことができる。一緒にその場に来てくれるね?」
「もちろんですとも。だってあなたの隣はもう私の指定席なのですから──」
~~~~
それから1カ月をかけて入念に準備をしたジェフリー王太子は、リフシュタイン侯爵を御前裁判――国王の前での裁判にかけることを決めた。
~~~~
その日も、王の間では定例の御前会議が行われていた。
「それでは今日の御前会議はこれにて終了といたします」
進行役のリフシュタイン侯爵の発した会議の終わりを告げる言葉に、大臣たち列席する上級貴族たちは軽く一息を付くと、ローエングリン国王の退出を見送るべく姿勢を正して待っていたのだが――、
「これより緊急の御前裁判を執り行いたいと思う」
突然上がったジェフリー王太子の言葉を聞くと途端にざわめき、色めき立った。
「申し訳ありませんジェフリー王太子殿下。しかし進行役の私めはそのような話は聞いておりませぬが?」
「緊急の、と言っただろう? 当然、事前には伝えていないさ」
そう言ったジェフリー王太子の眼差しが、自分に対する強い敵意をはらんでいることを百戦錬磨のリフシュタイン侯爵は鋭敏に感じとった。
(ほぅ、どうやらジェフリー王太子殿下はワシを御前裁判にかけようと思っているようじゃの。まさかとは思うが、ワシの計画した壮大な国家簒奪計略のことでか? いやそれはあり得ぬはずじゃ。かといって他に思い当たる節もない。ならばここは慎重を期して先延ばしにするとしよう)
「ですが国王陛下にも本日のご予定というものがございます。とり急ぎ今日は何の裁判をするのかだけを確認して、実際の裁判に関しては日を改めるということでどうですかな?」
まずはローエングリン国王の予定を出しにして、御前裁判を後日へとずらそうとするリフシュタイン侯爵だったが、
「なに、余なら構わぬ。ジェフリーがわざわざ余と大臣たちの前でことさらに訴えたいことがあるというのであれば、聞こうではないか」
ローエングリン国王がピシャリと言ってそれはご破算となった。
「国王陛下の多大なるお心遣い感謝いたします」
(ちっ、相変わらず息子には甘い王よ。だがまぁよい。仮に例の件であったとしても証拠はない。いくら糾弾されようとも、言葉だけならいくらでも逃げ切れる自信はあるわい)
リフシュタイン侯爵とジェフリー王太子の視線が交錯する。
(どうやら向こうはやる気満々のようじゃの。ならばこの勝負、この場で受けて立とうではないか。青二才目が調子に乗りおってからに、このワシの首を取れるものなら取ってみるがよい!)
ローエングリン国王と上級貴族たちが見守る御前裁判の場で、ジェフリー王太子とリフシュタイン侯爵の決戦の火蓋が切って落とされた――!
「さてと。積もる話はたくさんあるが、その前にまずは虚言を弄して君をそそのかした人間を俺は処断しなければならない――ずばり、リフシュタイン侯爵だね?」
ジェフリー王太子が眼光鋭く言った。
(まるで獲物を見定めたライオンのような厳しい目だわ)
「どうしてお判りになったのですか?」
「君がいなくなって一番利益を得たのが、娘のアンナローゼを再び擁立し俺の婚約者へと据えたリフシュタイン侯爵だからだ。だから今のはただの簡単な答え合わせさ」
「なるほど、納得ですわ」
「俺は君がいなくなった当初からリフシュタイン侯爵のことを疑いつつ、しかし敢えてアンナローゼを婚約者に迎え入れることでリフシュタイン侯爵の油断を誘っていたのだ」
「なんと、そうだったのですね!」
ジェフリー王太子の壮大な計画にミリーナは驚きを禁じ得なかった。
「そしてその間に君の居場所を探すとともに、この事件の黒幕──つまりリフシュタイン侯爵を秘密裏に捜査していたのさ」
「まさかそのようなことをなされているとは、思いもよりませんでしたわ」
「だがその甲斐あってついに決定的な証拠をつかんだのだ。そして君も見つけることができた。3年もかかってしまったが、君の証言とその証拠があればリフシュタイン侯爵の罪を暴くことができる。一緒にその場に来てくれるね?」
「もちろんですとも。だってあなたの隣はもう私の指定席なのですから──」
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それから1カ月をかけて入念に準備をしたジェフリー王太子は、リフシュタイン侯爵を御前裁判――国王の前での裁判にかけることを決めた。
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その日も、王の間では定例の御前会議が行われていた。
「それでは今日の御前会議はこれにて終了といたします」
進行役のリフシュタイン侯爵の発した会議の終わりを告げる言葉に、大臣たち列席する上級貴族たちは軽く一息を付くと、ローエングリン国王の退出を見送るべく姿勢を正して待っていたのだが――、
「これより緊急の御前裁判を執り行いたいと思う」
突然上がったジェフリー王太子の言葉を聞くと途端にざわめき、色めき立った。
「申し訳ありませんジェフリー王太子殿下。しかし進行役の私めはそのような話は聞いておりませぬが?」
「緊急の、と言っただろう? 当然、事前には伝えていないさ」
そう言ったジェフリー王太子の眼差しが、自分に対する強い敵意をはらんでいることを百戦錬磨のリフシュタイン侯爵は鋭敏に感じとった。
(ほぅ、どうやらジェフリー王太子殿下はワシを御前裁判にかけようと思っているようじゃの。まさかとは思うが、ワシの計画した壮大な国家簒奪計略のことでか? いやそれはあり得ぬはずじゃ。かといって他に思い当たる節もない。ならばここは慎重を期して先延ばしにするとしよう)
「ですが国王陛下にも本日のご予定というものがございます。とり急ぎ今日は何の裁判をするのかだけを確認して、実際の裁判に関しては日を改めるということでどうですかな?」
まずはローエングリン国王の予定を出しにして、御前裁判を後日へとずらそうとするリフシュタイン侯爵だったが、
「なに、余なら構わぬ。ジェフリーがわざわざ余と大臣たちの前でことさらに訴えたいことがあるというのであれば、聞こうではないか」
ローエングリン国王がピシャリと言ってそれはご破算となった。
「国王陛下の多大なるお心遣い感謝いたします」
(ちっ、相変わらず息子には甘い王よ。だがまぁよい。仮に例の件であったとしても証拠はない。いくら糾弾されようとも、言葉だけならいくらでも逃げ切れる自信はあるわい)
リフシュタイン侯爵とジェフリー王太子の視線が交錯する。
(どうやら向こうはやる気満々のようじゃの。ならばこの勝負、この場で受けて立とうではないか。青二才目が調子に乗りおってからに、このワシの首を取れるものなら取ってみるがよい!)
ローエングリン国王と上級貴族たちが見守る御前裁判の場で、ジェフリー王太子とリフシュタイン侯爵の決戦の火蓋が切って落とされた――!
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