62 / 67
最終章
第60話 御前裁判(1)
しおりを挟む
「それで誰をどのような罪で御前裁判にかけようというのですかな、ジェフリー王太子殿下。まずはそこを明らかにしていただきましょう」
「被告人はあなたですよリフシュタイン侯爵。あなたには国家簒奪の嫌疑がある」
「国家簒奪とはまた随分な言いようですな。しかしながら私にはまったくもって身に覚えがございませぬ。なにか大きな勘違いをしておられるのではありませんかな?」
「いいや勘違いなどではないさ」
「ではそう仰る根拠をお聞きしましょう。なにぶん私には思い当たる節はございませんので」
始まって早々、舌鋒鋭く追及するジェフリー王太子と、泰然自若で知らぬ存ぜずと受け流すリフシュタイン侯爵。
しかし柔和な言葉とは裏腹に、リフシュタイン侯爵の目は鋭い眼光を帯びていた。
2人の視線がローエングリン国王の御前で激しくぶつかり合う。
「では根拠の1つとして証人を呼ばせてもらいたい。問題はないな?」
「証人ですとな? それはもちろん構いませんが、いったい誰なのですかな?」
「あなたもよく知る人物さ──ミリーナ、入って」
「はい」
その言葉で、既に入り口付近で待機していたミリーナが王の間へと入室した。
「な、ミリーナ様ではないか……!」
「ミリーナ様はこの3年間所在不明だったのでは?」
「いったい今までどこにおられたのか」
「それよりもミリーナ様がどうしてこの場におられるのだ?」
突然の事態にざわめく貴族たちを尻目に、ジェフリー王太子は寄り添うように隣へとやってきたミリーナに問うた。
「3年前、俺がハンナブル王国に同盟交渉で出向いて、この国を留守にしていた時のことを尋ねたい」
「どうぞなんなりとお聞きくださいませ」
「リフシュタイン侯爵は俺の居ぬ間に、ミリーナの家柄が劣ることで俺に迷惑がかかると虚言を弄し、ミリーナを騙して辺境の地に匿った。そうだね、ミリーナ?」
「はい、全てジェフリー王太子殿下の言ったとおりにございます」
「な、なんと!」
「リフシュタイン侯爵はそのようなことを言っていたのか!」
「ミリーナ様が失踪なされたのはそれが原因なのか!」
再びざわめき始める貴族たち。
しかしジェフリー王太子は両手を上下させて静かに、というジェスチャーをすると、リフシュタイン侯爵に向かって鋭く告げた。
「当時ミリーナは王太子妃の最有力候補だった。それを騙して失踪させたのだ。これは紛れもない国家への反逆ではないかなリフシュタイン侯爵?」
(ふん、何を言ってくるかと思えばそのことか。それに対する言い訳なんぞは3年前もからとうに用意しておるわ。辺境の地に匿っていたはずのミリーナがこの場に出てきたことには驚いたが、それがどうした。あまりこのワシを舐めるでないぞ)
「いいえ、あれは国を思ってのことにございます」
「なんだと?」
「事実そのおかげで我が方の同盟はおおいに強化され、グランデ帝国とも向こう10年の平和条約を結ぶことができたではありませんか。この結果こそが、私の正しさをこれ以上なく証明しているのではありませんかな?」
図星を指されても顔色一つ変えずに、平然とした態度で言葉を返すリフシュタイン侯爵。
「あくまでシラを切るつもりかい?」
「シラを切るもなにも、私はただただこの国のためを思ってやったのですから。平和な世が続いたことが国家への反逆というのでしたら、それは仕方ありません。その誹りは甘んじて受け入れましょう」
「この国のためを思って、ね」
「左様にございます」
「将来この国を手に入れることを思って、の間違いじゃないのかな?」
「申し訳ありませんが、ジェフリー王太子殿下が一体全体何を仰りたいのか、いまいち意味が分かりかねますな」
「あくまで分からないと言い張るか。ならば分かるようにはっきりと言ってやろう」
ジェフリー王太子はそこでいったん言葉を切ると、宣戦布告するように高らかに宣言した。
「リフシュタイン侯爵、あなたは自分の娘アンナローゼに俺の子を産ませた後に俺を暗殺し、その子供を王に据えようとした。そして幼い王を外戚として裏から操ろうとした――全てはそのための陰謀だったのではないのかと問うているのだ!」
「被告人はあなたですよリフシュタイン侯爵。あなたには国家簒奪の嫌疑がある」
「国家簒奪とはまた随分な言いようですな。しかしながら私にはまったくもって身に覚えがございませぬ。なにか大きな勘違いをしておられるのではありませんかな?」
「いいや勘違いなどではないさ」
「ではそう仰る根拠をお聞きしましょう。なにぶん私には思い当たる節はございませんので」
始まって早々、舌鋒鋭く追及するジェフリー王太子と、泰然自若で知らぬ存ぜずと受け流すリフシュタイン侯爵。
しかし柔和な言葉とは裏腹に、リフシュタイン侯爵の目は鋭い眼光を帯びていた。
2人の視線がローエングリン国王の御前で激しくぶつかり合う。
「では根拠の1つとして証人を呼ばせてもらいたい。問題はないな?」
「証人ですとな? それはもちろん構いませんが、いったい誰なのですかな?」
「あなたもよく知る人物さ──ミリーナ、入って」
「はい」
その言葉で、既に入り口付近で待機していたミリーナが王の間へと入室した。
「な、ミリーナ様ではないか……!」
「ミリーナ様はこの3年間所在不明だったのでは?」
「いったい今までどこにおられたのか」
「それよりもミリーナ様がどうしてこの場におられるのだ?」
突然の事態にざわめく貴族たちを尻目に、ジェフリー王太子は寄り添うように隣へとやってきたミリーナに問うた。
「3年前、俺がハンナブル王国に同盟交渉で出向いて、この国を留守にしていた時のことを尋ねたい」
「どうぞなんなりとお聞きくださいませ」
「リフシュタイン侯爵は俺の居ぬ間に、ミリーナの家柄が劣ることで俺に迷惑がかかると虚言を弄し、ミリーナを騙して辺境の地に匿った。そうだね、ミリーナ?」
「はい、全てジェフリー王太子殿下の言ったとおりにございます」
「な、なんと!」
「リフシュタイン侯爵はそのようなことを言っていたのか!」
「ミリーナ様が失踪なされたのはそれが原因なのか!」
再びざわめき始める貴族たち。
しかしジェフリー王太子は両手を上下させて静かに、というジェスチャーをすると、リフシュタイン侯爵に向かって鋭く告げた。
「当時ミリーナは王太子妃の最有力候補だった。それを騙して失踪させたのだ。これは紛れもない国家への反逆ではないかなリフシュタイン侯爵?」
(ふん、何を言ってくるかと思えばそのことか。それに対する言い訳なんぞは3年前もからとうに用意しておるわ。辺境の地に匿っていたはずのミリーナがこの場に出てきたことには驚いたが、それがどうした。あまりこのワシを舐めるでないぞ)
「いいえ、あれは国を思ってのことにございます」
「なんだと?」
「事実そのおかげで我が方の同盟はおおいに強化され、グランデ帝国とも向こう10年の平和条約を結ぶことができたではありませんか。この結果こそが、私の正しさをこれ以上なく証明しているのではありませんかな?」
図星を指されても顔色一つ変えずに、平然とした態度で言葉を返すリフシュタイン侯爵。
「あくまでシラを切るつもりかい?」
「シラを切るもなにも、私はただただこの国のためを思ってやったのですから。平和な世が続いたことが国家への反逆というのでしたら、それは仕方ありません。その誹りは甘んじて受け入れましょう」
「この国のためを思って、ね」
「左様にございます」
「将来この国を手に入れることを思って、の間違いじゃないのかな?」
「申し訳ありませんが、ジェフリー王太子殿下が一体全体何を仰りたいのか、いまいち意味が分かりかねますな」
「あくまで分からないと言い張るか。ならば分かるようにはっきりと言ってやろう」
ジェフリー王太子はそこでいったん言葉を切ると、宣戦布告するように高らかに宣言した。
「リフシュタイン侯爵、あなたは自分の娘アンナローゼに俺の子を産ませた後に俺を暗殺し、その子供を王に据えようとした。そして幼い王を外戚として裏から操ろうとした――全てはそのための陰謀だったのではないのかと問うているのだ!」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる