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最終章

第61話 御前裁判(2)

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「いくらジェフリー王太子殿下とはいえ、そのような物言いはいささか無礼が過ぎるのではありませんかな?」

(くっくっく、いやはや鋭い鋭い。さすがは建国王以来とも言われる聡明なジェフリー王太子よ。ワシの策略を完全に見抜きおったか。じゃが証拠はないのだろう? 証拠がなければ、何を言ってもただの憶測。単なる可能性の1つにすぎんのだよ)

「無礼かどうかはすぐに明らかになるさ」

「ほう、どうやら相当に自信がお有りのようですの」

「もちろんさ。俺はただの憶測でこんなことを言いはしない」

「つまりミリーナ様の存在以外にも、そう主張するだけの論拠が他にもあると? もしそうであるならばこの場でぜひお示しください」

(なんだと? 憶測ではないというのか? いやそんなはずはない……)

「示せと言うなら示させてもらおうか――リフシュタイン侯爵、あなたはグランデ帝国とも内通しているだろう? 長年こっそりと使者のやり取りをしていることは既に調べがついている。俺がハンナブル王国から帰れないように何度もグランデ帝国が軍事行動をとったことも、あなたに頼まれていたからだ」

「ああ、なるほど。ジェフリー王太子殿下の疑惑の元はそのことでしたか」

(……まさかワシの側近でも極々一部しか知らぬグランデ帝国への密使のことまで知っておるとはのう。まったくどこから漏れたのやら。ワシもまだまだ脇が甘いということか。だがそんなものではワシの首は取れはせんぞ?)

「おや、これについてはあっさりと認めるのかい?」

「いえいえ、やり取りについては別段ひた隠しにせねばならぬものではございませんからな」

「ほぅ。密使をやり取りしておきながら、隠す必要はなかったと言ってのけるわけか。当然、納得のいく理由はあるんだろうね?」

「もちろんですとも。確かに私はグランデ帝国と秘密裏に使者のやり取りをしております。ですがそれはもしもの時のためにグランデ帝国と個人的な繋がり、いわゆるホットラインを作っていたのですよ」

「ホットラインだと?」

「国と国との揉め事が大きくなり互いに引けなくなった時。こういった個人的な繋がりが戦争に発展するのをギリギリで押し止めることは、過去の歴史が証明しております」

「そうだな、確かに個人的な信頼関係というものが、国家レベルの危機を未然に防ぐことはままあることだ」

「そうでしょう? さすがは聡明なジェフリー王太子殿下、ご理解が早うございますな」

「だがその個人的な繋がりついでに、あなたはグランデ帝国との間に国家反逆を疑われる密約をしたんじゃないのかい?」

「密約……ですとな?」

 ほんの一瞬。
 密約という言葉を聞いた瞬間に、リフシュタイン侯爵の眉がピクッと反応した。

「例えば将来グランデ帝国がハンナブル王国に侵攻した時。ハンナブル王国の同盟国である我がローエングリン王国が、ハンナブル王国に協力派兵をしない――とかね」

「ははは、なかなか面白いストーリーですな。多才なジェフリー王太子殿下は物語作りの才能もお有りのようだ。そういう戯曲を一つ書いてみるのもよろしいのではありませんかの? 評判の演目になること間違いなしですぞ」

 しかし眉をピクリとさせたそのほんの一瞬以外は平然とした様子で、笑顔のままで言葉を返してみせるリフシュタイン侯爵。

(まさか密約の存在を知られているのか? いや、あれはワシと相手の2人だけしか知らぬこと。漏れるはずがない)

 実のところずばりそういう密約があったのだが、交渉ごとにおいては百戦錬磨のリフシュタイン侯爵は、たとえ真実を突きつけられたとしても顔色一つ変えずにいられるのだ。

「まだ認める気はないか」

「そうは言われましても私には身に覚えがなく、ジェフリー王太子殿下のお話にはなんの証拠もありませぬゆえ」

(なぁに、どうせ証拠などないわ。しょせんはジェフリー王太子殿下の勇み足よ。ワシとしては今回の御前裁判での追及をなかったことにすることで、ジェフリー王太子に大きな貸しを作れるというもの。こんなことではワシの壮大な野望にはいささかの狂いも――)

「では仕方がない、決定的な証拠を見せようか」

「な、なんですとな?」

 決定的な証拠があると言われ、そこで初めてリフシュタイン侯爵は驚いた顔を見せた。

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