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最終章
第62話 決定的な証拠
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「決定的な証拠を見せようと言ったんだが? もしかして俺が証拠を見せるとあなたは困るのかな?」
「い、いいえまさか。そうですな、そのようなものがお有りなのでしたら、ぜひこの場で見せていただきたいものですなぁ」
「ここで見せていいんだね? その場合もう取り返しはつかなくなるぞ? 国王陛下を始め、ここにいる貴族全員が生き証人だ」
(ま、まさか本当の本当に証拠を握っているのか!? いやそんなはずはない。恐らくはブラフ。ただのハッタリよ。密約の存在をワシに自白させようとしておるのだ。その手には乗らんぞ!)
「まぁもし証拠とやらがあって、ジェフリー王太子殿下の言うことが全て本当なのだとしたら。国家への反逆を企てたリフシュタイン侯爵家は爵位取り上げとなり、投手であるワシも死罪は免れんでしょうな。もっとも、そんなものがもしあったとしたら、ですがな」
ここで引いては相手の思うツボと、リフシュタイン侯爵は強気を貫くことを決めた。
「そうか。リフシュタイン侯爵家はローエングリン王国建国以来のもっとも古き重臣の家柄だ。俺としてはその歴史と功績に免じて最後に自白する機会を与えることで、お家断絶とならぬように救いの手を差し伸べたつもりだったのだが……最後まで認めぬというなら、もはや是非もなし」
ジェフリー王太子は大いに失望した様子で一度大きく息を吐くと、近衛兵に告げた。
「ではもう1人の証人を呼ばせてもらおう。殿下、大変長らくお待たせいたしました、どうぞ中にお入り下さい」
(殿下だと? なんだ、いったい誰が証人だというのだ!)
内心動揺するリフシュタイン侯爵をよそに近衛兵が高らかに言った。
「グランデ帝国第三皇子ファブル=ド=ラ=グランデ殿下、ご入場!」
「なっ、グランデ帝国のファブル第三皇子だと!? どういうことだ!? なぜファブル第三皇子がこのローエングリン王国にいる! しかも御前裁判の場で証人として出てくるのだ!」
さすがの百戦錬磨のリフシュタイン侯爵もこの展開は完全に想定外だった。
内心の動揺そのままに、疑問が口を突いて出てしまう。
と言うのも、
「こうやって面と向かって会うのは2度目だなリフシュタイン侯爵。今から3年前にお前がグランデ帝国に来た時に、例の密約を交わして以来だ」
ファブル皇子はリフシュタイン侯爵が密約を交わした、まさにその相手だったからだ──!
「な、何のことを仰っておられますのか。そ、それよりもなぜファブル皇子殿下が御前会議の場に……」
「それはもちろん密約についての証言をするためさ。証拠も持ってきているぞ。リフシュタイン侯爵家の紋章が精緻に描かれた、お前の直筆で書かれた覚え書きの証書さ」
「な……っ!?」
(まさかそんな! あれはお互いに門外不出と取り決めていたはず! いったい何が起こったというのだ!!)
まさかの展開に、リフシュタイン侯爵が絶句した。
「偉大なるローエングリン国王陛下、お初にお目にかかります。グランデ帝国第三皇子ファブル=ド=ラ=グランデにございます。どうぞお見知りおきくださいませ」
「うむ、見知りおこう」
「この度はかような不始末をしでかしましたこと、まことに申し訳ありませんでした。お許しいたけだるのであれば伏して詫びたい所存にございます」
「他国の皇家に列する者を断罪する権利を、余は持ち合わせてはおらぬ。然らばまずは話を進めるがよい」
「かしこまりました。ではまずこの覚書きに記されている紋章がリフシュタイン侯爵家のものであることを、その目でご確認くださいませ」
「うむ、この目でしかと確認した。相違なし、剣に巻き付く薔薇の紋章は紛れもなくリフシュタイン侯爵家のものである。また書かれている署名も侯爵本人の物である」
「これが本物だと確認が取れたところで、次に中身をお読みください」
「ま、待て――」
リフシュタイン侯爵は腰を浮かせかけたが、
「国王陛下の御前であるぞ。それも他国の皇子殿下との会話中に口を挟むなどとは無礼千万。己が分をわきまえよリフシュタイン侯爵」
しかしジェフリー王太子に厳しい口調で叱責されると、すごすごと座り直した。
そしてローエングリン王が覚え書きを読み上げた――!
「グランデ帝国第三皇子ファブル=ド=ラ=グランデと、ローエングリン王国侯爵メルフィスト=ファム=リフシュタインとの間に、以下の密なる盟約を取り交わす」
「い、いいえまさか。そうですな、そのようなものがお有りなのでしたら、ぜひこの場で見せていただきたいものですなぁ」
「ここで見せていいんだね? その場合もう取り返しはつかなくなるぞ? 国王陛下を始め、ここにいる貴族全員が生き証人だ」
(ま、まさか本当の本当に証拠を握っているのか!? いやそんなはずはない。恐らくはブラフ。ただのハッタリよ。密約の存在をワシに自白させようとしておるのだ。その手には乗らんぞ!)
「まぁもし証拠とやらがあって、ジェフリー王太子殿下の言うことが全て本当なのだとしたら。国家への反逆を企てたリフシュタイン侯爵家は爵位取り上げとなり、投手であるワシも死罪は免れんでしょうな。もっとも、そんなものがもしあったとしたら、ですがな」
ここで引いては相手の思うツボと、リフシュタイン侯爵は強気を貫くことを決めた。
「そうか。リフシュタイン侯爵家はローエングリン王国建国以来のもっとも古き重臣の家柄だ。俺としてはその歴史と功績に免じて最後に自白する機会を与えることで、お家断絶とならぬように救いの手を差し伸べたつもりだったのだが……最後まで認めぬというなら、もはや是非もなし」
ジェフリー王太子は大いに失望した様子で一度大きく息を吐くと、近衛兵に告げた。
「ではもう1人の証人を呼ばせてもらおう。殿下、大変長らくお待たせいたしました、どうぞ中にお入り下さい」
(殿下だと? なんだ、いったい誰が証人だというのだ!)
内心動揺するリフシュタイン侯爵をよそに近衛兵が高らかに言った。
「グランデ帝国第三皇子ファブル=ド=ラ=グランデ殿下、ご入場!」
「なっ、グランデ帝国のファブル第三皇子だと!? どういうことだ!? なぜファブル第三皇子がこのローエングリン王国にいる! しかも御前裁判の場で証人として出てくるのだ!」
さすがの百戦錬磨のリフシュタイン侯爵もこの展開は完全に想定外だった。
内心の動揺そのままに、疑問が口を突いて出てしまう。
と言うのも、
「こうやって面と向かって会うのは2度目だなリフシュタイン侯爵。今から3年前にお前がグランデ帝国に来た時に、例の密約を交わして以来だ」
ファブル皇子はリフシュタイン侯爵が密約を交わした、まさにその相手だったからだ──!
「な、何のことを仰っておられますのか。そ、それよりもなぜファブル皇子殿下が御前会議の場に……」
「それはもちろん密約についての証言をするためさ。証拠も持ってきているぞ。リフシュタイン侯爵家の紋章が精緻に描かれた、お前の直筆で書かれた覚え書きの証書さ」
「な……っ!?」
(まさかそんな! あれはお互いに門外不出と取り決めていたはず! いったい何が起こったというのだ!!)
まさかの展開に、リフシュタイン侯爵が絶句した。
「偉大なるローエングリン国王陛下、お初にお目にかかります。グランデ帝国第三皇子ファブル=ド=ラ=グランデにございます。どうぞお見知りおきくださいませ」
「うむ、見知りおこう」
「この度はかような不始末をしでかしましたこと、まことに申し訳ありませんでした。お許しいたけだるのであれば伏して詫びたい所存にございます」
「他国の皇家に列する者を断罪する権利を、余は持ち合わせてはおらぬ。然らばまずは話を進めるがよい」
「かしこまりました。ではまずこの覚書きに記されている紋章がリフシュタイン侯爵家のものであることを、その目でご確認くださいませ」
「うむ、この目でしかと確認した。相違なし、剣に巻き付く薔薇の紋章は紛れもなくリフシュタイン侯爵家のものである。また書かれている署名も侯爵本人の物である」
「これが本物だと確認が取れたところで、次に中身をお読みください」
「ま、待て――」
リフシュタイン侯爵は腰を浮かせかけたが、
「国王陛下の御前であるぞ。それも他国の皇子殿下との会話中に口を挟むなどとは無礼千万。己が分をわきまえよリフシュタイン侯爵」
しかしジェフリー王太子に厳しい口調で叱責されると、すごすごと座り直した。
そしてローエングリン王が覚え書きを読み上げた――!
「グランデ帝国第三皇子ファブル=ド=ラ=グランデと、ローエングリン王国侯爵メルフィスト=ファム=リフシュタインとの間に、以下の密なる盟約を取り交わす」
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