俺が恋愛不感症になったわけ。「恋愛なんてしょせんは人類が子孫を残すための付随行為に過ぎないだろ?」

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫

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第五章 俺とオレ

第66話「ぁ――っ、キスして――」

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「前から思ってたんだけどぉ、シュートってお肌が綺麗だよね♪」

「……なんだそんなことかよ。急に真剣な顔をしたから、少し緊張しちゃっただろ?」

「そんなことって! あのねシュート、綺麗なお肌に興味ない女子なんて、いないんだからねっ!」

「あー、うん、まぁ。そうだよな。悪い」

 割とこだわりがなさそう――少なくともあまり表には出さない――夏美も、日焼けしないことにはやたら拘っていた。

 いわく、『私、赤く焼けちゃうし、将来シミになっちゃうから』って。

「……今、なにを思い出してたの?」
「いや、別に……。一般論でそう言われてるよな、って思ってただけだよ」

 夏美のことを――他の女の子のことを考えていたというのがどうにもバツが悪くて、オレは誤魔化すように小さな嘘をついてしまう。

「そうなんだぁ? てっきり他の女の子のことを思い出したのかと思っちゃった♪」

「……べ、別にそういうんじゃない」

 今度は鋭く図星を指されてしまい、オレは反射的にギクリと肩を震わせてしまった。
 加恋に頬を触られているので、もしかしたら伝わってしまったかもしれない。

 しかし加恋は特に気にする様子もなく、笑顔に戻って会話を続けていく。

「でもほんと、すべすべでモチモチだよねぇ。乳液とか化粧水ってなに使ってるの? お勧めとかある?」

「ニュウエキ? ケショウスイ? ……って、なんだ?」

 化粧水って言うからには、化粧する時に塗るものだよな?

「あははっ♪ だよねぇ♪ 男子はそういうのはあんまり使わないよねぇ♪ ってことはぁ、シュートのは天然美肌かぁ~。羨ましいなぁ~」

 頬に触れた加恋の手が、オレの頬の感触を確かめるように、さわさわと上下する。

 さわさわ、さわさわ。
 さわさわ、さわさわ。

 それがなぜだか今は、妙に居心地が悪くて、

「もういいだろ」
 オレはついぶっきらぼうに言ってしまう。

「はーい♪ じゃあ最後に少しだけ近くで見てもいい? もうこれが最後の最後だから。しっかりと目に焼き付けたいなって」

「そこまでのもんなのか……まぁ、いいけどさ。減るもんでもないし」
「さすがシュート、話わっかる~♪」

 オレの頬を両手で挟んだまま、加恋が顔を近づけてきた。
 本当にキスでもするんじゃないかって感じの動きだ。

 こんなの、誰かに見られたら速攻で勘違いされるぞ――

「ぁ――っ、キスして――」

 すぐ近くで声が聞こえた――夏美の声が。
 とても聞き慣れた声はしかし、オレの耳にはとても弱弱しく聞こえていた。

 そしてその声を聞いた瞬間、オレの頭は真っ白になる。

「──っ!!」

 オレはもう反射的に身を翻すと、顔に触れる加恋の手を払いのけるようにして、加恋から距離を取った。

「きゃんっ! ちょっとシュートぉ」

 加恋が抗議の声をあげるが、今はそれどころではなかった。

 声をした方に視線を向けると、そこには夏美がいた。
 夏美は泣きそうな顔で、驚いたように口を小さくパクパクと開けたり閉じたりしていた。

 そして、ハッとしたように目を大きく見開くと、

「ご、ごめんなさい! 邪魔しちゃって!」

 早口で叫ぶように言うと、

「あ、おい――」
 曖昧な言葉とともに中途半端に手を伸ばしたオレに背を向けて、夏美は脱兎のごとく走り去っていった。
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