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第三章 ゲーゲンパレス・スローライフ(前編)
第14話 【幼女魔王さま】、観光案内をする
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素晴らしい体験をくれたメイド喫茶を出ると、
「ハルト、【ゲーゲンパレス】は初めてであろう? 助けてくれた礼も込めて、このまま妾とミスティで観光案内をしようと思うのじゃが、どうじゃ?」
幼女魔王さまがそんなことを言ってきた。
「朝食の時にも言われたけど、ほんとに魔王さまに頼んでいいのか? 俺としては断る理由はないからぜひお願いしたいところだけどさ」
「問題ないのじゃよ。学業を終えた最近は、視察や式典などの公式行事以外は割と暇しておるからの」
「ならいいんだけど。観光産業を進めているって聞いてたからいろいろ見てみたくてさ。詳しい人に案内してもらえるなら渡りに船だ」
「なら決まりじゃの。レッツゴーなのじゃ」
「あ、でもさっきのメイド喫茶に勝てるものは、そうはないんじゃないか? あの素敵な【おもてなし】には驚くしかなかったよ。あれは帝国の10年、いや20年は先をいってるな」
「ハルトが気に入ってくれたようで何よりじゃ。入り浸っておる妾も鼻が高いというものじゃ」
「やっぱ入り浸ってんのか……」
そういうわけで。
俺は幼女魔王さまと一緒にミスティの操る馬車に乗り込むと早速、【ゲーゲンパレス】の観光を始めたんだけど――、
【CASE:1、ピッサの斜塔】
「お、おい魔王さま! 大変だぞ! 塔が斜めになって今にも倒れそうになっている! 早く周りの人に知らせて避難させないと大惨事になるぞ!」
「まぁまぁ落ち着くのじゃハルト」
「大丈夫ですよハルト様」
「これが落ち着いていられるか!」
きっと幼女魔王さまとミスティは、正常化バイアスによって自分は大丈夫と思ってしまっているんだ!
ならば俺がやるしかない!
「よし、ここは俺に任せろ! 今から【シルフィード】の【遠話】を使ってみんなに避難を呼びかける!」
俺は風の最上位精霊【シルフィード】の、声を遠くに届ける精霊術【遠話】を使って危険を周囲に知らせようとしたんだけど、
「あれはの、最初からああいう風に傾いた建築物――斜塔と呼ばれるものなのじゃ」
「えぇっ!? あの斜めに傾いているのが!? 今にも倒れそうなのに? うっそだぁ」
「安心せい、ちゃんと倒れないように完璧に計算しつくされておるのじゃ。じゃから周りを見てみよ、誰も騒ぎ立ててはおらんだろう」
「あ、ほんとだ……むしろみんな見上げて楽しんでるかも?」
「じゃろう?」
「で、でもいったい何のためにそんなことを? 普通まっすぐ建てるだろ?」
「ハルトよ、芸術に意味を求めてはいかんぞ? 心のおもむくままに情熱を表現するのが真の芸術というものじゃよ」
「はぁ~~~~、勉強になるなぁ」
芸術のなんたるかに心底感動した俺は、馬車の窓から見えなくなるまでその【ピッサの斜塔】と呼ばれる斜めに傾いた塔をずっと眺めていたのだった。
【CASE:2、システィン礼拝所の天井画】
「確かに豪勢な礼拝所だけど、なんていうか思っていた通りというか、どこの国にでも1つはありそうな礼拝所だな……」
俺は左右をきょろきょろ見渡しながら、素直な感想を言った。
「ハルトはほんに正直じゃのう。じゃが変に気を使って歯の浮くようなおべっかばかり言われるよりは、はるかに好感が持てるのじゃ。ではミスティ、種明かしをしてやるのじゃ」
「ハルト様ハルト様、よーく上を見てみてください」
「上?」
ミスティに言われたとおりに上を見上げた俺は――、
「なっ!? 天井一面に壮大な絵が描かれているだとっ!?」
屋内とは思えない高すぎる天井。
その全面に力強くも繊細なタッチで描かれていた絵――天井画を見てびっくり仰天、俺はたまらず大きな声を上げてしまっていた。
「ふふん、驚いたであろう?」
「そりゃ驚くよ! だってあんな高いところにどうやって描いたんだ!? はしごに上りながら描いたのか!? でもずっと上を見て描いていたら首が痛くなるだろ? しかもものすっごく上手だし!」
「【南部魔国】で最も有名な巨匠マイケル・エンジェルの最高傑作なのじゃ」
「すげー、マジすげー!」
俺はアホみたいに口を開けたまま天井画を見つめ、すげーすげーと語彙力のない褒め言葉を繰り返していた。
だけど幼女魔王さまもミスティもにこやかにそれを見守ってくれていて。
「ここまで驚いてくれて妾も連れてきたかいがあったというものじゃ」
「ハルト様ったら子供みたいに目を輝かせておりますね」
「だってこんなの凄すぎるだろ!? 【南部魔国】の文化はなんて先進的なんだ!」
「ミスティ、せっかくだから簡単に解説をしてやるのじゃ」
「心得ました。ハルト様、まず最初にあの端のあたりが世界の始まり【天地創造】で、そして隣が【楽園追放】で――」
追放……俺と一緒じゃないか……凄いだけじゃなくてなんだか親近感まで湧いてきたな。
俺はミスティから説明を受けながら、首が痛くなって上を向けなくなるまでずっと天井画を眺めていたのだった。
「ハルト、【ゲーゲンパレス】は初めてであろう? 助けてくれた礼も込めて、このまま妾とミスティで観光案内をしようと思うのじゃが、どうじゃ?」
幼女魔王さまがそんなことを言ってきた。
「朝食の時にも言われたけど、ほんとに魔王さまに頼んでいいのか? 俺としては断る理由はないからぜひお願いしたいところだけどさ」
「問題ないのじゃよ。学業を終えた最近は、視察や式典などの公式行事以外は割と暇しておるからの」
「ならいいんだけど。観光産業を進めているって聞いてたからいろいろ見てみたくてさ。詳しい人に案内してもらえるなら渡りに船だ」
「なら決まりじゃの。レッツゴーなのじゃ」
「あ、でもさっきのメイド喫茶に勝てるものは、そうはないんじゃないか? あの素敵な【おもてなし】には驚くしかなかったよ。あれは帝国の10年、いや20年は先をいってるな」
「ハルトが気に入ってくれたようで何よりじゃ。入り浸っておる妾も鼻が高いというものじゃ」
「やっぱ入り浸ってんのか……」
そういうわけで。
俺は幼女魔王さまと一緒にミスティの操る馬車に乗り込むと早速、【ゲーゲンパレス】の観光を始めたんだけど――、
【CASE:1、ピッサの斜塔】
「お、おい魔王さま! 大変だぞ! 塔が斜めになって今にも倒れそうになっている! 早く周りの人に知らせて避難させないと大惨事になるぞ!」
「まぁまぁ落ち着くのじゃハルト」
「大丈夫ですよハルト様」
「これが落ち着いていられるか!」
きっと幼女魔王さまとミスティは、正常化バイアスによって自分は大丈夫と思ってしまっているんだ!
ならば俺がやるしかない!
「よし、ここは俺に任せろ! 今から【シルフィード】の【遠話】を使ってみんなに避難を呼びかける!」
俺は風の最上位精霊【シルフィード】の、声を遠くに届ける精霊術【遠話】を使って危険を周囲に知らせようとしたんだけど、
「あれはの、最初からああいう風に傾いた建築物――斜塔と呼ばれるものなのじゃ」
「えぇっ!? あの斜めに傾いているのが!? 今にも倒れそうなのに? うっそだぁ」
「安心せい、ちゃんと倒れないように完璧に計算しつくされておるのじゃ。じゃから周りを見てみよ、誰も騒ぎ立ててはおらんだろう」
「あ、ほんとだ……むしろみんな見上げて楽しんでるかも?」
「じゃろう?」
「で、でもいったい何のためにそんなことを? 普通まっすぐ建てるだろ?」
「ハルトよ、芸術に意味を求めてはいかんぞ? 心のおもむくままに情熱を表現するのが真の芸術というものじゃよ」
「はぁ~~~~、勉強になるなぁ」
芸術のなんたるかに心底感動した俺は、馬車の窓から見えなくなるまでその【ピッサの斜塔】と呼ばれる斜めに傾いた塔をずっと眺めていたのだった。
【CASE:2、システィン礼拝所の天井画】
「確かに豪勢な礼拝所だけど、なんていうか思っていた通りというか、どこの国にでも1つはありそうな礼拝所だな……」
俺は左右をきょろきょろ見渡しながら、素直な感想を言った。
「ハルトはほんに正直じゃのう。じゃが変に気を使って歯の浮くようなおべっかばかり言われるよりは、はるかに好感が持てるのじゃ。ではミスティ、種明かしをしてやるのじゃ」
「ハルト様ハルト様、よーく上を見てみてください」
「上?」
ミスティに言われたとおりに上を見上げた俺は――、
「なっ!? 天井一面に壮大な絵が描かれているだとっ!?」
屋内とは思えない高すぎる天井。
その全面に力強くも繊細なタッチで描かれていた絵――天井画を見てびっくり仰天、俺はたまらず大きな声を上げてしまっていた。
「ふふん、驚いたであろう?」
「そりゃ驚くよ! だってあんな高いところにどうやって描いたんだ!? はしごに上りながら描いたのか!? でもずっと上を見て描いていたら首が痛くなるだろ? しかもものすっごく上手だし!」
「【南部魔国】で最も有名な巨匠マイケル・エンジェルの最高傑作なのじゃ」
「すげー、マジすげー!」
俺はアホみたいに口を開けたまま天井画を見つめ、すげーすげーと語彙力のない褒め言葉を繰り返していた。
だけど幼女魔王さまもミスティもにこやかにそれを見守ってくれていて。
「ここまで驚いてくれて妾も連れてきたかいがあったというものじゃ」
「ハルト様ったら子供みたいに目を輝かせておりますね」
「だってこんなの凄すぎるだろ!? 【南部魔国】の文化はなんて先進的なんだ!」
「ミスティ、せっかくだから簡単に解説をしてやるのじゃ」
「心得ました。ハルト様、まず最初にあの端のあたりが世界の始まり【天地創造】で、そして隣が【楽園追放】で――」
追放……俺と一緒じゃないか……凄いだけじゃなくてなんだか親近感まで湧いてきたな。
俺はミスティから説明を受けながら、首が痛くなって上を向けなくなるまでずっと天井画を眺めていたのだった。
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