34 / 77
第四章 ゲーゲンパレス・スローライフ(後編)
第31話 【幼女魔王さま】、ちび太と命名する
しおりを挟む
「ハルト、折り入って頼みがあるのじゃが」
そう言って幼女魔王さまが俺の部屋(正確には俺が滞在している部屋だが)へと一人でやってきた。
あれ、珍しいな。
いつもと違ってミスティが付いてきていないなんて。
俺の所に来るときはいつも2人で一緒だったのに。
もしかしてミスティには内緒にしたい話なのだろうか。
「いいぞ、俺にできることなら何でも言ってくれ」
特に断る理由もなかったし、いろんなことを教えてくれてたくさんのところに案内してくれる幼女魔王さまには、いつかお礼をしたいって思っていたしな。
「頼みというのは他でもないのじゃ、妾に精霊の上手な扱い方を教えて欲しいのじゃが、ダメであろうか?」
「あー、そういうことか……うーん、そうだな……ちょっと難しいかも」
「そ、そうよの……それほどの高度な精霊を扱う技能じゃ。そうそうは他人には教えられんよの……」
俺の答えを聞いて幼女魔王さまがあからさまにショボーンとした。
「ああいや違うんだ。多分俺じゃ教えられないかなって思っただけで」
「それはどういう意味なのじゃ?」
「うーんとさ。魔王さまと精霊について話したりして最近気づいたんだけど、俺ってどうも特殊っぽいんだよな」
「今さらかーい! 今さら気付いたんかーい! ……ま、ハルトらしいと言えばらしいのじゃ」
「それで実はその理由にも心当たりがあってさ」
「と言うと?」
俺の言葉に幼女魔王さまが目を輝かせながら身を乗り出してきた。
理由を知ることができれば、もしかしたら自分も似たような感じで――って思ったんだろうな、きっと。
「別に隠してた訳じゃないんだけど、俺って子供の頃に桃源郷に迷い込んだことがあるんだよ」
「桃源郷……とな? おとぎ話で精霊の住処と言われるあの桃源郷かえ?」
「その桃源郷だ。偶然迷い込んだ俺はそこで精霊たちと友達になったんだ」
「な、なんじゃとぉ!?」
幼女魔王さまが激しく動揺した声を上げた。
「だから俺にとって精霊は友達感覚でなんでも話したりお願いしたりできる相手なんだよな。向こうも俺のことを手のかかる子分か弟分だとでも思ってるっぽいし」
「――!!??」
幼女魔王さまが草原を歩いていたら伝説のドラゴンに出くわした! みたいな声にならない声を上げた。
「【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】も桃源郷を出てふと気が付いたら手の中にあってさ。だからきっと俺は役には立てないと思うんだ。一応確認なんだけど、魔王さまは桃源郷に入ったことはないよな?」
「そんなもんあるわけないのじゃ!? おとぎ話の世界にどうやって入れというのじゃい!」
「だろ? とまぁそう言うわけで、俺のやり方は多分参考にならないと思うんだ。桃源郷に入って友達になればいいってアドバイスしてもなぁ。俺もあれ以来入れた試しがないし」
「それは確かに再現性がゼロっぽいのじゃ……」
幼女魔王さまがシュンと肩を落とした。
「あ、でも、ただ1つだけアドバイスって言うか、感じたことがあるんだけど」
「な、なんなのじゃ!? 何でもよいのじゃ、気になったことをぜひとも妾に教えて欲しいのじゃ」
幼女魔王さまが両手をぐっと握って鼻息荒く尋ねてくる
「それそれ」
「? どれなのじゃ?」
「魔王さまはさ、精霊のことになるとすごく力が入るだろ? もうちょっと肩の力を抜いたらいいんじゃないかなって思う」
「じゃが肩の力を抜いてしまっては、精霊と交感するための集中力が乱れるのではないか?」
「なんていうのかな、それは自分から心の壁を作っちゃってるって言うか……そうだな、実際やってみせるか。おいで――」
俺はそう言うと幼女魔王さまの契約精霊である【火トカゲ】を呼び出した。
「ちょっとぉ!? 妾の契約精霊をハルトが勝手に呼び出したちゃったじゃとぉ!?」
「これくらいは普通だろ?」
「じゃから普通じゃないと言っておるじゃろうに!?」
「まぁそれは今は良いじゃないか。ほら飼い猫を撫でるみたいに気楽な感じで頭を撫でてみて……いや俺のじゃなくて【火トカゲ】の頭をね?」
「こほん、素で間違えたのじゃ……」
身長差を埋めるべく背伸びして俺の頭に手を伸ばそうとしていた幼女魔王さまが、顔を真っ赤にして小さく咳払いをした。
でも逆にそのおかげで、いい感じに肩の力が抜けた気がする。
幼女魔王さまは今度こそ【火トカゲ】の頭をそっと撫でた。
するとどうだろう!
【火トカゲ】が嬉しそうに目を細めたのだ。
「おおっ! このような反応は今までされたことがないのじゃ! なんと可愛いのじゃろうか!」
精霊と触れ合って、幼女魔王さまの顔がひまわりのような大輪の笑顔になった。
「精霊はきっと偉大な存在だと思う。でもだからって変にかしこまる必要もないと思うんだ。魔王さまが平民とも分け隔てなく仲良く会話しているみたいにさ、こんな感じで少しだけ力を抜いていこうぜ」
「そうじゃったのか……今までの妾は変にかしこまり過ぎておったのじゃな」
「そう言うこと」
「うむ、少しだけ精霊との付き合い方が分かった気がしなくもないのじゃ。感謝するのじゃよハルト。妾は今、小さな――しかし果てしなく価値のある一歩を踏み出した気がするのじゃ」
「それは良かった。お役に立てて光栄だ」
「それにしてもむふっ、この子は可愛いのじゃ……おっとそう言えば名前がまだないのぅ……よし決めた。ではお主はちび太と名付けるのじゃ――小さいからちび太なのじゃ! おいでちび太! ――って、ああ! 消えるでない! 消えるでないのじゃ! ううっ、消えてしまったのじゃ……」
「まぁ焦らず少しずつな」
というわけで。
幼女魔王さまは契約精霊の【火トカゲ】に「ちび太」と名付け、可愛がることにしたのだった。
そう言って幼女魔王さまが俺の部屋(正確には俺が滞在している部屋だが)へと一人でやってきた。
あれ、珍しいな。
いつもと違ってミスティが付いてきていないなんて。
俺の所に来るときはいつも2人で一緒だったのに。
もしかしてミスティには内緒にしたい話なのだろうか。
「いいぞ、俺にできることなら何でも言ってくれ」
特に断る理由もなかったし、いろんなことを教えてくれてたくさんのところに案内してくれる幼女魔王さまには、いつかお礼をしたいって思っていたしな。
「頼みというのは他でもないのじゃ、妾に精霊の上手な扱い方を教えて欲しいのじゃが、ダメであろうか?」
「あー、そういうことか……うーん、そうだな……ちょっと難しいかも」
「そ、そうよの……それほどの高度な精霊を扱う技能じゃ。そうそうは他人には教えられんよの……」
俺の答えを聞いて幼女魔王さまがあからさまにショボーンとした。
「ああいや違うんだ。多分俺じゃ教えられないかなって思っただけで」
「それはどういう意味なのじゃ?」
「うーんとさ。魔王さまと精霊について話したりして最近気づいたんだけど、俺ってどうも特殊っぽいんだよな」
「今さらかーい! 今さら気付いたんかーい! ……ま、ハルトらしいと言えばらしいのじゃ」
「それで実はその理由にも心当たりがあってさ」
「と言うと?」
俺の言葉に幼女魔王さまが目を輝かせながら身を乗り出してきた。
理由を知ることができれば、もしかしたら自分も似たような感じで――って思ったんだろうな、きっと。
「別に隠してた訳じゃないんだけど、俺って子供の頃に桃源郷に迷い込んだことがあるんだよ」
「桃源郷……とな? おとぎ話で精霊の住処と言われるあの桃源郷かえ?」
「その桃源郷だ。偶然迷い込んだ俺はそこで精霊たちと友達になったんだ」
「な、なんじゃとぉ!?」
幼女魔王さまが激しく動揺した声を上げた。
「だから俺にとって精霊は友達感覚でなんでも話したりお願いしたりできる相手なんだよな。向こうも俺のことを手のかかる子分か弟分だとでも思ってるっぽいし」
「――!!??」
幼女魔王さまが草原を歩いていたら伝説のドラゴンに出くわした! みたいな声にならない声を上げた。
「【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】も桃源郷を出てふと気が付いたら手の中にあってさ。だからきっと俺は役には立てないと思うんだ。一応確認なんだけど、魔王さまは桃源郷に入ったことはないよな?」
「そんなもんあるわけないのじゃ!? おとぎ話の世界にどうやって入れというのじゃい!」
「だろ? とまぁそう言うわけで、俺のやり方は多分参考にならないと思うんだ。桃源郷に入って友達になればいいってアドバイスしてもなぁ。俺もあれ以来入れた試しがないし」
「それは確かに再現性がゼロっぽいのじゃ……」
幼女魔王さまがシュンと肩を落とした。
「あ、でも、ただ1つだけアドバイスって言うか、感じたことがあるんだけど」
「な、なんなのじゃ!? 何でもよいのじゃ、気になったことをぜひとも妾に教えて欲しいのじゃ」
幼女魔王さまが両手をぐっと握って鼻息荒く尋ねてくる
「それそれ」
「? どれなのじゃ?」
「魔王さまはさ、精霊のことになるとすごく力が入るだろ? もうちょっと肩の力を抜いたらいいんじゃないかなって思う」
「じゃが肩の力を抜いてしまっては、精霊と交感するための集中力が乱れるのではないか?」
「なんていうのかな、それは自分から心の壁を作っちゃってるって言うか……そうだな、実際やってみせるか。おいで――」
俺はそう言うと幼女魔王さまの契約精霊である【火トカゲ】を呼び出した。
「ちょっとぉ!? 妾の契約精霊をハルトが勝手に呼び出したちゃったじゃとぉ!?」
「これくらいは普通だろ?」
「じゃから普通じゃないと言っておるじゃろうに!?」
「まぁそれは今は良いじゃないか。ほら飼い猫を撫でるみたいに気楽な感じで頭を撫でてみて……いや俺のじゃなくて【火トカゲ】の頭をね?」
「こほん、素で間違えたのじゃ……」
身長差を埋めるべく背伸びして俺の頭に手を伸ばそうとしていた幼女魔王さまが、顔を真っ赤にして小さく咳払いをした。
でも逆にそのおかげで、いい感じに肩の力が抜けた気がする。
幼女魔王さまは今度こそ【火トカゲ】の頭をそっと撫でた。
するとどうだろう!
【火トカゲ】が嬉しそうに目を細めたのだ。
「おおっ! このような反応は今までされたことがないのじゃ! なんと可愛いのじゃろうか!」
精霊と触れ合って、幼女魔王さまの顔がひまわりのような大輪の笑顔になった。
「精霊はきっと偉大な存在だと思う。でもだからって変にかしこまる必要もないと思うんだ。魔王さまが平民とも分け隔てなく仲良く会話しているみたいにさ、こんな感じで少しだけ力を抜いていこうぜ」
「そうじゃったのか……今までの妾は変にかしこまり過ぎておったのじゃな」
「そう言うこと」
「うむ、少しだけ精霊との付き合い方が分かった気がしなくもないのじゃ。感謝するのじゃよハルト。妾は今、小さな――しかし果てしなく価値のある一歩を踏み出した気がするのじゃ」
「それは良かった。お役に立てて光栄だ」
「それにしてもむふっ、この子は可愛いのじゃ……おっとそう言えば名前がまだないのぅ……よし決めた。ではお主はちび太と名付けるのじゃ――小さいからちび太なのじゃ! おいでちび太! ――って、ああ! 消えるでない! 消えるでないのじゃ! ううっ、消えてしまったのじゃ……」
「まぁ焦らず少しずつな」
というわけで。
幼女魔王さまは契約精霊の【火トカゲ】に「ちび太」と名付け、可愛がることにしたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,070
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる