悪役貴族だけど、俺のスキルがバグって最強になった

ポテトフライ

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第三話「バグスキルで運命を覆す ―転生悪役貴族、破滅回避への逆襲―」

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 王国軍による侵攻まで、あと五日。

 俺は騎士団長との模擬戦を終えたあと、執事に命じて緊急会議を開くよう指示した。場所は屋敷の最上階に位置する会議室。磨き上げられた大理石の床に、長大なテーブルが置かれている。古風なシャンデリアに照らされ、壁には先祖代々の肖像画が飾られた典型的な貴族の会議室だ。

 集まったのは、領地の重要人物たち。騎士団長、執事、近衛騎士の副隊長や、領地経営を担う大臣クラスの者たち――今や、彼らはすべて俺の『王者の風格(EX)』により、忠誠を誓う存在となっている。

「では、皆そろったな」

 高級感漂う椅子に腰掛け、テーブルに肘をついて視線を走らせる。まるで長年この貴族の立場に慣れ親しんできたかのような仕草だが、実際の俺は転生したばかりの“中身が一般日本人”のままだ。ただし、それを知る者はどこにもいない。

「侯爵様、早速ですが、王国軍の動きについて報告をさせていただきます」

 執事が会議の口火を切った。彼の手には、最新の軍事情報が記された書簡がある。

「王国軍はすでに三万規模の兵を召集し、三日以内に国境付近へ集結する見込みです。騎士団や歩兵、さらには魔法士団も含まれ、先鋒部隊には精鋭と名高い“銀鷹騎士団”が配属されるとか」

「三万か……随分と大規模だな」

 俺はわざと驚いたふりをした。ゲームの知識では、「悪役貴族クラウス討伐イベント」は本来、主人公が率いる数千程度の部隊と協力しながら王国軍が攻めてくるという流れだったはず。しかし実際の人数は予想を上回る三万――これは明らかに“クラウス”を過剰戦力で一気に滅ぼすための布陣だろう。

 しかし、俺にはバグったスキルがある。数で押されても問題ない……とは言え、何の作戦も立てずに正面衝突だけをすれば、被害は大きくなりかねない。

「他には何か分かっていることはあるか? 例えば、王国軍の指揮官や指導者など」

 俺が問いかけると、執事は神妙な面持ちで続けた。

「王国軍の総大将は、“アラステア公爵”になる見込みです。公爵家は王家に次ぐ地位と財力を持つ名門ですから……相当な政治力と軍事力を握っております」

 アラステア公爵――ゲームでは“クラウス”と並ぶ悪役貴族の一派だったはずだが、どうやらこの世界では立ち位置が異なるらしい。あるいは、主人公側につく形で動き出したということか。

 ともあれ、俺にとっては“敵”になり得る存在。公爵ともなれば、かなりの力を行使できるだろう。

「ふむ……相手に公爵家がついているのであれば、資金も兵力も潤沢と考えていい。こちらも、警戒を怠らず準備する必要があるな」

 俺はテーブルの表面を指で軽く叩きながら思案をめぐらせる。この屋敷で守りに徹してしまうのは悪手だ。敵は数にものを言わせ、周囲からじわじわ包囲してくるだろう。こちらがただ籠城するだけなら、いくら俺が強くても物量に押し潰される可能性はある。それを避けるには……

「我が領地が脅かされる前に、こちらから仕掛ける。それが得策かもしれませんね」

 そう言ったのは騎士団長だ。彼は先ほど模擬戦で俺に瞬殺された人物だが、騎士としての忠誠心と戦略眼は確か。俺は頷いて応じる。

「そうだな。攻めるなら奇襲か、あるいは局地戦で各個撃破を狙うのが定石だろう。だが、敵は三万の兵をかき集めている。こちらが奇襲を仕掛けるにも、こちらの兵力が少なすぎる」

 領地の兵はざっと数千程度――正規軍と呼べるのはさらに少ない。しかし、今の俺には“バグスキル”がある。個人の戦力では圧倒的で、さらには“戦闘技術(SSS)”に加え、“魔王級魔力(SSS)”もある。下手をすれば、俺ひとりで大軍を蹂躙することすら可能かもしれない。ただ、それをやると被害の規模が読めず、領地が荒れたり民衆に被害が及ぶ恐れもある。

 ――いや、ひとつ手があった。

(そうだ、『魅了(SSS)』のスキルがあったじゃないか。王者の風格とは別に、“特定個人に対して強力な魅了効果を発揮する”ってやつ。もしこれを戦略的に使えたら、敵将や幹部クラスを寝返らせることもできるかも……)

 ゲームでは“最弱スキル”とされていたクラウスには、こうしたスキルは存在しなかったはず。俺のこのスキルなら、戦わずして敵幹部を取り込む可能性だってある。もっとも、万人に通用するわけではないだろうし、スキルを多用しすぎれば“不自然”に思われる危険性もある。それでも、交渉の切り札にはなる。

「執事よ。敵軍にはどのような将軍や隊長クラスがいるか、可能な限り情報を集めておけ。優秀で、かつ不満を抱えている者がいれば、寝返りを誘う余地があるかもしれない」

「はっ、すぐに調査を進めます」

 執事が頭を下げる。ここからは情報戦だ。兵力差を覆すには、情報とスキルを駆使していくほかない。

「それから、領地の民衆に危害が及ばぬよう、避難所や物資の確保も進めておけ。王国軍が本当にこちらを滅ぼそうとするなら、民への虐殺や略奪も想定されるからな」

「承知しました。速やかに手配を」

 領地の防衛ラインを整えながら、必要ならば先手を打つ。俺たちはそうした方針を確認し、会議を終えることとなった。

 部屋を出ていく役人たちの背中を見送りながら、俺は改めて“この世界で生き抜く”という覚悟を固める。悪役貴族として滅びるはずの運命を、“バグスキル”を頼りに塗り替えてやるのだ。

 ここまでで、まだ三日目。焦りは禁物だが、時間は限られている。今のうちに、俺はできることをすべてやらねばならない。
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