のんびり領主とモフモフ相棒の異世界スローライフ

ポテトフライ

文字の大きさ
5 / 36

「第五話」畑の見回りと森の息吹

しおりを挟む
 午前中の書類仕事を終えたアルトは、軽い昼食をとったあと、さっそくヴィンスのいる畑へと足を運んだ。館の裏口から出て、少し歩くだけでのどかな風景が広がる。草の香りが鼻をくすぐり、空気にはどこか爽やかな清涼感がある。

 村に近づくと、子どもたちがにぎやかな声をあげながら走り回っていた。ルルを見つけた子どもたちは、「ルルー! 遊んでー!」と興奮気味に近づいてくる。ルルは彼らにちょっとだけ目を向けるが、今日は甘えたい気分ではないのか、ちらりと視線を送ってからアルトの足元に隠れてしまった。

「おーい、ルル、調子はどうだー?」

「大丈夫だよ。ちょっと恥ずかしがり屋みたいだな」

 アルトは苦笑しながら子どもたちに手を振り、畑のほうへ向かう。すると、そこにはすでに畑の土をいじっているヴィンスの姿があった。

「アルト様、来てくださってありがとうございます!」

 ヴィンスは嬉しそうに顔を上げる。彼の周りには農具や肥料の袋が並べられ、朝とは違う配合の肥料を準備しているようだ。

「いえいえ。どんな感じ?」

「実は今、少し土を掘り返して状態を確認しているんですが、どうも水はけが悪いところがあるみたいで……」

 アルトはヴィンスの隣にしゃがみ込み、土をすくって確認する。確かに土がやや湿り気味で、根腐れの原因になりかねない。少し周囲の地形を見回すと、この辺りは村の中心からも低地にあたり、水が流れ込んできやすいのかもしれない。

「うん、ここは水が溜まりやすいんだな。少し排水のための溝を掘るとか、土に混ぜる素材を変えてみるとか、工夫が必要そうだ」

「やっぱりそうですよね。前から少し気になっていたんですけど、今年の春は雨も多かったし、余計に水っぽくなったのかと……」

 アルトは考え込むように顎に手をやりながら、ルルをちらりと見る。するとルルはちょっとだけ口を開けて「きゅう?」という感じの声を出した。まるで「何を困っているの?」とでも言いたげだ。

「ヴィンス、森の落ち葉とか枯れ草をかき集めて、ちゃんと発酵させた堆肥を作れるといいんだけど……うちの森ってそんなに広いわけでもないし、落ち葉が常にあるってわけでもないからなぁ」

「あの森には木苺やキノコが結構あるので、採取班も出入りしてますからね。落ち葉や枯れ草を集めるにも限界が……」

「うーん、商人から買うにしても、コストがかかるからな。まあ、今は小規模で試してみて、上手くいったら少しずつ広げていくしかないかもね」

「そうですね……。ありがとうございます。引き続き頑張ってみます!」

 ヴィンスは晴れ晴れとした表情で再び作業に戻る。アルトはルルを抱き上げながら、畑のあちこちを歩いて回り、土の状態や作物の生育具合を見て回った。ここでは主に小麦や野菜を育てているが、収穫できる量は決して多くはない。けれども、村人たちがコツコツと働き、足りない分は近くの町から仕入れたり、逆に余った作物は町へ売ったりすることで生計を立てている。

 ひととおり畑を見回ったあと、アルトは「どうせなら森のほうに行ってみよう」と思い立った。ルルを肩に乗せ、森の入り口へと向かう。そこは畑からほど近い場所にあり、木々が程よい密度で生い茂っている。木漏れ日が差し込み、森の中はひんやりと涼しい空気に包まれていた。

「……やっぱり森は落ち着くなぁ」

 アルトは深呼吸して、自然の香りを胸いっぱいに吸い込む。ルルも鼻先をひくひくさせ、何か気になる匂いを嗅ぎ分けているようだ。森の土は畑の土と違って腐葉土が豊富だからか、ふかふかとしていて歩きやすい。草花が生い茂り、遠くからは小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 この森は特に危険な魔物が出ることもなく、比較的平和な場所だ。ただし、奥に進みすぎると時たま大きなイノシシや狼のような動物がいるらしい。とはいえ、アルトはそこまで奥に行くつもりはない。落ち葉を集められそうな場所や、自然の様子を確認する程度の目的だ。

「こんな場所に、何か珍しいものがあったらいいんだけどな……。たとえば栄養価の高い土とか、特別なキノコとか……」

 そうつぶやいた矢先、ルルが急に「ぴっ」と鋭い声を上げ、アルトの肩から飛び降りた。アルトは慌てて「お、おい、ルル! どこに行くんだ?」と後を追う。ルルは森の少し奥へとちょこちょこ走り、根元に苔がむした倒木のあたりで立ち止まる。そして、その倒木の下をのぞき込み、楽しそうに尻尾を振り始めた。

「何かあるのか?」

 アルトが近づいてみると、そこには小さなキノコが群生している。見たことのない帽子の模様をしており、赤や茶色、斑点模様のものまで混ざっていた。危険な毒キノコでないか少し心配だったが、ルルは特に嫌がる素振りもなく、むしろ興味津々な様子だ。

「これは……んー、俺にはどのキノコが食べられるやつかは分からないんだよな。村のキノコ好きのおばあちゃんに見てもらうか」

 アルトは毒キノコの可能性を考え、むやみに触らないように注意しながら、観察だけしておくことにした。ルルはキノコを眺めているだけで、かじろうとはしない。どうやら自分でも安全かどうか分かっているようだ。

「ルル、教えてくれてありがとうな。こんなところに珍しいキノコがあるなんて。大収穫……になるかもしれないな」

 アルトはルルを抱き上げ、嬉しそうに頭を撫でた。するとルルは「ぴいっ」と誇らしげに鳴いて、またアルトの肩に乗り移る。こうして森の探索を一通り終えたアルトは、再び畑のほうへ戻り、見つけたキノコのことをヴィンスや近くにいた村人たちに伝えた。

「へぇ、そんなキノコがありましたか。食べられるといいですねぇ」

「毒キノコだったら怖いけどな。でも、森を調べてみる価値はあるかもしれない」

「そうね。この辺りの森はあまり深くまで入ったことがないし、もっと色々な資源が眠っているかもしれないわ」

 村人たちは興味を示しつつも慎重な様子で、後日専門家を呼んで調べてみることに決まった。アルトは「俺も出来る範囲で手伝うから」と言い、みんなで相談し合いながら情報を共有する。この何気ない会話のやり取りが、フィンダレン領の良いところだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~

呑兵衛和尚
ファンタジー
調理師・宇堂優也。 彼は、交通事故に巻き込まれて異世界へと旅立った。 彼が異世界に向かった理由、それは『運命の女神の干渉外で起きた事故』に巻き込まれたから。 神々でも判らない事故に巻き込まれ、死亡したという事で、優也は『異世界で第二の人生』を送ることが許された。 そして、仕事にまつわるいくつかのチート能力を得た優也は、異世界でも天職である料理に身をやつすことになるのだが。 始めてみる食材、初めて味わう異世界の味。 そこは、優也にとっては、まさに天国ともいえる世界であった。 そして様々な食材や人々と出会い、この異世界でのライフスタイルを謳歌し始めるのであった。 ※【隠れ居酒屋・越境庵】は隔週更新です。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

処理中です...