のんびり領主とモフモフ相棒の異世界スローライフ

ポテトフライ

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「第二十六話」ルルと夜の廊下

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 報告会が終わり、夕食を済ませた後、アルトは自室に戻って荷物の整理を始めた。明日に備えて早めに休みたいと思っていたが、ルルが落ち着かない様子で「ぴい、ぴい」としきりに鳴く。

「どうしたんだ、ルル? 外に行きたいのか?」

 アルトが問いかけると、ルルは扉のほうへちょこちょこと歩き、まるで「一緒に来て」と誘うように振り返った。
 前にもあった光景だ。ルルは夜になると、たまにこうして意味ありげな仕草をする。森の小川へ行きたがったり、外の景色を眺めたがったり。アルトは正直、城の夜は物騒だという気持ちもあるが、ルルを無視して部屋に閉じこもるのも落ち着かない。

「……仕方ない。少しだけだぞ?」

 そう言って部屋の扉を開けると、ルルは「ぴいっ」と嬉しそうに鳴いて廊下へ飛び出した。アルトは慌てて後を追いかける。
 夜の城は静かだ。時折、衛兵が足音を立てて巡回しているが、先日の倉庫荒らしの影響か、いつもより警備が厳重になっているらしい。ルルはその足音に合わせるように隠れながら進んでいく。まるでスパイごっこのようで、アルトは困惑しつつも苦笑してしまう。

「おいおい、見つかったら怒られるって……」

 ルルはぴたっと立ち止まり、尻尾をふりふりと動かす。視線の先には、ひっそりとした中庭が見える窓があった。アルトはそっと窓辺に近づくと、外の闇夜を見下ろす。
 中庭の泉は月明かりに照らされ、白く輝いている。誰もいないはずの庭に、一瞬、人影のようなものが映った……かと思いきや、すぐに黒い影がさっと壁の奥へ消えていった。

「ん……?」

 アルトは目を凝らすが、もうそこには何もない。ただの見間違いかもしれない。しかし、ルルは窓枠に前足をかけて、やや緊張した面持ちで夜風の匂いを嗅いでいる。

「もしかして、また侵入者か……?」

 そう思った瞬間、アルトの心臓が早鐘を打ちはじめる。先日の倉庫荒らしの犯人が再び潜り込んだのだろうか。それとも、警備が増えたのを見て諦めたのか……。
 アルトがどう動くべきか迷っていると、ルルが鼻先をひくつかせて「きゅう……」と小さく鳴き、アルトの肩へ飛び乗った。まるで「ここを離れよう」と言いたげだ。

「分かった、部屋に戻ろう。ここにいると疑われるかもしれないし……」

 アルトはルルを抱え直して、足音を立てないように慎重に廊下を戻る。夜の冷たい空気にさらされ、さきほどの人影のことが頭から離れない。だが、今、下手に衛兵に知らせたところで“ただの見間違い”と言われる可能性も高いし、誤報が広まれば余計に混乱を招く。
 結局、アルトは「明日、男爵に伝えておくべきかもしれない」という考えを胸に抱きながら、こっそり自室へ戻った。ルルは窓から離れると安心したのか、クッションの上で丸くなる。

「……ルル、お前、なんか感じ取ってるのか?」

 問いかけても、ルルは「ぴい……」とあくびするだけ。これ以上突っ込んでも仕方ないと、アルトはベッドに身を投げ出す。
 消灯した部屋はしんと静まり返り、まるで夜の帳(とばり)に世界が吞まれていくようだ。アルトは微かな緊張感を抱えつつも、次第に眠気に負けて意識を手放した――。
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