のんびり領主とモフモフ相棒の異世界スローライフ

ポテトフライ

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「第二十五話」焦る男爵とアルトの提案

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 城に戻る頃には、すっかり日は落ちかけていた。再び城の正門をくぐり、調査隊が解散する前に、広い応接室で簡単な報告会が開かれる。
 リューク男爵、セス、アルト、そして騎士団の代表者たち。さらにアルトとともに来たヴィンス、セリム、マイカスも同席している。

「――以上が今回の調査結果だ。主だった問題点は『境界付近に不審な車輪の跡があった』『森の奥には古い廃墟があるが、現時点で新しい痕跡は見当たらない』……および『男爵領城内の倉庫荒らし事件との関係は不明』。王都への報告は、この内容をベースに伝えることになるだろうな」

 セスがまとめるように言うと、男爵は険しい顔のまま「うむ」と頷く。

「不甲斐ない結果だが仕方ない。いずれ私のほうで再度兵を出し、念入りに境界を巡回させる。フィンダレン領側にも協力を仰ぎたいが……」

 そう言いかけたところで、男爵は言葉を濁し、アルトへと視線を向けた。アルトは穏やかな口調で応じる。

「もちろん、俺たちでできることがあれば手伝いますよ。領民にも、怪しい車輪跡や妙な集団を見かけたらすぐに知らせるように伝えます。うちは小さな領地ですが、それだけ人の目は行き届きやすいですから」

「ふむ……助かる」

 男爵はわずかに目を伏せ、少しだけ肩の力を抜いたように見えた。しかし、その瞳にはどこか焦りの色が混じっているようにも感じられる。
 アルトは意を決して、思い切って話題を切り出す。

「それと、もしよければ男爵領とフィンダレン領の『共同見回り隊』みたいなものを組織しませんか? 大げさなものではなく、領民同士が連絡を取り合える仕組みを作るという程度でいいんです。王都からの要請を待つだけでなく、隣同士で協力しておけば、こういう不審者が出たときに早く対応できると思うんです」

 それは、アルトが以前からぼんやり考えていた提案だった。とはいえ、相手はリューク男爵。プライドが高そうな彼が、隣の小領地と“対等に”協力するなんて受け入れてくれるだろうか――そんな不安もある。
 男爵は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに厳めしい顔に戻った。

「共同見回り隊、か。私としては、領地間の境界管理はそれぞれの責務だと思っている。だが……今回のように不穏な動きがある以上、情報共有だけでも強化したいところではある」

「はい、もちろん無理に同じチームを作るわけじゃなく、定期的に連絡窓口を設けるくらいでも充分です。うちも人員が豊富なわけではないので、今すぐ大勢を派遣できるわけではありませんが……できる形を一緒に考えていければ」

 アルトの柔らかな物言いに、男爵は少しだけ考え込むような素振りを見せる。セスや騎士たちも「それは悪くない案かもしれない」とうなずいている。
 少しの沈黙の後、男爵は咳払いしてから言った。

「……検討しよう。今すぐ結論は出せないが、王都の報告が済んだら改めて話を聞かせてくれ。もしお互いに協力できるなら、それに越したことはない」

「ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします」

 アルトが頭を下げると、男爵は目をそらしながら「ふん」と鼻を鳴らした。照れ隠しのようにも見えるその態度に、アルトは少しほっとする。
 こうして報告会はひとまず終了し、参加者はそれぞれ部屋へ戻ることになった。明日の午前中には、アルトたちは城を出てフィンダレン領へ帰る予定だ。長旅と調査を終えた疲れがどっと押し寄せてくるが、まだもう少しだけ、この城での滞在は続く。
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