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「第二十四話」森の開けた場所にて
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境界付近をひと通り見回りながら、日も傾き始めた頃。調査隊は一カ所だけ、小さな開けた空き地のような場所で足を止めた。そこは森の奥へ少し入った位置にあり、昔は何か建物があったのか、石畳の跡のようなものが地面に所々見られる。
「ここは……私の領地の古い廃墟だ。何十年も前に火事で焼け落ち、以来放置していた。土地が痩せており、農地としても使えない。荒れ地だよ」
リューク男爵が渋い声で説明する。セスが興味深そうに地面をつつきながら「へえ、昔の貴族の別荘か何かですか?」と尋ねた。
「詳しいことは知らん。ただ、先代の当主――私の父が管理していた頃にはすでに廃墟だったそうだ」
男爵が言葉少なに答えると、アルトは周囲を眺めてみる。大きな樹木が多いが、その合間から石壁の一部らしきものが覗いており、かつてはここに建物があったことを感じさせる。苔むした地面を踏みしめてみると、少し硬い感触がする。
「こういう場所を隠れ家にしている連中がいるかもしれない、っていう懸念もあるわけか」
「そうだ。先ほどの足跡がここにつながっているわけではないが、可能性としては否定できないからな」
男爵は周囲を警戒するように目を走らせるが、特に新しい痕跡は見つからない。アルトとマイカスも少し離れて確認したが、最近、人が出入りした感じはまったくなかった。
「まあ、昔の石畳の一部が残っているから、馬車を停めるにはいいかもしれないが……。木々が繁りすぎて上から見えにくい。隠れ家としては悪くないが、痕跡がなければ仕方ない」
マイカスがそう呟くと、男爵は腕組みをして深いため息をつく。
「うむ……。侵入者や怪しい商隊の痕跡を期待していたが、現状では何もないらしい。王都への報告は『不審な足跡が境界近くで見つかったが、詳細不明』程度にしかならないだろう」
「リューク男爵、気落ちするのはまだ早いですよ。今後も注意して監視すれば何かわかるかもしれません」
セスがフォローするように言うが、男爵は「分かっている」と短く返事するだけだった。やや苛立ちが混じっているのかもしれない。城の倉庫荒らしも犯人不明、ここでも決定的な証拠は無し……。
アルトはそんな男爵の横顔を見ながら、「自分には何ができるだろうか」と思案する。実際のところ、フィンダレン領と男爵領で連携しなければ解決しそうにない問題だ。それでも、男爵が壁を作ってしまっては、連携どころか情報共有すらぎこちないまま終わってしまう。
「アルト殿。もう日も暮れかけている。今日の調査はここまでだ。城に戻って報告をまとめよう」
「はい、わかりました」
男爵の短い指示に、アルトも素直に頷く。足元にいるルルは「ぴい……」と少し疲れた声を漏らしている。長い時間の移動と、慣れない場所を何度も行き来して、さすがに疲労が溜まったのだろう。
こうして一行は廃墟を後にし、城へ戻る道を急ぐ。夕陽が木々の間から差し込み、その赤い光がルルの白い毛並みをほんのり染めていた。
「ここは……私の領地の古い廃墟だ。何十年も前に火事で焼け落ち、以来放置していた。土地が痩せており、農地としても使えない。荒れ地だよ」
リューク男爵が渋い声で説明する。セスが興味深そうに地面をつつきながら「へえ、昔の貴族の別荘か何かですか?」と尋ねた。
「詳しいことは知らん。ただ、先代の当主――私の父が管理していた頃にはすでに廃墟だったそうだ」
男爵が言葉少なに答えると、アルトは周囲を眺めてみる。大きな樹木が多いが、その合間から石壁の一部らしきものが覗いており、かつてはここに建物があったことを感じさせる。苔むした地面を踏みしめてみると、少し硬い感触がする。
「こういう場所を隠れ家にしている連中がいるかもしれない、っていう懸念もあるわけか」
「そうだ。先ほどの足跡がここにつながっているわけではないが、可能性としては否定できないからな」
男爵は周囲を警戒するように目を走らせるが、特に新しい痕跡は見つからない。アルトとマイカスも少し離れて確認したが、最近、人が出入りした感じはまったくなかった。
「まあ、昔の石畳の一部が残っているから、馬車を停めるにはいいかもしれないが……。木々が繁りすぎて上から見えにくい。隠れ家としては悪くないが、痕跡がなければ仕方ない」
マイカスがそう呟くと、男爵は腕組みをして深いため息をつく。
「うむ……。侵入者や怪しい商隊の痕跡を期待していたが、現状では何もないらしい。王都への報告は『不審な足跡が境界近くで見つかったが、詳細不明』程度にしかならないだろう」
「リューク男爵、気落ちするのはまだ早いですよ。今後も注意して監視すれば何かわかるかもしれません」
セスがフォローするように言うが、男爵は「分かっている」と短く返事するだけだった。やや苛立ちが混じっているのかもしれない。城の倉庫荒らしも犯人不明、ここでも決定的な証拠は無し……。
アルトはそんな男爵の横顔を見ながら、「自分には何ができるだろうか」と思案する。実際のところ、フィンダレン領と男爵領で連携しなければ解決しそうにない問題だ。それでも、男爵が壁を作ってしまっては、連携どころか情報共有すらぎこちないまま終わってしまう。
「アルト殿。もう日も暮れかけている。今日の調査はここまでだ。城に戻って報告をまとめよう」
「はい、わかりました」
男爵の短い指示に、アルトも素直に頷く。足元にいるルルは「ぴい……」と少し疲れた声を漏らしている。長い時間の移動と、慣れない場所を何度も行き来して、さすがに疲労が溜まったのだろう。
こうして一行は廃墟を後にし、城へ戻る道を急ぐ。夕陽が木々の間から差し込み、その赤い光がルルの白い毛並みをほんのり染めていた。
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