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露顕(ところあらわし)※
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六花の屋敷に様々な鬼が入ってきた。
何も聞かされていない六花は目を白黒させてトキに聞いた。
「あの鬼たちは何? なぜここに来たの?」
「今夜の露顕(ところあらわし)の準備のために来たのでございます」
「何それ」
「披露宴でございます」
「何それ」
トキはよよ、とふらついて座り込んだ。情事のことではなく、もっと大事なことを教えておくべきだったとトキは今更ながら思った。
✽✽✽✽✽✽
「披露宴とは、親しいものを呼んで結婚を発表する宴会でございます」
「へえ。結婚は発表しないといけないの?」
「新しい家族でございますからね」
雪女は男がいないから結婚もしない。結婚にまつわる風習が六花には物珍しかった。
「露顕では何をするの?」
「三々九度と言って新郎新婦がお酒を飲みます。月に三日夜の餅と言いまして、餅を食べます。それが結婚の儀式のようなものです」
「お酒を飲んで、餅を食べるだけ?」
「宴会ですからね。でも新郎新婦は早々に席を立ちますよ。三夜目の床入りをしますから。そして正式に結婚が成立するのです」
「床入りしたら結婚成立なんだよね? 成立前に儀式と披露宴やっていいの?」
トキは一瞬面食らったような顔になり、少し考えてから答えた。
「そういうものだとばかり思っていました。ですが儀式も披露宴も済ませてしまった後に、床入りだけ失敗ということはないでしょう。もう三夜目ですから」
(今日の床入りで、精液出された後お腹が痛いフリしたらどうなるんだろう。床入り失敗?)
六花はそれを試してみたくてウズウズしてきた。まさかこの後、怒涛の披露宴準備が始まるとは思いもしていなかった。
✻✻✻✻✻✻
酒吞は黒紋付き袴姿で、六花の屋敷の廊下をウロウロしていた。準備が終わるまで中に入ってはいけない、と女中たちから厳しく言われたのである。
女中たちは忙しなく辺りを動いていた。その一人を酒吞は捕まえた。
「六花の準備は終わったか?」
「はい。今しがた」
「じゃあもう入っていいな?」
女中が頷くやいなや、酒吞は襖を開けた。
そこには純白の、透き通るような美しさの六花が座っていた。その白無垢姿は香り高い白百合のごとくすらりと凛々しく、唇だけが血を吸ったように赤い。
酒吞はその美しさにしばし見惚れた。しかしすぐにハッとなって、六花に駆け寄り声を掛けた。
「綺麗だ。予想より遥かに美しい」
褒めたにも関わらず六花の顔は冴えない。どうやらご機嫌斜めらしい。
「こんな白一色が婚礼衣装なのか?」
「そういうものだ。白はめでたい色だからな」
色が気に食わないのか、と酒吞は気付いた。六花の子供らしいところに笑みが零れそうになったが、笑うとさらに機嫌を損ねそうだからなんとか耐えた。
「じゃあなんでお前は黒い服なんだ」
「黒は正式な場で着る服だ。葬式でもこれだ」
「結婚式と葬式は同じなのか?」
「そこに文句をつけられても困る。そういう文化だからとしか言いようがない。白が嫌なら他の色でも俺は構わないぞ」
「わざわざ着替える気はない」
会話を切り上げて六花はふいっとそっぽを向いた。別に白が嫌なわけではない。こんな正絹の金糸で刺繍された立派な白装束は、憎き雪女の頭領の服に似ている。それを自分も着なければいけないのが嫌なのだ。
酒吞は六花の手に自分の手を重ねた。すると容赦なく跳ね除けられたため、今度は彼女の肩を抱いた。
「おぬしが雪女だから、知りもしない結婚式に抵抗があるのはわかる。鬼の郷に馴染むのも難しかろう。ここに連れてきた俺を恨んでくれていい。
けれどこれだけは知っておいてくれ。俺はおぬしを愛している。何不自由なく大事にする。俺にできることなら何でも叶えよう。おぬしはもう、俺の妻なのだから」
「……屋敷に閉じ込めてるくせに」
「ハハッ、おぬしが俺から逃げない限り、という条件付きだな」
六花はそっぽを向いたままだった。可愛げがないが、酒吞はこの自分より遥かに年下のうら若い小娘が可愛くて仕方なかった。
酒吞は六花を無理やりこちらに向かせると、その赤い唇をついばむように接吻した。六花は激しい抵抗を見せた。
「んっ! んぁ、やめろ! 紅が落ちる!」
「もう一度塗ればいいだろう」
「そういうことじゃ、ん、んん……」
ちゅ、んちゅ、じゅっ、と2人の唾液が交わる音がする。酒吞の肉厚な舌が六花の舌に絡まり、口内をねっとり舐められる。六花は最初こそ抵抗していたが、口吸いの心地よさにうっとり酔いしれて、酒吞に身を預けていた。
「ん…んふっ……ぅん……」
「っは、ここらでやめておこう。止まれなくなる。本番は露顕の後だ」
くったり脱力した六花はすっかり蕩け切った顔になっている。酒吞は手を出しかけたのをぐっと堪え、いつの間にか部屋から消えていた女中を呼んだ。六花に再び化粧をしてもらうためだ。
「酒吞様、こちらを」
女中の一人が酒吞に手鏡を差し出してきた。何だろう、と酒吞は素直に受け取り鏡を見ると、口の周りが紅で赤くなっていた。年甲斐もなくがっついてしまった証だ。旧知の鬼たちに見られる前に気づいてよかった。
正直なところ、酒吞は露顕に乗り気ではなかった。美しい六花を他人の目に晒したくなかったのだ。だが酒吞が遊郭から女を身請けした話が広まっている以上、しないわけにはいかなかった。
酒吞だけ先に露顕の式が行われる大広間に入っていた。すでに酒が入っている部下たち相手に、自分も酒を飲み肴を摘む。
部下たちは酒吞に絡み、好き勝手に話しかけてきた。
「長~、長が夢中の娘ってどんなの?」
「いい歳して若い女に入れあげて……」
「頭が自分から女を手に入れるなんて何百年ぶり?」
「さぞ良い女なのでしょう? 早くお見せ下さいな」
「まあ待て。もうすぐ来る」
トキが酒吞に目配せをしてきた。六花の準備が整った合図だ。盃を置いて酒吞も居住まいを正した。
「申し上げる。雪女の郷からいらした白雪の美姫、雪の御方、六花様のおなりでござる」
トキが口上を述べると襖がスパンと開いた。紅を塗り直した六花が堂々と広間に入ってきた。
鬼たちは花嫁の美しさに釘付けになった。生まれて初めて雪女を見るものがほとんどだ。ざわざわとあちこち騒がしくなる。
「あれが雪女か!」
「なんと美しい……まさに雪の神だ」
「あんなに儚げで大丈夫か? 子が産めるのか?」
「だが長の精に耐えられるから結婚するのだろう?」
「頭が首ったけになるのも納得だ」
六花は鬼たちをチラリと一瞥しただけで、すぐに酒吞の隣の座布団に座った。つい先ほどまで口吸いに夢中になっていたとは思えないツンとした澄まし顔だ。その落差がたまらない、と酒吞は思った。
朱塗りの酒器が運ばれてきた。その中の盃は小中大の3種類あって、最初に使うのは一番小さい盃だ。
まず酒吞が一番小さい盃を手にすると、トキが酒を注いだ。それを3回に分けて飲み干す。次にその盃を六花に渡し、彼女も注がれた酒を3回に分けて飲む。
2回目は真ん中の大きさの盃を使い、六花が先に酒を飲み、次に酒吞が飲む。3回目は一番大きな盃を使い、1回目と同じ順番で飲む。
注がれた酒はかなり度数の高いものだったが、六花はけろりとしていた。どうやらいけるクチらしい。今度酒の席に誘おうと酒吞は決めた。
三々九度が終わると今度は三日夜の餅が運ばれてきた。新郎側は食い千切って食べてはいけないという決まりがあるため、一口で食べられる大きさで作られている。また新側は3個だけと決まっているが、新婦が食べる数は決まっていない。
しかし六花の分の餅を見ると、酒吞も同じ3個しか載っていない。どうやら女中が数を合わせたようである。
大食漢の酒吞からしたら一口分の餅3つなど大した量ではない。パクパクパクと食べた後、六花が食べ終わるのを見計らって酒吞は口を開いた。
「今夜は俺達のために集まってくれてありがとう。急な話で来られないやつも多くいて申し訳ない。ささやかだが宴席を用意した。好きなだけ飲んで食べるといい」
ヒュー! と場が湧いた。「おめでとう」「あんな若くて綺麗な嫁とは羨ましい」と口々に鬼たちは祝福を述べた。
次々と酒や食事が運ばれてたが、酒吞と六花の分は少ない。宴席を楽しんでいる場合ではなく、この後が大一番の三夜目の交わりだからだ。
女のほうが床入りの準備に時間がかかるため、六花は先に席を立った。鬼たちは事情を察しニヤつき、下卑た視線を向ける。
六花がいなくなると鬼たちの話題は一気に下品なものになった。
「雪女ってのは見目はいいが、あっちの方はどうなんだ?」
「体は冷たいんじゃないか? 長はよくそんな女を抱けるな」
「イチモツ挿れたら凍らされたりして」
「ギャハハ! 冷凍魔羅か!」
「馬鹿、そんな女と頭が結婚するかよ」
「で、実際のところどうなんです?」
皆の視線が一斉に酒吞に集まった。酒吞はもったいぶるように盃の酒をぐいっと煽った。
「体温は低いがナカは熱い」
「おお~~~!!」
どっと歓声が沸いた。鬼たちは口々に喋りだした。
「普通の女と大して変わらないのか」
「いやいや、長相手だから大人しくしてるだけかもしれん」
「俺達なら凍らされるかも」
「長、もっと話してくださいよ」
「断る。六花をおぬしらの妄想のネタにされるのは不愉快だ」
またしても歓声が湧き、鬼たちは新郎を囃し立てた。酒吞は笑みを浮かべるだけで特に気にせず酒を飲み続けた。
その時、女中が酒吞に近づき「お支度、整いましてございます」と耳打ちした。酒吞は素早く立ち上がり宴席を後にした。鬼たちがまた何か騒いでいたが、振り向くことはなかった。
✻✻✻✻✻✻
宴席から出た六花は、せっかく着た白無垢を脱がされた。長く着ていたかったわけではないが、すぐに脱がされるとわざわざ着た意味とは? と思ってしまった。
女中に誘導されるまま風呂場に移動し身を清め、白絹の肌触りのいい襦袢を着た。これもどうせ脱がされるのに何故着るのか疑問だった。
そしてトキに寝所で待つよう言われ、六花は布団の上に正座した。去り際、トキが「私がお教えしたことをお忘れなく」と言っていたが、聞かなかったフリをした。
酒吞はなかなか来ない。もしかしたら宴会が楽しくて六花のことなど忘れてしまったかもしれない。今夜交わらなかったら結婚は成立しないため、そちらのほうが良いと六花は思った。
(来ないのなら寝ちゃおうかな)
六花は布団に入り横になった。牢で監禁された次の日にいきなり式をあげ酒宴をした。自覚はなかったが六花はかなり疲れていたようだ。そのままスヤスヤと眠りに落ちてしまった。
「あんっ……ん…………んあっ……」
「こんなに起きないとなると、強めにやるしかないな」
「んん、え…? え! やっ、ああ~っ!」
その瞬間、酒吞が六花の乳首をごりゅっと指で押し潰した。眠りから目覚めた体には刺激的で、六花の視界がチカチカした。襦袢はすでに肌蹴ていて、酒吞が舐め回したのか、六花の乳輪は濡れていて乳首はぷっくり固くなっていた。
「部屋に来たらおぬしは寝ているのだ。寂しかったぞ」
「そ、そっちが来るのが遅い……」
「だとしても普通寝るか? 今夜は夫婦の契りを結ぶ大事な日だというのに」
「お仕置きだ」と言って、酒吞は六花の唇にしゃぶりつき、軽く甘噛みした。
「いやっ、噛まないで…ああ……」
酒吞は片方の乳首を吸ったり噛んだりし、もう片方の乳首を指でカリカリ引っ掻いた。両方から刺激され快感の波が沸き上がってくる。
「あっ、ふぅ、あぁ……あ、ぇあっ……?」
六花が絶頂しかけると、酒吞はピタリと指の動きを止め口も離した。
「な、なんで」
「うん? イキたかったか?」
「いや、でもいつもなら、やめてって言ってもやめないのに……」
酒吞はそれには答えず、六花の体を優しく愛撫した。それは首や乳肉、腹や太ももの辺りを這い回るように体の上をなぞっていくだけで、決定的な性感帯には触れなかった。
くすぐったくてゾワゾワする。だが体は徐々に高まってきている。
「今夜は趣向を変えようと思ってな」
酒吞は六花の首筋に唇を落とした。次は鎖骨、腹、太ももと移動した。しかし乳首や秘部は放置したままだ。
「せっかく夫婦になるのだ。おぬしの方から俺を求めてもらおう」
「え……あっ」
酒吞は六花の脚に手をかけると、がばりと太ももを開かせた。すでに濡れている茂みにふー、と息を吹きかけられ、六花の体がビクッと跳ねた。
「夜は長い。ゆっくり楽しもう」
酒吞は太ももをつつつ、となぞり指を秘部へ移動させる。それが長い長い焦らしの始まりであることに六花はまだ気づいていなかった。
何も聞かされていない六花は目を白黒させてトキに聞いた。
「あの鬼たちは何? なぜここに来たの?」
「今夜の露顕(ところあらわし)の準備のために来たのでございます」
「何それ」
「披露宴でございます」
「何それ」
トキはよよ、とふらついて座り込んだ。情事のことではなく、もっと大事なことを教えておくべきだったとトキは今更ながら思った。
✽✽✽✽✽✽
「披露宴とは、親しいものを呼んで結婚を発表する宴会でございます」
「へえ。結婚は発表しないといけないの?」
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雪女は男がいないから結婚もしない。結婚にまつわる風習が六花には物珍しかった。
「露顕では何をするの?」
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「お酒を飲んで、餅を食べるだけ?」
「宴会ですからね。でも新郎新婦は早々に席を立ちますよ。三夜目の床入りをしますから。そして正式に結婚が成立するのです」
「床入りしたら結婚成立なんだよね? 成立前に儀式と披露宴やっていいの?」
トキは一瞬面食らったような顔になり、少し考えてから答えた。
「そういうものだとばかり思っていました。ですが儀式も披露宴も済ませてしまった後に、床入りだけ失敗ということはないでしょう。もう三夜目ですから」
(今日の床入りで、精液出された後お腹が痛いフリしたらどうなるんだろう。床入り失敗?)
六花はそれを試してみたくてウズウズしてきた。まさかこの後、怒涛の披露宴準備が始まるとは思いもしていなかった。
✻✻✻✻✻✻
酒吞は黒紋付き袴姿で、六花の屋敷の廊下をウロウロしていた。準備が終わるまで中に入ってはいけない、と女中たちから厳しく言われたのである。
女中たちは忙しなく辺りを動いていた。その一人を酒吞は捕まえた。
「六花の準備は終わったか?」
「はい。今しがた」
「じゃあもう入っていいな?」
女中が頷くやいなや、酒吞は襖を開けた。
そこには純白の、透き通るような美しさの六花が座っていた。その白無垢姿は香り高い白百合のごとくすらりと凛々しく、唇だけが血を吸ったように赤い。
酒吞はその美しさにしばし見惚れた。しかしすぐにハッとなって、六花に駆け寄り声を掛けた。
「綺麗だ。予想より遥かに美しい」
褒めたにも関わらず六花の顔は冴えない。どうやらご機嫌斜めらしい。
「こんな白一色が婚礼衣装なのか?」
「そういうものだ。白はめでたい色だからな」
色が気に食わないのか、と酒吞は気付いた。六花の子供らしいところに笑みが零れそうになったが、笑うとさらに機嫌を損ねそうだからなんとか耐えた。
「じゃあなんでお前は黒い服なんだ」
「黒は正式な場で着る服だ。葬式でもこれだ」
「結婚式と葬式は同じなのか?」
「そこに文句をつけられても困る。そういう文化だからとしか言いようがない。白が嫌なら他の色でも俺は構わないぞ」
「わざわざ着替える気はない」
会話を切り上げて六花はふいっとそっぽを向いた。別に白が嫌なわけではない。こんな正絹の金糸で刺繍された立派な白装束は、憎き雪女の頭領の服に似ている。それを自分も着なければいけないのが嫌なのだ。
酒吞は六花の手に自分の手を重ねた。すると容赦なく跳ね除けられたため、今度は彼女の肩を抱いた。
「おぬしが雪女だから、知りもしない結婚式に抵抗があるのはわかる。鬼の郷に馴染むのも難しかろう。ここに連れてきた俺を恨んでくれていい。
けれどこれだけは知っておいてくれ。俺はおぬしを愛している。何不自由なく大事にする。俺にできることなら何でも叶えよう。おぬしはもう、俺の妻なのだから」
「……屋敷に閉じ込めてるくせに」
「ハハッ、おぬしが俺から逃げない限り、という条件付きだな」
六花はそっぽを向いたままだった。可愛げがないが、酒吞はこの自分より遥かに年下のうら若い小娘が可愛くて仕方なかった。
酒吞は六花を無理やりこちらに向かせると、その赤い唇をついばむように接吻した。六花は激しい抵抗を見せた。
「んっ! んぁ、やめろ! 紅が落ちる!」
「もう一度塗ればいいだろう」
「そういうことじゃ、ん、んん……」
ちゅ、んちゅ、じゅっ、と2人の唾液が交わる音がする。酒吞の肉厚な舌が六花の舌に絡まり、口内をねっとり舐められる。六花は最初こそ抵抗していたが、口吸いの心地よさにうっとり酔いしれて、酒吞に身を預けていた。
「ん…んふっ……ぅん……」
「っは、ここらでやめておこう。止まれなくなる。本番は露顕の後だ」
くったり脱力した六花はすっかり蕩け切った顔になっている。酒吞は手を出しかけたのをぐっと堪え、いつの間にか部屋から消えていた女中を呼んだ。六花に再び化粧をしてもらうためだ。
「酒吞様、こちらを」
女中の一人が酒吞に手鏡を差し出してきた。何だろう、と酒吞は素直に受け取り鏡を見ると、口の周りが紅で赤くなっていた。年甲斐もなくがっついてしまった証だ。旧知の鬼たちに見られる前に気づいてよかった。
正直なところ、酒吞は露顕に乗り気ではなかった。美しい六花を他人の目に晒したくなかったのだ。だが酒吞が遊郭から女を身請けした話が広まっている以上、しないわけにはいかなかった。
酒吞だけ先に露顕の式が行われる大広間に入っていた。すでに酒が入っている部下たち相手に、自分も酒を飲み肴を摘む。
部下たちは酒吞に絡み、好き勝手に話しかけてきた。
「長~、長が夢中の娘ってどんなの?」
「いい歳して若い女に入れあげて……」
「頭が自分から女を手に入れるなんて何百年ぶり?」
「さぞ良い女なのでしょう? 早くお見せ下さいな」
「まあ待て。もうすぐ来る」
トキが酒吞に目配せをしてきた。六花の準備が整った合図だ。盃を置いて酒吞も居住まいを正した。
「申し上げる。雪女の郷からいらした白雪の美姫、雪の御方、六花様のおなりでござる」
トキが口上を述べると襖がスパンと開いた。紅を塗り直した六花が堂々と広間に入ってきた。
鬼たちは花嫁の美しさに釘付けになった。生まれて初めて雪女を見るものがほとんどだ。ざわざわとあちこち騒がしくなる。
「あれが雪女か!」
「なんと美しい……まさに雪の神だ」
「あんなに儚げで大丈夫か? 子が産めるのか?」
「だが長の精に耐えられるから結婚するのだろう?」
「頭が首ったけになるのも納得だ」
六花は鬼たちをチラリと一瞥しただけで、すぐに酒吞の隣の座布団に座った。つい先ほどまで口吸いに夢中になっていたとは思えないツンとした澄まし顔だ。その落差がたまらない、と酒吞は思った。
朱塗りの酒器が運ばれてきた。その中の盃は小中大の3種類あって、最初に使うのは一番小さい盃だ。
まず酒吞が一番小さい盃を手にすると、トキが酒を注いだ。それを3回に分けて飲み干す。次にその盃を六花に渡し、彼女も注がれた酒を3回に分けて飲む。
2回目は真ん中の大きさの盃を使い、六花が先に酒を飲み、次に酒吞が飲む。3回目は一番大きな盃を使い、1回目と同じ順番で飲む。
注がれた酒はかなり度数の高いものだったが、六花はけろりとしていた。どうやらいけるクチらしい。今度酒の席に誘おうと酒吞は決めた。
三々九度が終わると今度は三日夜の餅が運ばれてきた。新郎側は食い千切って食べてはいけないという決まりがあるため、一口で食べられる大きさで作られている。また新側は3個だけと決まっているが、新婦が食べる数は決まっていない。
しかし六花の分の餅を見ると、酒吞も同じ3個しか載っていない。どうやら女中が数を合わせたようである。
大食漢の酒吞からしたら一口分の餅3つなど大した量ではない。パクパクパクと食べた後、六花が食べ終わるのを見計らって酒吞は口を開いた。
「今夜は俺達のために集まってくれてありがとう。急な話で来られないやつも多くいて申し訳ない。ささやかだが宴席を用意した。好きなだけ飲んで食べるといい」
ヒュー! と場が湧いた。「おめでとう」「あんな若くて綺麗な嫁とは羨ましい」と口々に鬼たちは祝福を述べた。
次々と酒や食事が運ばれてたが、酒吞と六花の分は少ない。宴席を楽しんでいる場合ではなく、この後が大一番の三夜目の交わりだからだ。
女のほうが床入りの準備に時間がかかるため、六花は先に席を立った。鬼たちは事情を察しニヤつき、下卑た視線を向ける。
六花がいなくなると鬼たちの話題は一気に下品なものになった。
「雪女ってのは見目はいいが、あっちの方はどうなんだ?」
「体は冷たいんじゃないか? 長はよくそんな女を抱けるな」
「イチモツ挿れたら凍らされたりして」
「ギャハハ! 冷凍魔羅か!」
「馬鹿、そんな女と頭が結婚するかよ」
「で、実際のところどうなんです?」
皆の視線が一斉に酒吞に集まった。酒吞はもったいぶるように盃の酒をぐいっと煽った。
「体温は低いがナカは熱い」
「おお~~~!!」
どっと歓声が沸いた。鬼たちは口々に喋りだした。
「普通の女と大して変わらないのか」
「いやいや、長相手だから大人しくしてるだけかもしれん」
「俺達なら凍らされるかも」
「長、もっと話してくださいよ」
「断る。六花をおぬしらの妄想のネタにされるのは不愉快だ」
またしても歓声が湧き、鬼たちは新郎を囃し立てた。酒吞は笑みを浮かべるだけで特に気にせず酒を飲み続けた。
その時、女中が酒吞に近づき「お支度、整いましてございます」と耳打ちした。酒吞は素早く立ち上がり宴席を後にした。鬼たちがまた何か騒いでいたが、振り向くことはなかった。
✻✻✻✻✻✻
宴席から出た六花は、せっかく着た白無垢を脱がされた。長く着ていたかったわけではないが、すぐに脱がされるとわざわざ着た意味とは? と思ってしまった。
女中に誘導されるまま風呂場に移動し身を清め、白絹の肌触りのいい襦袢を着た。これもどうせ脱がされるのに何故着るのか疑問だった。
そしてトキに寝所で待つよう言われ、六花は布団の上に正座した。去り際、トキが「私がお教えしたことをお忘れなく」と言っていたが、聞かなかったフリをした。
酒吞はなかなか来ない。もしかしたら宴会が楽しくて六花のことなど忘れてしまったかもしれない。今夜交わらなかったら結婚は成立しないため、そちらのほうが良いと六花は思った。
(来ないのなら寝ちゃおうかな)
六花は布団に入り横になった。牢で監禁された次の日にいきなり式をあげ酒宴をした。自覚はなかったが六花はかなり疲れていたようだ。そのままスヤスヤと眠りに落ちてしまった。
「あんっ……ん…………んあっ……」
「こんなに起きないとなると、強めにやるしかないな」
「んん、え…? え! やっ、ああ~っ!」
その瞬間、酒吞が六花の乳首をごりゅっと指で押し潰した。眠りから目覚めた体には刺激的で、六花の視界がチカチカした。襦袢はすでに肌蹴ていて、酒吞が舐め回したのか、六花の乳輪は濡れていて乳首はぷっくり固くなっていた。
「部屋に来たらおぬしは寝ているのだ。寂しかったぞ」
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「だとしても普通寝るか? 今夜は夫婦の契りを結ぶ大事な日だというのに」
「お仕置きだ」と言って、酒吞は六花の唇にしゃぶりつき、軽く甘噛みした。
「いやっ、噛まないで…ああ……」
酒吞は片方の乳首を吸ったり噛んだりし、もう片方の乳首を指でカリカリ引っ掻いた。両方から刺激され快感の波が沸き上がってくる。
「あっ、ふぅ、あぁ……あ、ぇあっ……?」
六花が絶頂しかけると、酒吞はピタリと指の動きを止め口も離した。
「な、なんで」
「うん? イキたかったか?」
「いや、でもいつもなら、やめてって言ってもやめないのに……」
酒吞はそれには答えず、六花の体を優しく愛撫した。それは首や乳肉、腹や太ももの辺りを這い回るように体の上をなぞっていくだけで、決定的な性感帯には触れなかった。
くすぐったくてゾワゾワする。だが体は徐々に高まってきている。
「今夜は趣向を変えようと思ってな」
酒吞は六花の首筋に唇を落とした。次は鎖骨、腹、太ももと移動した。しかし乳首や秘部は放置したままだ。
「せっかく夫婦になるのだ。おぬしの方から俺を求めてもらおう」
「え……あっ」
酒吞は六花の脚に手をかけると、がばりと太ももを開かせた。すでに濡れている茂みにふー、と息を吹きかけられ、六花の体がビクッと跳ねた。
「夜は長い。ゆっくり楽しもう」
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