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可愛いは、作れる!

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「久しぶりねホシ。神殿を通して話はきいてるわ」

 豪奢な部屋に通され、久しぶり――といっても数日ぶりだけど――に見た姉は一見いつも通りだ。
 キラキラとした金髪と、俺に良く似た顔を特殊技術(メイク)で可愛くし、ふわふわとした星空のドレスが良く似合ってる。なんだか懐かしい気持ちになる。 
 ただ、いつもより少し落ち着いていて、ほんのちょっと疚しい気持ちのある俺には少し、怖い。

 俺たちは大きな丸テーブルに腰を下ろし、ナージュと俺そして竜王が席を共にしている。
 ミルさんは護衛だと言ってドアの外で待機していた。室内の声は拾えるそうで、問題があれば入室するそうだ。

 なのに差し向かいに座った姉は、言ったきり押し黙る。

 こ、怖ぁ……!

 いやいや、別に俺悪くないしね!?
 全部あの早とちり竜王が悪いんだしね!?
 最初からしっかり調べてくれたら、ナージュも俺も振り回されることが無かったはずだし、もしくは神殿側がお伺い立てるとかしてくれたらさあ…、なんて。

 そんな言い訳は、18年も共にした姉(ナージュ)に通じる訳がない事は、弟である俺は十分に理解しているので口をつぐんだ。

「ふむ、ナージュとやら」

 竜王が口を開くとぴりり、と部屋の空気が変わった。
 この人には逆らえない、敵わない気持ちにさせる、圧倒的な気質が言葉一つで俺たちを黙らせる。
 そうだ、俺があまりに気安い関係でいたせいで忘れるけども、この人は圧倒的上位である竜人、さらにその竜人を束ねる最強の黒竜。目の前の男はこの地上の支配者だ。

「18年前に私の番いであるなどと根も葉もない話が回ったそうだな。お前はどう思う」

「恐れながら申し上げます、竜王陛下。
 私は生まれた時から18年、神官のお告げにより、あなたの妃になるために育てられたのです。それを今さら。間違いだったなどと言われても困るのです。
 私の弟――男であるホシが陛下の番いだと仰るなら、姉である私が国母として妃となってもよろしいのではないでしょうか」

 ひぇ……!?
 ナージュ、お前一体何言いだすのぉ!?
 ひんやりとした冷気が漂ってくるようで、俺は怖くて隣を見れない。

「――なぜそう思う」

「失礼ながら、弟は男。陛下の御子は産めません。私ならそれが出来ますし、それに……あなたは18年も過ちを放っておかれました。
 ずっと貴方の妃を夢見て過ごしてきたのに、今更私を放り出して一体これからどうしろと仰るのです?」

 ナージュよ……!
 お前はなぜそう向こう見ずなんだ!?
 パクパクと言葉を失う俺を尻目に、二人だけの会話は続く。

「ですから、弟が番いだと仰るなら横に据えても構いません。私は妃として貴方の隣におりましょう。私で足りないのなら側妃を貰うのも良いでしょう。側妃ともども貴方の御子を産んで差し上げます」

 言うが早いか、部屋を激しい風が吹き荒れた。
 一気に吹くそれに、髪は乱れ窓ガラスが派手な音を立てて割れた。
 見るからに高級そうな壺まで……あああっ、それ、ちょ…っいくらなの!?

「……黙れ」

 腹立だしげに、怒りを滲ませた声。
 部屋に渦巻く嵐のような風の中心にいるのは、竜王だ。
 この嵐は竜王が起こしているものなのか?
 人智を超えた力に恐怖する。

「――っ!陛下ぁ!!何してんのぉ!?」

 バーンと勢いよくドアが開き、嵐の室内にミルさんが飛び込んできた。

「っ!も~このアホはぁ…!暴走すんなって言ってるでしょうがああ」

 竜王はチラリとミルさんに視線をやるが、すぐにそれはナージュに向かう。
 突風に吹かれ、ミルさんは室内に入ってこれなくなる。
 怖い、これが、この力が……竜人の王。

「ひ……っ」

「娘、お前をホシの姉だというから黙って聞いて居れば。私の妃になる?子を産む?……我が番いを愚弄する気か……」

 ゆらり、と陛下がソファから立ち上がる。
 まずい、これはまずいぞ…!!
 俺はガシッと陛下の腰に摑まった。

「ちょ!ねえ待って!待ってクロウ!!落ち着いて!俺別になんも思ってないから!ね!落ち着こ~!!」

 風が少し収まる。
 しかし竜王はその姿勢のまま、ジッと俺を見つめた。

「……ホシ。お前は本当にそれでいいのか。いわばお前は18年間、不当な立場に置かれたのだ。私はホシ、お前には私の番いとして不自由なく育ち、束の間の生家での生活を過ごして欲しかった。そのために一切の干渉を絶ち、お前の成長だけを祈って過ごした。
 それがどうだ、蓋をあければ知らぬ女が私の番い扱いをされ、私のホシがないがしろにされているではないか。
 お前の姉はお前に成り代わり妃になるなどと戯けたことを言う始末。ホシがどれだけ冷遇されたのか分かるというものだ」

 寒い。怒りが冷気となって立ち上っているようだ。
 ゆっくりと話す竜王の言葉には、確かに静かな憤りが込められている。
 その紫の瞳は恐ろしい程に研ぎ澄まされ、怒りに充てられたナージュはもう震えて動けないでいる。

「あ…あっ」

 真っ青になったナージュがガタガタと震えている。
 違う、別にナージュが悪い訳じゃないのに。

 ――ばしん!

 俺は竜王の腰の辺りを叩いた。
 竜王が切れ長の美しい目をぱちくりと開いて見つめるが構わない。ばしばしと力いっぱい叩いてやる。
 くそ、びくともしない!そもそも硬すぎる!この筋肉!
 俺はめげずに叩き続けた。

「――ホシ?」

 室内の暴風はいつの間にか止んでいた。
 きょとんとした顔でこちらをみる竜王は、そんな顔をしてもカッコイイ。いや、ちょっと可愛いかも。いやいや。

「あのさ、クロウ。ナージュだって馬鹿な事言ってるって俺も思うよ?でもそもそも悪いのはナージュじゃないだろ。ちゃんと調べずにナージュを番いだって思わせたクロウが悪いんじゃないの!」

 ナージュだって、普通の子として産まれていればこんな事にはならなかったはずだ。普通に恋愛だって楽しめたかもしれない。でもそれは竜王の番いだと言われたことにより、すべて潰されたはずだ。

「俺を番いだって言うなら、ちゃんと俺の気持ちも考えてよ!ナージュを怒る前にさ、自分だって悪いところあったって忘れてないか!?
 ナージュだって、せっかくの誕生日に迎えに来るはずの旦那が他のやつ連れて帰って、誕生日なのに待ちぼうけだよ!そりゃいくら間違いだったって言っても腹立つよ、ちゃんと嫁にしろって言いたくもなるよ!」

 俺は怒っている。そうだ、俺たち姉弟は生まれた時からこの竜王に振り回されているんだ。

「あ~、番い殿ぉ?お怒りはごもっともなんだけどぉ?その辺で……」

「うるさい!ミルさんもミルさんだよ!全然クロウを止めてくれないし、面白がってばっかりで俺の話ちっとも聞いてくれなかった!
 そりゃ俺なんかよりさ、竜王の方が断然上なのはわかってるよ!?でも不安な時にのらりくらりと躱されてさ、俺結構悲しかったからね!?」

 ああ、俺意外と不満を溜め込んでたんだなあ。
 頭のどこかで冷静に思うのに、一度走り出した言葉は止まらなかった。

「クロウも!俺を竜人モドキにしたんだから責任とってよね!?ちゃんと俺の話も聞いて!」

 はあはあ……。

 言ってやった……いや、言ってしまった……。
 あああ、もうなんだってこんな事になったんだよぉ。

 思えば俺は、誕生日からずっと暴走馬車に乗っているような激しさの日々だったんだ。
 見知らぬ場所で、見知らぬ人たちに囲まれて、急に俺は人間じゃなくなったとか、急に番いだとか言われるし、本当に、多分本当は疲れていたんだ。
 竜王に食って掛かるくらいには。
 
 


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